ザ・グレート・展開予測ショー

流れ往く蛇


投稿者名:ヒロ
投稿日時:(03/12/ 2)


『よ、横島ッ!?貴様、なんで!?』

 あたしは叫んだ・・・そしてその叫び声で覚醒を果たした・・・

『ハァハァハァ・・・』

 何も無い『虚空』の世界・・・あたしはそんな無の暗黒とも言える世界をただひたすらに彷徨っていた。

『夢・・・か・・・』

 あたしは誰ともなく呟いた。そのほほを生暖かいものが伝わる。
 内在する力は今は無く、それはあたしに死神の足音が聞こえると教えてくれる。
 今までどんな神族だろうがなんだろうがものともせずに、仕事・・・これでも一応プロの殺し屋なんだけどね・・・をこなして来たはずだった。
 それを・・・たった2人のたかだか人間の『GS』とかいう奴らに妨害され、しかも今あたしは命を落とすと自覚しているだって?しかもそのうちの一人はここつい最近になってやっと霊能力に目覚めたような奴だと?納得いかないじゃないか?

『く・・・そ・・・』

 あたしはぼろぼろになった体を見回した・・・奴らがヒドラにライフルを叩き込んだせいで一発でアンテナが壊れちまったよ・・・エネルギーの充填がされてたもんだからいい具合に爆発しちまって、あたしはそれに巻き込まれて・・・まぁ、体を動かすのだって結構辛いこんな状態だ・・・痛いってもんじゃない・・・爆発したとき炎に目があるなんて間抜けなことすら考えたくらいだよ。
 
『ここは・・・宇宙・・・?多分月周辺ってところだろうね・・・?』

 あたしは現状確認のために首を回す。そのつど首がギャーギャー騒ぎ出したけど・・・まぁこの際目をつぶってもらおうか。
 ・・・ん?あたしはそのとき丁度はるか向こうに宇宙船か何かが、青い星へと向かっていくのを目に留めた。
 こんなときに青い星―地球―へと向かっていくものなどそうはない。先ほどまで死闘を繰り広げていた奴ら。
 そういえば死ぬ前にやっておかなくっちゃいけないことがあったね・・・
 あたしは今にも死んでいきそうな体に鞭を打ってその船へと接近した。





『フ・・・フフフフフ・・・何もかも台なしにしてくれたね。こーなったら一緒に死んでもらうよッ!!』

『メドーサ!!生きていたのかッ!?』

『死ねェェエエエッ!!』

 そして再び繰り広げられる死闘・・・・・・そして・・・



「今だ、マリア!!熱遮蔽板切り離せッ!!」

 船から遮蔽版が切り離され、あたしは思いっきりその板に叩きつけられた。あたしの体がどんどん奴らから遠ざかる。
 なんでだ!!どうしてだ!!こいつらと会ってからうまくいったためしがない。確かにあたしは武等派の魔族に雇われているし、あたし自身魔族と分類されている。だからこいつらに邪魔されているのはわかる。でも・・・だからってこれは理不尽なんじゃないのか!?なんであたしたちばかりこんな目にあわなくっちゃいけないんだよ!!
 それもこんな間抜け顔にばかり邪魔されて!!く、最後くらい思うとおりに動いてくれたっていいだろ!!

『おのれッ!!美神令子ならまだしも、なぜあいつにこうも・・・!!貴様だ・・・!!貴様を先に殺しておくべきだった!!せめて道連れにーー!』

 あたしは文字通り、最後の一撃となるべき攻撃を奴へと向かって叩き込む。
 だが、不安定な体勢のためだろう、奴へとはなった攻撃は直撃はせずに、奴のやや手前で炸裂する。だがそれでも十分だろ?奴はそれで吹っ飛んでいくんだから。あとは大気圏で燃え尽きて・・・

 でもやっぱりうまくいかなかった・・・この世とやらを作った奴はよっぽどあたしたちのことが嫌いなんだろうね・・・すぐにロボット娘が奴を抱きかかえておっこっていきやがった。クソ、これじゃひょっとしたら助かっちまうじゃぁないか・・・
 ついてない・・・こんなところで終わりとはね・・・思えばいろいろついてない一生だったかもね・・・


 あたしは地球圏に到達し、次第に燃え始めた体を自嘲気味に見詰め・・・るのをやめた。

『いやだ!死にたくはない!!せめて最後くらいは報われたいんだよ!!』

 あたしは思いっきり叫んだ!こんな何もかも裏目に出る結末なんて・・・認めたくはないだろ?死にたくない。今までいくつもの命を確かに奪ってきた。でもそれなら人間だってやってきたはずだ。生きるためには必ず誰かが死ぬ。しょうがなかったんだよ!!これで助かるものならあたしはなんだってしてやるつもりだよ。醜くても生きていきたいからね。
 そんな思いが通じたわけじゃないだろうけど・・・

 船が減速を見せ始める。あたしが撃った霊波でどこか機能不全でも起こしたのか?なんにしてもこいつは好機だ。あたしは砕け散りそうになる腕を何とか行使して船を掴む。
 船は冷たかった。これは・・・奴の作った文殊・・・『冷』・・・ついてる・・・やっとそう思えることができたよ。本当に、このときばかりは泣きそうになった。
 なんにしても、あたしはこの文殊に自分に残されている魔力をいっぱいにつぎ込んだ。文殊から圧倒的な冷気が放出されていく。その甲斐あって、何とか大気との摩擦熱であたしは燃え尽きることを免れた。

 そして・・・・・・

 あたしはそのまま気を失った・・・あまりの消耗から、地上が見えた瞬間に急に視界が暗転したんだ。

 さすがにその一瞬は今度こそ死んだか?ッて思った。





 流れ往く蛇






 目を閉じても瞳を貫いてくる眩しい太陽の光・・・暗い魔界ではお目にかかることは無い。あたしたちはこの光が欲しかった・・・それだけってわけじゃないけど・・・この光が欲しくて長い年月をかけて人間と・・・神と・・・場合によっては同族とも戦った・・・

 その光が・・・今は惜しみもなくあたしに降りかかる。
 何度か日の光は見たことがある。その都度なんて美しいんだろうと思った。
 でも・・・・・・

 
 ・・・チチチチチ―――・・・・・・
 
 さっきからその小動物の無粋な泣き声ばかりが耳に付く。子五月蝿い鳥だ、子五月蝿い合唱をしてやがる。ったく、あいつらはたまの朝くらい静かに出来ないのかね?終いには焼き鳥にして食っちまうか?
 ・・・ぽりぽりとあたしは頭をかいた・・・

 ・・・っておいあたし!何とーぜんのよーに朝を満喫してるんだい!?て言うかここは『ここはだれ?あたしはどこ?』みたいな台詞を言うのが普通じゃないのか?ってそれもそれでいろいろとやばいだろ?
 あたしはいまだ眠いといって煩い頭をゆっくりと起こし、辺りを見回した。
 そこは・・・そうだね、事務的な室内である・・・んだろうね。飾っ気なんか見られない・・・あるといえばせいぜい観用樹位なものか。部屋の中央に置かれた大きなテーブルの正面には大型のTV, そしてテーブルを囲むようにしつらえられたソファー・・・これは今あたしが占拠している。
 いかにも金持ちぜんとしている・・・けど成り金的なやつじゃなくて、歩けどもてあましている、若しくはこれらのものを買うだけでいっぱいいっぱい・・・そんなとこかね?
 まぁそれは良いとして・・・一体どこの物好きがこのあたしをここまで運んできたのか・・・あたしは夢にまで出てきたあの光景を思い浮かべて、苦笑した。
 このなく子を黙らせるのに苦労しなくっちゃいけない(待て!!)あたしを助けるだなんて・・・ねぇ?
 GSの連中?考えられないね・・・やつらなら喜んであたしを殺そうとするだろうね。
 ならどこぞの事情も知らない民間人?それなら好都合だね。できるならしばらくここで休んで体力、霊力を回復したいところだ。もしなんかあってピンチになっても、そいつを人質にとって逃げるって手もあるしね。ウ〜ン、われながら良い考えだ。

「やぁ、起きたみたいだね」

 そんな考えにふけっているあたしに、突如後ろから声がかけられた。

 ・・・ハッキリ言って、全然気づかなかった・・・ここまで深刻とは・・・普段ならまず間違いなく気づく、間違いなくね・・・でもあの状態から脱出するのにかなりの霊力を使っちまったからね。
『霊体が皮を被った様なモノ』とはよく言ったもんだ。殆ど霊力がゼロに近いわけだからね・・・感覚もちと狂い気味みたいだ。実際傍目にはそこらの人間とそう変りは無い様に写っているのかもしれない。
 ・・・まぁ、身を隠すにはそのほうが良いんだけど。
 それはいいとして・・・あたしは声をかけてきた奴――男を見上げた。






 夕日を背にその建物は燃え栄ゆり、レンガたちは一身に自身とは違う赤を見事に染め上げる。
 そんな風情の漂う某オフィス。
 一人の女性・・・ショートの髪をカチューシャによって束ねている少女・・・小竜姫が一同を見回して口を開いた。

「実は皆さんに折り入ってお願いしたいことがあります」

 2人の女性と一人の男性が唾を飲み込む。この竜の女性がこういった対応に出るとき、即ち何か厄介なことである。

「詳しくはヒャクメからの説明を」

 そう言いながら、小竜姫は隣に座っている独特の髪をした女性へと話をふる。

「あなたたちが月から帰る時に実は・・・」

 いったん彼女はここで息をいったん吸う。そして・・・

「メドーサが美神さんの宇宙船に引っ付いたまま地球まで帰ってきちゃったらしいのね〜」

 と一気に話した。終いには『てへ』とか言ってたりもする。
 一同は凍りつき・・・

「ってざけんなぁぁぁあ!!どうしてそんな肝心なことを今まで黙ってた!!っていうかなんでそれを知覚出来なかった!!」

 髪の毛の長い女性・・・美神が、ここまで語った独特の髪をした女性・・・ヒャクメに食って掛かる。彼女は泣きそうな顔をしながら、こういう。

「だ・・・だってあなたたちが月から帰ってきて疲れてて戦闘できる状態じゃなかったでしょ?それにメドーサの方もどういうわけか一気に霊力を消費しててなかなか判断できない状態にあったんだもの」

 男―ひたすらに貧困そうな雰囲気を漂わせる只者ではなさそうな人物・・・横島が手を上げて尋ねる。

「え〜と、なら今は探知できるんですか?」

 ヒャクメはそれにすぐさま返す。

「あ、それも無理なのね。どうにかいるっていう感覚しかわからないのね。何しろ一気に霊質の上下が変わっちゃったもんだから、特定できるまでだいぶ時間がかかるのね〜」

 美神―とその弟子が、その発言で怒ったように立ち上がった。

「この無能!!」
「ひ〜ん・・・」
「ああぁ、ヒャクメ様すいませんすいません!!」

 とまぁ、いじけ始めるその女性を黒い髪の女性がなだめる図式が成り立つのであるが・・・
 
「まぁ、今回は協力要請ですから、退治してという依頼ではありませんので、もしメドーサを見つけたらすぐに知らせてください」

 そんな事態を斜め後ろで見守りつつ、小竜姫はそう言い残して去っていった。




 あたしの視線の先には男が立っていた。黒い服から伸びる両腕には湯気の立ち上るコーヒーカップが握られている。首からたれる鎖には十字が描かれていた。

「やぁ、お早う」

 男の開かれた口から言葉がつむがれる。

「おはよう・・・」

 あたしも何と無く返した。
 その男を言い表せば・・・そうだね、良い男なんだろうね。その体を覆う霊波さえなければ・・・
 人間にしてはずいぶんと強い力を持っている・・・これは・・・GSの連中か?まさかあたしを払おうと?
 いや、それなら今こうしてあたしがノホホンと朝を迎えるなんておかしくはないか?

「いやー驚いたよ、君みたいな女の子が道端で倒れていただなんて」

 男はそう言いながら苦笑した。
 ・・・ん?そういうことか、つまり今あたしの霊力が非常に弱いからわかんなかったってワケか?これは良い。バレないならバレないでさっさとここから退散すれば良い。いつあたしの正体がバレるのかもしれないしな。
 男はカップを置きながら、あたしに質問を投げかけた。
 
「で、何であんなところで倒れていたのか教えてくれないか?」

 なんてあたしが答えれるわけは無いだろ。ここは記憶喪失ってことにして無難に切り抜けるか?

「う〜・・・ン、それがまったく憶えてなくて・・・記憶喪失・・・って奴なのかな?」
「にしてはずいぶんと落ち着いているんじゃないか?」

 おいっ!!せっかくこのあたしが演技してるのに何サラッと見破ってるんだっ!!
 男はあたしをずいぶんとうろんげに見詰めた後、(ため)息を一つ吐いてから、表情を変えた。

「じゃぁます私の名前から名乗っておこうか」
 
 男は自分を示すように右手で己を仰ぎ、一礼をする。

「私の名前は唐巣――唐巣和宏だ」

 ・・・エ?あたしは自分の耳を疑った。
 そんなことなど露知らず・・・唐巣はにこやかにあたしを見詰めていた。

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