ザ・グレート・展開予測ショー

遠い世界の近い未来(13.4)


投稿者名:よりみち
投稿日時:(03/12/ 1)

遠い世界の近い未来(13.4)

形勢は、徐々に薫と葵に不利に傾いている。
 ヴァンパイアとロボットのコンビネーション攻撃のせいだ。常に、互いの死角をカバーしあいながら、うまいタイミングで仕掛けてくる。
 まだ、捕獲を優先しているのか、直撃を狙ってのものでないのでかわせているが、子どもたちにとっては、消耗が進む一方である。

「さすがに二つ相手は、きついわ。薫、三秒、一人でやってくれへんか。その間にあのブリキ人形を捨ててくる。」
そう言い捨て、消える葵。

「なんや!」
予定通りロボットの真後ろで実体化した葵だが、思わずたじろぐ。
絶壁のような背中の上に表情もなく見下ろす顔がある。振り返るというより180度、頭部が回転しているのだ。
アゴが外れるように口が大きく開き、そこから何らかの気体が、葵に吹きつけられる。

「!」全身が弛緩し、座り込む葵。

「葵!!」
 跳び出した薫の前に、ヴァンパイアが立ちふさがる。
 それ以上動けない薫。

 葵はすぐに意識を取り戻すが、ロボットが体から取り出した金属製らしいネットに絡められる。
テレポートで逃げ出そうとするが、何も起こらない。GSであれば、ネットに霊能力封じのお札がつけられていることに気づくはずだ。

「終わったな。」ヴァンパイアは、何の感情も見せずにつぶやく。
 そして、ふと、思いついたように、薫に向かい、
「どうだ、私の僕にならないか? 不老不死の命が与えられるんだ、文句はないだろう。」

「もう少し大人になってからの方がいいんだけどな。このままだったら、あたいを待ってる未来の旦那様は、ロリコンしかいなくなちゃうじゃないか。」
憎まれ口をたたきながら後ずさりする薫。
 何か逆転のきっかけがないか探っている目だ。

ネットの下の葵も大人しくはしているが、こちらもあきらた様子はない。

 ふと、ヴァンパイアは、もう一人いたことを思いだした。あたりを見回すが、いない。さっきの話からするとサイコメトラーのようだが、ほっておくことにする。四人の内、二人の身柄を押さえたのだからマスターも満足するだろう。

「すぐに、こちらに来い。」
待ちきれなくなったのか、ロボットは足を持ち上げ、葵の頭上にかざす。何も言わないが、脅しでないことは明らかだ。

「ちっ!」後ずさりを止める薫。

「葵から離れろーー!!」
そこに、叫び声と銃声がしたかと思うと、ロボットの首の付け根であたり爆発が起こり、2〜3m吹っ飛ぶ。
 葵が銃声の方を見ると、屋上への出口で、水元が、銃を両手に支え腰だめの姿勢で踏ん張っている。

おキヌが、葵に駆け寄る。ネットの上のお札に、取り出したお札を重ねる。
 バチ! お札に火花が飛ぶと、葵の超能力が戻る。
 ネットを残しおキヌの脇へ、その後、二人で水元の後ろにテレポート。

なぜか、水元は、撃った状態で固まっている。

 葵は見直した面もちで、
「水元はん、けっこうやるやないか。いきなり撃つし、見事に当てる。銃がそんなに上手だって知らんかったわ。」

その言葉で、金縛りがとける水元。
 六階分の階段を駆け上がり息が上がったところに葵の状況に狙いも定めず反射的に撃ったことを黙っておくことに決める。だいたい、精霊石の弾というのがあんな派手な爆発するとわかっていたら、引き金を引くことができなかったと思う。

首が半ばもげかけたままで、立ち上げるロボット。

 おキヌは、”心眼”により、それが、霊体制御式のロボットであること、さらに、精霊石弾により、封印用のお札に包まれたパーツの一部に亀裂が出来ていることに気づく。
「薫ちゃん、十秒、その人に邪魔をさせないで!」

「はいよ!」形勢逆転で勢いづく薫。手近にあるものを次々と投げつける。

「ちっ!」
 ヴァンパイアは、飛来するそれらをたたき落とすが、それ以上の行動はとれない。

 その間、おキヌがネクロマンサーの笛を構え、旋律を奏でる。
破損個所が二・三度スパークすると、ロボットの動きが止まる。 組み込まれた霊体が、亀裂から成仏したことで、思考システムがダウンしたのだ。


破魔札を構えるおキヌと精霊石銃を構える水元。後ろには葵。
 さらに後ろにゆっくりと深呼吸している紫穂、彼女がおキヌと水元に知らせたのだ。

 その一団とヴァンパイア挟むように薫。
 彼女は、コンクリート塊や鉄骨を数トン分、頭上に浮かせ、相手に投げつけるチャンスをうかがっている。
完全に囲まれながらも、まだ、余裕を見せるヴァンパイア。 肩の力を抜くと、全身がコウモリの集団に変化する。
 そのコウモリの一団は、あっけに取られる水元とおキヌの間をすり抜け、紫穂の脇で、元の姿に戻る。
 呆然と見上げる紫穂を片手で抱き上げ、首筋に牙を当てる。
 抵抗もせず、大人しくしている紫穂。

「また、人質かい。見損なったぜ!」薫が、怒りを抑えるように言う。

「笑われても仕方ないな。」
自嘲気味に、囲む水元たちを見回す。
「要求は、逃げるのを見逃してもらうこと。仲間の命となれば、過大な要求ではないだろう。そもそも、さっきも言ったように私を捕らえても何も秘密を話せないしな。」

紫穂は、抱かれている腕に軽く自分の手を添える。
 軽く震えるヴァンパイア。

「おねーちゃん、ずいぶん苦労してきているんだね。」
紫穂が、遠くから来た親戚に対するような親しげな口調で話しかける。

 それに対して、厳しい顔がなごむものの、力はゆるめない。
 水元たち全員を見渡し、
「空の上で解放してやる。そこのサイコキノかテレポーター、しっかり受け止めるんだよ。」

紫穂は、本当に困ったような顔をして、
「私、高いところが嫌いなんで、ここで降ろしてくれたらうれしんだけどなぁ。おねーちゃんが逃げれるように、薫たちにちゃんと言っておくからねぇ〜 」

「すまんな、お嬢ちゃん。こうなってから、”人間”を信用しないことにしたんだ。」

「残念ねぇ〜 」紫穂が、軽く目を閉じ、精神を集中する。

「うっっ‥‥」
ヴァンパイアの全身から力が抜け、跪く。
 腕にも力が入らないのか、特に力を入れた様子もない紫穂が腕をふりほどく。

「葵!」
「わかっとる!」
 紫穂の横に現れ、紫穂を連れ、水元の後ろに。

「な、何をした!」苦しげに、‘ごめんなさい’という表情の紫穂を睨む。

「紫穂の切り札さ。あんたの意識を中和したんだよ。」
薫が、代弁する。薫の破壊フィールド、葵の防御フィールドと並ぶサイコメトラー超度7級のエスパーのみができるな技。
 読み取った意識の(適当な比喩ではないが)ネガを作りだし、それを元の意識にかぶせ、対象の意識を中和−消してしてしまうのだ。
「人間なら、しばらく意識がとんじまうんだけどな。さすが、吸血鬼、意識もあるし、しゃべれるんだ。でも、もう遅い。」
頭上に漂っていたコンクリート塊や鉄骨を加速し、投げつける。

数秒で、彼女がいた辺りにコンクリート塊と鉄骨でできた山が生まれる。
 薫は、さらにサイコキネシスによる圧力をかける。
ギッ ギシッ ガギッ 不気味な音を立て、隙間が潰れ、山のサイズが一割ほど小さくなる。

「これで、生きてたら化け物だぜ!」力を出し切ったように肩で息をする薫。
「吸血鬼って、十分、化け物やと思うけどな。」薫につっこむ葵。
「あのおねーちゃん、大丈夫かしら?」本気で心配そうな紫穂。

「あれは?!」水元の緊張した声が飛ぶ。

白い霧状のものが、瓦礫の隙間からわき出す。ただ、色は、白から茶色っぽい色に変わり、のたうち回るように漂いながら、ひどくゆっくりとした様子で人の姿に変わる。

「ひどい!」おキヌは、思わず顔を背けた。

 そこにあるのは、さっきまでの美しさと力に満ちた肉体ではない。吸血鬼本来がそうであるように、陽光により彼女の肉体が崩壊しつつあるのが一目でわかる。
 白い肌は褐色に変色し、所々でひび割れ、ぼろぼろと乾燥した皮膚が体からはがれ落ちる。下から血管や筋肉が露出するが、それも硬化し崩れつつある。
 右腕は、袖の中で千切れかけているのか、数pほど長く伸び、垂れ下がっている。
瞳の焦点も定まらない様子で、二歩、三歩と後ろに下がりながら、最初にできたフェンスの隙間から下へ落ちそうになる。

「「「「「!」」」」」一瞬、全員が目を閉じる。

 かろうじて無事な方の手でフェンスをつかみ、踏みとどまる。しかし、意識がもうろうとしているのか、危ないバランスのままふらふらしている。
 一歩後ろに下がれば、六階下の地面まで真っ逆さまだ。もう、飛翔能力や再生能力がないのは明らかで、落ちれば、数百年生きたと自称する彼女の最後である。

 薫は、いつでも突き落とせる態勢を取りながらも、その様子に、最後の一押しはできないままでいる。

「葵、あの人のすぐ脇まで連れてってくれ。」
水元は、後ろにいる葵に小声で話しかける。
「なんでや。あのまま落っこちても、うちらは何も困らへんで。」
同じように小声で答える葵は、振り返った水元から睨みつけられ首をすくめる。

「しゃーない、一つ貸しやで。」うなずく水元の腕に触れ、テレポート。

すぐ横で実体化した水元に驚き、バランスを失い落ちるヴァンパイア。
 水元は、止めようと腕を掴むが、掴んだ上のあたりから崩れる。
「危ない!」水元は、とっさの判断で、ちぎれそうな腕を放し腰に抱きつく。
 そのままいっしょに落ちる二人。

「ちぃぃ!」残った葵は、水元をイメージしテレポート。

 次の瞬間、全員の後ろ1mほど中空で実体化。水元を下敷きにして吸血鬼と葵が乗っかるように床に落ちる。
「ほんまに、無茶しいなや。」葵は、額に浮かんだ冷や汗を拭う。

水元も、一人半(?)に乗られ苦しいが、危ない賭を乗り切ったことに胸をなでおろす。

 彼女を助けるには他に方法はなかった。仮に、葵に助ける気があっても、ヴァンパイアだけならイメージを結べず、 落下中のランデブーはできない。日頃から行動をともにしている水元だからこそ、正確にイメージでき、落ちてる途中でもランデブーできたのだ。


「何だ、すぐに楽になれると思ったのに。まあ、数秒先か数分先かの違いだろうがな。」
薫のサイコキネシスで、床に横たえられたヴァンパイアは、苦しげな口調でそれだけいうと、最後を待つように目を閉じる。
 
 おキヌが、さみしげに首を振る。胸からお守りの袋を取り出し、中から文珠を出す。
 ”治”の文字を入れ、ヴァンパイアの胸に押しつけると、全身を暖かい光が包み込みこむ。

その間に、携帯を取り出し、事務所の管理人(?)を呼び出す。
「人工幽霊一号さん、事務所の結界を解除。葵ちゃん、みんなを連れて美神さんの私室にテレポートして。」

葵は、何か言いたげだったが、沈黙し指示に従う。


ベッドに寝かすや、今度は、ヒーリングを始める。
数分後、うっすらと目を開けるヴァンパイア。

「どうして助けた。言ったようにマスターについては何も知らんぞ。」
 不思議そうな眼でおキヌを見る。

「私、人がしたいことの邪魔をするのが好きなんです。こうみえても意地悪なんですよ。」
おキヌは、憎々しい表情を浮かべるものの、まるっきり似合わない。
 ベットの向かい側で、子どもたちが微笑みを押さえる苦労している。


 文珠とヒーリングのおかげで体の崩壊は止まった。しかし、吸血鬼本来の超絶的な回復もしない。

「吸血鬼が、昼間出られないのは太陽光だけの問題じゃないわ。魔族が人界に残る代償として受けた呪いなのよ。」
そこへ、美神が、治療用のお札と包帯を抱え、入ってくる。
 愛車をとばして、ようやく着いたのだ。下で状況の説明は受けている。
「それが活動できるということは、たぶん、薬物とか洗脳で無理矢理に動けるようにしているんでしょう。その分、常に霊的、肉体的にずっと負荷がかかりっぱなしだったに違いないわ。薫ちゃんの攻撃でダメージを受け、無理させられてきたものが一気に吹き出したのね。」
霊視などで確認したわけではないが、的確な診断を下す美神。
「薫ちゃん、サイコキネシスで体持ち上げてそのままに。おキヌちゃんは、手当の邪魔になるから服を脱がして。」

おキヌは、はさみを取り、服を切り裂き、はがしていく。下からは、思っていた以上に崩壊が進んだ肉体が表れる。

水元が、痛々しい体を目の当たりにして下を向く。
美神は、顔を引きつらせているが、修羅場のベテランとして、傷の具合を見定めている。
 おキヌも顔をこわばらせているが、目は背けていない。

「水元くん、紫穂ちゃんと葵ちゃんをむこうへ連れてって。無理して見るもんじゃないわ。」

 出ていく三人を見ながら、出るように言われなかった薫が、
「あたいも出たいんだけどなぁ。」

「かわいそうだけど、あんたの超能力はいるの、我慢しなさい。」

薫はふてくされながらも、美神の指示通り体を浮かせたまま、ひっくり返したり傾けたりする。おかげで、手当てはずっと手早く進んでいく。

「ありがとう、薫ちゃん。夕飯は、あなたの好きなものにするから、何がいい。」
感謝を込めて、おキヌが申し出る。

 本来、性格と同じで血の気の多いものが好きな薫だが、
「肉類以外だったら何でもいい。しばらく、その手のものはパスね。」

水元は、薫のしおらしい反応に表情に出さず、微笑む。

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