ザ・グレート・展開予測ショー

遠い世界の近い未来(13.3)


投稿者名:よりみち
投稿日時:(03/12/ 1)

遠い世界の近い未来(13.3)

「やっぱり、見えへんな。どうする、薫。」
 葵が隣の薫に話しかける。
廃ビルの屋上にテレポートで移動した三人は、水をためておくタンクの陰から辺りをうかがう。
 相手は、事務所に面する側のどこかにいるはずだが、いくら目を凝らしても、落下防止用に並べられたフェンス以外何も見えない。

「まあ、見てなって。」
薫は、目を閉じ精神を集中する。ごく弱いサイコキネシスのエネルギーを放射し、手応えを探っていく。相手が透明であっても実体がある限り、反応があるはずだ。

4〜5分後、
「いた! 右隅から4mほどのところに二人。一人はかなりの大柄で、もう一人は横島のにーちゃんぐらいかな。」
薫は、後ろで、のんびりとしている紫穂に振り返る。
「それじゃ、紫穂は隠れときな。」

「いいの〜? 」一応、訊いているという感じの紫穂。

「紫穂は、正体を吐かせる時が出番だ。それまで、あたいらの活躍を見ておきな。」

「じゃあ、薫、葵、頑張ってねぇ〜 応援してるわよ〜 」
紫穂は、運動会の徒競走に友達を送り出すような感じで手を振る。


「さあ、始めるぜ!」
 薫のサイコキネシスが、シートをはぎ取る。

薫の言葉どおり、大柄とやや背が高めとはいえ普通サイズの二人の姿が現れる。
 真っ黒なスーツの上下に、黒のネクタイと黒靴。ごていねいに、黒のサングラスまでかけている。
 都市伝説にある、異星人の秘密を隠して回っているあの工作員そのままである。

 シートが舞い上がると同時に、葵が二人の間で実体化。
 すぐに大きい方の体に触れテレポート。7〜8m上空に現れ、自分だけ戻る。

 ずどーーん!

 コンクリートの床に岩のかたまりが落ちたかのような音が響く。打ちっぱなしの床に大男の体がめり込む。

 その間に、薫は、サイコキネシスでもう一人を捉え、屋上に出る階段の扉に投げつける。
 鉄製の扉が体の形にへこみ、反動で床に投げ出される。
 おまけとばかりに、薫は、扉をもぎ取り、倒れている人の上に落とす。

「もう、終わりか!」思っていた以上に楽勝そうな展開に、軽い興奮状態の薫。
「でもなさそうやで。」葵は、薫よりは冷静に相手を見ている。

 大柄の方は、何事もないように、床のへこみから起きあがる。
 短くまとめられた赤茶の髪に四角張った顔、某アクションスターを二周りほど大きくした体型と併せて、そのスターが何度も演じた未来の殺人ロボットを思わせる。

「あいつ、生き物、ちゃうかもよ。」葵が、大男を見ながら薫に言う。
 テレポートした時の手応えで、大男の体重が、体の大きさを計算に入れても、人間一人分を大きく越えていたことに気づいている。

 もう一人の方も、扉を片手で差し上げ、立ち上がる。こちらもダメージはないようである。持ち上げた扉は、プラスチックトレーか何かのように脇に投げ出す。

「女の人?!」「女の人か?!」
投げられた時にどこかにとばされたのか、サングラスのない顔は、明らかに女性のものである。よく見ると、胸回りや腰回りも女性特有のカーブを描いている。美神のスタイルを満点とすると、90点代をマークするだろう。
 ブロンドのショートヘア、黒を基調とした服装で際だつ肌の白さ。けっこう暖かみのある蒼い瞳。誰でも”美しい”と形容するにちがいない。
横島であれば、見さかいもなく抱きつきにいっているはずである。


あらためて対峙する四人。

「半殺しですましてやるからさぁ、誰から頼まれたか教えてくれよ。」
薫は、自分たちの世界では遭遇したことのない相手に、少しだけ弱気を見せる。

「私が、話すと思うのか?」自嘲めいた微笑みが女性の口元に浮かぶ。

「あんたはんの気持ちは関係ないで。うちらにはサイコメトラーがおるんや、隠しても一発でわかるで。」
 葵が、どうだという口調で返事する。

「ふん、甘いな、お嬢ちゃんたち。私のマスターは、捕らえられても情報を洩らせないよう、私に何の情報も与えていない。サイコメトラーでもテレパスでも知らないものは知りようはないだろう。それは、あのでくの坊も同じだ。」

葵が、うんざりしたように、
「何や、使い捨ての下っ端かいな。なら、さっさと帰ったらどうや。何も教えてくれんような薄情なご主人様に義理立てすることないやろ。」

今の一言が、女性の心を刺激したのか、顔が苦しげに歪む。
「お嬢ちゃんの言う通りだ。しかし、私は、そのマスターに逆らえないんだよ。」
狂気をはらんだ口調で続ける。
「数百年も人界を渡り歩いた誇り高きヴァンパイアの私が、どこの誰ともしれん奴の言いなりになっているんだ! このいらだたしさがわかるか! 」

「『わかるか!』っていわれてもなぁ。」顔を見合わす薫と葵。

「そういや、ヴァンパイアって、昼間、出たらあかんかったんちゃうか?」
「あたいに訊くな。偏差値、一番低いのは知ってるだろ。」
「たしかに、訊いたうちがアホやった。」
 小声ながら自分たちの会話を始める二人。

「‥‥」
 それを見て、ヴァンパイアの方も、子どもに言う話でないことに気づき、表情も平静に戻る。そこで、動き始めた大男に気づき、鋭い声が飛ぶ。
「しばらくひっこんどきな、でくの坊!」

大男は動きを止め、葵と薫も会話をやめる。

ヴァンパイアは、そんな二人に優しそうな口調で、
「そのマスターの命令でお前たちを捕まえなければならん。どうだ、大人しくついてきてくれれば手荒いことはしないが。」

「やだね。」「いやや。」同時に二人とも強く首を振る。

「では、戦闘開始ということだな。子どものなり(姿)をしていても、お前たちもなかなかの『力』の持ち主だろ。美神や横島とまではいかなくても、楽し‥‥ 」
体に、見えない力が加わる−サイコキネシスが作用するのを感じ、避けるために飛び上がる。
「悪役に最後まで言わすのが、礼儀だろう。」

「ヴァンパイアはん、子どもは礼儀知らずなんやで。」
葵は、言い返しながらも、ヴァンパイアが重力の法則を無視し、体が空中に静止しているのに目を見張る。二人ともヴァンパイアの能力は、それほど知っているわけではない。

「このくらいのことで、驚いてもらっては困るな。」
 上を向けて出した手のひらに、黒い霧のようなものが浮かび上がる。
 霧は、床に降り、黒い異形のものに変わる。強いて言えば、ドーベルマンあたりの猟犬に近いが、似ているのは色とサイズ、四つ足であるということ辺りまでか。GSであれば、その邪悪な姿から下級魔族と判断するモノである。

「私が使役する使い魔さ。お嬢ちゃんのような柔らかい肉が好きでね、凶暴だよ。」

「うちにまかせとき。」正面に出る葵。

 葵に食いつこうと二匹が牙をむきだし爪をかざし襲いかかる。しかし、その爪も牙も空振り終わる。
 葵は、その背後で実体化、二匹の尻尾に手を添えテレポート。葵だけが戻る。

「どこへ?」思わぬ対処法に、うろたえる辺りを見回す。

「二匹とも東京湾で海水浴してるころや。」嘲笑するように葵が言い放つ。

「やるじゃないか!」 空手で言う貫手に手を構え、かなりのスピードで降下する。

 今度は、薫が前に出る。
「忍法、フェンス返し。」もちろん、今、思いついた名前だ。
 落下防止用に並べられた金属フェンスが、4、5枚外れ重なり、突っ込んでくるヴァンパイアの前をふさぐ。

「えぇー!」思わず声を上げる薫。
 遮ったフェンスを紙のように貫手が貫いている。さらに、もう一つ手がフェンスを貫く。
 両手で紙かスチロールでできているかのようにフェンスを引き裂き、距離を詰める。

 転ぶように避ける二人。葵もあっけにとられテレポートのチャンスを逸したのだ。

 次の攻撃をぎりぎり短距離テレポートでかわし、ヴァンパイアの後ろに出る。
 振り返りざまに振られる手刀を薫のサイコキネシスが捉える。

「それっ!」
 ヴァンパイアのしなやかな腕が三カ所ぐらいでおかしな方向に曲がる。

 その腕を面白くもなさそうに見つめるヴァンパイア。

「嘘でも、痛そうな顔をしてくれたらどうなんや。」と葵。

「ふん。」鼻で笑い、軽く力を込めると、元に戻る。

「頭を潰すか、心臓に杭を打ち込むか、そんなあたりでないと無理っぽいな。」
さらっと、えぐいことをつぶやく薫。
「葵、”かくれんぼ”でやるぜ!」

「うちにも力仕事させるつもりか。」薫に文句を言ってから葵が消える。

‘?’再びとまどうヴァンパイア。何度かGSともやりあってきたが、どうも勝手が違う。

「お前なんか、あたい一人で十分なんだよ。」
 薫が、こちらに注意を向けるようと挑発する。
「ほざけ、ガキめ!」
 手に光弾が生まれ、撃ちだす。GSなら霊波砲と呼ぶ、霊力を弾として放つ技だ。

薫は、無意識にその弾道を変える。それた霊波弾は床に当たり爆発、大きな穴を空ける。
「危ねぇな、まともに食らうとお終いか。」

「楽しませてくれるな。でも、全部かわせ‥‥」
両手に光弾を浮かび上がらせたところでヴァンパイアの鋭い勘が、上からの脅威をキャッチする。
 振り仰ぐと、頭上に一抱えはありそうなコンクリート塊が降ってくる。
「くっ!」
 用意していた霊波弾をコンクリート塊に撃ち込み、粉砕する。

その後、頭の上に次々と現れ落下する鉄板、鉄材、コンクリート塊、はては、廃材を燃やしているドラム缶や自動車まで。葵が、どこからか手当たり次第にテレポートで運び込んできたものだ。
ヴァンパイアのスピードでいえば、それらは、危険というわけではないが、避けるために攻撃には移れない。
大男の方は、自分の頭上に降ってくるものだけを無造作にはじき飛ばす。

屋上じゅうに、前衛芸術家の庭園かオブジェのように様々なモノが散らかり、見通しも悪くなる。

「十分に集まったやろ。後は、薫次第やで。」
 さすがの葵も、連続して重量物をテレポートで運び込んだことで、疲れたようすである。


ヴァンパイアは、避けているうちに薫たちを見失っていた。
 そこへ、後頭部に鉄骨が飛来する。振り向きざまに手刀でたたき落とす。続いて、エアハンマーが心臓に‥‥ 次々に頭部や心臓を狙い、様々な物が飛んでくる。

「くそ!どこにいる?!」
体が小さいだけに、隠れやすいし、短距離テレポートも併せ、動き回っているようでヴァンパイアの超感覚でも所在を追いにくい。加えて、いつ飛んでくるかわからない危険な代物にも注意を向けなければならないので余計に注意が散漫になる。

「何で、手こずるんだ!!」自分を叱咤するヴァンパイアの目に焦りが生まれている。

そこに、「危な〜い!」とかわいらしい女の子の声する。
 続いて、サブマシンガンの連続射撃音がかぶさる。
隠れ場所から追い出される薫と葵。

「やっぱり、ロボットか、何かか!」
薫は、大男の水平に持ち上げられた腕の先端から銃身がせりだしているのを見る。

「手を出すなっていっただろう。それに、捕らえるのが命令だ。」
突然の介入に、ヴァンパイアは、自分を否定されたと感じ、怒鳴る。

「捕獲に時間がかかりすぎる。捕獲できない場合は、抹殺も命令に入っているはずだ。」
ヴァンパイアの怒りに、いかにも機械がしゃべっているというような中性的な口調で応える。
「それに、お前は、自己の満足感を優先し、単独で行動することにこだわり過ぎている。私たちに、マスターの命令以上の優先事項はないはずだ。もし、これ以上、共同行動を拒否し、自己の気持ちを優先するようであれば、再調整を申請する。それでもいいのか?」

その一言に、動きが止まる。内心の葛藤があったようだが、目を伏せながら、
「わかった‥‥ 共同で攻撃しよう。ただ、捕らえることを優先だ、いいな。」

「了解した。しかし、‥‥」
言葉を続けようとするロボットの後頭部にバレーボール大のコンクリートが命中し、砕ける。

「相手がいるんだぜ、無視するのもいいかげんにしろ!」
薫が、勝手に話を始めた二人に腹を立てての攻撃だ。もっとも、ほとんどダメージらしいものはなさそうであるが。

「薫のアホ!」薫の頭をはたく葵。
「話し込んでくれたら、その間だけでも休めるやないか!」

「しまったぁぁ、それもそうだ!」薫は、頭を押さえながらその点に気づく。
「あのぉ‥‥ 話、続けてくれてもいいんだけどな。」

銃弾と霊波弾が、返事として返ってくる。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa