ザ・グレート・展開予測ショー

さんびゃくねんの、こいの欠片。


投稿者名:hazuki
投稿日時:(03/12/ 1)

「あれ?おきぬちゃんは?」

やっとのことで、呼吸も整った(笑)横島はきょろきょろと、辺りを見渡し言う。

「ん………」

美神も同じように、あたりを見渡し風に消えそうな声で言う。


「逢いにいってるのよ……」


と。


その言葉に横島は首を傾げる。

「何のことスか?」























もし、それを知ったとしていたら、自分はそんな彼女に何をいえるだろう?


辛かったね?

哀しかったね?

冗談じゃない。

それをいえるのは、彼女だけなのだ。








話は、1週間ほど前に遡る。

美神は、ひとり氷室夫妻に呼ばれこの祠にいったのだ。

風の強い日に、そしてあの鏡に現れたものを見たのだ。

よく調べてみると、この鏡は一種の霊力が込められている。

その映像を保存しそしてある一定化の条件のなかで、再生されるものである。

あの時のもののように大掛かりではないが、三十分くらいなら、これでもできるであろう。


キーワードは、二つ。

満月と『太陽』もしくは、月が上に昇るとき。



そして今日は、その日である。

月が満ち、太陽(月)を真上に戴く時。


その時だけ、あのもう彼女の記憶に埋もれた、歴史の先にいなくなった少女は現れる。

何度も、何度も、同じ言葉を繰り返す。



切ないまでの願いをこめた言葉を。



「随分、情緒的なことだわ」

いっそ冷ややかとすらいえる声音で美神は、言う。







姿は、太陽の光に、月明かりに反射して現れる。

幻想的な光に照らされるのは、ひどく貧相な、少女・


そして今自分たちといる少女。







その『遺言』を始めてみたときの感情は、まぎれもない怒りであった。

悔しいなどと、いうものではない。

烈火のごとく燃え盛るような感情。




がんっと拳をたたきつけても、収まらない怒り。


こんなことはきっと、あの時代日常茶飯事だったのだろう。

今だって不幸な出来事は数え切れない程あるし、それら全てに同情できるほど美神は、善人ではない。


だけども、


それでも、と思う。


この、やせっぽちの少女には他に方法がなかったのだろうか?と


だって優しいのだ。


この少女は、こんなにこんなにこんなに、優しい。






優しすぎて、他の人間の、周りの苦痛を全て引き受けてしまう。




それが、許せなかった。


こんなふうに、誰もいないところで、誰も聞かれるかもわからないものを残すくらいなら、もっと叫べばよかったのだと。


彼女をこんな風に追いやった人間に対してなにを思いやるというのだろう。

もちろん、そこか彼女の美点であり、そして尊ぶべきところだという事は知っている。








──────だけど、やりきれない。






「美神さん?」


横島が、わけのわからないと言いいたげに美神を見る。


「…………ねぇ横島くん、シアワセって感じる?」


「え?」


益々混乱したかのように、横島。



「…普通さ、シアワセっていうものはそれ自体気付かずにいられることが、それが『普通』であると思うことが本当のシアワセでしょ?」




「へ?」




「思い知らされるように、確認するかのように、シアワセをかみ締めるなんて、おかしいわよ」



それ自体が、まるで────。


「…………そおっすねー」


苦笑しつつ、横島。

横島には、なんとなくわかる気がした。

苦い思い出が、失う事への恐怖が、教えてくれたことがある。

それは、いままで平凡でつまらないと思っていたことの、尊さ。




当たり前の事が、涙がでるほど切ないシアワセだということ。






ふと、横島は風に髪をなぶらせる美神を見ながらこのひとは、どうなんだろう?と思った。、

父親とは一緒に暮らせる事はなく、母親は魔族に命を狙われ続け、なんとかその手から逃れたものの、中学のときに亡くなる。(いや本当は違うのだが)


お世辞にも、平坦な人生とはいえなかっただろう。


「だから、こんなに根性まがったんかなあ?」


心の中でおもっていただけなのについつい口に出てしまう。


「なによ?」

ぎろっと横島を睨み美神。
横島は、自分の口から出ていたことにあわあわと慌てる。


「いいえっなんでもないですっ」


返す言葉もどことなく、上擦っていたいたのはもう仕方ない。




「───っとおきぬちゃんは、一体どこにいったんですかねぇ?」



「だから、逢いにいってるって言ってるでしょ?」


ぴきっと額に青筋を一本たてて、美神。



「だからああ」

わけわかんないですよっ

と横島。




「───…あのねえ」



美神は、ふかーいため息をつきながら一人ごちた。




「なんで、よりにもよってこの男かなあ…おきぬちゃんほど、いい子ならどれくらいでもよりみどりみどりなのになあ」



まあ、相手を選べるのなど恋ではないのかもしれないが。


そう呟いて、美神は空をみて思った。


あの少女がシアワセであるようにと。


きっと今ごろ、泣いているのだろう。





だけども、自分達の前では笑うあの子に。


どうか、シアワセを。


シアワセがシアワセだと感じられないほどの、たくさんのシアワセを。


他の誰にでもない彼女に降り注ぎますようにと。



あ、もちろん自分にも。




「このバカは、いくらでも不幸でもいいからね」




「へ?」



美神令子。
この女、何気に鬼である。




まあ、実害をこうむるのが横島独りなら、世界の平和のためにも世間の平和のためにも、全然了承できる範囲なのだが。





「ちょっとまたんかいっっ!!!」








おわり。

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