ザ・グレート・展開予測ショー

不思議の国の横島 ―20後半― (GTYでは最後の投稿になります)


投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/12/ 1)


<前半からの続き>




「もう試合始まってるでちゅね?」
「別にどうでも良いじゃないか。目的は試合見ることじゃないし。」

3人の女性が会場に続くロビーを歩いていた。
金髪の少女の呟きに、赤髪の女性が答える。

「違うわよ。私たちは試合を見に来たの。」
「なんででちゅか?今日はアイテムを見に来たんでちゅよね?」

黒髪の女性が後ろを振り向きながら2人の会話に割って入った。

「だから、アイテムの能力とか知るには、実際に使われている所を見ないと話にならないでしょう?」
「あ、そうか。」
「おお、なるほどでちゅ。」

2人は、さも「今言われて気付きました」と言う風に手を叩いて感心する。その様子を見て、黒髪の女性はこめかみに手を当てて溜息をついた。

「あなた達ねぇ…」

―― ドンッ! ――

「つっ!」
「きゃっ?!」

と、後ろに気を取られていた為、前方不注意だった黒髪の女性は、前から歩いてきた人物と肩がぶつかってしまう。
どちらも転びこそしなかったが、結構大きくバランスを崩してしまった。

「つっ!ちゃんと前見て歩きなっ!」
「ご、ごめんなさ…」

―― !!? ――

互いに相手の顔を確認して、そしてその場にいた全員が驚きのあまりに息を呑む。
それは互いが互いの事を知っていて、そしてこんな場所で出会うとは考えても見なかった相手だったからだ。

「こ、こいつ…」
「メ、メドーサ……」
「何でこんな場所で…」
「アンタら、何で…」

その人物は、抜群のボディラインにピッタリとした服を身にまとった、ワイルドな風貌の女性。まるで爬虫類のような鋭い瞳が印象的な、すこぶるつきのいい女である。
上手く隠している為によほど注意しなければ分からないが、その身からは人ならざる気配を発していた。魔族の気配である。しかも、かなり大きく危険な気配をだ。
この女性、その名をメドーサという。
全員が、思考停止状態に陥っていたため、会話すら成り立たず、ただ4人はパクパクと口を動かそうとする努力をするだけ。

「アンタら…こんな所に何の用だい?」

そんな状態から一番先に抜けたのはメドーサだった。さっきまでの驚きの表情をスッと隠して3人に向けて言葉を投げかける。
メドーサの瞳は3人の動きを余す事なく観察し、一見さっきまでと変わり無さそうで、しかしその実どんな動きにも対応できる体勢を取っていた。

「そ…それはこちらの台詞よ。貴女こそ何の用があってココに?」
「質問してるのは私だよ…答えな。アンタら、ここに何しに来たんだい?」

メドーサの問いかけに、黒髪の女性が同じ質問を返す。だが、メドーサはそれを一蹴すると、再び同じ質問を繰り返した。

「なんだと…」
「そんな事…」

―― スッ ――

メドーサの尊大な態度に、赤い髪の女性と金髪の少女が文句を言おうとしたが、黒髪の女性が手を上げてそれを制す。

「………………」
「………………」

少し無言で睨みあうメドーサと黒髪の女性。

「……………私たちは、特別に大した用事なんて無いわ。言ってみれば暇つぶしよ。」
「………ふん。本当だね?」

メドーサは注意深く観察しながら言葉を紡ぐ。

「ええ、もちろん。それで、貴女はいったいどんな用事?」
「私はもちろん目的があって来てるさ。レースを降りたアンタらと違って忙しいからね。」

メドーサの台詞に一瞬3人の表情が曇った。

「そう…どっちにしても私たちには関係の無い話だわ。貴女が何をしても勝手だけど、約束どおり、私たちには干渉しないでちょうだいね?」
「あんたらが私の邪魔しない限りは大丈夫さ。」

表面上は穏やかに、2人のやり取りは続く。
とりあえず、互いに相手のことを警戒しているということは丸分かりだった。

「………本当にお願いね。」
「………ああ。」

最後にそう言葉を交わすと、メドーサは会場の外の方へ向かって歩き出す。
3人は緊張の面持ちでメドーサの後姿が見えなくなるまで見つめていた。
やがてメドーサの姿が見えなくなったことを確認して、赤い髪の女性が黒髪の女性に声を掛ける。

「な、なあルシオラ……メドーサの奴いったい…」
「だ、大丈夫でちゅかね?」

それに乗って金髪の少女も不安をそのまま口にした。
黒い髪の女性……ルシオラは2人を安心させるようにニッコリと微笑むと口を開く。

「大丈夫よ。メドーサが言った事は、とりあえず嘘じゃないと思うわ。私たちが邪魔しない限り、メドーサだって表立って事を構えようなんて思わないわよ。」
「う、うん。」
「そ、そうでちゅね……」

納得したのかしないのか、微妙な表情で返事をする2人。

「ほら、ベスパもパピリオもそんな顔しないで、ね?試合、見に行きましょう!」

―― トンッ ――

「わっと!」
「る、ルシオラちゃん!押すと危ないでちゅ!」

ルシオラは努めて明るい顔をと態度を見せて、2人の背中を押した。
赤い髪の女性…ベスパと、金髪の女性…パピリオも、そんなルシオラにつられて重苦しい表情を緩ませる。

「ホラホラ!早く行かないと、試合が終わっちゃうわ!」

3人はゆっくりと駆け出し、試合会場へ向かった。

…………………………










「それまで、勝負あり!」

一方の試合会場では、早くも決着がついていた。

「勝者、島!!」

8番コート、島陽光(しま ようこう)の試合の決着が。

「ふっ…………南無阿弥陀仏。」

赤いロンゲとグラサンという明らかに間違った格好の坊主、島陽光。しかし姿とは裏腹に、その実力は圧倒的だった。
試合開始から相手の攻撃をのらりくらりとかわし続けていたかと思うと、突進してきた相手の振るう神通棍を紙一重で避け、すれ違い様に霊気を込めた右の手の平で相手の頬を叩く。
さほど力を込めた風にも見えなかったが、脳を揺らされた対戦相手はその一撃で気絶してしまった。
とてもただの受験生とは思えない手並みであるが、それもそのはず。この島陽光、実は横島の変装だったのだ。
ちなみに相手は名も無きGS候補生である。もちろん二次試験に残るというだけでもGSとして凄い素質を持っていると言えるだろう。だが、現役のGSとして数々の実践を潜り抜けて来た横島の相手ではなかった。
気を失った対戦相手に向かい手を合わせ、島(変装中は島と記述します)はニヒルに台詞を決める。
これで会場中の女性はドッカンだと踏んでいたのだが、実際はそんな事にはならなかった。

「…………諸行無常…」

サングラスで島の表情は見えないが、なんだかいじけているように見える。
さて…何故、島の思惑通りにならなかったのだろうか?
その理由は、あるコートで繰り広げられている凄まじい戦いに、会場中の視線が集中していたからだった。
会場中の女性は、誰も島の試合なんて見ていなかったりする。

「…………ふっ…」

微妙に影を落としながら、島は8番コートを後にした。

…………………………










さて、会場中の視線を集めまくっている3番コートの試合は、一進一退の様相を呈してした。
この対戦、互いに戦闘スタイルが噛み合い過ぎる。
どちらも、なかなか決定的な攻撃には至らない。

「ゴリアテ、ミサイル発射!」
「殺ーす!」

―― ドンッ! ――

だが、正直このメンバーで一番消耗しているのはアンだ。
アンはテレサの相手をしつつ、同時にゴリアテに細かく指示を出している。そんな精神的な疲労も蓄積し、アンの顔には大量の汗が浮かんでいた。
そんな疲労が若干判断力を鈍らせたのだろうか?
この指示はあまり良くなかった。ミサイル攻撃は威力こそ大きいが、反対にスキが大きいのである。特に意味も無く発射されたミサイルは、マリアにとって難なくかわせるモノだ。
そしてミサイルが発射される瞬間、ゴリアテは無防備になる。マリアはそのスキを見逃さなかった。

「テレサ・Dフォーメーション。」
「オーケー姉さん。」

―― ドゴッ! ――

「うがぁっ!?」

マリアはゴリアテの背後に廻り込み、背中に向けて思いっきり蹴りを撃つ。だが、それはダメージを狙ったものではない。蹴りの反動でマリアは大きくゴリアテから飛びのいた。
ゴリアテはゴリアテで、若干ぐらつき、マリアを補足し損ねる。

―― バシュッ ――

「ちっ!煙幕っ!?」

一方、アンとテレサの対峙。
アンの放つラミフの連撃をかわしきれず、テレサの体には細かい傷がついていた。同様にアンのスーツもあちこちにへこみが見られる。
テレサの右拳をアンがガードした瞬間、テレサの体から白い煙が噴出した。
煙幕である。
アンは盾から噴出する風で、煙幕を吹き飛ばす。だが、その一瞬の隙を突いてテレサはマリアと合流する。

「まずい!ゴリアテ…」

せっかく分断していたマリアとテレサの連携だったが、ここで遂に2人の合流を許してしまった。それを見て、アンもゴリアテに合流するように指示を出す。
だが、ゴリアテが合流するよりも早く……

ゴーッ!スタッ!

― 距離算出・7.35 ―
― 方向算出・・・ライトプラス4、アッププラス1 ―

マリアとテレサは互いに背中を合わせあい、そのままスッと腕を水平に持ち上げる。

― 風力算出・ゼロ ―
― 微差修正・・・0、1、0、0 ―

マリアの左腕とテレサの右腕は、アンに向かい正確な狙いを付けていた。

― カートリッジ・ロード ―
― カートリッジロード ―

マリアとテレサの計算がシンクロする。

―― カチッ、カチッ ――

「セット」
「セット」

2人の腕に仕込まれた炸薬が、まったく同時に音を立てた。

―― バシュッ!バシュッ! ――

「ダブル!」
「ロケットアーム!」

―― ドンッ!ドンッ! ――

そして二つの拳は、一直線にアン目掛けて発射される。

「くっ!」

ゴリアテの援護が間に合わず、アンは盾を前面に押し出して防御姿勢を取った。

―― ガガンッ!ギュルギュル!! ――

「グアッ…ガガッ!」

だが、アンでは2つのロケットアームのパワーを支えきれない。両腕で目一杯支えるアンだったが、ジリジリと押し込まれる。

「ああああっっ!!」

―― ガキンッ! ――

このままでは盾が弾き飛ばされると判断したアンは、一呼吸して盾を横に凪いだ。
もちろん押し込まれる力に逆らってなので、それには渾身の力を必要とする。アンは全身のバネを使い2つの拳の方向を逸らした。

―― シュルルルル ――

大きく弾かれた2つの拳は、ワイヤーに引っ張られて2人の手元に戻っていく。

「ダブル!」
「ロケットアーム!」

―― ドンッ!ドンッ! ――

「なっ!?」

だが、その腕が手元に戻るよりも先に第二陣が放たれた。
ロケットアームを弾いて息を吐いたアンの目に、絶望的な映像が飛び込んでくる。それは、互いに向かい合わせの体勢で水平に腕を突き出し合わせたマリアとテレサの姿だった。
アンがそれに気がついたときには、既に2人の拳は放たれた後である。
たった今盾を凪いで攻撃を防いだアンには、この攻撃を防ぐ手立ては無い。

「しまっ…」

―― ドンッ!ドゴン! ――

「グハッ!?」

無防備なアンの腹部と頭部に、それぞれマリアの拳とテレサの拳がヒットした。
フルヘルムが飛ばされ、アンはダウンする。

『おーっと!これは強烈うっ!アン選手ダウンですっ!!』
『あ〜………さすがにこれは立てないアル。ここまでネ。』

「ま、まだ……」

厄珍の言葉が聞こえた訳でも無いだろうが、アンはよろめきながらも懸命に体を起こそうとした。
だが、頭部と腹部へ同時に喰らった衝撃は、あまりにも大きすぎたと言わざるをえない。
足元は定まらず、今にも倒れそうだ。

「そこまでじゃ。」
「!!」

ラミフを杖代わりにしてなんとか立ち上がったアン。その背後にいつの間にか1人の人物がいる。
アンは気配も無く突然現れたその人影に戦慄した。

「ド、ドクター=カオス……」
「まだやるかの、お嬢ちゃん?」

あっさりとカオスに後ろを取られたことで、アンの中から戦闘意欲が薄れていく。

「………まいりました…私の負けです。」

目を閉じて、アンは敗北を宣言した。

「それまで!勝者、ドクター=カオス!」

それを見て、審判がドクター=カオスの勝利を宣言する。
会場中がドッと沸き、健闘をたたえる拍手がおこった。

『アン選手!ギブアップです!この白熱の試合は、ドクター=カオスの勝利で幕を閉じました!』
『カオスも、最後だけ出てきて美味しい所持って行くアルな。』

「聞こえとるぞ、厄珍っ!!ワシも気にしとるんじゃから言うんじゃないっ!!」


厄珍の容赦なく適切な突っ込みに、カオスは怒鳴っる。どうやら、自分でも出番の少なさに思うところが有ったらしい。

「ハァ、ハァ…さすが、ヨーロッパの魔王、ハァ…ドクター=カオス。………完敗です。」
「ん?いや、なあに。嬢ちゃんのメカもかなりのモンじゃて。どうじゃ、今度一緒に何か造ってみんか?」

力尽きたアンは大の字に横になり、カオスに向かってもう一度自分の負けを伝えた。しかし、その顔は負けた方にしては清々しいものである。
そんなアンに、カオスも微笑みながらそんな提案をした。

「ええ………ハァ、ハァ…それは良いですね。………是非…ハァ、お願いします。」
「うむ。」

そう言って、2人は微笑みあう。
2人の間には似たもの同士の親近感と、力いっぱいぶつかり合った者同士の間に芽生える友情が出来ていた。

『おおっ!感動です!感動の展開ですっ!!』

そんな様すら、実況は伝えていく。会場に溢れる拍手は、空気が震えるほど大きなものに変わっていた。
まさに感動の場面である。
会場にいるほぼ全ての人間が、全く同じ感想を持っていた。

―― 凄く良い試合だった! ――

だが、同時に疑問も感じている。

―― 今の試合は、GS同士の試合としていいのだろうか? ――

考えると、感動が台無しになる気がした。
だからとりあえず、そんな疑問を吹き飛ばすように全員が感動に酔う。
もしかしたら、酔おうとしていたのかもしれない。

…………………………










「なんか、俺の出番少なくねー?」

着替えを終え、会場に戻ってきた横島が涙を溜めながら呟いていた。




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