不思議の国の横島 ―20前半―
投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/12/ 1)
GS試験はいきなり先行きの見えない展開から始まった。
対峙する5人(?)の視線……
お互いに仕掛けるタイミングを伺っている。
マリア、テレサが前衛となり、その後方にカオスという陣形のカオスチーム。
右にゴリアテ、左にアンという並びのアンチーム。
個人戦でチームという言葉を使うのも変だけど、それは置いておく。
時間にしたら精々数十秒と言った所であるが、密度が濃いので見ている者にはその何倍にも感じられていた。
そう……今や、会場の殆どの視線が3番コートへと向けられている。
ドクター=カオスとアン=ヘルシングのカードは、色んな意味で、掛け値無しに、文句無く注目の一戦だった。
「フン、こういうのは嫌いよ。姉さん、私が仕掛けるわ。」
「イエス・バックアップします。」
―― バッ ――
そして睨み合いが1分に届くかという所で、ついに沈黙は破られる。動いたのはテレサだった。
「ゴリアテ、右!」
「ガァーーーッ!」
テレサははじける様に飛び出し、アンの背後を狙う。
アンとゴリアテを比べて、ゴリアテの動きが鈍そうと判断したテレサは、ゴリアテの側から回り込んで背後を取ろうとした。
だが、アンはそれに即座に対応する。
―― バキッ! ――
アンの指示を受け、ゴリアテはテレサの前に出た。キャタピラが地面を噛み、全くの静止状態から一気にマックススピードに移行する。そのまま水平に……そして力任せに右腕を振るった。
「クッ!こいつ…見かけによらず瞬発力はある!そ、それに……」
思惑よりも全然鋭いゴリアテの動きにテレサは驚きの声を上げる。突然目の前に現れたバカでかいハサミを、両腕で受け止めた。
だが、力を込めて踏ん張るテレサの体は、それでも簡単に後ろに持っていかれる。
「パワーは私の2.57倍っ!?ヤ、ヤバイ!押されて…」
「ヤアハッ!!」
「うっ?!」
テレサの動きが止まった瞬間を逃さず、アンがジェットスピア『ラミフ』を構えて突撃した。その切っ先は、寸分たがわずテレサの体に向けられる。
テレサもそれに気がつく。自分の体制と相手の突撃速度から瞬時に危険信号が鳴らされた。
―― ブゥンッ ――
ラミフが霊波を帯びた物質独特の鈍い光を放つ。
必倒の間合い!
「ロケットアーム!」
「!!」
―― ドンッ! ――
その間合いを崩す一声がアンの背後から上がった。そして舞う炸裂音。
「ちぃっ!!」
―― カキィン! ――
アンはテレサに向けていたラミフの切っ先を、寸前で真後ろに向けてなぎ払った。それとほぼ同時に、乾いた音がコートに響く。
ラミフが弾いたのは、マリアの右腕だ。弾かれて大きく弧を描くロケットアームは、シュルシュルという摩擦音と共にマリアの右上腕部に戻っていく。
「ちいっ!もう一体の方……あっ!?」
「ワシを忘れてもらっては困るのぉ…」
「ゴリアテッ緊急回避っ!!」
―― バチ ――
「ガアーァッ!」
マリアの攻撃を弾いた瞬間に、アンはある事に気が付いた。さっきまで開始線の向こうに居た人物の姿が見えなくなっていることにである。
アンの背筋に冷たい物が走り、頭は危険信号を鳴らした。アンは細かく考える事を捨て、ただシンプルな命令をゴリアテに下す。
―― バチバチバチバチッ! ――
再び急ダッシュするゴリアテ。アンはゴリアテの腕に自分の腕を引っ掛けると、一緒にその場から離れた。
それはほんの数瞬の差。たった今までアンとゴリアテが居た場所に、バチバチと激しい電撃の音が降り注ぐ。
「ほうっ!なかなか良い勘しとるのぉ…」
「あ、危なかった……」
電撃…怪光線はカオスの胸に描かれた魔法陣から飛び出してきたものだった。普通の電撃と違う点は、電撃の中に黒い筋……強いて言えば黒い電撃と見えるモノが混じっている事である。
それが、この攻撃が普通の電撃ではない事を示していた。
何はともあれ、ファーストアタックを互いにかわした両者は、再び互いのスキを探りあう。
『これは凄い!一瞬のうちの素晴らしい攻防!実に見ごたえがあります!』
動から静の間に移行すると、実況放送が会場に響いた。
『しかし……このフィールドでは霊的な攻撃以外ではダメージを与えられないはずですが…これはどういう事なんでしょう、解説の厄珍さん?』
試合会場は、コート毎に物理攻撃を無効化する結界が張られている。つまり、普通に殴ったり蹴ったりではダメージを与えられないはずなのだ。だが、テレサとゴリアテは確かにぶつかり合って力比べをした。
これについて実況の枚方は解説の厄珍に質問を投げかける。
『まずゴリアテの方アルが、アレには初代ヘルシング教授の妄執思念から生まれた悪霊が憑依しているアル。それでその悪霊ヘルシングがゴリアテのボディをうっすらと霊波でコーティングしてるアルね。つまりゴリアテの攻撃は全て霊波攻撃になるアル。』
『なんと……それは、ちょっと反則臭いですねぇ………で、一方のアンドロイドの方は?』
『こっちはプラズマ現象を利用した擬似霊波アル。本物の霊波では無いアルが、99.9パーセント霊波攻撃と変わらないアル。今回のGS試験用に、マリアとテレサの全ての武器がこの擬似霊波仕様に変更されているアル。』
厄珍は得意げに説明をする。キラーンとサングラスが光った。
『ず、随分と詳しいですね?』
『2人ともウチのお得意さんアルからな♪マリアもテレサもゴリアテも、消耗品がいっぱいアル。その辺はウチがしっかりと提供してるアルよ。会場の皆さんも、安心印の厄珍堂に是非来るアル!ウチはどんなモノでも仕入れてみせるアルよっ!』
今度は歯が光る。厄珍はしっかりと店の宣伝をした。
『や〜くち〜ん!や〜くち〜ん!や〜く珍ど…』
―― ドゴッ! ――
『失礼しました。実況を続けます。さて、互いの攻撃をかわし合い様子見に入った状態、果たしてこの状態を破るのはどちらでしょうか?』
厄珍の宣伝は、またも途中で阻止されたようである。何やら…何かを殴ったような音がマイクに乗って会場に流れたが、枚方は何事も無かったかのように実況を続けた。
「こんのか?それではこちら…」
「もう一度行くわ!今度はコンビネーションよ姉さん!」
「オーケー・テレサ。」
テレサがマリアに声をかける。マリアもそれに返事を返し、頷きあった2人は同時に左右に飛んだ。それはさすが同型機だけあり、一糸乱れぬ絶妙のタイミングである。
ちなみに、最後まで台詞を言えなかったカオスがちょっと落ち込んだ。
「挟み撃ちっ?!ゴリアテ、背中を合わせて!」
「殺ぉーすっ!」
マリアとテレサの攻撃パターンに合わせて、アンとゴリアテもその陣形を変化させる。互いの背中を合わせてどの方向からの攻撃にも対応できる形を取った。
今、アンの正面にはマリア、そしてゴリアテの正面にはテレサの姿がある。
―― カチャッ ――
「うっ!?」
マリアの右腕がスッと持ち上がり、そこからマシンガンがせり出した。
それを見てアンが唸った。霊波攻撃が可能なマシンガンである。まともに当たったら洒落にならない。
―― ダダダダダダダダダダ ――
「ちいっ!」
アンは左手の盾で全身を庇うと、そのままマリアに向かってガードダッシュを敢行した。
「コンビネーションではこちらが不利!ゴリアテ、散開して!そっちのアンドロイドの相手をっ!対一に持ち込めばこちらに分がある。ドクター=カオスに気をつけつつ、まずはこの娘達を活動不能にするわっ!」
「コイツが吸血鬼かーーーぁっ!!!」
少しのやり取りだが、アンにはマリアとテレサの連携が優れている事が伝わる。
少なくとも、逐一ゴリアテに指示を出さなくてはいけない自分達よりは上だろう。
だから、アンは各個撃破の作戦を選んだ。
「死ね死ね死ね死ねーーーーーえぇっ!!!」
「くらいなっ!」
―― ガガガガガガガガ ――
―― ダダダダダダダダ ――
ゴリアテの肩から機銃がせり上がり、同時に弾丸がテレサ目掛けて発射される。
同時にテレサの右腕からも機銃が発射された。
―― カンカンカンカンカンカンカンカン ――
―― カンカンカンカンカンカンカンカン ――
だが、弾丸は互いに装甲に弾かれて、大したダメージを与える事が出来ない。
「ジェット…ゴーッ!!」
「ロケットア…キャンセル・回避!」
―― ピキッ、ガリッ! ――
一方のアンとマリア。
アンは前傾姿勢でラミフを構えると、全力で地面を蹴りだす。同時にバックパックとレッグアーマーの後部バーニアを噴出し、アンは一気にマリアとの距離をゼロにした。
遠距離からロケットアームで牽制を入れようとしたマリアだったが、アンの飛び込みを察知して攻撃をキャンセル。仰け反って倒れこむとラミフの一撃をやり過ごす。
だが完全にはかわせず、体の左側、腰から肩にかけて浅く削られてしまった。
「ちっ!仕留め損ねた!?」
「ダメージ…軽微・行動に支障無し……戦闘を続行する。」
―― ダダダダダダダダ ――
「うわっ!タッ?!」
攻守交替。マリアはアン目掛けてマシンガンを放つ。
突進をかわされて体勢の整っていないアンは、それでも無理矢理体を捻るとラミフで地面を叩いた。
―― バンッ! ――
「ターゲットは・空中へ回避…追尾・します。」
―― カキン、バシュッ ――
一番最初の突撃の勢いを利用して、空中へと跳ね上がり弾丸を回避したアンだったが、今度はそれが命取りになる。
「ターゲット・ロック。」
「やばっ…」
空中ではほとんど自由の利かないアンに目掛けて、マリアの体重とロケットの加速を乗せた右拳が放たれた。
「バーニア噴…」
「マリア・パンチ。」
―― ドゴォッ! ――
「がはっ!?」
バーニアを噴出して体勢を立て直そうとしたアンだったが、それよりもマリアのパンチの方が早い。右胸部に体重と加速の乗ったいい一撃を喰らってしまう。
空中で大きくバランスを崩し、アンは背中から地面に落下した。
『これは強烈!この試合初のクリーンヒットです!アン選手、立てるか?!』
「いつっ!なんて一撃……ごほっ!でも、大丈……夫。まだ、体は動く…」
ヨロヨロと立ち上がるアンだったが、そのダメージは大きい。
胸部への攻撃というものは心肺系へのダメージが大きく、ダメージが抜けるまでの間は呼吸が鈍る。呼吸が鈍ると、あらゆる行動で体への負担が増えるのだ。
「よしっ、これでとどめじゃ!」
そのスキを見逃さず、カオスが怪光線を放とうとする。
「吸血鬼ぃぃぃぃっっ!!!」
「ぐっ!?」
―― ドカッ! ――
「ぐはあっ?!な、なんじゃっ!?」
だが、カオスは攻撃できなかった。突然横から飛んできた物体に、まるでトラックにはねられるようにして吹き飛ばされるカオス。結界にぶち当たってズルズルと滑り落ちる。
「ちっ!このバカ力がっ!」
カオス目掛けて飛んできた物体は、ゴリアテに吹き飛ばされたテレサだった。
「テレサ・大丈夫・ですか?」
「ええ、右足の駆動系の一部が負荷でショートしちゃったけど……ん、行動に支障は無いわ。大丈夫よ姉さん。」
マリアは倒れているテレサに駆け寄り、テレサを庇うようにゴリアテとテレサの間に入る。
「ゴリアテ、こっちも体勢を整えるわっ!」
「殺―すっ!」
一方のアンも、ゴリアテと合流して体制を整えた。
試合は三度睨み合いに突入する。
―― だが! ――
「ワ、ワシの心配はしてくれんのか?」
何気にカオスが一番重症だった。
…………………………
<後半に続く>
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