ザ・グレート・展開予測ショー

アシュタロス〜そのたどった道筋と末路(涙)〜ヴァンパイア・メイ・クライ10


投稿者名:♪♪♪
投稿日時:(03/11/30)



 人は罪を犯しながら、生きている。
 いつかどこかで聞かされたこの標語に対する意見は、それこそ星の数ほどに分かれるだろう。そもそも『罪』という概念に対する認識そのものが、人によって違う。
 ネコババを軽罪として見逃す人間がいるなら、生真面目に刑事罰を望む人間もいるだろう。
 殺人を復讐ならば見逃してやっても良いのでは? と考える者がいれば、復讐だろうと何だろうと裁くべきだと考える者もいる。
 ひょっとしたら、脱税を当然の権利だと思考する者も出てくるかもしれない。そう、どこかのボディコンゴーストスイーパーとか。
 話がそれたが。
 早い話が、『何』を罪と感じるかで、この言葉の意味は決まる。草を踏み潰す事が罪? 豚を殺す(食す)ために育てるのが罪? 知能のある鯨さんを狩るのが罪? ソレに対して子供の論理で反論するのが罪?




 他人の解釈はどうでもいい。少なくとも――自分にとって、これは罪ではない。




 彼は――ヴラドー伯爵は、心中に映る最愛の人に釈明して、直後に苦笑した。
 多分どころか絶対に、『彼女』の前でんな事の給おうものなら鉄拳が飛んでくるに決まっているのだから。
































 さて、同じ論理を、同じく愛するものに対して振るう人間一名。
「これはな。俺達の生存活動に必要不可欠なことで、犯罪じゃないんだよルシオラ」
 そんな事をのたまう貧乏学生の手の中には、山と詰まれた貴金属が。
 彼の背後では、少女の創造主や妹達、祖父や人造人間といった赤貧に喘ぐ者達が倒壊しかけた家屋から物品を運び出している。


 そんな恋人の発言と行動に。
 ぷちっと、ルシオラの中で『何か』が切れた。


「空き巣泥棒は十分犯罪よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」


 ちゅどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ!!!!


「へぶしっ!!!!?」
「はぶしっ!!!!?」
「おぶしっ!!!!?」
 ルシオラが絶叫と共に放った霊波砲は、横島忠夫、アシュタロス、ドクターカオスの三人に、生身での中空飛行を実現させたのだった。横島だけは遠くに吹っ飛ばなかったのは、彼女の独占欲だろうか。


「あ、あの〜皆さん? 食料は構わないんですけど、貴金属類は勘弁してくれませんか?」
 その後ろでは、一番立場の低いピエトロ君が取り乱しておろおろしていたり。




 一同の前に広がる村は――『かつて村だった場所』という表現が一番適当に思えるような惨状を露呈していた。レンガ造りの壁は砕け、わらぶきの屋根は破られ、木製の戸板は跡形もなく粉砕され…………家屋と明証されるもので、破壊されていないものは何一つありはしない。


 それが、ピートが帰宅と共に見た故郷――ヴラドー島唯一の集落の成れの果て。


 ――村に到着した後、倒壊した家屋を前にして一同がとった行動は真っ二つに分かれた。


 ひとつは、六道冥子や鬼道政樹といった比較的真面目な面々による、破壊痕の実況見分。茫然自失を体現していたピートも、気を取り直してそちらに参加した。


 『気配』の一言で集落が完全な無人。『匂い』の一言で死人がいない。鬼道がそう断言するのを、ピートは否定した。


 ヴァンパイアハーフの超感覚に、そのような気配や匂いは引っかからなかったからだ。
 ……事実その通りだったのを見て、『ヴァンパイアハーフってなんだろう?』と、しょげたり。
 同時に、『だったらあんたら何のために探索してるんですか』とも思ったり。
 『あなた本当に人間ですか? 実は人狼とかいうオチはないでしょうね!?』と思い至り必死でその証拠を探して何一つ見つけられずさらにへこんだり。
 ――中々忙しく感情を流転させるピート君であった。


 閑話休題




 村で行われたもうひとつの行為は――横島の貧乏一家による空き巣泥棒大会。
 十歳に満つか満たないか微妙な年頃のパピリオが、無邪気にせっせこ空き巣泥棒をたしなむのを見たら、世の道徳業者はあまりの哀れさに涙を流すだろう。マッチョで怪しいアシュタロスが倒壊した家屋に入っていくのを見たら、世の警察関係者は後先考えず射殺の黒い欲求にとらわれるだろう。


 おキヌがとめようが、ルシオラがわめこうが、生活がかかっている横島たちは止まらなかった。一番彼らに憤るべきピートが、この中の誰よりも彼等の赤貧を知っていたから、何もいえず、彼らはとことんエスカレート。


 そんなこんなで――ルシオラの霊波砲で三人が吹っ飛ばされたときには、村中の貴金属が彼らの手中に納まっていた。
 嗚呼恐るべきは貧乏人の欲望也。


「い、いっぱいありまちゅ〜! これなら高級シロップが山程買えまちゅ〜!!」
「蜂蜜が、蜂蜜が〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪」
 貴金属の山を前に、狂喜乱舞するパピリオとベスパ。安物の砂糖を溶かした砂糖水でここ数ヶ月生活している故の、好物に対する飢えだった。
 両手に貴金属を抱え、目を輝かせて踊る二人の姿は、どこかの夢の世界に旅立ったような不気味さがあった。


「全部返してきなさいっっっ!!!!」
 ごごんっ!!!!
 はしゃぐ姉妹に長女の怒り炸裂。こ気味良い拳骨の炸裂音は、横島一家最後の良心の叫び。


「何もあそこまで怒らなくても良いだろぉに」
 ぷすぷすスーツから芳ばしい香りを撒き散らしながら、アシュ様屹立。他の二人がまだ痙攣している事から考えて見ると、異様な回復力である。


「流石横島君の親戚ね」
 そんなアシュタロスの様子を見て、美神令子はふと怖い情景が脳裏に浮かんだ。


 横島と同じ表情をして。
 横島と同じオーラをまとい。
『おっ嬢ぉすわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ』と叫んで女に飛び掛る横島家の男達。恐らく、全員が女に飢えていると思われる。


 怖い。怖すぎる。しかも、アシュタロスは追い討ちをかけるようにマッチョだ。横島のような若気の至りやかわいげと言うものが絶無に近い。横島にソレが在るのかと問われれば、首を傾げざるをえないが、視覚的なインパクトは横島の方が遥かにマシだ。
 同じ女のみとして、そんな変態に迫られまくるおキヌちゃんに同情し、改めてアシュタロスの前に立った。
 文句の一つ、いや、スラングの一つでも言ってやろうと口を開きかけ――


「ところで美神。気付いたか? ここの異常性に」


 すぐわま、閉じた。逆にアシュタロスのほうから話しかけてきた、と言うのもあるが――その内容に見るものを見つけたのである。


「――教会がないって事?」
「ついでに言うなら、回収した貴金属の中にロザリオが一つも無かった。食料の中にはにんにくが一つも無かった」
「……驚いた。ちゃんと考えてやってたのね」
「いや、動機の方は見た目どおりで結果見つけてしまったのだが……」


 言いながら、二人は村を見回した。
 目線を村の家屋に這わせるたびに、違和感が神経に障る。具体的ではないが、そこには確かに違和感が在った。


 ヴラドーの復活前に唐巣はこの島にいた。と言う事は、島の人々はかなり前からヴラドーの存在を認識していたと言う事だ。それにしては、おかしいと二人は感じるのだ。


 吸血鬼にとって、にんにく、十字架、教会の三つの要素は天敵も同然である。
 にんにくの香りは、人間に置き換えるなら『鉄板を爪できぃきぃ引っかく』のと同じレベルで不快感を抱かせる。十字架や教会が発する神気は人間で言うところの『焼けた鉄の棒』感覚で肌を焼く。


 最古にして最強の吸血鬼を封ずるなら、そのふもとの村はそれらの物品で埋め尽くされる『べき』だ。
 ストレートに言おう。アシュタロスや美神が想像していたこの村の姿は、以下のようなものである。


 畑に栽培されるのは全てにんにく。
 家屋は全て教会の形を模してあり、行きかう人々の服には無数の十字架が光る。村の道は網の目のように十字路が連続し、村人は常時銀の武器を携帯する。
 ヴァンパイアハンターの村。それが、ヴラドー島の人々に対するイメージ。実際、ヨーロッパの片田舎にある『ヴァンパイアハンターの町』は、上記の条件を全て整えた上、住民は常ににんにく臭い息を吐いていると言う。


 だが、現状はどうだ?


「にんにく無し、十字架無し、教会無し――十字架は吸血鬼が破壊したって事で説明つくけど……」
「にんにくは繊維を破壊したら激しくにおうからな。破壊するなんてもってのほかだし、運搬なんぞは死んでもやりたがらんだろう。
 どの道、ヴァンパイアを封ずる村のあり方ではないような気がしないか?」


「教会が無いのは当たり前じゃろ」


 遠くに見えるルシオラ達昆虫姉妹の言い争いのバックミュージック。騒音の中で交わされていた会話に介入したのは、復活したドクターカオスであった。
 振り向く二人の視線を受けるのすら気付かず、服の汚れを祓うドクターカオス。一向にそれ以外の事を語ろうとしないカオスに、苛立った美神が口を開いた。


「ちょっと! 教会が無いのは当たり前ってどういうことよ!」
「なんじゃ、お前知らんのか」


 恥とは思わなかったのだろう。『ヴラドー』という吸血鬼に対する無知を露呈する美神に、カオスは目を丸くしていった。


「ヴラドーは元々敬虔なクリスチャンじゃぞ」
「ええっ!?」
「なん……だと!?」
「ま、今となってはその信仰も捨てておるようじゃが」


 これには、美神だけではなくアシュタロスも驚いた。
 吸血鬼にとって、神の加護、特にキリスト教のもたらす聖力は猛毒だ。肌を焼き、骨を腐らし、その存在の全てに『浄化』と言う名の滅びをもたらす。いくら最強の吸血鬼とはいえ、種族の持つ性質からは逃れられないはずだ。
 アシュタロスの驚愕は特に大きかった。魔神であるアシュタロスの知識には、吸血鬼の霊基構造も存在しているのだ。ソレが以下に無謀な事か、熟知している。


「……吸血鬼が神に祈りなどささげたら、その瞬間に全身が爛れるぞ」
「それが出来るんじゃよ」
 カオスの返答はにべも無い。


「ヴラドーは吸血鬼の中でもかなりの変り種でな。にんにくを生でバリバリ食べる事も出来るらしい」
「にんにくを生で……?」
「それに順応能力も吸血鬼の中では一番高い。吸血鬼でも、心のそこから神に帰順すれば肌を焼かれる事は無いが、信仰を捨てた瞬間に、肌を焼かれる。
 信仰を抱いている間に神の力に対する耐性がついたんじゃろう」
「そ、それって――弱点がないじゃない!」


 美神令子は理解した。
 ヴラドーが最強の吸血鬼と呼ばれたのは、おそらく『強いから』ではない。『弱点が存在しないから』なのだと――
 吸血鬼を前にして美神たちが『厄介』としか感じなかったのは、吸血鬼と言う種が持つ弱点の多さが理由である。太陽駄目、流れ水の上歩けない、ニンニク駄目、十字架駄目、心臓に杭打たれたら駄目……簡単にあげただけでもこれだけの弱点がある。ヴァンパイアハンターはその全てに熟知し、知識に基づいて敵と対応するプロフェッショナルだ。
 その弱点が無いとなると、どうだろう? 吸血鬼と言う魔物は、一転、この上なく最強に近い生き物に変貌するのである。


 腕力は言うに及ばず、霧になるという特殊能力は極めれば神の一撃すら素通りすると言う。霊波砲、眷属の行使、飛行能力は中級魔族に並ぶ――はっきり言って弱点が無ければ、退治なんぞ不可能。それが、ヴァンパイアなのだ。


 改めて。
 美神令子は、自分が唐巣に呼ばれた理由を自覚した。
 世界でも五指に入るGSが、援軍を要請するわけだ。唐巣は『神なる力のエキスパート』と呼ばれるほどに聖なる力に熟達しているものの、今回の敵はその聖なる力が通用しないのである。


「ドクターカオス。あんた、ヴラドーの事に詳しいみたいだけど……」
「当たり前じゃ。三百年前あやつに引導を渡したのはわしじゃからな。その時は銀の機関銃を使ったが――」


 あれは、ことさら銀の機関銃を使ったわけではない。
 『銀の機関銃しか使えなかった』のである。
 ヴラドーを追い詰めたカオスの発明品の名前は、カオスフライヤー一号。魔女の箒を飛行能力の要に置き、対吸血鬼用に特化した戦闘機だったのだが――機銃以外の武装が何一つ役に立たなかったのだ。
 GS協会の公式記録には『人形と人間を間違えた間抜け』だの『小学生レベルの精神年齢を持つ馬鹿』だのと記されて入るが――ヴラドーという吸血鬼の恐ろしさは、直接戦ってみないとわからない種類のものだ。カオスはヴラドーに関するその記述を見つけてから、GS協会の記録を一切信じない事にしている。


「それでも、奴を追い詰めていたのは他のヴァンパイアハンターじゃがな」
「聖なる力が通用しないのにどうやって――?」
「教会関係者のGSは出会い頭に殺されて戦闘そのものに参加できたかどうか怪しい。戦っていたのは、他の宗教の力を借りた者達よ。
 キリストの加護以外の力ならば通用すると言う事じゃ。基本が無宗教の日本人ならば適任なのじゃろう」


 日本は民間GSの天下とも言える状況にある。以前にも言ったが、民間GSにとっては信頼こそが命。一般人からすれば意味不明な世界なのだから、依頼者の大半は信頼の勝るものに仕事を持っていく。
 GS戦国時代とも言えるこの風潮は、言い方を変えればGS同士が常に切磋琢磨して力を競い合っているともいえる。日本が民間GSの天下と言われるのは、何もオカルトGメンといった政府組織の力が低いわけではない。切磋琢磨『し過ぎた』民間GSの力が高すぎる故だ。


 性質は有効、能力はきわめて優秀。なるほど、ヴラドーを相手にするのにこれ程適任な集団もいないだろう。


「ドクターカオス。その事をあそこではしゃいでる連中にも教えてあげて」
「成る程、ヘルシング教授が来ていないわけだな」


 多少のダメージが残っているのか、ふらふらと騒ぎの中に帰還していくカオスの背中を見送って、アシュタロスのつぶやきが美神の耳に入る。
 彼女も、それに応えた。


「ええ。ヘルシング教授が特化しているのは『一般吸血鬼』に対してで、『規格外』を相手には出来ないってワケね」


 令子の推理は半分正解で半分不正解。
 ヘルシング教授も『規格外』であるヴラドーと戦う事を想定し、専用の武器まで作っていたのだが、夜刀神の手のものに破壊されてしまったのである。
 教授本人を殺していないのと、低級魔族を実行犯に選んだのがミソ。結果、オカルトGメンは『タダの悪戯、嫌がらせ』程度の認識しか持たず、たいした捜査も行われなかったと言うわけだ。


 ――あるいは、夜刀神が何らかの妨害工作を敢行したか。


 夜刀神という人物の精神構造を熟知し、真実を知らず知らずのうちにつかみとったのは、アシュタロスだった。
 あの男なら、この位の小細工は平気でするだろう。
 神であれ人であれ妖であれ、魔族となればその思考や本能は『闘争・殺戮』に塗り替えられるものだ。残酷、邪悪の代名詞で聞こえたメドゥーサですら、本能を完全に塗り替えられなかったというから、真に塗り替えられたものはどうか。
 それが言いか悪いか、と問われれば、アシュタロスは即答する。


 悪い。と。


 単純な事だ。『闘争・殺戮』に本能が塗り替えられると言う事は、『破壊、殺人しか考えられない』と言う事で、創造力の欠如を意味する。古来より悪魔は狡猾と言うイメージがあるが、本当に狡猾な魔族は少ない。有名な逸話は希少だからこそ有名になるのだ。アシュタロスの無限に近い知識の中でも、狡猾な魔族と言う奴は片手の指で足りるぐらいしかいなかった。


 だから、魔神時代のアシュタロスは、普通の魔族を信頼しなかった。むしろ嫌悪していたと言っていい。メドゥーサを引き入れたのも、彼女の『闘争・殺戮』に染まりきっていない頭脳を期待したからである。
 人間のように、創造力と創作意欲を持った天才魔道博士――夜刀神を引き入れた理由も、それと同じだった。


 それでいて、いつ謀反してもおかしくない人材。アシュタロスが警戒し、その人格を理解しようとしたのは、むしろ当然の事だったのかもしれない。敵を知れば百選危うからず、と言う奴だ。その頭脳が、神族よりも人間を忌避し、警戒している事も知悉していた。


 そこまで考えて――アシュタロスはいやぁな予感に襲われる。


 夜刀神が、蛟に対し『人間のGSがいたら真っ先に潰せ』などと命令している可能性。
 大有りである。というか、アシュタロスは夜刀神がそうやって部下に厳命するのを、なんどか目撃している。ことさら人間を軽蔑しがちな魔族ならともかく、蛟がその厳命を守らないはずが無い。


「これは……警戒した方がいいかもしれんな」


 大騒ぎを続ける横島達に嘆息し、アシュタロスは――















































 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!


「横島さん、大丈夫ですか? ルシオラさんもここまでしなくても良いじゃないですか!」(こんな乱暴に扱うなんて、どういう神経してるんですかあなたは)


「あ、あははー。ごめんなさい……とめてくれるかなー、って思ってやりすぎちゃった」
(あなたに言われたくないわよ! タダちゃんが怪我するの待ってたくせに!)


「まったくもー。横島さん、大丈夫ですか? 今包帯巻きますからね」
(あんなのと別れて私と一緒になったほうが良いみたいですね、横島さん?(はぁと))




 ――逃げ出したくなった。
 アシュタロスが視線を送った先。どこがどうなってこうなったのか知らないが、横島が倒れる傍らでは、女同士の激しい戦いが繰り広げられていたのである。
 言葉で表すならば、公衆便所の戦い。一見普通のトイレに見えても、人嗅ぎ鼻を動かせば悶絶するような腐臭が存在する。芳香剤撒こうが何しようがその腐臭はどうしてもにじみ出る。
 建前で本音の黒さを覆って、覆い切れないこの会話にぴったりの表現ではないだろうか。






「あ、いいわ。私が変わりにやるから――おキヌちゃんは、パピリオたちを手伝ってくれない?」
(タダちゃんの看護は私がやるの! あんたはパピリオたちと一緒に犯罪の尻拭いでもしてなさい!)


 盗み出した貴金属を元の場所に戻すと言う作業にいそしんでいた妹達は、その会話を聞いて思った。
 ――激しく勘弁してほしいですとたい。
 何故か博多弁でそう思った。思わず、作業する動きが加速していく。


「それなら、鬼道さんたちがやってくれますよ♪」


 裏を表す必要も無い『懇願』。
 脅しも何も含んでないながらも、結果として最強最悪の脅迫になっている言葉に、鬼道は冥子と一緒にダッシュで手伝いに行った。


「か、神の力が通用しないのなら、別の手段を考えなければな!」
「そ、そうよねぇっ!」


 アシュタロスと美神令子。かつて魔界でも五本の指に入るとされた魔神と、日本一のGSは、巻き込まれる前に大声で会話を開始。その頬が細かい脂汗でびっしり覆われているのが、遠目にも分かった。
 情け無し、と二人を罵るには、おキヌ&ルシオラが放つオーラは凄まじすぎた。


 彼女らは、無言。
 ただ、言葉も無く見つめあい、『うふふ』と『ふふふ』の笑顔を浮かべているだけである。
 構成する空間は、混沌としすぎてて最高指導者でも即死しそうだけど。


 ドクターカオスは離れた場所でボケ老人のフリを迫真の演技で行っていた。彼も巻き込まれたくないらしい。
 マリアは自らブレーカーを落とし、機能不全に陥る事で修羅場を回避。横島家との付き合いのせいで、人間化が激しいアンドロイドである。
 エミはここぞとばかりにピートに甘え、ピートは修羅場よりもエミをかわす事に必死だ。


 その場にいる人間は、誰もが修羅場から逃げ出した。
 つまりは。
「あ、あうあうあうあうあうあうあうあ」
 二人に挟まれて精神を軋ませる横島を、皆が『見捨てた』


 ――に、逃げたい!


 これが、横島忠夫の偽らざる本心である。






 余談。


「怖いよぉ怖いよぉ……おばちゃぁん、助けてぇぇ」
「だ、だから私はあんな連中島にいれとうなかったんだーっ! アンーーーーーーっ!!」
 半端じゃない霊力を持つゆえに、機敏に気配を察してしまった敵を二名、被害者明細に付け加えておこう。
 二人とも涙目で親しい人の名前を連呼して、部下に大層不気味がられた。


 敵すら巻き込んだルシオラとおキヌの乙女の争いは、日が没するまで続いたと言う。


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