ザ・グレート・展開予測ショー

いつか聞こえた、あの子守唄!/中


投稿者名:ロックハウンド
投稿日時:(03/11/29)


 視線の先では美神たちが部屋の中を覗き込んでいる。よく見ると美智恵は微笑んでおり、美神は呆然、おキヌは薄く頬を染めている。
 シロ、タマモ、パピリオがきょとんとした顔で眺めやっていると、美智恵と令子が彼女達に気付いたらしく、顔を上げた。
 ちょうどよかった、と言わんばかりに顔を綻ばせ手招きする美智恵に対し、ちょっと頬を膨らませている令子である。
 おキヌは部屋の中に視線を向けたまま、一向にシロたちに気付いていない。


 「美神どのとおキヌどのも、今帰ってこられたようでござるな」

 「まー、ちょうどよかったでちゅねぇ」

 「ほんとほんと。わたしたちもたった今・・・・・・って、なに?」


 場を和やかな雰囲気に持っていこうとしていたシロたちの言葉に、美智恵は娘たちにしたように人差し指を唇に押し当てた。
 沈黙を促す仕草に、シロたちは発しようとした言葉を飲み込んだ。しかもなにやら招かれているようで、美智恵が手を動かしている。
 手招きに応じるように忍び足で美智恵たちの下に向かう3人娘。奇妙な事態に首を傾げつつ歩いていると、ふと、音が聞こえた。
 思わず顔を見合わせあった3人は、美智恵たちと同じく部屋の中へと、急いで視線を向けた。

 シロは目を見張った。タマモは仰天し、パピリオは目を丸くしている。
 大抵のことでは驚かないつもりの3人であったが、今夜ばかりはさすがに本気で驚いたのだろう。
 柔らかくて暖かいと感じた歌声の主は、3人が見知っていたはずの少年、横島忠夫だったのだ。




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                いつか聞こえた、あの子守唄!/中


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 ひのめは、先ほどから横島の腕の中で舟を漕ぎだそうとしていた。
 時折、彼女の小さな頭が、見えない手に引かれるかのように、軽く勢いをつけて意識と共に滑り込んでいる。
 横島は微笑みながら、腕に入れた力の配分を変えていた。決してひのめに不快な寝床と感じさせないために。
 緩やかに、まるでゆりかごの様に身を揺らしながら、横島は歌っていた。胸に抱いたそれと知らぬ母のような慈愛を込めて。




 ――――【君と初めて言葉を交わしあったのは、いつの事だっただろうか
      だけどあの時の、君の瞳の輝きは今も忘れてはいないよ
      いいかげんなヤツだった僕を、温かく包んでくれた光を】




 歌を思い出したのは、ついさっきの事だった。上手いか下手かは、自分でもよくわからないが、まぁ、この際カンベンしてもらおう。
 わりかし記憶力は良いのかもしれない。横島はふと苦笑気味にそんな気分になる。
 もっとも、子供を寝かしつける時ぐらいにしか役には立たないだろう。けど、今はそれで十分。
 この子が気持ち良く眠ってくれさえすれば、自分としてはホントに十分なのだから。

 そういやこの歌、お袋が好きやったもんなぁ。俺もよう覚えとったもんや。
 胸に甦る微かな郷愁と共に、横島は淡く微笑む。自分も幼い頃はこんな風に眠っていたのだろうか。
 歌い手の名もタイトルも知らないし、聞いたことも無かった。幼い頃、母の百合子がよく歌ってくれたことは覚えている。
 そういえばあの歌を聴くことがなくなったのは、いつ頃からだっただろうか。

 ふと、視界に飛び込んできた光景が、横島の脳裏で淡く溶けゆくような感覚を得ていた。
 ひのめが微笑んだのだ。天使の微笑みというものがあるとすれば、きっとこんな風なのかもしれない。
 夢の中で何か素敵な事があったのだろう。うまく開かない唇はそのままに、両端がほんの少し上向きになる。
 横島もつられて微笑んだ。幼子の笑みはいつ見ても良いものだ。本心からそう思う。




 ――――【遥か遠くに過ぎ去った夏の日に、幼さを生きていた僕は
      トンボが飛ぶ空を、見上げていられたんだ
      もう一度そんな気持ちにさせてくれた君にも、どうか見て欲しいんだ
      夢が身近にあった、日向のような日々を、君もどうか手にして欲しい】




 上手く笑えない、という言い方をどこかで聞いたことがある。
 笑顔に理由や、必要性を考え出したのは、どこの誰なのだろう。いつからそうなったのだろう。
 いつか・・・・・・本当にいつか、ひのめちゃんも泣くような事にぶつかるんだろうな。
 傷つくとか、失うとか・・・・・・・・・。

 不意に横島はそう思った。とはいえ、我が身を振り返って、自分の心身の傷の痛みがどうこうと言うつもりなど全くない。
 わかってはいるが、どうにもイヤな気分である。嫌なことが在るとわかっていて、どうにも仕様が無いというのは。
 なんとなく理不尽ではないか。こんな幼子であっても、いつかは厄介事の渦中に放りこまれることがあるなど。
 横島は不意にやるせなくなった。ほんの少し、親の気持ちがわかったような気がしたのだ。

 ―――親って、ホンマ、キッツイよなぁ・・・・・・。




 ――――【そう、君が心配する事など何も無い。決して無いんだ
      なぜなら、僕が守るから。守りたいから
      君を苦しめようとする、世界の全てから】




 頼りがいのある男とはどのようなものか、意識の片隅で考え込む横島である。
 頭良し、顔良し、経済力有り。んで、腕っ節も強い・・・・・・まず、無敵やないかい! と、瞬時に結論に達してしまった。
 根っからネガティヴ思考優先の横島としては、どうにもへこまざるを得ない。その日の時給を稼ぐのに精一杯なのだ。
 こんなだから彼女の一人も出来ないんだろうな。と、考えるほどますます落ち込みそうになっていく横島であった。

 西条? 腕は立つ。いけ好かないヤツだが。
 唐巣神父? 人徳はある。気の毒なことに経済力が無い。
 ピート? これまたいけ好かないが、超美形だ。だがまぁ良いヤツだ。
 雪之丞? 腕っ節は強い。が、他は無頓着という気もする。
 タイガー? アイツはよくわからんが、義侠心というのか? それはあるような気がする。

 ―――結局、いい男の条件ってのは、男である自分じゃわからないのかなぁ・・・・・・。




 ――――【『なぜ?』と君が聞けば、僕は必ずこう答えるだろう】




 言うだけなら簡単なことだ。自分だってナンパの時にしょっちゅう言っているんだから。
 一度だけ、本当に本気で、一度言っておけばよかったと思ったこともあったが。常に先に立たないのが後悔というヤツで。
 未だにちょっと、ほんのちょっとだけど涙ぐむことも、しょっちゅうではないけど、やっぱりあるわけで。
 まぁ、目尻が少し濡れて、あくびで誤魔化せる程度だってのが、せめてものと言うヤツ。

 横島は、不意になんとなく祈りたくなった。
 神様というのが居るのは知っている。会ったこともある。やけに人間臭い神様たちだったが。
 でも、もし全てを知っていて、人の営みを見守っていてくれて、泣いている子の傍に居てくれる、そんな神様が居るなら。
 ほんの少しでも、生きる力を与えてくれる神様が居るのなら。

 ―――俺は、本気で祈るわな・・・・・・。




 ――――【『それは君の事を愛しているから』と】




 すんまへん、神様。どこにいるかは知らんけど。
 この子・・・・・・ひのめちゃんをどうか護ってやってください。
 俺が守るなんて、偉そうに歌っとりますけど・・・・・・。
 俺じゃ、アカンのです。俺じゃ、力が、ぜんぜん足らへんのです。

 この世はおもろいです。メッチャおもろいです。
 せやけど、時々疲れます。アホが多すぎて、時々、へこみます。
 俺もアホです。せやから祈る資格あらへんかも知れんけど。
 もし祈って届くいうんなら、なんぼでも祈ります。

 頼んます、神様。この子はええモンぎょうさん持っとります。
 俺はええです。この子にはもっとええモンやってください。
 あ、いや、やっぱ、出来れば俺も少しは欲しいけど・・・・・・。
 この子には、俺よりもぎょうさんやってください。

 この子に、ええこと、いっぱいありますように。
 この子が、なるべく泣かんで、生きられますように。
 この子に、友達、いっぱい出来ますように。
 この子が、美味いもん、腹いっぱい食えますように。

 ―――そしていつか・・・・・・この子に、素敵な相手が出来ますように。




 歌の余韻は、日差しの中の雪の様に、元の静寂の中へと静かに溶けていった。
 どこか遠くで救急車のサイレンが鳴っているが、事務所近辺の静寂を妨げるほどではない。
 横島は溜息を一つついた。腕の中ですやすやと寝息を立てる赤子を再び見やる。
 うまく寝ついたようだし、子守唄に自信が無かった横島としては、予想以上の成功に喜んでいた。


 「さーって、お部屋へ移りましょうかね、ひのめちゃん」


 ゆっくりと戸口の方へと振り返った途端、横島は仰天した。
 こちらを堂々と覗き込んでいる6人分の表情を発見したからであった。
 言わずと知れた美神令子、おキヌ、シロ、タマモ、パピリオ、美智恵。

 しまった、といいたげな表情が、ありありと彼女たちに浮かんでいるのが横島にもわかった。
 何があったんだ、と問うかのように目を丸める横島に、彼女たちは訳もなくやや怯んだ。
 お互いの時間が停止し合う中で、ひのめの寝息だけが何者にも束縛されていなかった。



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 「ふんっ! も、文珠で眠らせちゃえばいいのにさっ。か、カッコつけちゃって!」

 「ふふっ、どもってるわよ、令子♪」

 「う、う、うるさいわね、ママっ!」

 「ううう・・・・・・い、いいなぁ・・・・・・ひのめちゃんってば・・・・・・」

 「お、おキヌちゃんまで、何を言ってんのっ!」

 「え、えっ!? あ、あの、わ、わたしは、別にそのっ!!??」


 とりあえずひのめを、赤ちゃん専用のベッドに寝かせようと、横島が気まずげに女性陣の横を通り過ぎたのが、つい数分ほど前。
 おっかなびっくりの体で、なるべく女性陣の目を見まいとする横島に対し、彼を見る美神たちの視線は様々な色に染められていた。
 美神は呆然、おキヌとパピリオは羨望、美智恵は感心、シロは憧憬、タマモは驚愕という具合に。
 思いが花に例えられるなら、百花繚乱の言葉通りに咲き乱れている、美神除霊事務所オフィスの一幕であった。

 美神の悪態は止まらない。所長専用の椅子に深々と座り込んで腕と足を組み、えらくおかんむりである。
 もっとも赤面しつつ、やや歯切れが悪いと来ているので、母・美智恵としては娘の意固地振りに、少々呆れんばかりだが微笑ましい。
 おキヌの方はといえば、ソファーに座り込んではいるが、気持ちはなにやら上の空のようである。
 加えて知らず知らずの内に本音が出てしまったらしく、慌てた美神から指摘されるまで、自分でも気がついていなかったらしい。

 シロ、タマモ、パピリオの3人は、おキヌの横に並んで座っている。
 空腹のはずなのに、どこか呆けたような表情で天井を眺めたり、ドアの向こうを見やったり、物思いに耽ったり、と三者三様である。
 驚きが強すぎたのか、はたまた多様な気持ちに心が乱れているのか、言葉は何一つ出てこない有様だ。
 シロの肺いっぱいの溜息、パピリオのか細い吐息、タマモの憂鬱混じりの吐息が室内を流動し、部屋全体に少しずつ篭り始めている。


 「わっはっはっ。お、お帰りなさい、みんな。今日は楽しかったっスか?」


 今夜の主役が戻って来た。もっともそうであると全く自覚していないのが、見知った者達からすれば彼らしいと言えた。
 どう見てもさりげないとは言えない横島の仕草に、美神たちは思い思いの視線で眺めやるのみである。
 ひのめをあやしていた先ほどとはまるで別人のような軽薄さだ。頭を掻き、へらへらした笑みを浮かべ、額にはうっすらと汗が交じる。


 「まーね・・・・・・」

 「は、はいっ。た、楽しかったですっ」

 「楽しかったでござるよ」

 「楽しかったでちゅよ」

 「まぁね」


 横島にしてみれば、皆はどことなく機嫌が悪そうにしか見えなかった。
 美神、おキヌ、タマモ、パピリオはまだしも、シロまで元気が無いように見えるのは何事だろう。
 むしろ不貞腐れている、という表現が一番適切であるかもしれない。が、横島にはそこまで考えは及ばなかった。
 自分に向けられているこの視線は、一体何を意味しているのだろう。理由無き、或いはわからないままに見られるのは恐怖であった。


 「あ、横島君」

 「お、お帰りなさい、隊長。・・・・・・って、皆と一緒だったんスか?」

 「いえ、事務所で一緒になったのよ」


 奥でお茶の用意をしていた美智恵が、ハンカチを手を拭きながらドアからひょっこり顔を出してきた。
 横島は彼女にもまた違和感を感じた。美智恵のやたらと楽しそうな表情に軽く気圧されているのだろう。
 彼女の笑みから、また何か厄介事とか無理難題を言われやしないだろうな、とついつい警戒してしまう横島であった。
 もっともそれは杞憂であったようだ。次の瞬間、美智恵から発せられた言葉が笑顔の原因の一つだったから。


 「今日は本当にありがとう、横島君。おかげでひのめも良く眠っているみたい」

 「あ、いやぁ、無事に眠ってくれてよかったっス。正直、俺があやしたんじゃ寝てくんないかと・・・・・・わははは」


 内心、安堵の溜息をつく横島である。ひのめのことはともかく、美智恵の誉め言葉はどうも面映い。
 単に自分が素直じゃないだけかもしれないが。まぁ、誉められただけよしとしよう。あっさりと心理状態を切り替える彼であった。
 しかし後方の美神たちから、自分に向けられる視線が妙に痛いのはどういうことなのだろう。
 信じがたいことにタマモまで、読み取れない感情を向けている。普段横島をバカ扱いしているはずの彼女がである。

 美神、おキヌの両人が睨み付けてくるのは、こう言っては何だが慣れていたはずである。何度経験しても嫌なものだが。
 だがシロ、パピリオ、加えてタマモという視線の束には免疫が無かった。これは一体何事の兆候なのだろうか。
 まさか、自分が居ない間に集団リンチの相談でも行なっていて、いよいよ執行の時を迎えたとか、そういうことなのだろうか。
 横島は笑いつつも、本気で寒気を感じ始めてきていた。自分が一体何をしたというのだろう。


 「それで、横島君」

 「は、はい?」


 恐怖に飲み込まれそうになっていた横島は、ついうっかり目の前の美智恵を失念していた。慌てて返答する彼である。
 つっかえはしたものの、語尾が震えなかったのはよかった。


 「あなた、夕御飯はまだよね?」

 「ええ、帰ってから食おうかと思ってましたけど・・・・・・?」

 「そう、ちょうどよかった。私もまだだから、よかったら一緒に食べに行かない? 魔鈴さんのお店に」

 「う、嬉しいんスけど・・・・・・俺、ちょっと、その、持ち合わせが」

 「大丈夫、私がご馳走してあげます。今日のベビー・シッターのお礼も兼ねてね。どう?」

 「マ、マジっスか!? い、行きます行きますっ! 願ったり叶ったりじゃあー!」


 夕飯がリッチになる。滅多に無い幸せに横島は歓喜した。夕飯といっても、今夜の献立にはカップ麺を予定していた彼である。
 横島にとってこれほど嬉しいことは無い。涙を流さんばかりに喜んだ。
 美智恵の発言に瞬時に反応した女性陣の存在も、一瞬忘れていたくらいに。


 「な、何言ってんの、ママっ!?」

 「た、隊長さん!?」

 「ああっ、ずるいでござるよ、先生っ!」

 「ヨコシマっ。わたちも御飯まだでちゅから、一緒に食べるでちゅよ!」

 「独りだけ外食しようって言うの、横島?」

 「コラーっ! 俺がええもん食ったらアカンっつーんかい、あんたらわぁぁっ!」


 滅多にお目にかかれないリッチな夕食が懸かっているだけに横島も必死である。
 おキヌに料理を作ってもらえることはとても嬉しい。だが今夜の彼女は外出から帰ってきたばかりだ。疲れているようにも見えた。
 それで作ってもらおうというのは、いくら横島と言えども虫がよすぎるように感じていた。
 シロ、タマモ、パピリオの3人に関しては、カンベンしてくれとしか言い様が無い。

 こんな美味しい話を断るなんて、自分の腹の虫を裏切るような真似は出来ないし、一緒に食べるには食事の分量がまず無い。
 美神達が帰る前に、冷蔵庫にあった中身を見つけていたのだが、人数分から3人娘の分だと考えたので、手はつけていなかった。
 確かに美味しそうではあったが、年下でしかも女の子連中の食事に手をつけるほど、情けない真似はしたくなかった。
 もっとも、梅干、佃煮、そして日本茶程度なら味見はさせてもらったのだが、それは内緒。


 「よし、それじゃ行きましょうか、横島君♪」

 「はいっ! お供するっス、隊長!」

 「あ、令子? あとでひのめは迎えに来るから、もし目を覚ましたら面倒見てあげてねー?」

 「リッチな夕飯じゃ、リッチな夕飯じゃ♪ これで当分は幸せじゃー♪」


 女王と従者の如く歩み去る、美智恵と横島である。
 呆気に取られて見送るよりほかない事務所員たちであった。


 「ち、ちょっと、ママっ!? ・・・・・・って、横島ぁっ! アンタ、帰ったら覚えてなさいよっ!」

 「ほほほほ、行って来るわね、令子ー♪」

 「だ、だから、俺が何したっつーんですか、あんたはぁぁっ!」


 階下の母親と丁稚に向けて叫ぶ美神令子と、階上の横暴な上司に向けて叫ぶ横島。
 おキヌたちは展開に追いつけず呆然としたままであった。
 階下でドアが閉まる音が聞こえ、互いの声は届かなくなってしまった。
 慌てて窓枠へと駆け寄る美神、おキヌ、シロ、パピリオ、そして気だるそうに覗き込むタマモ。


 「い、行っちゃいましたね、隊長さんと横島さん」

 「そ、そうね・・・・・・って、見りゃわかるわよ、おキヌちゃん」

 「せ、せんせぇぇ・・・・・・」

 「ううう、ひどいでちゅ、ヨコシマ」

 「・・・・・・あほらし」


 一歩下がって窓枠に張り付く女性人を見やるタマモ。
 ヤモリやストーカーも驚くその様に呆れかえってしまう。

 
 「うううう・・・・・・やっぱ将来のお姫さまのわたちより、現在のマダムのほうがいーんでちゅかねぇ?」

 「ああああ・・・・・・先生ぇ。人妻はいけないでござるよぉ。拙者のほうが若くてぷりちーでござるのにぃ・・・・・・」

 「シ、シロにパピリオっ! さりげなく人の家庭をぶっ壊すようなこと言うんじゃないっ!」

 「想い合う二人には勝てまちぇん・・・・・・愛の成せる業でちゅかねぇ」

 「い、いざとなったら、拙者がこの腹をかっさばいても先生をお止めする所存にござればっ・・・・・・!」

 「どっから、んな言葉聞いてきたの、アンタらはっ!!」


 美智恵と横島はただ食事に行っただけなのに、各人の妄想の発展途上振りは経済効果も泣いて羨む物だった。
 美神はシロとパピリオの妄想振りに、さながら赤信号の如く血気を上昇させているし、おキヌはその逆に青信号の如くである。
 タマモは話すのも疲れたといわんばかりに、ソファーに腰を深々と下ろしている。

 部屋の空気が深海さながらの重圧を蓄えてきたとき、ふと各人の耳を甲高い汽笛のような音が打った。
 台所から聞こえてくるようで、やかんのお湯が沸いたことを知らせるものであった。
 美神とおキヌは顔を見合わせると、一息ついた。
 考えてみれば、買い物から帰宅して荷も解いていない。ここらで休息が必要のようだ。


 「とりあえず、お茶にしましょう・・・・・・」

 「そ、そーですね・・・・・・」

 「拙者たちは夕御飯をいただくでござる」

 「そーするでちゅ」

 「・・・・・・夕飯の事すっかり忘れてた」


 今夜はすっかり精彩を欠いてしまった美神除霊事務所の女性陣であった。










                             続く

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