ザ・グレート・展開予測ショー

いつか聞こえた、あの子守唄!/上


投稿者名:ロックハウンド
投稿日時:(03/11/29)


 仕事が無い日であっても、なるべく事務所に顔を出すのが、横島忠夫の日常のひとコマである。
 生活費に乏しく、加えて時給255円という、労働基準法を無視された薄給の身と在っては、少しでも稼いでおかなくてはならない。
 その解決法とは、すなわち事務所での待機時間である。これとて労働時間の計算内に入るだろう。あくまで希望的観測の範囲だが。
 今日も今日とて学校を早退し、自宅であるアパートを経由して、職場である美神除霊事務所へと向かっていた。

 職業柄、いつ何時、仕事の依頼が飛び込んでくるかはわからないのだ。
 電話番なり、事務所の掃除なり、GSの仕事とは直接関係なくとも、なにかしら引っかかる仕事はあるだろう、との楽観視である。
 おキヌは学校だが、シロ、タマモ。そしてホームステイ中のパピリオもいるはずであるから、彼女たちの遊び相手という手もある。
 シロの散歩相手はちょっと億劫だが、事務所にいるための理由と、そして何より時給には替えられない。
 たとえ散歩の距離が、往復で2桁のキロ・メートルを数えるとあっても。


 「・・・・・・はわ」


 都電の規則正しい振動に揺られながら、横島は欠伸をもらした。目尻の涙はジージャンの袖口で拭い取る。
 あまり艶の無い頭髪を軽く弄り、とろんとした目付きで窓の外を見やる彼の目には、流れ行く風景が映っている。
 まだ高い日に照らされた町並みは、今の横島の目には、眠気を誘う以外の何者でもない要素であった。
 出勤の途中、駅前の牛丼屋で昼食を取ったこともあろうか、脳の血液のほぼ全てが胃への配置転換を受けていた。


 「あー、ねむ・・・・・・」


 しかし、冬も間近であると言うのに、この暖かさはどうしたことだろう。横島はとろけた脳細胞でぼんやりと考える。
 ガタンゴトンと音を伴い、身を揺らすこの振動も、程好い陽光と暖められた空気と交じり合い、ちょっとした揺りかごのように感じる。
 車内の座席を占める人数は、さほど多くは無い。10人程度といったところであろうか。立っている者は一人もいない。
 よくよく見れば皆が舟を漕いでいるようだ。横島は自分だけが眠りの妖精に囚われていたのではない事に、ほのかに苦笑した。

 窓に頭を預け、口を半開きにしている中年。寝てはいても上品な姿勢は崩さない着物姿の老齢の女性。
 中学生のカップルであるらしく、女の子は長い髪に包まれた頭部を、安心しきったように男の子の肩に預けている。
 眠る小さな少年を抱きつつ、母親もまた軽く頭を揺らしている情景に、横島はふと昔の自分を重ね合わせた。
 母である百合子の腕の中で、子守唄を聞かされて眠りについていた、あの時は一体いつのことだっただろうか。



 『・・・・・・♪・・・・・・♪・・・・・・♪♪』



 ふと、前方からやって来たブレーキの軽い衝撃で、横島は眠りかけていた意識を呼び起こされた。
 どうやら駅に着いたらしく、窓の外を眺めると目的地の駅である表示が、見慣れた景色と共に目に入ってくる。
 瞬時に目が覚めた横島は慌てて身を起こし、ドアの外へと歩み出た。次の瞬間、発車を告げるベルが駅構内に響き渡った。
 駅を滑るように出て行く列車が巻き起こした風に、髪を遊ばせながら横島はぼんやりと立ち尽くしていた。

 夢の中で、何か歌を聞いたような気がしていたのである。あれは確かに知っている歌だ。それも身近にあった歌のはずだった。
 軽く頭を振ると、横島は出口へと歩き出した。このまま呆けていても始まらない。
 だが、階段を下りる時も、改札で切符を通す間も、隔靴掻痒と言うべきか、もどかしい気持ちが横島の胸の内に在った。
 首を捻りつつ外に出た横島は、ふと見上げた空に問い掛けるような眼差しを送った。返答は無論のこと期待していない。

 ―――あれって、何の歌だっけか?




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                いつか聞こえた、あの子守唄!/上


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 横島が事務所に到着してから一時間弱は何事も無く経過していた。事務所の住人が全て不在であった、という理由も加えられる。
 事務所の玄関に、一般的な意味での鍵は掛かっていない。屋敷全体が、管理人と言うべき人工幽霊一号の監視下にあるためだ。
 不審者には霊的防壁の圧力を上げることで侵入を阻むことが出来る。もっとも過去に、強力な怪物の侵入を許したことはあるが。
 アルバイトとは言え事務所の職員である横島は、本当の意味で顔パスであった。労苦の割に報われていないのは言わずもがな。


 「ごめんなさい、横島君。いつもの事とはいえ、押し付けるような真似をしちゃって」

 「いえ、大丈夫ッスよ。慣れてますからね」


 時刻が3時半を少し数えた頃、事務所を突然に訪ねてきた人物があった。美神令子の実母、美神美智恵である。
 その腕には、令子の妹であるひのめが鎮座ましましていた。横島の顔を認めると、手を振って嬉しそうな声をあげる。
 横島は美智恵の表情とひのめの存在から、さっそく仕事が飛び込んできたことを認識した。GS関係ではない臨時の職務が。
 ベビー・シッターという仕事である。不満や否やが在ろう筈が無い。横島は喜び勇んで引き受けた。


 「本当にごめんなさいね。まったく令子と来たら、肝心な時にいないんだもの。大方、買い物にでも行ってるんでしょう」

 「いや、まぁ、多分、美神さんもすぐ帰ると思いますよ。あの人、人込みが大嫌いっスから」

 「あ、やっぱり?」

 「ええ。こう言っちゃ何ですけど・・・・・・じ、自分以外の客がいること自体が頭に来るっつーか、そんな感じが、ときどき・・・・・・」


 周りを見回しつつ、横島がもらした密やかな苦言に、美智恵は渋い顔付きになった。頭痛を堪えているようにも見える。
 汗を伴った笑いを浮かべた横島は、むずがるひのめを優しく受け取った。抱くときの力の込め様は慣れているらしく、丁寧である。
 ひのめの方も慣れているためか、お気に入りなのかはわからないが、彼の腕の中で楽しげに笑い声を上げた。
 Gメンの業務が忙しいことは重々承知している横島である。時々ではあるが、美智恵の方もひのめの事を、長女の事務所に頼っていた。


 「よしよし。ひのめちゃんはおとなしくて助かるよー。でも、もう兄ちゃんを燃やさないでくれよな?」

 「あう?」

 「か、重ね重ねごめんなさいね・・・・・・横島君」

 「あ、もういいっスよ、その件は」


 汗交じりに恐縮する美智恵に、いつもの軽薄そうな笑いを浮かべて安心を促す横島である。
 ひのめが初めて発火能力(パイロキネシス)を発現した際に、鎮火を試みた騒動で事務所が爆破寸前まで行った事があった。
 緊急措置と言えるのかは甚だ疑問が残るが、横島がバックドラフト現象を起こしたことで火は鎮火した。
 その後、横島の緊急入院というおまけ付きで事態の収束を知った美智恵は、娘を散々叱りつけたものである。

 だが娘のほうはと言えば、やや歯切れが悪くも緊急の措置であることを強調し、横島も人外レベルの回復を見せ、数日で退院した。
 故に母のほうは強く責めることが出来なかったわけだが、後日、この一連の出来事を知った美智恵の師匠、唐巣神父は祈りを捧げた。
 曰く『神よ、彼にも救いを与えたまえ。君もかい、横島くん・・・・・・』と、涙ながらの礼拝は、弟子のピートが横島に語る所である。
 美神家の女性と関わった者は、幸も不幸も段違いのレベルを体験するようである。と、横島を見舞う日々の中でピートは結論付けた。


 「じゃあ、後はお願いね、横島君。たぶん遅くても7時半までには会議が終わると思うから」

 「了解っス、隊長。のんびりしてきていいっスよ」

 「ふふ、のんびりした会議なんて願い下げね。途中も最後もろくな結果が出やしないに決まっているんだから」

 「あ、そうっスか」


 じゃあね、と、軽く手を挙げて微笑と挨拶を残した美智恵は、颯爽と身を翻し、階段を下りていった。
 窓の外へと手を振って見送る横島の腕の中で、ひのめもまた横島の仕草を真似てか上下に手を振っている。
 その動作と可愛さに横島は我知らず笑みを誘われた。自分が一人っ子であるため、余計に幼子への庇護感を感じるのかもしれない。
 上司である美神令子を少し羨みつつ、横島は腕の中の赤子に微笑みかけた。熟れた林檎の様に血色の良い頬がなんとも可愛らしい。


 「よっしゃ、ひのめちゃん。何して遊ぶ?」

 「ばうー!」

 「おーし、んじゃ『ばうわ』と遊ぼうか! 相方がおらんけど、そこはまぁカンベンな、ひのめちゃん♪」

 「あー♪」



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 目当ての品物を首尾良く見つけることが出来て、手に入れられれば、その日の気分は一段と上昇気流に乗ることだろう。
 そう考えれば、今日の美神令子と氷室キヌの気分は、8対2の割合で良好だと言えた。
 美神はお気に入りのブランドから、冬物のコートを2着購入できたし、レザーと毛皮のブーツも卸したてを手に入れることが出来た。
 展示品のスカートにはしゃいでいたおキヌは、購入時のレジにて、総額がゼロ5桁の額を見た途端、眩暈を感じたものであったが。

 バーゲンで大騒ぎの渦中を、泳ぐようにして品物を購入するなど真っ平御免だ、と豪語して憚らない美神令子である。
 また気質的には一般庶民のおキヌであるが、冷や汗を掻きながらも美神令子との買い物は良くも悪くも勉強になっていた。
 あれこれと服装のアドバイスをしてくれることがありがたいし、聞いたこともないブランドを試着させてくれたりと様々だ。
 帽子から靴まで、果ては髪の毛から足の爪先に至るまで、煌びやかなファッションの世界を覗かせてくれるのである。


 「どうだった、おキヌちゃん? あのお店ってば、なかなか品揃えがいいでしょ?」

 「・・・・・・は、はいぃ・・・・・・でも・・・・・・つ、疲れましたぁ」


 昼少し前に出かけて、午後8時現在に至るまで、美神の運転であちこちの店を回ったのだ。
 美容院、エステ、レストラン、ブティック、コスメ・ショップ等々、全部数えれば10数軒にはなるだろうか。
 しかもその店のほとんどが完全予約制で会員制というから、おキヌや横島からしてみれば、何処の国のお話だ、と汗ばまざるを得ない。
 美は女性の特権、と美神は言うが、おキヌとしては経済状況もだが、使った労力にほとほと溜息をついていた。

 とはいえおキヌは、まったくもって体験を否定しようとはついぞ考えてもいなかった。衣服もだが、特に食事に関しては。
 レストランでは昼食で、ジェノベーゼ・チーズを多めに使用したスパゲッティ・カルボナーラとシーザー・サラダのセット。
 焼き立てのパンに新鮮なバターが添えられ、美神のお勧めで試してみた白のポート・ワインが、少し冷えた身体を温めてくれた。
 食後にミルクたっぷりのカフェ・オ・レで、言うこと無しの満足感に浸っていたおキヌであった。


 「ね、美味しいでしょ、おキヌちゃん」

 「はい! このお野菜なんかとても新鮮ですよね。パスタの茹で具合は丁度良いし・・・・・・うーん、やっぱりタイミングなのかなぁ」

 「あら、挑戦してみるつもり? じゃ、しっかり食べて味を覚えちゃいなさいよ♪」

 「み、美神さん・・・・・・なんだかそれって、わたしが味を盗みに来たみたいじゃないですか?」

 「当然でしょ! 美味しいもののレシピは独占すべきじゃないわ。万人が食せるようになってこそ、食文化が発展するというものよ」

 「そ、そうですよね。その通りですよね。すごいです、美神さん! わたし、頑張りますっ!」

 「うんうん、頑張ってねー。そしたら、私も出かけなくてすむからさっ♪」

 「や、やっぱり自分の為なんじゃないですかぁ!」

 「ほーっほっほっほっ!」


 その後すぐに帰宅しても、おキヌは心身ともに暖かいまま素敵な時間を楽しめたのだが、美神にしてみれば補給に過ぎなかったようだ。
 食後の行動力たるや、彼女を知る者たちからすれば、推して知るべしの勢いであったようである。
 女性二人だけという身軽さもあってか、いつになく美神も上機嫌でおキヌを引き連れつつショッピングを楽しんでいた。
 疲労を感じていたおキヌも、カフェで休憩を挟んだ際の、ホット・ココア一杯と30分の時間は確かに心地良くはあったらしい。
 が、完全に回復とまでは行かなかったようで、先ほどの疲労感溢れる言葉がその証明であった。


 「うーん、おキヌちゃんには、ちょっとキツかったみたいね。でも慣れれば全然大したことないわよ♪」

 「は、はいぃ・・・・・・が、がんばりますぅ・・・・・・」


 内心は挫けそうだったが、せっかく彼女が楽しんでいるんだから、と気力を振り絞るおキヌである。
 が、やはり慣れない事はするものではない、との言葉通り心身ともにくたびれはててしまった。シートに深々と背を預けてしまう。
 美神が運転するポルシェは、直に事務所が面した道路へ差しかかろうとしていた。車は流れるようにカーブを曲がっていく。
 いくら美神とて、たかが飲酒運転如きで捕まりたくは無いので、昼食時にポート・ワインを飲んだのはおキヌだけであった。

 100メートルほど進んだ先に事務所が見えてくる。通いなれた道もやはり夜ともなると違う表情を見せるものである。
 ワインの所為もあろうが、おキヌは胸の鼓動ちょっとが早まるのを感じていた。酒に強い方ではないから、やはり水が要りそうだ。
 そう考えたおキヌは、車が事務所前にたどり着いたと同時に、ついと事務所の方を見上げた。
 事務所の窓からは晧々と明かりがもれている。シロ、タマモ、パピリオの3人が戻っているようだ、とおキヌは考えた。


 「美神さん。シロちゃん達も帰ってきてるみたいですね」

 「あ、そう? 電気点いてたのね。んじゃ、心配ないか」

 「えーと・・・・・・今、8時ちょっと前です。3人ともお夕飯は済ませてると思いますけど」

 「空腹な人狼に妖孤に魔族かぁ・・・・・・ちょっと面白いかも」


 顔を見合わせ笑いあう美神とおキヌである。しかめっ面で空腹を訴える3少女の姿を思い浮かべたからであった。
 滑らかな運転で地下のガレージにポルシェを駐車した美神は、エンジンを止めると素早く車を降り、勢い良くトランクを開けた。
 2人分をあわせると13、4袋はあろうか。様々なブランド等のロゴが入った紙袋が、所狭しと納まっている。
 手早く荷を取り出し、2人は住居へと続く階段を上っていった。荷の少ないおキヌが先頭で、その後ろを美神が続く。


 「ただいま・・・・・・あれ?」

 「どうしたの、おキヌちゃん?」


 おキヌの視線の先に目をやった美神は、同じく「あれ?」と声を上げそうになった。
 そこには美神美智恵の姿があったのである。しかもドアの外から部屋の中を窺うようにして佇んでいる。
 ふと、美智恵が美神たちの方を向いた。軽く目を見張った彼女は、次の瞬間には微笑みを浮かべていた。おまけに手招きまでしている。
 首を捻っていぶかしむ美神とおキヌに、美智恵は嬉しそうに、また楽しそうに微笑んだまま手招きをするのみであった。


 「ママ? なにやってんの、そんなとこで」


 声を出した美神への、美智恵からの返答は人差し指を唇に当てて静寂を保つように、という無言の指示だった。
 訳がわからぬままであったが、とりあえず荷を壁際に置いた2人は、物音を立てずに美智恵の下へと赴いた。頷く美智恵である。
 歩いていくうちに美神とおキヌは、ふと、歌声らしきものが耳を打つのを感じた。どうやら部屋の中から聞こえてくるようであった。
 確かな音程、優しく甘い中音域の歌声、小川のせせらぎにも似た緩やかなメロディー、そして何より聞いた事のある声。

 驚いて、美智恵と同じく部屋の中を覗き込んだ美神とおキヌは、そこに歌声の主を見出した。
 ずば抜けた煩悩の持ち主、美神除霊事務所のアルバイト学生にして丁稚奉公である少年。

 ――――横島忠夫の姿を。



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 シロ、タマモ、パピリオの3人は、シロの発案により『ピクニック』に赴いていた。珍しくも3人揃ってである。
 横島との散歩の途中、素敵な山並みが見渡せるパーキング・エリアを見つけたらしく、黎明と黄昏が美しい、とのことであった。
 シロは横島の参加を強く切実に望んだが、彼は生憎と学校への出席日数が問題のため断念と相成った。
 横島の返事を聞いた途端、オジギ草さながらにうなだれ、尻尾まで勢いを失ったのには、皆が思わず吹き出しそうになったものだが。

 折角だからと横島が、パピリオとタマモにも同行してみるよう勧めたことも、3人一緒のきっかけとも言えた。
 横で聞いていたパピリオは「退屈が紛れるなら」と参加を受諾し、タマモもまた「暇だから」の一言で決定した。
 おキヌに昼用のお弁当まで用意してもらえることになり、なんだかんだ言いながら、前夜に結構盛り上がっていた3人組であった。
 夕食までには戻る予定であったし、もし遅くなっても、3人分を冷蔵庫に入れておいてくれるとのことだったので安心もしていた。

 翌朝、早めの朝食を済ませた後に嬉々としてシロたちは出発した。無論のこと交通機関は利用しない。必要がないからである。
 数十キロ以上先の目的地へと向けて、徒歩で、あるいは飛んで行くというので、人目につきにくい早朝を選んだのだ。
 初冬ではあるが、早朝の空気は珍しくも程好い肌触りで、刺さるような冷たさを感じさせなかった。
 かくして意気揚揚と3人の少女達は、シロを先頭に目的地へと走り、飛び去った。

 そして今現在。時刻は午後7時55分。とっくに夜は更けている。
 日中の暖かい空気の名残か、冷え込みはさほどきつくない。今日と言う日は、表で活動するにはもってこいの一日だと言えた。
 例えば、とあるパーキング・エリアの近くにあるキャンプ場は、陽光を一杯に浴びることが出来る草原が存在し、名所と呼ばれている。
 昼寝には最適にして最上のスポットだと言える。ご多分に漏れずシロたちもそこへ向かい、思い思いに時間を過ごすことができた。
 結果、とっぷりと日が暮れた中、東京へ向けて爆走を続ける羽目になってしまった。


 「んもー! だからぐーすか昼寝なんかしてないで、さっさと帰ろーって言ったじゃないでちゅかっ。このバカ犬、バカ狐!」

 「バカじゃないもん! いまさら言ったって遅いでござるよ、パピリオ!」

 「あー、うるっさい! お腹空いてんだから、デカイ声出さないでよっ! あと、バカ犬と一緒にしないで!」


 空腹の我慢に美神の折檻と、今現在、そして帰宅した後に起こりうる事を考えると、憂鬱なことこの上ない3人娘であった。
 とはいえ、今は一分一秒でも早く帰宅することが先決だ。美神に怒られるのは慣れているが、おキヌに怒られるのはなんか少しイヤだ。
 と、3人が3人ともそう考えているようだ。稼ぎ手よりも美味しい御飯を作ってくれる人に懐いていると言う事であるかもしれない。

 事務所がようやく見えてきた。ふわりと風の様に門前に着地するタマモとパピリオ。
 飛んできたタマモとパピリオは別として、シロはずっと走り尽くめであるにもかかわらず、さほど息を乱していない。
 事務所前で窓を見上げる3人は、晧々と窓からもれる光から、美神たちが先に帰っていることを理解した。顔を見合わせる3人。


 「やむを得んでござるな」

 「仕方ないわね」

 「叱られ覚悟で行きまちゅか、やれやれでちゅ」


 おとなしくドアを開け、階段を上り始める3人娘である。シロ、タマモ、パピリオという順番で執務室兼リビングへと向かう。
 と、シロの歩みが止まった。シロの背中にぶつかるタマモ、そしてタマモの背中にパピリオがぶつかってしまった。


 「ちょっと、シロ。あんた何をぼんやり・・・・・・って、なに?」

 「あり? あれって美神のママじゃないでちゅか?」

 「美智恵どのでござるな。美神どのもおキヌどのも何をやっておられるんでござろう?」









                           続く

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