ザ・グレート・展開予測ショー

B&B!!(5)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(03/11/29)

今からデジャブーランドに来ないか。そう切り出したら思いっ切り正気の程を疑われた。

「30過ぎにもなってデジャブーランドですって?それも今から?平日なのに?
・・一体何考えてるのよ貴方。またあの厄珍堂の店主やドクターカオスに
『パワーアップできるぞ』とか騙されて変な薬でも飲まされたんじゃなくて?」

「そんな目に会うのは横島の奴の専売特許だろ?一緒にすんなよ。
いいじゃねーか、デジャブーランド。楽しいぞ?」

「楽しいでちゅ。」

「シィーーッ!」

乗換えで降りた東京駅山手線のホームで俺はあいつに電話した。パピリオは俺の陰で荷物を異界に収納している。
あいつもパピリオの顔と声を知っている。・・・恐らく「最悪」の部類に入る記憶で。

「・・・?そこに誰かいるの?子供みたいだったけど、何となくどこかで聞いた事がある様な声ね・・?」

「そりゃ、気・・気のせいだろ。ちょっと知り合いの子供預かっててよ・・一緒に連れてきてるんだ。」

電話ではパピリオの事は伏せておこう。言えば絶対来ない。通報してしまうかもしれない。―俺もそうするつもりではあるが、
あいつの場合、最初に話すのは多分、美神令子の所だ。そうなればあの大将の事だ、報酬を吊り上げられるだけ吊り上げて
から形ばかりの「パピリオ探し」を引き受ける事だろう。
ボッタくられまくる小竜姫があまりにも気の毒だ。一応、俺の師匠でもあるしな。

「成る程、わかったわ・・柄にもなく子守を引き受けたけど結局持て余しちゃって、応援が欲しくなったんじゃありませんの?」

「そ、そうなんだよ。もうお手上げでさ。何話して良いかも分かんねえし・・お前、意外とこう言うの得意だろ?
家の道場でガキとか一杯来る様になってよ。・・何とかならねーかな?」

「“意外と”って何よ・・私まで貴方の様ながさつで野蛮な人と一緒にしないでほしいですわね。」

「・・・十分がさつで野蛮じゃねーか・・・」

「何か、言いました?」

「いいえ・・・」

感触は微妙だったな。結局、「今日は誰とも会う予定はないけど、家を空けられるかどうかは分からない。」との事だった。
当たり前といえば当たり前だ。平日だし、全国各地に系列の道場と除霊事務所を持ち伝統の「弓式除霊術」を掲げるGSの
名門弓家の時期当主だ。スケジュールが空くとか思う方がどうかしている。
もう、半年近くまともなデートしてねえよな・・・。あいつの親父は、あいつに幾つも婿入りの縁談を持ちかけているらしい。
俺が弓家に入ると言う選択肢は全く考えに入れていないだろう。
「強さ」と「かっこよさ」、それだけを求めて生きて来たけど、今は初めてそれ以外のものを欲しいと思う様になっていた。
あいつの親父や一族連中を納得させられる様な「何か」を。

京葉線のホームは混雑こそしていないが結構人が多かった。その殆どがデジャブーランド行きの連中だった。
家族連れ、カップル、団体、友達同士・・手に持ったガイドブックやマッキー&マニー・ロナルドグッズですぐ分かる。

「さっきの電話、誰でちゅか?」

「ん?・・ああ、俺の彼女さ。会った事あるだろ?
・・・つうか、てめーは俺とあいつがデートしてた時に最初に襲って来たんだっけなあ?」

「そ・・そーでちたっけ?エヘヘ・・・」

「折角だから招待したのさ。・・こう言うのは人数多い方がもっと楽しいだろ?」

「・・・・そういうものでちゅ、かねえ・・・?」

こいつにしては随分気のない返事が返って来た。

「・・・あれから15年でちゅよね・・・その間、ずっと一緒にいたんでちゅか?」

「いや、ずっとって訳でもねえが・・・ずっと、みたいなものかな?」

「これからも、ずっと一緒にいるつもりなんでちゅか?」

「いや、これからどうなるかなんて分からねえよ。俺は予知能力者じゃねえし。」

「でも、ずっと一緒なんでちゅよね。別れたりしても、友達でも、そうでなくても・・・」

パピリオはそこまで言うと黙り込んだ。何かを思っているかの様だった。
この時の俺はまだ、こいつの言いたい事も、何を思っているのかも、分からないでいた。

電車が来る事を告げるアナウンスがホームに響いた。微かにレールを滑る車輪の音も聞こえる。

「あー来ちゃう、電車来ちゃうよ!」 「お母さん、はーやーくー!」
「ちょっと待って、階段、疲れちゃう。」
「ああ、ちょっとスイマセン、通ります・・ハイ、スイマセン。」

階段から一組の親子連れが駆け足で現れた。俺より3,4歳上くらいの父親と母親に、外見だけならパピリオと同じ位に
見える子供の兄弟。電車がまだ来ていないのを見て安堵の表情を浮かべる。

「で、何?だからそれ怖えーっての。やめてよね。で、シーちゃんとナオ君、ちゃんと話、したの?」
「おい、もうすぐ電車来るって。そろそろ切れよ、電波で脱線するんだからよ。」

際限なく携帯で話し続けている女と、何か間違っているがその外見に似合わずモラリストな男・・十代後半のカップル。

俺たちの後ろに並んだ二人組みのスーツ姿のサラリーマン。一人は新聞を広げて読んでいる。
隣の乗車位置に立っている初老の男。咽喉に痰が絡んだ様に小さな咳払いを繰り返していた。

電車がホームに現れた時、そいつらはそのままの表情で、自然に俺達の方を向き、
・・・その手に拳銃が握られていた・・・一斉にブッ放して来やがった。


パンッ パンッ パンッ パンッ パンッ パンッ

乾いた銃声が続けざまに響いた。その次にあちこちから上がる悲鳴と怒鳴り声。


奴らが銃を構えたのに気付いたと同時に俺は魔装術を、パピリオはシールドをそれぞれ展開した。にも関わらず奴らは、
表情を変えないまま俺達を大きく囲み、発砲しながらその輪を縮めて行く。俺は踏み込んで初老の男の首に手刀を叩き
込み、返す手で隣にいた親子連れの母親の顎を掠ってやった。
二人が倒れた所から突破し、階段へ向かう。発砲しながら後を追おうとしていた奴らに蝶の群れが襲いかかった。

「・・・やりすぎるなよ!」

改札を突破する時、背後でサラリーマンの二人組みとカップルの男の方が階段から追って来ているのが見えた。
3人は階段を抜けると走るのを止め、再び歩きながら俺達に向かって撃ち始めた。弾切れを起こした奴はその場にマガジンを
投げ捨て新たに装填して、何事もなかったかの様に撃ち放題の続きを始める。
改札に向かっていた通行人や有人改札の駅員が思い思いの方向に散らばって逃げている。
奴らはその弾が当たらない事などお構いなしで撃ってくる。撃ちながら、近付いて来る。

パピリオのシールドが良く見ると自分を守る為だけではなく、俺や、周囲に流れ弾が飛ばない様に張り巡らされている事に
俺はその時気が付いた。考えてみればここだけじゃなく―さっきも俺達を囲んだ連中が同士撃ちしない様に奴らの手前にも
張っていた・・・おい・・このガキが関係ない人間や敵の身まで守るだと??

「聞き分けのない子たちね・・・お仕置きされたいんでちゅか!?」

「待てよ・・お前は手を出すな。」

掌から霊波を放出させ始めたパピリオを制して、俺は魔装術を解除し前に出た。こいつの“お仕置き”はチャチな銃撃の返礼
にしては強烈過ぎるだろう。相手は洗脳されているのか自覚的な狂信者なのかまでは分からなかったが、一般人だ。
人間同士でケジメを付けてやろう。
上半身を屈め、一気に間合いを詰める。左端の奴の手元を抑え、中央の奴の顔を蹴り上げる。右手で左端の奴も殴り倒す。
右端の金髪の男―少しガタイが良いな―が銃口をこちらに向けようとして来たが、足で払い落とし、そのままボディーと顔面に
爪先を叩き込んでやると、前のめりに崩折れて倒れた。


+++++++


「ふざけてんじゃねえぞ!!この馬鹿野郎!!」

駅を出て乗り込んだタクシーの中で俺はとうとうブチ切れてしまった。運転手に行き先を聞かれ、俺の事務所の住所を言おうと
した時、このガキが割って入り「東京デジャブーランドまで行くでちゅ」とか抜かしやがったからだ。

「電車に乗れないからこれに乗ったんじゃないでちゅか!?じゃあ、これで行くでちゅよ。」

俺はしれっとそう抜かしたパピリオの頭を引っぱたき、耳を掴んで引き寄せた。

「いい加減目を覚ませ!てめー、自分の置かれてる立場と状況分かってんのか!?
遊園地なんかに遊びに行ってられる場合じゃねーだろ?」

「うう・・・小竜姫みたいな事、言わないでくだちゃい・・良いじゃないでちゅか・・あんな奴らに私をどうにかなんて出来っこない
んでちゅから・・・知ってるでちゅよ・・あいつらの後ろについてる神族だって大した事ない奴なんだって・・」

「小竜姫じゃなくたって、誰が見たってそう言うだろーぜ!?てめーはその“大した事ない”人間の集団に負けた事がある
だろーが。もう忘れたのかよ?・・それに、自分さえ安全ならそれで良いのか?街中で平気でドンパチやる様な奴らなんだぞ?
巻き添えになって傷付いたり死んだりする人間が出ても構わねえって言うのか?てめーが言ってるのはそう言う事なんだよ。
・・・妙神山で一体、何学んで来たんだよ!?アシュタロスの配下だった頃とちっとも変わってねえじゃねえか、それじゃ。」

「ううっ・・・・。」

「・・・ちょっとお客さん、何があったか知らないけど、小っちゃな子にそう色々怒鳴ったって
怯えちゃうだけで何も伝わらないっすよ?」

「・・・見た目は子供だけど、子供じゃねーんだよ、こいつは。」

「ああ・・・じゃあ、“子供の姿をしたモノノケさん”ですかい?」

「あ!?」

「・・いや、たまに乗るんですよ、そういうお客さんもね。そういう“子供のモノノケさん”、中身が何百歳だとかでもやっぱり
好きなんですよねぇ、遊園地とか、ゲームとか、可愛いキャラクターや動物とか・・。」

・・・俺の思っていた以上に世間での“人外の存在”への認知度は進んでいた様だ。これは正直、知らなかった。
少し冷静になって再びパピリオを説得する。

「な?別に今日じゃなくたって良いだろ?また安全な時にでも駄々こねて出て来れば良いじゃねーか?
だからほら、今日の所はよ・・・?」

「・・・安全な時、なんてないんでちゅ・・」

「え?」

「・・“パピリオは出ようとすれば、何かしようとすれば、その度に神界の上の方で騒がれ、狙われる。
これに『いつまで』なんぞない、『いつまでも』じゃ”・・おじいちゃんはそう言ってたでちゅ。」

「何だと・・?」

「私だって、今どんな時かぐらい、自分の立場ぐらい分かってるでちゅ・・・騒ぎを起こしたら大変だって分かってるでちゅ。
でも、騒ぎを起こしたくなければ、妙神山から一歩も出ないか、ベスパちゃんの様に魔界へ行くしかない・・これに『いつから
いつまで』なんてないんでちゅ。妙神山そのものだってそういう連中からは目を付けられてるんでちゅよ。
でもおじいちゃんは・・“だったら、いっその事、好きな時に好きな所へ出歩けば良いんじゃ。騒ごうが狙われようがお構いなし
でな。ぱぴ坊がそうやって人間界を遊び歩いても誰も傷付けず、逆に皆と仲良くなって、それが積み重ねられれば、騒いどる
連中の方がおかしい、勝手に暴れておると言う事にもなるじゃろ。・・そうやって流れは変わるものなんじゃ。”って・・」


“そうやって流れは変わる”

その言葉が強く引っかかった。
猿は、「流れを変えたがっている」のか・・・?何の、「流れ」を・・・?
パピリオが永遠に監視と隔離の対象として警戒され、現時点での仲間以外との信頼も交流も
ないまま終る様な「流れ」を・・・・「魔族が常に人間や神族の敵であり続ける」、流れを・・・?


「お客さん・・お客さん!」

「ん?」

「で、結局どっちへ行きますかい?」

「あ、ああ・・・。」

しばらく考えてから、俺は答えた。



「東京デジャブーランドまで」、と。

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 Bodyguard & Butterfly !!
 (続く)
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デジャブーランドにまだ着かないよう・・遠すぎるぜ、夢の国(涙
次回は「ゆっきー&ぱぴは果たして東京駅から舞浜までのタクシー代を払えるのか?」
です。・・うそです。

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