ザ・グレート・展開予測ショー

〜『影とキツネと聖痕と 2』〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(03/11/28)





扉が開く。

遠慮がちに入室してきたその老人は、最初にニコリと笑みを浮かべた。

「あなたが美神令子さんですね?・・・どうぞよろしくお願いします。」




〜『影とキツネと聖痕と 2』 〜



『人は何を祈るにしても奇蹟を祈るのである。
 祈りはことごとく次のように要約される。
 「偉大なる神よ、二の二倍は四にならないことをお聞き届け下さい!」』


――――・・・




・・・・。

・・・震えている・・。

床にうずくまる少女に目をやりながら、青年は少しだけ頭を掻いた。

・・どう声をかけていいのか分からない。
こんな彼女を見るのは初めてだった。

・・・・。

「・・・らしくないな。」
何とか一言しぼり出して、彼女と同じ目線までしゃがみこむ。

「・・・なにがよ?」

「お前が、だよ・・タマモ。」

相変わらずの無愛想な文句に、横島は少しだけ苦笑した。

・・・なんだか不思議な感じがする。

なにせ、今、2人が居る場所はダイニングルームで・・・・しかも、そろって地べたに座り込んでいるのだから。
となりの部屋では、そろそろ仕事の話が始まったころだろうか?


「・・・私は別に何ともないわ。早く依頼人のところに戻ったら?」

そんなことを言うタマモの声は、いつもより心なしか沈んでいて・・・

(・・・そうは見えないから、ここに連れ出したんだっての・・・)
横島は、彼女に聞こえないようつぶやいた。

・・・この意地っ張りから、なんとか事情を聞き出す方法はないものか・・・。
彼は思案顔で考えて・・・・・・。


・・・。
・・・・・。



「・・あのさ。無理にとは言わんが・・、その・・何があったか話してくれないか?」

・・・結局、直球勝負でいく事に決めた。


「・・・・・・・。」

「・・やっぱ、ダメ?」


困ったように笑う青年の顔を・・、タマモはしばらく見つめていた。

見つめて・・見つめて・・そしてようやく口を開く。

・・・・・・・・・。






「・・・横島・・・・?」



「ん?」




「・・・もしも・・・、私が・・・」



・・・・。

・・。

助けを求めるタマモの瞳は・・・今にも泣き出しそうなほどに潤んでいて・・、
そして、それが横島には・・・・何故か、昔無くした恋人のものと重なって見えて・・・・

「・・・・タマモ・・?」

彼は・・、言葉を口にすることを、一瞬だけ躊躇してしまった。

・・・ほんの・・一瞬。

しかし、その一瞬が事態を左右することもある。

・・・・。


―――「・・先生?依頼人どのが先生と話したがってるでござる・・。タマモのことは・・拙者が・・。」

ドアの向こうから、シロの・・気遣わしげな声が聞こえてきた。


「・・え?あ・・ああ。ちょっと待ってくれ。」


急速に現実に引き戻される・・そんな心地がした。 

・・そうだ。
応接室には今、依頼人が居て・・
彼が自分を呼んでいるとシロは言っているのだ。

「・・・・・。」
タマモの顔を見つめながら、横島は迷うような表情を浮かべて・・、


「早く行って・・。私・・大丈夫だから。」

気丈に笑みを浮かべると、タマモはそこで言葉を切った。


「・・タマモ・・。」



いいのだろうか?
このまま・・何も聞かずに・・慰めの言葉一つかけられずに・・。
本当に・・この部屋を出てしまっていいのだろうか?

・・・。

「横島?」

「・・・あとで・・さっきの続き、聞かせろよ?」

「・・・・ん・・。」


タマモに後押しされる形で、横島はドアのノブへと手をかける・・。
しかし、先程浮かんだ疑問は最後まで打ち消すことが出来なかった。

・・・。

後に彼は・・この時、彼女に何も出来なかったことを・・本気で後悔することになる。



                 ◇


部屋で待っていたのはスーツに身を包んだ初老の男だった。
年のころは50代半ば。
服のほかにも、身支度は全体的に嫌味なくまとめられている。


「この人が今回の依頼主。訳あって名前は明かせないそうだけど・・・。」

「・・はぁ・・まあいつもの事っすね。」


・・仕事柄、姓名を隠さねばならないクライアントがいることは、横島自身、百も承知だった。
普通ならば、煙たがられ、遠巻きにされるような人物。

美神がそういった依頼人にも分け隔てなく接し、
快く仕事を引き受けることも横島は知っている。

(・・金にがめついだけじゃないからな〜この人も・・)

後は、その優しさを、もっと全面に押し出してくれれば完璧なのだが・・・
・・まぁ、それはご愛嬌というところだろう。

・・・。

「お取り込み中のところ申し訳ありませんでした。どうしてもあなたの顔を見たかったもので・・。」

老人が大きく頭を下げる。
・・それに横島は戸惑って・・・



「・・い・・いや、そんな頭を下げられるほどのことじゃ・・・。
 ・・・ってか美神さん。なんなんです?その仕事ってのは・・・。」
 
「廃ビルの除霊。ランクは・・・Bってところかしら?」

「ふ〜ん。期限は?」

「・・・今夜中・・。」

「・・今夜・・?」


・・・これはまた・・ずい分と急な・・・。


「・・しかもね・・・。」

頭を抱えながら、美神がうめく。

「・・実は、仕事するのあたって、是非とも叶えて頂きたい『お願い』があるのです。」

その依頼人は、悪びれもせず、そう言った。


                    ・
                    ・
                    ・



「横島くん!!そっちに行ったわよ!?」

「わかってます・・!」


閃光。
横島の投げつけた文殊の光に、大量の亡霊が霧散する。


―――グォォォォォォ!!!

廃墟と化したビルの中、・・夜の闇へと断末魔が溶け込んでいく。
舞うように動く2人のGSは・・、未だ、大して息を乱していなかった。


・・・・・。
・・・・。

楽な仕事。

それが、この依頼に横島が抱いた第一印象。

実際、廃ビルに巣食う霊の数は、それなりのものではあったのだが・・・


「・・・・もろすぎる。面白くないわね。」

美神も同様の感想を抱いたらしく、つまらなそうに声を漏らした。

「・・露骨に言いますね・・・。」

「・・だってそうじゃない。あんたと私だけでこなせる依頼なんて。」

無数に飛来する悪霊からの霊弾を、彼らはよそ見をしながらかわし続け・・・・、

並みのGSが目撃したならば、その反応速度の速さに目を見開きそうな・・そんな場面。


現在、2人の間には、


「美神さぁぁぁぁぁん!!!!僕ぁもう!!」

「飛びつくなぁあ!!!!」

ゴキャッ!!!!

・・・なんてことをする余裕まであるらしく・・・
本当に・・並みのGSが見たら、軽く自信を喪失しそうな状況である。


美神に張り倒されながら・・
横島は、少し離れたところで待つ依頼人と、そして彼を護衛するおキヌたちへと目を向ける。


・・タマモは・・先程よりは元気を取り戻しているようだった。
シロと話したことで、多少、気持の整理がついたのだろう。

(・・・全く。・・敵わねぇよなぁ・・・・)

何事か言い合っているような2人の様子に、横島は軽く頬を緩めて・・・・ひとまず、こちらは安心のようだ。


・・・・。
・・・・むしろ問題なのはその横。

一体、何が楽しいのか・・。能面のように笑っている依頼人のほうだ。

(・・大体、除霊現場を見たいってのはどういうことだよ・・。)

・・金持ちの道楽か・・・それとも・・・・・




――――・・・・。


「っと。これで最後かな?」

霊波刀が一閃される。亡霊が真っ二つに切断され・・・・ただ、それだけだった。それで全ておしまい。

辺りに、『静けさ』が充満する。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。

・・・パチ、パチ、パチ、パチ・・・・・。

霊の気配が消えた廃ビルで、手を打ち鳴らす音が響いた。

「・・すばらしい・・。これがプロのお手並みですか・・。」

ニコニコと・・・。
依頼人の男が笑いかける。


・・変わったじいさんだ・・・、
横島は不快感をあらわに彼を見つめた。





「お疲れ様でした。美神さん、横島さん。」

おキヌが緊張を解きながらタオルを取り出し、

「先生!拙者、任務を果たしたでござる!えらいでござるか?」
シロがもの凄い勢いで飛びついてきた。

・・・・・。

「・・お前は大丈夫だったか?」

シロの頭を撫でながら、黙ったままのタマモに声をかける。

「・・・・ん。平気よ・・。」

目を逸らしながらうつむくタマモ・・・やはり、どこか様子がいつもと違う。


「だから無理しないで留守番しとけって・・・・・うお!?」


さらに言葉をかけようとして、横島は視界を何かに遮られた。

見れば・・目の前で老人が手を差し出していて・・、

「お世話になりました・・。横島さん。」

どうやら全員と握手するつもりらしい。

・・・大げさな・・・、そう思いながら、横島は黙ってその手を握り返した。



「・・・・・タマモさんも・・・。ありがとうございました・・。」

「・・・え?・・う・・うん。」

右手を前につき出しながら、タマモは少しだけ恐怖を覚えた。

もし、あの夢が現実なら・・、この廃ビルでなにかが起こるはずだ。

彼女が『もっとも望まないこと』・・もしくはその前兆となる・・なにかが・・・。



「っ!?」


不意に・・タマモは、鋭い痛みを掌から感じた。
反射的に、握られていた手を振り払ってしまう。



「これは失礼。強く握りすぎてしまいましたね・・。」

「・・・・いえ・・・。」

いくら見つめても、傷などどこにも見当たらなかった。




―――・・・・。



「ひとつ聞かせてないか?この廃ビルを除霊して、あんたに一体何の得が・・?」


ビルの外。
依頼人を送り出しながら、横島は最後にそう切り出した。


「・・横島さん。」


「・・・・・。」


「・・世の中にはね・・。知らない方がいいこともあるのですよ?」

先程と変わらない猫なで声。しかし、男は振り向かなかった。

少しだけステッキをかかげながら・・・、

「・・・ごきげんよう・・。」

ポツリとそれだけつぶやいた。







〜appendix 2. 「もしも破滅に形があれば」


意味不明の依頼主・・意味不明な依頼から3日後。
横島とタマモはそろって街へと出かけていた。

「ほら。早くして。キツネうどんが逃げるわよ。」

「・・・いや、逃げないと思うのはオレの気のせいか?」

給料日。
この日に限り、横島の財布のひもは緩くなる。
2人は今から連れ立って、近場のうどん屋へ向かうところだ。


11月も半ばを過ぎた・・そんな寒い午後のこと。


「・・もう冬ね・・。」

「なんだ?やぶからぼうに・・。」

そう言って・・・、眉をひそめる横島に、キツネの少女が微笑みかける。

タマモは安堵していた。
あれから・・特に、何も変わったことは起きていない。

夢のことは、やはり自分の勘違いだったのではないか?
・・そう考えると、ようやく人心地がついた気がした。



「・・しっかし・・キツネがキツネうどんって・・なんかとも食いみたいな響きだな。」


「・・別に関係ないでしょ?キツネの肉が入ってるわけでもなし・・。」


全てが・・今のままであってほしいと思う。

冬も、春も、夏も、秋も・・・ずっとこのまま。

横島や、他の仲間に囲まれた日常が・・・・いつまでも続けば・・・・。


・・・・。


・・・・・・・。






「――・・無理さ。」


声。


そして・・異質な感覚。

それにタマモは振り向いた。

雑踏の向こうへ・・横島はとうに消えていて・・、
自分もそれを追おうとは考えなかった。



「・・・・?」

・・1人の少年が立っている。

蒼髪に、緑の瞳。
異常なほどに整えられたその顔立ち。

・・見ているだけで、体全体がざわめきだった。


・・・・なんだ?・・こいつは・・・?


――どこかで会ったことがある?

・・いや、絶対に会ったはずだ。それも、ごく最近に・・・。
忘れもしない・・・忘れるはずが・・・・。

・・・。

しかし、記憶には、混濁したかのように、もやがかかって・・・・、



「・・・どうやら、妙なモノに気に入られたようだね・・。」

蒼い影がささやいた。



「・・・・妙な・・・もの?」


「ゆめゆめ・・、気をつけることだ・・・。」


口にするだけ口にして・・そのまま気配は消えてしまう。
気がつけば、通りにはタマモ1人が残されていた・・・・。






―――!!


瞬間、タマモの掌中に、再び刺すような痛みが走る。

しかも、今度は生半可なものではない・・・・何かに打ち抜かれたような・・激痛。



「・・・・うっ!・・くっ・・!」




悲鳴をあげるのを必死に堪える。
右の甲から血流が噴き出す。
・・・そして、最後に視界が暗転した。


(・・・・これ・・は?)


目を見開いてみつめても・・・紅い命はとめどなく流れ続け・・・・、


――・・・冷たい・・・。

白く霞んだ意識の中で・・・、自分の声が妙に響いた気がした。





〜続きます〜

『あとがき』

こんにちは〜かぜあめです。あとがきに入る前に、横タマ好きさんにお知らせが・・(笑

横島×タマモの同人誌って・・本当に存在するんですね〜この間、作っているかたのHPを訪ねて、なんだか感動してしましました〜

うあ・・でも冬コミに行く時間なんてないだろうし・・・・こういう場合はどうすればいいんでしょう・・。
くぅ・・欲しいなぁ(血涙)

・・というわけであとがきです。

ついに、「ウェディング」の少年が再登場してしまいました・・(^^;
タマモの記憶が何故か(笑)混濁しているので・・今回、初登場ということでもなんとか通用しそうですね。
(気になる方は「キツネと仕事とウェディングと エピローグ2をご参照ください)

イメージは・・そうですね『渚カ○ル君』でしょうか?(爆
今回の事件にはノータッチのようですが、シリーズのキーパーソンになる予定なのでどうぞ愛してあげてくださいませ〜

さて・・次回からさらにストーリーが暗くなります。
タマモの祈りを嘲笑うかのように事態はさらに悪化していく・・・予定です。それではまた次回に。

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