ザ・グレート・展開予測ショー

綺麗な日


投稿者名:もんじゃ
投稿日時:(03/11/28)

とある日曜日。

ガチャン!ぶぎゃっ

「おはようございまーす」

いつものように横島が出勤する。

「・・・・・」

美神とおキヌの目が点になる。

「?・・・どうしたんスか?」怪訝そうな顔をする横島。すると、

ビシッ!

ニ人は同時に一方向を指差す。そして、その方向・・・つまりドアの影にいた人間を見る。

「いってーな!何すんだ・・・って」

「「俺!?」」

声をハモらせながらニ人の横島は固まっていた。








「これはドッペルゲンガーってヤツね」とりあえず落ち着いたところで話し始める美神。

しかし、美神とおキヌの対面に2人の横島が座っている状態はひどくシュールだった。

「「「ドッペルゲンガー?」」」美神以外の三人が同時に聞く。

「つまり、自分の分身が現れる現象ね。まぁ世界的に見てそんなに珍しい現象じゃないわ」

「つまりどっちかが偽物ってことですか?」おキヌが言う。

「まぁ、そうね。でも記憶とかは同じだし自覚はないはずよ。と言ってもどっちかっていううのは、もう分かってるわけど」「「え!?」」

「やっぱり霊的構造が微妙に違うのよ。というわけで、あんたが分身ね」そう行って片方の横島を指す。

「ちょ、ちょっと・・・そんなにハッキリと・・・」少し慌てて言うおキヌ。

「俺が分身っスか・・・ま、いいか!」「「え!?」」

自分で言っときながら、そんなあっさりいくとは思わなかった美神は動揺する。

「そ、それでいいの?普通はそう納得しないものなんだけど・・・」

「はい。いや、どうも文珠が作れないなぁって思ってたんで。分身だからなんですね」

「ああ、そうね。文珠はとてもデリケートなものだから、分身じゃぁ作れないわね。でも、それでいいの?」

「まぁ、分身だろうと俺は俺っスからね」

「はぁ・・・。その能天気さは、さすが横島クンの分身ね。そんじゃぁ、早速ウチで雇ってあげるから、働きなさい」

「はい!」

「よろしくお願いしますね」改めて挨拶するおキヌ。

「ちょっと待ったー!」そこに口を挟む横島(本物)。

「何?文珠が使えなくたって、霊波刀使えりゃ十分戦力になるわよ?」不思議そうに言う美神。

「いえ、そういう問題じゃないです・・・ただ!こいつに俺の美神さんやおキヌちゃんを奪われるかと思うと!」

「誰がおまえのモンじゃー!」ドッカーン!

吹き飛ばされる横島(本物)。

「まったく何いってんだか。美神さんは「同じようなこと言ったらシバクわよ」・・・なんでもないです」

美神のツッコミに冷や汗を流しながら言いとどまる横島(ドッペル)。

「はぁ、雇ったのは失敗かしらね・・・」

あきれてつぶやく美神だった。








その夜

結果として言えば、仕事は非常にうまくいった。文珠がないとはいえ、横島の霊力は一流。それに加え、コンビネーションも完璧ということもあり、普段の半分以上短い時間で除霊を終了した。

「いや〜楽だったなぁ。」「ああ」結局横島もドッペルのアパートに住むことになった為、狭い部屋に二人の横島がいる。ちなみにドッペルゲンガーはドッペルと呼ばれていた。

「ところでさ・・・」「ん?なんだ?」急に真剣なトーンで話し始めるドッペル。

「俺達・・・そろそろ人に頼っても・・・甘えてもいいんじゃないかな?」ビクッ!

「どういう意味だ?」

「おいおい、自分相手に知らんぷりしてどうすんだよ」苦笑するドッペル。

「ああ、そうか・・・そうだな」

横島はアノ事件以来、人に頼るのを避けていた。自分の力でどうにかできれば良かったという思いから、人に頼ったり甘えたりができなくなったのだ。しかし、その態度が周りに心配をかけていることも、また知っていた。

「確かにそうかもな・・・。でも、もうちょっと心の整理をつけないとな」「ああ、そうだな・・・」

その後、特に交わす言葉もなく布団に入った。






「しかし、まさか自分にそんなことを言われるとはね」「まぁ、俺は分身だからな。本物を助けてやるさ」
「・・・ありがとな、ドッペル」「自分にお礼を言われるのは気持ち悪ぃなぁ、気にすんなよ」

「「おやすみ」」








そして一週間がたった。仕事も順調に進み、今日はダブル横島だけで仕事を終わらせていた。

「よし、終わった。あ〜疲れた」

場所はとあるビル。ビルが丸ごと霊に占領されていたのだが、ダブル横島にかかり、キレイに除霊されていた。

時間は夕刻。窓から、綺麗な夕日が覗いている・・・。

「綺麗だな・・・」どちらともなく言う。しばらく無言の時が続いた。しかしその時、

「くらえ!!」「!」  ガキン!

ドッペルが横島に霊波刀で襲い掛かった。不意をつかれた形になった横島は反応できなかったが。しかし、そこに乱入した美神の手によって防がれた。

「う!?」

そしておキヌが札で動きを封じる。

「ど、どういうこと!?」うろたえる横島。

「どうもこうもねぇよ。俺はもう分身であることに耐えられないんだ!文珠の出し方は分かってるのに、出せない!みんなが俺を横島として見てくれない!・・・アイツとの思い出が、俺のものじゃないって思いたくない!おまえを殺せば・・・俺は俺だけになる」

「おまえ・・・」分身の抱えていた苦しみに驚く横島。

「こうなることは分かってたの」「え!?」美神の発言に驚く横島。

「ドッペルゲンガーについて説明するわね。やつらは、元々大気中に漂うただの霊気の塊なのよ。それが誰かの魂と繋がり、同じ様に自分を形成していくの。そして・・・やつらは必ず七日後に本物を殺すわ。例外なく。理由はどうあれ・・・ね。そして恐ろしいのは、やつらは魂で繋がっているから、下手に攻撃すると本物ごと死んでしまう。倒せるのは、本物を倒そうと繋がりを切り離したときのみ。その時に倒さないと、お互いに魂が足りなくなって共倒れしてしまうわ。そしてとどめは本物がさして、自分の魂を回収しないと結局本体も危ない・・・。」

黙って聞いていた横島が、その言葉にショックを受ける。つまり、自分に殺せと言っているのだ。

「そんな、そんなこと!、だってあいつは俺なのに」「いいぜ・・・」「なっ!?」

「いいって・・・なんで、そんな・・・」その言葉が信じられないという顔の横島。

「もうバレてた俺じゃぁ、横島にはなれない。分かってたんだよ。文珠をだせない時点で、俺は所詮偽物だってね・・・それに」

ドッペルゲンガーは美神とおキヌを見る。二人は・・・とてもつらそうな・・・悲しそうな顔をしていた。

「な?これ以上こんな顔させらんないだろ?」笑いながら言うドッペル。

「馬鹿やろう・・・おまえは俺だぞ?コワイのは分かってるんだよ・・・ちくしょう・・・」泣きながら言う横島。

「まぁ、しょうがねぇよ。それしかないんだ・・・ほら」「ああ、分かってる・・・」

「「じゃぁな」」   ズバッ!

横島の霊波刀がドッペルを切る。すると、ドッペルは・・・煙のように消えて行った。

座り込んで嗚咽する横島。その姿はまるで、アノ時のようで・・・美神もおキヌも声をかけられなかった。

(くそ・・・くそ!)精神的にボロボロの横島。さらに、吸収した魂が安定するまでまともに体も動かせず、立ち上がることもできなかった。

だがその時、ふと頭に声が浮かび上がった

『俺達・・・そろそろ人に頼っても・・・甘えてもいいんじゃないか?』

(ドッペル・・・そうか、そうだな・・・)

「美神さん、おキヌちゃん、肩かしてもらえます?」横島の言葉に美神、おキヌの表情が少し明るくなる。

「いいわよ」「はい!」

三人連れ添ってビルを出る。まだ綺麗に映える夕日を見ながら横島は思う。

(ありがとう、お前のおかげだよ。なぁ、お前は偽者なんかじゃなかったぜ・・・)

「ホントに今日は、あの日に負けないくらい、夕日が綺麗だ・・・」





人の去ったビルの中、かつてドッペルゲンガーがいた場所の床に、一つの球が落ちていた。

その、「伝」と書かれた球は、まるで少し前までそこにいた「人間」と同じ様に・・・煙となって消えていった・・・








夕日の綺麗な日、俺は自分を殺した。
        その日失ったものは、大事な友と、そして―
             人に頼るのを恐れる、臆病な自分の心だった

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