ザ・グレート・展開予測ショー

B&B!!(4)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(03/11/27)


走る俺とパピリオを追って来るかの様に銃撃は続いていた。少しずつ着弾場所がずれ、離れて行く。
遠くから「追い撃ち」などしていたら当然だ。これで分かった・・・奴さん、素人だ。プロの狙撃手なら
狙いを外したら「即、撤退」だ。
だが油断は出来ねえ。これだけ狙えるって事は、それなりの訓練も受けているって事だ。
それに・・・


『照準を合わせる。そこに写った標的が、両腕をぶんぶん振って歩く小さなガキだった。
まあそんな事は良くある話だ。
だが、そこで少しも躊躇わずに引き金を引ける奴ってのはな、四種類しかいねえんだ・・・
一つは、自分の名前もロクに言えないヤク中。二つは、俺の様な筋金入りのプロのスナイパー。
三つは、元々子供をいたぶって殺すのが大好きな変態野郎。
そして四つは・・・』

メドーサの弟子だった頃の一時期、組んで仕事をした事のあるスナイパーの言葉を思い出していた。
そいつは「今はない国」の狙撃兵だった男で、裏の仕事を何でも請け負っていた。
SPに囲まれた政財界の要人でも訓練された軍人でも・・民間人・・女でも赤児でも
躊躇わず確実に頭をブチ抜いて殺して来たとか、いつも自慢している様な奴だった。
そいつはある日、雑踏のど真ん中で子供に至近距離から何発も銃弾を撃ち込まれて死んだ。


パピリオが宙に浮かびながら言った。

「許さないでちゅ・・逆に捕まえて、やっつけるでちゅ!!」

「あ、おいっ!待てよ!・・・・うわっ!?」

どこからともなく集まった蝶の群れが俺の横を掠めて舞い上がり、空中のパピリオの周りを旋回していた。

「私の眷属達よ・・銀の殺意を辿り・・愚かなる凶手の許へ眠りと悪夢と破滅とを届けるでちゅ・・・
ジョンはこの子達の向かった先へ走るでちゅよ!止まった所に敵がいるでちゅ!!」

蝶の群れは細長い列を作り、猛スピードで一直線に飛び立った。
その先で何が起こるのか、俺は直接見てないが、横島や西条に聞かされた事があったので知っている。

「ちっ!・・・仕方ねえ!!」

  “気”を集める、固める、全身にそのイメージを纏う・・・



――――魔装術―――――――装着!!



―――地上から――人や物を避けながら――蝶の群れを追った。


  「ああっ!?な・・何だ、あれ?」  「危ねえなあ!畜生!」
  「特撮番組のロケ?」  「いや、ゲームショップのコスプレ店員だろ?」

このナリで人混みを突っ切ると当然ながら凄まじく注目を集めてしまったが、構ってられない。
見上げると、蝶達が200メートル先にある一棟の家電ビル、その屋上近くの非常階段に群がっているのが見えた。

そこだ!俺は跳躍し、人混みの頭上から鉄柱、看板などを足場に数メートルごとに飛び、非常階段へ。
そのまま駆け上がって屋上手前の階へ。そして臨戦態勢を取る。
ザコだろうが素人だろうが相手は神族、銃も扱える、油断は全く出来ない。
パピリオの眷族が「やりすぎて」いる可能性だってある。蝶達の鱗粉は猛毒の幻覚剤だ。
そして・・・子供相手にライフルの引き金を平気で引ける奴・・・一つはヤク中・・・二つはプロ・・・

階段上を舞う蝶達、その下にある物体・・誰かが倒れている。全身を小刻みに痙攣させ、
小便と吐寫物で汚れている。・・・ヤバい、やっぱり鱗粉が効き過ぎたな。このままじゃ、死んじまう。
構えを解いて、倒れているそいつに近付く。俺の手前に転がっているライフル。念の為、破壊した。

「おい。・・・おい?」

返事は無い。
鱗粉を吸い込まない様口に手を当てながら、うつ伏せに倒れているそいつの傍らに立ち、足で身体を引っくり返した。
40代位の小柄な男・・・人間だった。予想以上にヤバいな・・・ひょっとして致死量の手遅れだったんじゃねえか?
横島はこれ以上の鱗粉を食らっても何とか生き延びたが、奴とこの男とじゃ鍛え方が違うし、奴の助かった方j法・・
・・サイコダイブも俺には使えねえ・・あのチビは使えるかも知れねえが、やってくれそうにもないよな・・。

「・・・わりーけど、手荒く行くぜ?」

男の上半身を抱え上げ、活を入れる。かなりのパワーで続け様にやったので骨が何本か折れたかもしれない。
男は激しく咳き込み、更に嘔吐した。これで鱗分も抜けてくれると良いが。

「・・・後は、運次第だな。こっちは、てめーがくたばる前に聞きたい事があんだよ・・・。」

子供相手に引き金を引ける奴、・・一つはヤク中・・二つはプロ・・三つは変態野郎・・

狙撃主としてもそうだが、オカルト方面のプロでもあるまい。こいつからはどのような霊的防御も見られない。
そしてパピリオを銀弾で倒せると思っている辺りも。

「何故あのチビを狙った?何となくムカついたから、って訳でもねえだろ?一度人を撃ってみたかったけど
魔族なら罪にならないとか思ったか?・・・・・誰かに、頼まれたか?」

俺は男の胸倉を掴みながら更に問い詰めた。

「答えろ。・・誰に、頼まれた?・・人間か?・・そうじゃない奴か?」

子供相手に引き金を引ける奴、・・・・・・四つは・・・・・




  『狂信者、だ。』

「悪魔の飼い犬よ、我が信仰の力を知り、そして滅べ。」

男の手に安全ピン。上着の裏に見えるパイナップル。俺はそれを上着ごと毟り取って男を突き飛ばす。
自分も反対側へ飛ぶ。飛びながら叫んだ。

「――――パピリオ!・・頼む!!」

上着と手榴弾との周囲に、小さな異界への穴が展開される。穴が閉じる寸前の刹那に爆発が起こった。
強風で鱗粉が舞い上がり、蝶達の動きが乱れる。それを御する様に、空から彼らの主人が降り立った。

「・・・死んじゃった、でちゅか?」

「いや・・・・。」

立ち上がって男に視線を向ける。既に気を失っていた。
俺は奴が突き飛ばされ気を失う瞬間、放った言葉をはっきりと聞いた。


「・・聖霊天主様・・・」

男は間違いなく、そう言っていた。

神様の呼び名なんて掃いて捨てる程あるけど、そんな名前で呼ぶ連中は限られている。
朝っぱらから俺の住居兼事務所のドアをノックした顔色の悪い親子―監視じゃねえな。偶然、知らずに来たのだろう。
自分の教団が誰かの命を狙っている事も、その“標的”が俺と接触する事も――
・・天使長ミカエル・・姿をくらました神界の過激派・・「真神十字聖者友愛会」・・その繋がりも意図も、
俺には全く分からない。だが、何か大きな動きがあり、それに絡んでパピリオが狙われた。
そして、・・・サル・・斉天大聖・・の考えも何か不透明だ。単に甘やかして遊ばせたいだけの理由でこのガキの脱走を
そそのかしたのではない様にも思える。そして・・何故、俺がここにいる?人間・・いや、下級神族ですら軽くあしらう
パピリオの監視と護衛だと?

俺は倒れている男に、もう聞こえてはいないだろうが、語りかけた。

「一つ、いい事教えといてやる。・・俺は“飼い犬”じゃねえ・・・・一匹狼だ。」

そう、一匹狼だ。自分の意思で考え、行動し、戦う。訳も分からないまま誰かの指図に従ったり、
群れや成り行きに流されたりは決してしない。自分が信じるもの・欲するものは決して外から曲げられることは無い。
但し、信じた仲間を助け、背中を預け、協力し合うことも時には出来る。そんな一匹狼だ。


「きちんと“狩り”が出来まちたねえ。『えらいえらい』でちゅよ。ジョン」


・・・・・・・・・・・・。


「パピリオの愛情のたまものでちゅ。」

・・浮かびながら俺の頭を撫で、満面の笑みを浮かべているドチビに、俺は言ってやった。

「・・ “ジョン” はもうやめろ・・・俺には伊達雪之丞と言う名前があんだよ・・。」

「あれ、そうなんでちゅか?知らなかったでちゅ。」

「ママが付けてくれた名前だ・・これ以上俺をそれ以外のモンで呼ぶ事は許さねえ・・。」

「ハイハイ、名前は大事なものでちゅからねえ・・分かったでちゅよ。ジョン。」


・・・・・何を、どう分かったんだよ、テメーわ!!?


「さてと、ここから舞浜は近いって聞いてたでちゅけど、どの電車に乗ればいいんでちゅかね?飛んで行けば
一番早くて楽なんでちゅが、目立って見つかり易くなるからやめとけって、おじいちゃんに言われてるでちゅ。」

こんな事態にあってもパピリオの次の予定はあくまでも、「デジャブーランド行き」だった。
連中の存在に、その足を止める程の危険などこれっぽっちも感じていない。そして、俺・・悔しいがやはり、
俺一人で「力づくで止める」のは無理だ。
唯一有効な手段・・・奴が目を離した隙に、横島を通して小竜姫にチクる。
しかし、このまま行けば、奴と付きっきりだ。この非常識極まりねえクソガキを一人で遊ばせるのもイヤな予感が
プンプンする。・・誰かもう一人、奴の相手役がいるな。
猿の言いかけた言葉も気にかかる。もう一度、連絡を取ってみた方が良いだろう。
パピリオはポーチから出した「miniぴやmap」を何度も読み返していた。

「ふう、近いのにややこしい事ばかりでちゅね、この電車って奴は。・・でもばっちり分かりまちた!
それに今日は『へえぢつ』だから混まないそうでちゅ。早く行けばいっぱい回れるんでちゅよ。
・・こう言うのを『早起きは三文の徳』『善は急げ』とか言うんでちゅね?」

「いや・・・『平日』のかな間違ってるし、最初の格言違うし、『善』じゃねえし・・。」


・・・もう何からツッこんでやれば良いのか、分かんねえ・・・。


「うむ、とにかく急ぐでちゅよ。このまま駅に向かうでちゅ。良いでちゅね、ユキ?」

「・・・・『ユキ』!?」

その言葉で俺の身体の動きが止まった。パピリオは、そんな俺の様子に気付くと上目遣いで顔を覗き込んで来た。
その表情に不安が広がっている。

「縮めるのも・・・・・ダメなんでちゅか?」

「あ?・・・い、いや・・それは良いんだ・・。」





ゆき・・ねえ、ゆきくん、もうすこしあたたかくなったらデジャブーランドにいこうね。
ママががんばってつれてったげる。
デジャブーランドっていうのはね、とってもたのしいところなのよ。
そしてカリフォルニアにはこことちがってうみもあるのよ。それも、とってもおおきいの。
きっとすてきなところね。ゆきくんのともだちもいっぱいできるはず。
あのまちのうみはいつもくもってて、さむかったけど、あなたもきっときにいるとおもうわ。

カリフォルニアのあのとてもまぶしくてあおいうみとそらを。





遠い記憶。
子守唄のように交わされた、果たされる事の無かった約束。


「えへへ・・良かった。」

パピリオは笑顔を取り戻した。
そう言えば・・俺もこの年になって生まれて初めてだな、デジャブーランドは。
こういうのも悪くないかもしれない。この時、俺は何となくそんなふうに思い始めていた。
元気いっぱいに駆け出すパピリオの後について俺は足を進める。

「とりあえず、荷物は取りに戻れよ。あそこに置きっ放しだろ?」

このチビも楽しそうだし、これであいつを(見張り役としてだが)久しぶりに呼んでやって、3人で回れば
(勿論、その合間に通報する訳だが)、何だか・・結構悪くない感じのひとときってのになるかもしれないよな。

・・・このまま何も起こらなければ。



・・・当然ながら、「何も起こらない」筈なんて無かったんだけどな・・・・・。


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 Bodyguard & Butterfly !!
 (続く)
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何か、文章量の割に話があまり進んでないような気が・・(汗。

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