ザ・グレート・展開予測ショー

冬は訪れてろ ―後編―


投稿者名:veld
投稿日時:(03/11/25)








 ちゅんちゅん・・・

 朝が訪れる。
 希望の朝―――眩い光の中、誰もを爽やかな気分にさせてくれる小鳥のさえずりと共に。
 時計が指し示す時刻は六時―――。まだ、辺りは明るくはない。深遠の闇が窓の向こうに広がっている―――。朝、ではないかもしれない。彼は頭の中で、そう思った。
 冬なのに、物凄く元気な小鳥だったらしい。小鳩でない事は確かだった。何故なら、小鳩はここに―――。

 「・・・こ、こ、ここここここ・・・」

 ―――言いたい言葉は一言であるのに。

 「・・・う・・・ん、横島さん・・・こけこっこ?」

 なかなか言い出せないのは―――。

 「・・・ここここここここここここここここ小鳩ちゃん!?」

 動揺しているからなのだと、言ってから気付いた。

 「はい・・・?何でしょう?」

 何故か、腕の中に小鳩ちゃんがいた。
 服は着ている。昨日のパジャマだった。―――瞼を重たげに擦って―――
 ほよよん・・・そんな擬音の似合う言っちゃ悪いが、能天気な笑顔で見つめながら―――

 「横島さん・・・何ですか?」

 そう、のたまった。

 「な・・・何で、小鳩ちゃんがぁぁぁぁ!?」

 「横島さんが・・・抱きしめて来たんですよ?それで・・・」

 「・・・ご、ごめん!!」

 若干、怒ったような口調の小鳩から、ぱっ、と離れると、彼女は不機嫌そうに顔を歪め―――「駄目です!」と言いながら、まるで彼の事を、『朝に無理矢理剥がされた布団』でもあるかのように抱きついて来た。

 「寒いです・・・離れちゃやです・・・ぷんぷんです・・・」

 腹部に頬を寄せ、背中に手を回しながら、小鳩は抱きしめて来た。―――柔らかい感触を自覚して、横島は思わず叫んだ。

 「なっ・・・何か、小鳩ちゃん、キャラ、変わってるしぃぃぃぃ!!」

 動揺の所為で、結構お互い様だった。

 「・・・こ、小鳩ちゃん、駄目だ・・・こういう話にはつきものなんだけど、男には朝の生理現象って言うものがございまして・・・あっ、だから!?その!?離れてぇぇぇ!?」

 「駄目です・・・何だか胸に固いものが当たってますけど、無視です」

 固いものが何であるかはこの際無(以下略)

 「無視せんといてぇぇぇぇ!!いや、本当に、もう、我慢できなくなるし!!分かるでしょ!?こういう展開!?あの、その!?男は狼・・・とか、そういう歌がございましてぇぇぇぇぇぇ!!!」

 危なそうだけど、ギリギリセーフだと思う。(何が?)

 「知りません。小鳩、貧乏ですもん。流行なんて知りません。ふんだ!」

 「いや、すっごく昔の歌だしッ!!と言うか、やっぱりキャラ違うし!!は、離れて!!とにかく離れて!!あぁぁぁぁぁぁっ!!抱きしめちゃ駄目だってばぁぁあ!!何か滅茶苦茶柔らかいしぃぃぃぃ!!」

 何が柔らかいかはこの際無(以下略)

 「何だか大きくなってるけど、小鳩知りません。どうせ小鳩は貧乏ですもん・・・くすん」

 何が(以下略)

 「だぁぁぁぁかぁぁぁらぁぁぁぁああ!!」

 「先生!散歩に行くでござるよ!!」

 横島の駄々っ子のような叫びと共に、聞こえてくる、朝っぱらから元気の良い声―――。
 彼を先生と呼ぶものと言えば、いまだミニ四駆にはまっている、とことんまでに時代遅れな子供か、シロしかいない。

 「早ッ!いや、昨日、俺、三時に帰ってきたし、寝てないし!起きてみると何か物凄い状況だしで!!いや、シロ!入ってくるなよッ!?」

 「先生の部屋なのに・・・何か男の人がたくさんいるでござるよ・・・?・・・先生はいないみたいでござるな・・・それにしても・・・生きてるんでござろうか?皆なんか凍りついているみたいでござる・・・」

 「こ、小鳩ちゃん!お願いだから離して!」

 「ふにゅ・・・何だかちっちゃくなってます・・・」

 「いや、さ、触らんといて!!くっ、こ、こうなったら・・・!!」

 ポケットから文珠を一つ取り出して―――言葉を―――『脱』を刻む。

 「脱出・・・と、言うわけで・・・って・・・」

 光が消えたとき―――小鳩の身体は横島から離れていた。
 が―――
 ―――ぬ、脱いでる!?―――

 「ふあぁぁぁ・・・横島さん、おはよ・・・」

 うございます、と言いたかったんだろうなぁ―――横島は空っぽの頭で、それだけ考えて―――そして、空回りしつづける思考から、言葉を捜し、吐き出す。

 「こ、これは誤解で・・・!!」

 それが適正だったか、どうだったか、と言えば―――まぁ、ぼちぼち、と言う感じだった。―――どんな言葉にしてみても―――結局は無駄だったろうから。

 「・・・私はどうして、裸の横島さんの傍で寝てるの?―――で、どうして私は裸じゃないの?―――じゃなくて・・・え!?な、な、なななな、何で、どうして!?えっと、その、横島さん!?わ、私・・・横島さんなら・・・その・・・でも、もっとムードのある時、とか・・・貧ちゃんやお母さんのいる部屋の中で・・・とかはちょっと・・・」

 パニック状態になる小鳩―――シチュエーション、裸の男に教われる可憐な少女。
 誰が見てもそれは変わらないだろうし、そして、真実を知っている自分でさえ、そんな空気だなぁ、と思ってしまうような状況だった。

 「こ、小鳩ちゃん!!ご、誤解だってば!!」

 誤解だった。それは、間違いない。自分に言い聞かせるように、言う。―――が、やはり、彼女らには、伝わりそうにもなかった。―――彼女、ら?
 そう、彼女、ではなかった。―――彼女ら、だった。

 「小鳩!気にすることないで!」

 「そうよ、小鳩・・・私達は気にしないで・・・こほんこほん」

 「ふ、二人とも・・・(ぽっ)」

 小鳩一家、だった。
 しかも、とんでもないことを言っていた。寝起きが滅茶苦茶良いのか、瞬時に判断してしまったらしい。―――二人とも、にやにやと笑みを浮かべ、娘を祝福している。―――のだろうか?

 「おいっ!!横島ッ!お前なら小鳩を任せても良い言うてるんや!ちゃきちゃきせんかい!!」

 何を?―――心の中で叫ぶ言葉が虚しく散った。

 「あ、あほかっ!!お前はッ!!誤解だっつっとろうが!!」

 でも、良いかも。
 何て思ったのは生涯隠しとおしたい秘密にすることにした。

 「横島さん・・・小鳩を、幸せにしてやってくださいね・・・」

 涙ながらに訴える母―――が、その後ろ手に隠した目薬を見逃すほど横島は甘くなかった。―――見ないふりはしておいたが。

 「いや、だから人の話を聞けって」

 いや、聞く気はないんだろうなぁ・・・、と、確信めいたものを感じつつ。

 「よ、横島さん・・・私・・・頑張ります!」

 「なっ!?何をが、頑張るんだぁぁぁぁ!?」

 横島は叫んだ―――部屋の外のシロが気付くのはもう、いい加減と言えば良い加減だった。

 「先生・・・」

 玄関の方からした声に、横島は思わずそちらを向いた―――顔を赤らめながら、『頑張る』の具体案について色々と小声で呟いている小鳩を無視するのはかなりの精神力を必要とはしたが、一生の後悔をするよりは若干マシだった気がした。

 「シロ・・・!?」

 声で分かってはいた。が、姿を見ると、なおのこと彼女の存在を感じてしまった。
 そして、声に出して、また気付く。少女の身体は震えていた。
 コートはしっとりと湿り気を帯びている―――昨晩来ていたコートだった。プレゼントした、コート。

 「先生・・・拙者よりも・・・小鳩殿の方が・・・好きなんでござるな?」

 震え声は若干の潤みがあった。赤い前髪に遮られて、俯く彼女の顔は良く見えない。―――泣いているんだろうか?―――彼にはショックだった。

 「あっ!?いや、違う!!」

 出した言葉は真実―――けれど、それは比べられる事ではない、と言う意味で。

 「そ、そんな・・・違うんですか!?横島さん・・・私を・・・私を・・・」

 私を・・・から先が浮かばないのは、何もなかったから何だけども。
 シロはその言葉にびくんっ、と身を震わせた。
 怒りよりも、悲しみが波を打つように身体と心を叩く。
 唇を噛んで―――耐える。

 「泣くな小鳩!!・・・横島ッ!お前、見損なったで!?小鳩の気持ちを何だと思ってるんや!?」

 貧は叫ぶ―――。

 「小鳩・・・悪い男に騙される前で良かったわよ・・・そういう風に思って・・・横島さんのことは忘れなさい・・・」

 母は呟く―――。

 「横島さん・・・信じてたのに・・・」

 小鳩は嘆く―――。

 「先生・・・酷いでござるよ・・・」

 シロは責める―――。

 「ち、違うッ!!違うったらぁぁぁぁ!!」

 横島は泣いた―――。

 昨夜の内に止んだ吹雪―――冬なのに力強く泣く小鳥。
 とりあえず、落ち着きだした部屋の中。

 説明するには―――とりあえず、丁度良かった。










 「・・・と言うわけで・・・」

 「何がと、言うわけで、なのか分かりませんけど・・・」

 困ったような顔を向ける小鳩と小鳩の母、苦笑いを浮かべる貧。むすっとした表情を浮かべるシロ。

 「とりあえず・・・誤解だってことは分かったけどな・・・横島」

 含みを持たせてはいるが、特に続く言葉も無い。―――自分の非を認めるにしても状況は明らかにそれっぽいものだったから、納得はいかない。誤解されて当然なのだ。非を認める必要はないだろう―――が、生来、人が良い、と言える彼に取ってみれば、やはり誤解してしまったことは非に違いなかった―――

 「人の事好き勝手言いやがって・・・」

 「いや、ははは・・・それは、その・・・なぁ?」

 だから、彼の最もな言葉に何を言い返すことも出来ず、苦笑をただ浮かべるだけだった。

 「でも、横島さんも悪いんですよ?」

 そんな貧に助け舟を送るわけでもなかったが、母は呟くように言った。悪い男に騙され云々は正直言いすぎたなぁ、とは思っているが―――。

 「そりゃ・・・『脱』の文珠使ってどういう事が起こるかを考えなかった俺も悪いんですけどね・・・」

 溜め息をついて、横島は思う―――信じてくれて良かった。と心から。
 ―――これが美神さん相手だったとしたら、間違いなく殺されるよな。言い訳言う間も与えられずに殺される。と言うか、そうだよな。言い訳言う気にもならないよな。だって、聞く気ないこと、分かるもんな。うん―――
 うんうん、と腕組みをしながら何やら頷いている横島から目を離し、小鳩はシロに声を掛けた―――。シロは、むすっとしていた。彼の言葉を聞いても、なお。

 「あの・・・何でシロちゃん・・・むすっとしてるの?」

 シロは小鳩からぷいっ、と目を逸らした。―――そして、横島に尋ねた。

 「・・・先生、どうして小鳩殿の部屋の泊まったんでござるか?」

 説明はしていた―――が、夢の事は抜け落ちていた。
 男だらけで、蟻の通る隙間も無いほどの部屋の中で寝るのが嫌だから―――それだけしか、彼は話していなかった。―――が、それ=小鳩の部屋で寝る、と言う選択肢はシロの中ではありえてはならないものらしかった。
 というか、当たり前では、ある。

 「だ、だから、それは・・・」

 「納得いかないでござるよ!」

 「そ、それはだな・・・!!男ばかりの部屋の中で寝たら、だ―――もしも夢を見たときに洒落にならないことが起こったりする・・・かもしれんから・・・」

 「夢?」

 「夢ってなんですか?横島さん」

 「・・・いや、それは、その・・・」

 「横島・・・お前・・・?」

 「な、何だよ?」

 「そう言えば・・・どうして、横島さん、私を抱きしめてたんでしょうねぇ・・・?」

 「げっ・・・」

 「小鳩ッ、シロちゃんッ!横島を抑えてくれるか?」

 「分かったわッ!」「承知ッ!!」

 「なっ!!おい、離せ!!こらっ!!ちょ・・・ちょっ!!小鳩ちゃん!!む、胸がぁぁぁぁ!!」

 「先生!!そんなに胸が大きい方が良いんでござるか!?どうせ拙者は」

 「よ、横島さん・・・ば、馬鹿ぁ!」

 「・・・では・・・見せてもらうで・・・お前の夢を・・・!!」

 「なっ!!何をする気だっ!?貧ッ!?」

 「・・・ただ同然で手に入れた魚のあら、豚の背油から出汁をとり、おからをハンバーグにして具材にし、そこに秘密の液体3ccを加えた・・・とっても素敵なスープ」

 「おいっ!!その秘密の液体って何だッ!?何かすげぇにおうぞ!?っていうか主成分それだろッ!?それの所為で本来は美味いものであろうスープが相当駄目になってるぞ!?コラッ!?」

 「呑めッ!!」

 「呑めるか!!ってがふごふげふ・・・ごくん・・・(がくっ)」

 「・・・落ちたか」

 「び、貧殿、さっきの薬は・・・」

 「な、何なの!?また、しめさばばーがーとそういうのの仲間なの!?」

 薬の刺激臭が鼻にはきついのか―――シロは鼻を抑えて―――これ以上、ゲテモノで収入源を作りたいとは思えない、正直!と、言う心境の小鳩―――の、二人の声をまるで無視して、貧は尋ねた。

 「・・・横島ぁ・・・夢の内容を・・・教えんたらんかい」

 「―――はい。俺が見た夢は・・・」










 膨れっ面のシロから花束を受け取った俺は。
 その花束を宙に放ります。
 虚空を見つめるシロの頬を両手で引っ張って。
 ふにふにぃ、と動かします。
 縦横無尽、どこまでも伸びる頬―――と、言ったら大げさだけど。
 柔らかくて、弾力があって、ふにふに。
 触って、伸ばして、捏ねて。
 んで、離すと、シロはぷんぷんと怒ってて。
 で、当然、顔を背けて。
 被ってた麦わら帽子の縁を抑えて―――
 んで、舌を出すんです。

 「先生なんて、嫌いでござるよ!」

 そう、言いながら。
 で、俺は慌ててしまって、どうすりゃ良いのかわかんなくって。
 って言うか、どうしてあいつが怒ってるのか分からなくって。
 夢の中だから、だからだと思うけど。
 変な考えが浮かんできて、それで。
 俺はそれが間違いないと思って。
 向日葵を指差すんです。
 「そんで、綺麗だッ!」って言うんです。
 彼女は唖然とした顔をした後で。
 微笑を浮かべるんです。
 「先生?」
 何か、おかしそうに笑いながら尋ねながら。

 『向日葵はお前の色・・・すげぇ、綺麗だ』

 ―――そしたら、あいつが・・・その、抱きついてきて。
 俺も、その、抱き寄せて。

 いや・・・それが夢です」



 「・・・ほー」

 「・・・横島さん」

 「せ・・・先生・・・」

 三者三様。
 貧は特に何を思うでもなく、声を漏らし。
 小鳩は目を見開いて、口に手をやり。
 シロは顔を真っ赤にして、横島をじっと見ていた。

 「・・・小鳩・・・泣くんじゃないわよ!銭の花はあぁぁぁぁ!!」

 小鳩の母は、叫んでいた。

 「いや、それはわしの・・・」

 貧は不満げだったが―――。



 「負けました・・・シロさん」

 「え?」

 小鳩はシロに微笑むと、泣き出しそうな表情を浮かべ、言った。

 「横島さんは、夢に見るほど、あなたの事が好きなんですね・・・」

 「・・・そ、そうみたいでござるな!」

 シロはまだ、陶然としている様子で、頷いた。

 「・・・くっ・・・今日のところは引き下がります」

 「今日のところは・・・でござるか?」

 「くっ・・・負けないッ!小鳩は負けません!貧乏だけど、清く正しく美しく!!小鳩は負けません!天国のお父さん!私は負けませんからあぁぁぁぁ!!小鳩はぁぁぁ小鳩はぁぁぁぁ!!幸せになってみせますぅぅぅぅ!!」

 小鳩の咽喉から空気を震わせ響いた言葉が天国のお父さんに届いたか、定かではないが―――少なくとも、ご近所から応援してもらえそうなのは間違いなかった。






 ただ―――横島の感情のない声が部屋に虚しく響いた。

 「いや、だから、キャラ違うって」



 ―――横島の部屋で寝ていた彼らはパトラッシュの手招きに応じるべきか否か、迷っている真っ最中だったりした。











 終われ。

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