ザ・グレート・展開予測ショー

悲劇に血塗られし魔王 29


投稿者名:DIVINITY
投稿日時:(03/11/21)




歪曲した空間に呑まれた俺は気づくと見知らぬ何もない所で多勢の敵に囲まれていた。
神族・魔族が一丸となって俺を敵視している。
どうやら俺の戦闘はまだ終わらないようだ。





横に構えた槍を走らせた。
切っ先が敵の白い前歯をへし折り、砕き口内に侵入する。
そのままさらに一歩踏み込む。
地面を踏み抜くような勢いで、身体を滑らせ口内から後頭部にかけ槍を突き抜く。
掌に肉と骨を砕き裂く感触がヌルリと絡まり骨を舐めあげた。
敵が盛大に血を吹き出す。
その血を浴びながら両の手に力を入れ横に振りぬく。
頬肉と顎の骨が砕け空を舞う。
その光景を見る余裕などなく、次の敵が襲い掛かってきた。
俺は大きく後ろに飛びのきつつ、魔力砲を敵に撃つ。

バグオオオオーーーーーン!!

爆音とともに現れるは顔半分に崩れ、懺悔するように倒れる敵。
俺は槍を長く持ち、縦に一閃。
迷いなどありはしない。
ただ純粋に目の前の敵を斬る為に振り下ろされた一撃は狙い違わず、敵の身体を右と左ちょうど半分に分断する。
飛び散る血と肉はさながら花火のよう・・・・
それを見て俺の思考は弾けた。

そうだ

                         ソウダ

        死ねよ
       
                  死ニ絶えレばイイ


   醜ク蠢クそレに何ノ価値モなイ


殺してやろうか    
    
              殺してやるよ 

   嗚呼、殺してやるよ


狂気 悦び
命を奪い殺し貪りつく悦び。
何もかもを血に染めて、悦に浸る最高の気分。

いつの間にか肌に爪が食い込み、血が腕から滴り落ちている
目に映る赤い液体。
それは俺に何もかもを奪いたくなる衝動を齎す。

欲しい、奪イタい、独占シタイ ・・・・・・恋シイ

あの人を、その人を、あれもこれも、何もかも俺だけのものに・・・・・

我慢できない 

        ガマンできない 

                 我慢デキナイ

                         デキルハズガナイ

可笑しくてたまらない。
自分の力によって豚たちが転がり、血みどろになり泥の中を這いずり回るのが楽しくてたまらない。
自分の能力によって他人を殺し、命を奪いその輝きと未来へ続く道の全てを奪い、死を連ねていくのは俺を絶頂へ導く。











「はああはっ、はあははははははっはははははははッ!!!!」









俺は声帯が震え狂うまで声をあげて笑った。
喉だけじゃない。
身体の全てを使って笑う以外忘れた玩具のように、声をあげ笑った。
そんな俺に恐怖したのか敵達の腰が引きつっている。
俺はそいつらに槍を振るう。
眼孔の裏から炎の朱がにじみ視界が一色に染め上げる。
それを見たら頭に火がついたように熱くなり、呼吸の仕方を忘れたように息が苦しくなった。

―――まるで何か大切な事をどこかに置いてきてしまったようだ・・・・

だが、それが何かなど気になどならない。
敵を屠るにつれ、まるで圧縮した快楽が弾丸になって脳に撃ちこまれたような高揚感が身を包んでゆくのだ。

あとは一方的な『残虐の饗宴』。

























全てが終わって、ドラッグを浸かったかのようなあの高揚感が次第に消えていく。
俺の周囲には嘘みたいな・・・・・
冗談の上にさらに冗談を塗りこんだような光景が広がっている。
俺の座る下は何十体もの死体の山。
そしてそれを中心に広がるのは死体の絨毯。
死体、死体、死体、死体・・・・・・・

―――地獄とはこういうものを言うんだろうな。


ギシギシギシッ!

世界が軋みだした。
この世界は架空のもので、それを維持していた神族はもはや血に沈んでいる。
ここにいたら世界の崩壊に巻きこまれてしまうな・・・・・

手に多大な魔力を集める。
集まる魔力はやがて結晶化して黒に蒼の混じった綺麗な球体になった。












『戻』
















夢幻にある星屑―――

浮かぶ満月の光は雲ににじみ、外郭をはっきりと映し光のベールを作り出す。

―――儚い幻想の美しさを持つミストムーン。

視界を埋め尽くす夜空は今の俺に心地よい安らぎを与えた。

・・・・もう少しこの夜空を眺めよう。風を感じよう。今だけは誰にも邪魔されないんだから。

意識に霞がかかる。

瞼が自然に下りる。

俺は夜空に抱かれ、眠りについた。



























視界を埋めるのは昏闇―――
急に目隠しされたように何も見えない真っ暗な世界。
暑くも寒くもない。
息苦しくも無い。
狭いわけでもない。
身体が拘束されているわけでもない。
声も出せる。
歩ける。
耳も聞こえる。
不自由なのは暗すぎて目が見えないことだけ―――
まるで見しらぬ世界に迷い込んだようだ。

背後に気配がして振り向く。
そこには焚き火のような仄かな光が揺れている。
それはまるで鬼火のようにゆらゆらと宙に浮いていた。
俺の足は自然に光に吸い寄せられる。
鬼火は近づくとその正体を晒した。

それは赤い・・・・・目玉。

その目玉がどんどん増えていく。
・・・・加速度的に増えていく。
俺はその目玉の正体に気づく。

―――これは俺が殺した者達の目だ・・・・

目玉は瞬きもせず、ずっと俺を観察している。
数は今も増え、その限界を見せない。
目玉の表面にびっしりと罅のように毛細血管が根をはり、瞳孔が伸縮を繰り返した。

―――待っているのか・・・・

俺は両手を軽く広げる。
瞬間、数多ある目玉が俺に襲い掛かる。

同化、同化同化、同化同化同化・・・・

俺の皮膚と同化し、罅のような毛細血管がピンク色の肉と混ざり合う。

一つ、二つ、三つ・・・・・

足から、太股、お腹、腕、肩・・・・

目玉が俺の皮膚に潜り込む。
目玉はぎょろぎょろとせわしなく動き回り、歓喜を俺に伝える。
ついに目玉がある一部分を残し、俺を埋め尽くした。









ドシュ、ドシュ、ドシュ、ドシュ、ドシュ!!!!










足から始まり連鎖的に目玉が破裂をみせ、血が吹き出す。
俺の身体という身体から壊れたスプリンクラーみたいに血が噴出する。
その血はまぎれもなく俺の血。
痛みはある。

でも、そんなことより今は・・・・・

目の前に蒼白い光があった。
俺はタールみたいに粘りつく自らの血を踏みつけ、その光に向かう。

「お前も俺を恨んでるってのか・・・・・」













「ルシオラ」














その蒼白い光の正体はルシオラだった。
彼女は悲しみの涙を流しながら、でも笑って・・・・

「胸が痛いよ・・・・横島・・・・とても痛いよ」

ルシオラの胸が裂ける。
胸から鮮血が溢れ、彼女の服を真っ赤に染めていく。
俺は彼女を抱く。

「御免、御免な・・・」

お前を救ってやれなくて・・・・・
命をかけて救ってくれた俺がこんなになっちまって・・・・・

様々な意味を込めて俺は謝る。

「ねえ、横島・・・・」

「何だ?」

「あの時、何で私を選んでくれなかったの・・・・・」

アシュタロスが「世界」と「ルシオラ」のどちらをとるかの選択を迫ったときの事か・・・・
お前はあの選択を恨んでいるのか・・・・

俺はルシオラにたいし、笑う。

「俺が浮気者だって知ってるだろう」

その答えに今まで見てきたどの笑顔より素晴らしい笑顔を俺に向けてくれた。

「横島、顔を・・・」

俺はルシオラが何をするかすぐに気づき、顔をルシオラに近づける。
ルシオラは手を俺の頬に当て、優しくキスをした。
俺も彼女に応える。

―――永遠にも似た数分の幸せ。

ルシオラの身体が崩れ始めた。
この夢が終わりを迎えているのだ。

「横島・・・・」

「んっ?」

「あなたなら魔王の『欲』に勝てるわよ。頑張ってね」

そう言って、目玉が覆う事は無かった唯一の部分、額に唇をあてた。

―――これが最後の同化。

























目が覚めた。

場所は変わっていない。

俺は額に手をあてた。

「お前が応援してくれる限り、俺は頑張るよ」

これは誓いではなく、決定事項。






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