ザ・グレート・展開予測ショー

B&B!!(1)


投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(03/11/19)




コンコン


「はい、どうぞお入りください。」


コンコン


「はい、どうぞーー。開いてますよ?」


コンコン


「・・・・・・・」


俺は立ち上がるとドアの方へ行き、こちらから開けてやった。
顔色の悪そうな中年女と子供の二人連れ。パテで貼り付けたような笑顔を浮かべている。
金回り悪い時の俺や俺の友達程ではないだろうが、あまりメシとか食ってなさそうなツラだ。

「お早うございます。今日はですね、あなたに神の言葉を伝えに参りました。」

「・・どこの?」

「・・・は?」

「どこの神で誰だ?俺に直接話を持って来そうなのって言ったら妙神山関係か・・
あと、唐巣のおっさんやICPOの西条経由でヴァチカンか・・
で、あんたは?見た所ただの人間の様だけど、代理組織の人?」

「ええと・・聖霊天主様です。
私たちは聖霊天主様のお言葉を伝える『真神十字聖者友愛会』と言いまして
この混迷と苦難の時代に・・」

「だから、聖霊の誰だ?サ・・老師や小竜姫とは関係ねえのか?ヴァチカンからの仕事か?
普段間に入ってるGS協会やICPOはどうした?あんたらがその下を請け負ってるのか?
で、何が起きた?こうやって俺の所に代理人が来るって言うんだから、またあまり表に出せない
揉め事だろうがな。・・また、封印されてた魔族が逃げ出したのか?
それとも、どこかの司教がとち狂って無害な妖怪や半妖を狩り始めたか?」

「あのー・・・・・?」

「他にも呼んであるのか?確かに俺は一匹狼が基本だけど、一人では出来ない事や、
誰かに背中を預けて戦うべき時があるって事も知っている。呼んであるのならすぐ紹介してほしい。
そいつらと信頼し合えるのかどうか、急いで判断しなくちゃいけないんだ。
それに、あいつら神族からの依頼は迅速に行動しないとヤバい案件である場合が多いからな。」

「いえ・・その・・、お忙しい様ですので今日の所は失礼致します・・。ではまた・・お大事に・・。」

「あ・・・おい?」

顔色の悪い中年女はパテで貼り付けた笑顔を引きつらせ、無表情なガキの手を強く引っ張ると
早足で去っていった。俺はソファーへ戻ると、読書の続きに戻った。
何の保証もないフリーランスの俺にとって本をたくさん読める暇が有るってのはあまりよい事ではないのだが、
学校に全く行っていなかった俺は30歳を過ぎた今になっても社会的な一般教養という奴が大きく欠けている。
勿論、生きて行くのに必要な知識や常識、この商売に必要な知識は今まで凌ぎながら何とか手に入れてきた。
今までの俺にとってはそんなものより技術、そして力こそが重要だったし、それさえあれば十分だった。
今までは。

例え金持ちじゃなくたって、由緒正しい御立派な家柄じゃなくたって・・多分俺が父親になったとしても、
小学校も出ていない、身元経歴不明の奴に娘を預けるってのは気分いいもんじゃねえだろうなあ・・。

大きな喧嘩別れをしてその後他の相手と付き合ったり一人でいたりして元鞘に、そんなことを二、三回繰り返し
ながら通算十数年の付き合いになるが、一度もあいつの実家に行った事はない。
どんな人物なのか散々聞かされていたあいつの父親の顔を直接見た事もない。もっとも、今会いに行った所で、
互いの評価に進展が見られるとは考え難いが。この年になってもあいつと俺の結婚が許されていない事が、
彼の俺への評価がどのようなものであるかを物語っている。
最近ではあいつとの会話にすら支障が出て来る様になってきた。次期当主として政府や財界の大物、警察や
自衛隊、ICPO、GS協会と家との交渉を行い、財産管理も任される様になって来たあいつの抱えている問題、
悩みや考えを理解できない。

少なくとも「今の首相が打ち出した財政案と税金の新法案が何をどうするって内容なのか」
ぐらいは分かる様になっておかないとな。
数ヶ月前まで仕事不足で持て余していた暇も、こうして見ると有意義な惜しむべき時間だ。

読みかけの本をめくりながらさっきの母子連れの事を考える。いくら俺でもあれを本当に神界からの連絡だと
思う程、モノを知らない訳ではない(先にも言ったが生活上必要な世間知は人並み以上にあると自負している)。
神を頼るどころか頼られ、時には向こうにまわすGSの現実という奴を垣間見せて・・まあ、からかってやっただけだ。
―――「頭の可哀相な人」だと思われたっぽいがな。
あの母子は家々を一通り回ったら普段街で見かける親子のようにファミレスで大盤振る舞いしたりするのだろうか。
家に帰って温かい料理を作るためスーパーに寄ったりするのだろうか。新しいゲームソフトをチェックして買って行ったり
するのだろうか。何となくあの母子はそう言う事は一切しないような気がする。

「『真神十字聖者友愛会』か・・」

何となく聞いた事がある。信者に清貧を説き、それを理由に多額の寄付金を要求。また様々な戒律で信者の生活を
管理し、コントロールする。信者たちは監視し合い、そのすべての個人情報を教団に握られる。
あの母子は貧乏そうでツイてなさそうで二人っきりで当てもなく歩き回る所だけは、昔の俺に似ている。
昔の・・記憶にも殆ど残らない・・まだ上手く歩けもしないほど幼かった俺と、ママに。
だが、あの母親は「聖霊天主様」と隣のガキのどちらかを選ばなければならなくなった時、一体どうするだろうか?


コンコン


「はい、どうぞお入りください。」


コンコン


「はい、どうぞーー。開いてますよ?」


コンコン


「・・・・・・・」


今日は、慎まやかな来客が多い。こっちが「どうぞ」と言っているのにドアを開けないのが礼儀正しさなのか
どうかは知らないが。
俺は立ち上がるとドアの方へ行き、こちらから開けてやった。
顔色の悪い若い男・・・「顔色が悪い」とか言うレベルではない。血の気も表情もなく、土に還りかけている顔だ。
左右の目の焦点もばらばらに斜め上を向いている。
俺はこういう奴を見たことがある。かつて友達だった男が俺を敵に回した時引き連れていた雑兵がこんな感じだった。
・・・人間ではない。生きて意思を持った奴ですらもない。
男は、半開きにしていた口から言葉を搾り出した。目線は斜め上のまま、小刻みに震えながら。

「ダ・・ダ・・伊達・・雪・・之丞サン、デスネ・・・?」

「そうだ。」

よくみると、意外な事に、死体を操ってのゾンビでもないようだ。もっと作り物っぽい。
奴が口を開くと、全身から妖気が発散された。明らかに魔に属するものだ。しかし、その中に、俺に馴染みの深い
“あの場所”の神気が幾分混じっているのを発見した。そして・・魔の気配の方も見覚えがある。

「会ッ・・テ貰イタ・・イ方ガ・・イマス・・ツイテ・・キテイタダキマス・・」

「嫌だと言ったら?」

「本人ガ・・来マス・・ソノ方ニ・・アナ・・タハ嫌トハ言エ・・ナイ」

ヒネた事言って奴に押しかけてこられても困る。このマンションも結構ボロいんだ。
奴がここに来ているという事は・・あいつらも無関係ではないのだろう。

「で、どこに行くんだ?」

「ア・・ア・・秋・・葉原・・」

「・・・・・あ!?」

しばらく考えて、以前、友達が俺に教えてくれた事を思い出した。
奴はゲーム好きだ。そしてデジャブーランドに行きたがっていた。


(続く)

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