ザ・グレート・展開予測ショー

悲劇に血塗られし魔王 28


投稿者名:DIVINITY
投稿日時:(03/11/19)




ベスパは恐怖していた。
冷たい水で浸ったように身体の震えが止まらない。
数多くの戦闘を経験してきたが、これはそのどれより異質だ。

―――息が。

―――顔が。

―――瞳が。

―――存在が。

今、そんな敵を相手に立ち回らないといけないと思うと寒気が何度も走る。
逃げて、どこかの陰で悪夢が過ぎ去るのを待ちたい気分だ。
だが、やらねばならない。
蒙古斑のとれてない子供じゃないんだ。
息を吐き出し震えを止めると、周りを見る。
最初に目に付いたのはワルキューレ。
途中参戦してくれた彼女もまた、この恐怖に顔色は優れないがでも戦闘ではちゃんと動いてくれそうだ。
問題は・・・・パピリオ。
彼女は恐怖に耐え切れず、涙を流してしまっていた。
戦闘では役に立ちそうにない。

(せめて足は引っ張らないで欲しいものだ)

ベスパは一通り戦力を確認すると、強大な敵に目を向けた。
ズルベニアスという名前があるらしいが、今となってはそれも疑わしい。
それほどまでに最初の姿とは変容していた。
まず身体だ。
元の身長より三十cmは下回っているし、しかもスリムになっている。
次に目だ。
決して充血しているわけでなく、純粋に赤く輝いているのだ。
そしてこれが最後なのだが・・・・・髪の毛。
あの禿げっぷりはどこへやら、今はふさふさのロングヘアーになってしまっている。
全体的に見ると、厳ついおじさんが美男子に姿を変えたという評価になる。
そんなあまり力強さを感じさせない彼だが、一つ異色な点があった。

―――圧倒的な「死」という名の存在感。

彼はその身にまるで「死」を宿しているかのようだった。
最初の彼の姿は体躯で人を威圧していたが、こちらの姿はその存在感で威圧する。
どっちが良いかなんていちいち論議するのも馬鹿らしい。

(あの女、一体奴に何をしやがったんだ!)




ベスパがパピリオを救出したあの時、一時膠着状態に陥った。
どう攻めあぐねるか両者共に決めかねていた為だ。
その時だ。
「女」が現れたのは・・・・
彼女はベスパ達を無視して、ズルベニアスのみを見ていた。
ズルベニアスはその彼女を見て何故か酷く動揺して、己の傷が浮き彫りになったかのような悲しみの顔で「止めてくれ・・・」と懇願をし始めた。
ズルベニアスが彼女に何を見たのかは不明だが、ズルベニアスに異変が起きたのは間違いなくそのせいだった。
異変により、彼の身体が変化するのを「女」は満足気に見ると、初めてそこでベスパ達に視線を移した。
ベスパはその一部始終を見た上で、彼女に対しこう評価した。

(絶世の美女ならぬ、絶世の悪女だな)

ちなみにワルキューレの参戦は「女」が姿を消して、すぐの事だ。





ズルベニアスの目がベスパを睨んだ。
瞬間、この緊迫とした待機が鎖のように手足の自由を奪う。
まるで魂が彼の瞳に射抜かれてしまったようだ。

「ふうぅぅぅーーー!!」

息を吐き、それと共に恐怖を追い出す。
そしてバックステップして距離をとる。
勝負は一度きり。
自分の持つ最高の一撃を奴に食らわせてやる。
ワルキューレの援護を期待し、己の右足に魔力を籠める。
一気に溜めず少しずつ少し溜めていく。
その方が攻撃した際の威力が爆発的に上がるからだ。
だが、敵は悠長に待ってなどくれない。
ゆっくりとだが敵が動き出す。

ダガダガーーン!!

銃の連射音。
ワルキューレが敵の背後に回って狙撃したのだ。
敵が背後を振り返る。

(今ッ!!)

身体を限界まで捻り、足をしならせ、刃のように鋭い蹴りを放つ。








―――ッ!!








小石のように空を舞った。
肺が衝撃を受け溜まった空気を吐き出させる。
喉は痺れ、上手く酸素が吸えなくて苦しい。
右脇腹の骨がどうも逝ったみたいだ。

―――見えなかった。

―――感じもしなかった。

―――気づけば空を舞っていた。

(力が・・・・・)

(力が欲しい・・・・・)

「ベスパちゃん!!」

パピリオが叫ぶ。

だが、ベスパにその叫びが届く前にズルベニアスの指がベスパの腑を食い破った。












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目の前にはただ真っ赤な・・・・・
真っ赤に染まってしまったベスパがパピリオの胸で眠っていた。
パピリオは俺に気づかず、一心不乱にベスパを呼び続けている。
ワルキューレが俺に近寄ってきた。

「横島・・・・」

「パピリオ達を頼む」

それだけを言って、ズルベニアスと相対する。
ワルキューレは俺に何も言わなかった。



そしてすぐに俺とズルベニアスの二人だけになる。

「・・・・随分変わったな、ズルベニアス」

「・・・・・」

「ピートが儚い美青年なら、お前は差し詰めその威圧感の余り孤独になった寂しい美青年ってとこだな」

「・・・・・」

俺は空中にいながら空を舞った。
ズルベニアスが俺にアッパー気味の拳を振るったのだ。

「・・・・」

吹っ飛ぶ俺を追走して、持っている斧を振るってくる。
それを槍で防いで、ズルベニアスの胸板を蹴ってその場を離脱する。

「ズルベニアス、そんなに俺と戦うのが待ちきれないか」

俺はズルベニアスに対し笑う。
それこそ最愛の人に会うかのように・・・・

「実は俺もなんだ。戦いたくてしょうがない。心が、本能がお前の血を求めてる。ズルベニアス、俺をこんなにした責任とってくれよな」

血が沸き立つ。
歓喜に身が震える。
これからの戦闘を考えると笑いが止まらない。

「さあ、始めよう」

俺と戦い踊りあかそう、ズルベニアス!












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「そちらの事情はよく分かっています。ですが何度も言ってますとおり、事態は危急を要しているのです」

機械に埋め尽くされた部屋。
右を見ても、左を見ても、上を見ても、下を見ても何らかの機械、またはコードが走っている。
そんな大仰な部屋に一人の女性がいた。
女性はここ何日もずっとここに入り浸ってある所に連絡を取っている。

「ええ、申し訳ありません。こちらの手はずが整い次第・・・・ええ、ええ、お願いします。はい、ではこれで失礼します」

だが、それも今日で終わり。
話し合いは上手くいき、ひとまず安堵の溜息をつく。

(目上の方と話すのってやっぱり疲れます)

ずるずると壁に寄りかかるように倒れる。
緊張の糸が切れ、疲労が一気に襲い掛かったのだ。
瞼が重い。
・・・・・このまま眠ってしまおうか。
それもいいかなっと思う。
自分の仕事も終わったんだし、何より誰もいないのだから。
誘惑に負け、瞼を閉じる。
あとは、心地よい世界が訪れるのを待つだけだ。

「悪いけど、まだ寝ないで欲しいのね〜」

その声に意識が急速的に目覚める。
・・・・・人払いの結界をはってたはずなのに!

「意外と早い再会になったのね〜」

(あれ、この声は・・・・・)

瞼を開く。
再びもう見慣れた光景が網膜に投射される。
でも、さっきとは違ってその光景の中に自分とは違う一人の女性が立っていた。

「小竜姫、久しぶりなのね〜」

もはや会う事は諦めていた旧友がそこにいた。










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空は青かった。
太陽は元気に輝いていた。
白い綿菓子のような雲は自由だった。
こんな非の打ち所のない空が目の前にあるのに・・・・
手を伸ばせば真っ青に染められてしまいそうな綺麗な青空があるというのに・・・・

「ちぇいいいいいーーーーー!!」

そこは血みどろの戦場だった。

ギィン!

槍の刃先と戦斧の刃先が打ち合わされ火花が散る。
その火花は吸い込まれそうなほど綺麗だというのに二人は見向きもせず、ほぼ同時に蹴りを繰り出す。

「おらおらおらーーー!!」

拳、頭突き、肘打ち、膝蹴り、体当たり・・・・
ありとあらゆる攻撃をほぼ同時に繰り返す。
まるで鏡像と戦っているかのように・・・・・
だが攻撃手段を変えようなどとは思わない。

―――面白いのだから。

―――楽しいのだから。

―――可笑しいのだから。

だから二人とも止めない。

「これでどないやーーーー!!」

俺の回し蹴りがズルベニアスに当たる。
と同時に、ズルベニアスの回し蹴りが俺の腹にめり込む。
でも、一歩もたじろがない。
槍で横に薙ぐ。
ズルベニアスはすかさずそれを斧で上から叩き下ろす。
俺とズルベニアスの唯一の違いは武器。
故に武器での攻撃は自然と違いが出る。
だから勝負が決まるときとは、武器を使った攻撃のときだろう。

「まだまだーー!!」

槍の利点である長さを活かして、何度も突く。

「・・・・ッ!!」

ズルベニアスは避け、弾き、悉くをさばいていく。
俺は攻撃を仕掛けながらズルベニアスに話しかける。

「いいなあ、楽しいなあ。ズルベニアス、お前も楽しいだろう。楽しかったら、笑うものだぜ。ズルベニアス、笑えよ。共にこの楽しさを分かち合おうぜ!」

ズルベニアスが無い地面を蹴って、更に空高く飛ぶ。
斧を思い切り振りかぶっている。
かなり重い一撃が俺に放たれようとしている。
俺は槍を斜めに構え、ズルベニアスめがけ突貫する。















一瞬の交錯!















「・・・・」

右肩から臍までを手でなぞる。
血がべっとりと手に附着している。
背中まで届きそうな裂傷が身体に刻まれていた。
槍の刃先を見る。
そこにもべっとりと血がついている。
くるりと振り返る。

そこには、左胸がぽっかりと空いてしまったズルベニアスの姿があった。

二人はお互いの姿を見た。

「くくく」

「がははは」

笑い声が空に小さく響く。
そして、その笑い声は絶叫に近いものとなった。

「はーーはっはっはっは!!」

「がーーはっはっはっは!!」

再び二人は翔ける。

―――先程の衝突の歓喜を求めて・・・・


だが!

ぐにゃり。

その時世界が歪み、俺は世界から身を消した。











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「ヒャクメ、久しぶりですね」

小竜姫は思わぬ出会いに内心舌打ちをする。

(一番厄介な相手ね・・・・・)

あの厳重なまでの人払いの結界を見破るとは、さすがはヒャクメといったところだろうか。
でも、そんな内心を表に出すことなく「再会に喜ぶ友」の顔をする。
喜びもちょっとはあったので容易にそれは実行できた。

「こんなとこに何の用ですか?」

「それはこっちが聞きたいのね〜。小竜姫、こんな所で何をしていたのね〜」

語尾を伸ばすと緊張感に欠けるが、ヒャクメの目は真剣だ。
小竜姫はそれに気づかないふりをして、時間を稼ぐ。

「たいした用じゃないですよ。ほらここって機械が一杯あるじゃないですか。珍しいものが無いかちょっと見ていたんです」

笑顔で、不自然すぎる答えを言う。
ヒャクメの目が鋭くなる。
こういう時の小竜姫は絶対口を割らない事など、よく知っているが事態が事態だ。

「小竜姫、私がいつまでも何も知らないと思ったら大間違いなのね〜」

「?」

「横島さん・・・・」

その言葉を聞いたとき、小竜姫の顔から笑顔が消えた。
まるで感情が無い人形のような顔。
ヒャクメはそれを真正面に見据える。

「横島さんが魔王になった事は知ってるのね〜。といっても、知ったのはついこの間。その時上から通達があったのね〜。近々ある魔王を殲滅する為に神界・魔界共同で大きく
動く事になるって」

「・・・・・」

「その魔王が横島さん」

「・・・・・」

「知ったときはとても驚いたのね〜。それに加えて、魔王になった横島さんの目的がこの世界の破壊だって聞いたときは驚きが倍になったのね〜」

「・・・・・」

「小竜姫、何で横島さんに加担するのね〜?」

「・・・ふふふ」

「何が可笑しいのね〜!」

「御免なさい、ヒャクメ。あなたを笑ったんじゃないの。・・・・そうね。一つだけ友達として教えてあげましょうか」

「・・・・・」

「神界・魔界が横島さんを殺そうと動くように仕向けたのはほかならぬ彼。彼の目的達成にはそれが必要不可欠なのです」

「!」

小竜姫は驚くヒャクメを突き飛ばして出口に向かう。
ヒャクメはその背中に向かって叫ぶ。

「小竜姫、あなたが横島さんに加担するのは彼を殺した罪を償う為?!!」

「・・・・違います」

その言葉を残して、小竜姫は姿を消した。










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