ザ・グレート・展開予測ショー

Eternal Chaser (後編)2


投稿者名:蜥蜴
投稿日時:(03/11/19)

 
 
 
 
 
 魔族の男に向かって走り続けるタマモ。
 彼女は双竜剣の柄を両手で握り直すと、剣の峰の部分を上にして、その腕を前に伸ばしていく。
 そして彼女は開封の儀式――剣の真銘(まな)を唱え、脳裏に双竜剣の真の姿を思い浮かべる――を行った。
 次の瞬間、柄頭から刃先までを一筋の亀裂が走って行く。
 少しずつ分かれ始めたそれは、右側からは漆黒の闇を、左側からは眩い光を発し始める。
 彼女は二つに分かれた剣を両手に一つずつ持ちなおし、下へ振り下ろして八双の構えのまま走り続けていった。

 そして二つに分かれた双竜剣のそれぞれに顕われて行く刃。
 ”闇の剣”には峰の部分に、”光の剣”には刃の部分にそれは在った。
 そう、これこそが双竜剣の真の姿。
 封印された状態の時には、二つの剣が一つに合わさる事で、互いの刃を打ち消し合っているのだ。

 二度目だからなのか、タマモもそれなりに成長したからなのか、未だ彼女は意識を保っている。
 そして彼女は、自分が何故か自然に双竜剣の本当の使い方を識っている事に気付いていた。


 魔族の男の元へ辿り着いたタマモは、振り降ろされた腕を掻い潜り、”闇の剣”を霊的中枢(チャクラ)へと突き刺す。
 そして彼女の体の中へ、”闇の剣”を通して魔族の男の霊力(いのち)が流れ込んで行く。

 剣それ自体の力と、魔族の男から引きずり出されてくる力。
 タマモは、体内で荒れ狂うそれを必死で制御する。
 そして彼女は、その力を”光の剣”へと収束させていく。
 ”闇の剣”を引き抜きながら、”光の剣”を魔族の男へと突き刺したその瞬間――

 地表に小さな太陽が出現した。
 ――そしてタマモの意識は、光の渦の中へと飲み込まれていったのであった。





「う……」

 横島は小さくうめきながら目を覚ます。
 どうやら、しばしの間気を失っていた様だと気付くと、彼は周りを見渡す。
 目の前にはタマモと魔族の男が居た辺りを中心に、地表に大きなクレーターが出来ていた。
 その直上の雲は大きく払われ、空には星が浮かんで見えている。

「……タマモっ!?」

 横島は走り出すと、途中で近くに転がってきていた”炎の剣”を回収し、クレーターの淵へ辿り着く。
 その中心には地面が湯気を立てている中、タマモが両手の剣を力無くぶら下げて立ち尽くしている。
 彼がほっとしながら彼女に声を掛けようとした時、彼女がゆっくりと彼を見上げてくる。
 その瞳に宿る無機質な光を感じた時――彼は、彼女の意識が再び双竜剣に奪われてしまったのを悟ったのであった。


 ふわりと浮き上がり、ゆっくりと地上へ昇って行くタマモの身体。
 その視線は横島に向けられたままになっている。


 その視線を受け止めながら、彼は呟いたのだった。

「約束したよな、タマモ……。必ず二人で生きて帰るって」

 ――そう、彼はタマモと約束した。そしてそれは、彼にとって絶対に破られてはならない神聖な誓いでもあった。

 ――自分を笑顔で見送る”彼女”の最後の”嘘”に気付けなかった事を知った時に――
 ――どこまでも強い”あの女性(ひと)”が、優しい”嘘”を吐いて自分を突き放した時に――

 彼は誓ったのだ。自分は決して大事な存在に”嘘”を吐かないと。


 しばし瞑目し、呼吸を整えると、彼は再び呟く。

「必ず助けてやる。……俺を信じろ!」


 動きを止め、両手に剣をぶら下げたまま横島を見詰め続けるタマモ。
 ”炎の剣”を中段に構え、油断無くタマモに視線を向け続ける横島。


 そして二人は、正真正銘最後の戦いに突入したのであった。


 両手の剣を駆使して横島に斬り掛かって行くタマモ。
 対する横島も、以前のままの彼ではない。
 いつか再びこういう事態が訪れた時の為に、剣技に関してのみ言えば、小竜姫に互する力を手に入れていたのだ。

 しばし斬り結んでた二人であったが、やがて彼女は体勢を整えようと剣を止めた。
 その瞬間、彼は背後に飛びすざって二人の間の中間点に”炎の剣”を投げ付けた。

 ”炎の剣”が地面に突き刺さった瞬間、彼は大きく叫ぶ。


「――炎よ!!」


 直後に生まれた爆発に等しい炎の奔流の前に、横島の姿を見失うタマモ。
 炎が収まり掛けたその時、彼女の背後から声が聞こえてきた。

「――終わりだ」

 タマモの背後に回る事に成功した横島は、彼女の後頭部に手を添え、最後の文珠を発動させた。



 『操』



 その文珠の効果により、横島はタマモの身体を支配している双竜剣から彼女の身体の一部の制御を奪い取っていた。
 そして、彼にはそれで充分だった。

「――風よ!!」

 次の瞬間、タマモの髪の一房がうねり、力が発現される。
 その力は背後の横島を刺すべく、剣を逆手に持ち直そうとしていた彼女の両手を、風の塊によって前に弾き飛ばしていた。
 剣を持ったまま前へ引き伸ばされたその両手は、直後に下から飛来した風の塊によって、上に弾き飛ばされる。

 万歳の形に持って行かれた彼女の両腕。
 双竜剣はそのさらに上で、交差する形で止まっている。
 それをちらりと見やると、彼は最後の言葉を放った。

「――氷よ!!」

 みるみるうちに二つの刀身を覆い尽くす氷の塊。
 それは双竜剣の力を持ってすれば、簡単に砕ける程度のものでしかない。
 だが、それは果たされる事はなかった。

 強大な力を誇る双竜剣とは言え、流石に氷の塊を一瞬で砕く事など出来る訳がない。
 氷が砕かれるまでの僅かな時間、攻撃力を失い完全に動きを止めた双竜剣。
 横島は両腕を下から上に掬い上げるかの様に動かし、その二つの柄頭をタマモの手から上方へ叩き上げたのだ。

 氷に覆われくるくると回転しながら宙を舞う双竜剣を見ながら、くたくたと自分の胸へ倒れこんでくるタマモを抱き留める横島。
 左腕で背後から彼女の身体を抱き締めたまま、彼は彼女の豊かな髪に顔を埋める。

 しばらくの間、タマモの体温と汗混じりの体臭を感じ続けた後、横島は未だ気絶したままの彼女の耳にささやいた。

「約束、守れたな。タマモ……俺達は勝ったんだ。
 俺達二人が力を合わせれば、怖いものなんて何もないんだ……」



 二つの人影は、静寂の訪れた闇の中、いつまでもその場に佇んでいた――――





 タマモが目を覚ました時、そこには横島の顔が在った。
 彼女はそのまま視線を巡らせて周りを確認する。
 自分がビルの外壁に背を預け、左膝を立てて座っている彼の右腿の上に頭を置いて寝かされた状態であると気付く。
 自分から視線を外した彼の視線の先を追い掛けると、そこには昇って来る朝日の姿が見えた。

 直後に意識を失うまで自分達が置かれていた状況を思い出すと、タマモは勢い良く上半身を起こす。

「あれからどうなったの!?」

「終わった。もう心配ない」

 横島の声を聞くと放心したかの様に身体の力を抜き、横島の顔を凝視した。
 その様子を見て、苦笑しながら立ち上がった彼は腰の辺りをはたいた後、彼女を見やる。

「ほら、立てるか?」

 横島が座り込んだまま自分を見詰め続けるタマモに優しく声を掛け、右手を差し伸べる。
 普段何者にも一歩突き放した様な態度を取る彼が、滅多に見せない優しさ。
 だが、彼女は知っている。
 その優しさこそが、彼の本質で有る事を。

「ほら」

 動こうとしないタマモに焦れる事無く、右手を差し伸べたまま、横島はもう一度声を掛ける。
 初めて出会った時から、いつでも、どんな絶望的な状況からでも彼女の命と魂を掬い上げてくれた、大きくて温かな手。
 その手をおずおずと両手で掴むと、彼女は手を引かれるまま、ゆっくりと立ち上がった。

 しばらく経って後、横島はタマモの瞳に完全に正気の光が戻ったのを見て取る。
 そして彼は、いつもの様に、ぶっきらぼうに彼女に声を掛けた。




「――じゃあ、帰るか」




 くるりと背を向け、傍らに置いてあった封印された状態の双竜剣を拾い上げると、横島は歩き出す。

「ちょっ……、待ちなさいよ!」

 大股に歩みを進める男の背中を早足で追い掛けながら、タマモは思う。



 ――自分はこれからも、他人には決して心の裡を見せてくれないこの男の背中を追い掛けて行くのだろう。
 ――この命有る限り、ずっと。
 


 「結局は、先に惚れた方の負けって事か……」

 そう呟いた彼女の表情は、悔しそうであり、だが、それ以上に嬉しそうでも有った。






                                               fin.

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