ザ・グレート・展開予測ショー

かごめかごめ 〜完〜


投稿者名:777
投稿日時:(03/11/18)

大人は誰も少女の言葉に耳を貸さなかった。
誰もが少女の言葉を笑ったが、しかし少女だけが真実に辿り着いていた。
周囲の大人は少女の言葉を信じることが出来なかった。
なぜなら大人は常識という言葉を知っているから。
残された時間はあとわずか。少女はやがて決断する。


自分の身を生贄とすることを。












「つまりね、横島君。芹香は自分を生贄にして、神に会おうとしたのよ」

美神は感心半分呆れ半分といった声で話す。

「ホントたいしたガキだわ、芹香ってのは。どこまでが計算で、どこからが偶然かは知らないけど、おそらくは彼女に最も都合がよく状況が動いてる。神隠しを利用しようだなんて、ガキの考えじゃないわよ、まったく」

美神はひとり納得したように口元に苦笑いを浮かばせる。
当然のように理解の追いついていない横島は、考えるのを放棄して美神に尋ねた。

「すんません、美神さん。最初から説明してください」

「わかったわ。一連の来栖川芹香行方不明事件はね、彼女が自分を生贄にしようとしたことに端を発するの。そもそも生贄とは何なのか。それは何らかの超常的存在に生物を捧げる事として定義される。目的としては二種類のケースがあるわ。すなわち神に対する感謝、慰撫として捧げられるケースと、他者の罪を背負って犠牲となるケースね。前者はヤマタノオロチのクシナダヒメ、後者はキリストが代表かしら」

美神は一旦言葉を切り、唇を湿らせる。

「さて、超常的存在へ生物を捧げることが生贄の定義であるとするなら、超常的事件の被害者、例をあげるなら神隠しなども生贄の範疇に含めることが可能よ。すなわち、神隠しの犠牲者は隠し神への生贄であるってわけ。来栖川芹香は神隠しを起こすことで、自身を隠し神に対する生贄とした」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。そこまでは分かったっスけど、何で芹香は自分から生贄になんて?」

「望みをかなえるためによ。芹香は自分を生贄に、望みを叶えてもらおうとした。その望みがどんなものかは、今まで手に入れた情報で推測できる」

美神はそこで言葉を切り、『さぁ考えなさい』とでも言うように横島を見る。
横島はしばし考えたが、すぐにギブアップした。

「ぜんぜんわかんねっス」

美神は笑い、すぐに答え合わせする。

「与えられた情報は二つよ。ここが健康祈願の神社であること。来栖川正宗の言った『家内は病に臥せっておりまして』という言葉。もう分かったわよね? 来栖川芹香の願いは『母親を助けてほしい』」

美神の言葉を聞いた途端、横島の頭に昨夜見た夢が蘇った。
少女の謡う『かごめかごめ』。
しゃがんだまま、祈るように言葉を発する少女。
少女の言葉。

『お母さまを助けて』

「あ…!」

夢の中の少女の祈り。それを思い出し、横島は小さな叫び声をあげた。
だが美神は横島の叫びに気づかず、説明を続ける。

「つまり、『かごめかごめ』は神隠しを呼ぶ歌ではなく、自分の背後にいる超常的存在を『隠し神』に設定する歌だったのよ。芹香は初め健康祈願の神社の神によって隠されようと考えていた。それが叶わないと知り、今度は『かごめかごめ』によって別の超常的存在を隠し神に設定して隠されようと思った。ここから先は私の想像だけど、芹香は横島君のことを知ってたんじゃないかしら。美神除霊事務所で働く横島忠夫という霊能力者。そのあなたが神社に入ってくるのを見て、芹香は横島君を隠し神に設定した。来栖川グループは日本でも有数の富豪だし、だからこそ自分が神隠しにあえば日本トップのGSである美神除霊事務所に依頼に行くと計算して」

「美神さん、俺、見たっス! 来栖川芹香の夢。俺に向かって『お母さまを助けて』って祈ってたっス!」

横島の言葉に、美神はすぐさま鬼のような形相になる。

「そういうことはもっと早く言いなさいよあんたは〜〜〜っ!」

「痛たたたたたっ! 朝起きたときに全部忘れてたんです、今美神さんの話を聞いて思い出したんスよーっ!」

美神はこめかみへのコブシぐりぐり攻撃を止め、最後に一発横島の頭をドツいてから言った。

「ここでこうしててもしょうがないわっ! あんたの夢の話で確証も取れたし、来栖川家に行くわよっ!」

美神と横島は神社を後にする。
後に残されたのは、地面に書かれた魔法陣を前に困った顔をする、神主ただ一人だった…。








来栖川家へ向かう道すがら、横島はふと疑問に思ったことを美神に尋ねてみた。

「そういえば美神さん。俺が隠し神に設定されたことは分かったんですが、何で来栖川芹香は消えたんですか? 俺に人間を隠す力なんて無いと思うんですけど」

「多分、無意識に隠しちゃったんでしょうね。ポルターガイストなんかと一緒よ。霊力を持った人間が、無意識に超常現象を起こす。元々霊力なんてすごくあやふやな力だからね。隠し神に設定したことで霊力に指向性を持たされた、と考えるのが無難よ。あるいは芹香自身も霊力を持っているのかもしれないわ。二人の霊力が複雑に絡み合って、一人の人間を隠したのよ」

横島はもう一つ質問する。

「俺たち、今来栖川家に向かってるわけですけど、母親の病気を治せば来栖川芹香は帰ってくるんですか?」

「さっき私と横島君で『かごめかごめ』を試したでしょ。あの時私たちが消えなかったのは、きっと思いが無かったからだと思うの。芹香は『願いを叶えてほしい。そのために自分を生贄に捧げる』と思ってるはず。その思いが神隠しを発動させているとするなら、願いが叶えば神隠しは終わるわ。生贄をどうするかは願いを叶えた側に選択権があるからね」

「はぁ、そういうもんスか…。あ、でも俺たちGSっスよ? 母親の病気なんて治せるんですか?」

横島の言葉に、美神は笑う。

「多分、それも芹香の計算のうちよ。GSにしか治せないんだわ」












美神たちが来栖川家の門を叩くと、出てきたのは慌てふためいたセバスチャンだった。

「美神殿、ちょうどよいところに! お嬢様がまたいなくなってしまわれたのです!」

「わかっています。そのことで来たんです。ところで、奥様のご様子はいかがですか?」

美神の返答に、セバスチャンは目を白黒させる。

「は!? 奥様ですか? 奥様は薬を飲んで床についておられるはずですが、それが何か?」

「芹香さんの神隠しは、奥方の病気がそもそもの原因なんです。おそらく奥方は普通の病気でなく、『病魔』という悪霊が憑いていると思われます。奥様のもとへ案内していただけますか?」

セバスチャンは口の中で『病魔…』と呟き、驚いた顔をして言った。

「そう言えば、お嬢様も先日そんなことをおっしゃっておられました。奥様には来栖川家に仕える名医がついておられますゆえ、旦那様は『すぐに治るから、心配はするな』とだけお嬢様に。まさか、あの言葉が本当だったとは…」

「私が除霊します。奥様のもとへ案内を」

セバスチャンに連れられ、美神たちは来栖川家の寝室へ足を踏み入れた。
寝室には苦しそうな寝息を立てる、芹香によく似た母親がいた。
そこに足を踏み入れた途端、横島はほんの少しだけ霊気を感じ取る。『病魔』の霊力だ。

「ビンゴね。急速に衰弱させて死に至らしめる、性質の悪い悪霊よ。病状は風邪とほとんど見分けがつかないわ。幸い、発見してしまえば除霊自体は簡単なんだけど…」

美神は言いながら両手に霊力を集め、母親の体をなぞっていく。
そして胸の中央部をなぞったとき、霊波に乱れが起きた。

「見つけた!」

美神は両手から霊波を放出した。
横島の感じたかすかな霊気は消え、代わりに母親の呼吸が穏やかになる。

「これで、もう大丈夫よ。暫らく養生すれば快復するわ。もう二,三日遅かったら危なかったかもしれないけど」

「ああ、まさか本当に悪霊などが…。ありがとうございます、ありがとうございます」

セバスチャンはしきりに頭を下げる。まさかもう少しで手遅れになるなどと、思ってもいなかったのだろう。
美神はそれに対して軽く頷き、そして横島に向き直る。
そのまま美神はおもむろに叫んだ。

「来栖川芹香! 願いは叶えたわ。あなたの生贄としての役目は終わったの。出てらっしゃい!」

その言葉に答えるかのように、風に乗って歌が流れてくる。




かごめ かごめ

籠の中の 鳥は

いついつ 出やる

夜明けの 晩に

鶴と亀が 滑った

後の正面 



「だ〜ぁれ?」



その声は横島の背後から聞こえた。
慌てて振り返ると、そこにはゆっくりと立ち上がろうとする少女の姿があった。

「お嬢様…!」

セバスチャンは突然現れた芹香に仰天し、ただ一言そう呟いた。
芹香はそんなセバスチャンに向かって軽く頷きを返し、美神と視線を合わせる。
美神はその視線を受け止め、ふと笑ってから言った。

「一つだけ聞かせて。あなたは、全部計算してたのね?」

来栖川芹香、オカルト趣味を持つその深窓の令嬢は、美神の問いに軽く微笑を返しただけだった。

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