ザ・グレート・展開予測ショー

!マジックガール♪(前編)


投稿者名:DIVINITY
投稿日時:(03/11/18)




「お兄ちゃん、起きて、朝だよ」

泥沼を思わせるぐったりとした眠気に申し訳程度に響く澄んだ声。
それに呼応したかのように泥沼に突如浮力が発生して、俺の身体を上へ浮上させる。
しだいに意識が覚醒し、緩んだ日の光が頬を撫で朝の冷たい空気が鼻腔を掠めた。

「・・・・・」

まぶたを開き、布団から起き上がると俺は一度伸びをする。
そして起こした当人に返事を返すべく辺りを見回した。

―――あれ、誰もいないな。俺の勘違いか?

まあ、いいかと俺は布団を片付け、着替えを済ます。
今日もまた変わり映えのない単調な一日が始まるのだ。
ぐるぐるとビデオテープを再生しては巻き戻し、再生しては巻き戻すかの如く・・・・・

「ちょっと待って、お兄ちゃん!」

―――あれ、やっぱりいたのか。何処に隠れていたんだろ・・・・・・















ピンポロリーン♪

















「マジカル、ラジカル、パラダイス?貧乏人を救って悪を討つ。愛と魔法のスイート美少女」

「マジックガール蛍、参☆上〜〜〜〜」

そこには、何かのコスプレの衣装を着た蛍の姿が・・・・・

「・・・・・」

「・・・エヘッ」

「・・・・・さて、俺はそろそろ出かける時間かな」

口ではそっけなく、でも精神を病んだ患者を労わる看護婦さんのような優しい笑みを蛍に向ける。

―――この貧困な生活が蛍の精神を蝕んでしまったんだな・・・・・

俺は心の中で謝罪し、美神さんに給料の値上げを真剣に検討してもらう事を固く誓った。

「・・・・(にこっ)」

「ぐおっ!?」

蛍の鋭いローキックが俺の太股を抉る。
なかなかに重い衝撃の為、不様にも肩膝をついてしまう俺。

「へぶっ!」

しかも追い打ちに足の裏で顔を踏み潰してきた。
ぐりぐりと小さな足の裏で捻り踏まれる。

「お兄ちゃん、今蛍を精神病患者扱いしたでしょう?」

「御免なさい!御免なさい!!謝りますから足に捻りは加えないで下さい。っていうかどいて下さい」

俺が必死に謝ると蛍はすぐに解放してくれた。
俺は額から流れる汗を拭う。

―――もう少しでアブノーマルな世界に足を踏み入れるところだった(汗)

「で、蛍。朝から凄い壊れ気味な程にハイテンションだけど、何かあったの?」

「それがね、それがね。お兄ちゃん、蛍もうバリ悟っちゃったのよ〜」

両手で頬に手をあて、フリフリと可愛い子ぶりっ子する蛍。

―――蛍が・・・あの健気で大人しかった蛍が・・・・あれでこれがそうなったオタク系少女に・・・・

俺は慟哭した。
せずにいられるかっての!

「お兄ちゃん、実はね。蛍、マジックガール、つまり魔法少女だったのよ!」

「うんうん、そうだね。蛍は魔法少女だったんだね。お兄ちゃん、驚いちゃったよ。だから、ほら、ちょっと病院行って検査してこようね」

「・・・・・お兄ちゃん、死にたいの?」

冷たい殺気が首根に突き刺さる。

―――やばっ、蛍の目が据わりまくってる!?

「や、やだな。冗談だよ、冗談!!」

「ふ〜ん」

「そ、そんな事より何でよりによって魔法少女なんだ?」

俺は危険を感じ、強引に話を変える。
でも、それが功を為したのか蛍の表情が一転してニパッとした笑顔に変わった。

「うん、それがね。昨日、蛍お休みする前にちょっと将来についてカオス理論に統計処理をかけて、その上でシミュレートしてみたのよ。そしたら、蛍が魔法少女っていう答えが導き出されたの!」

何だ、そのシミュレートの仕方は!!?
そう突っ込みたかったが、何かそんな無茶苦茶なやり方でなら変な答えの一つや二つ、でてきてもおかしくないかなと納得もしてしまい結局口には出さなかった。

「良かったね、お兄ちゃん。妹が魔法少女で(はぁと)」

「それって良いことなのか?」

「うんっ」

「む、む〜〜、そうなのかな」

「じゃあ、何か困った事ない?悩み事とか、この世から抹消したい人間とか?蛍が魔法でばしっと解決してあげるよ」

「最後のは凄く気になるんだけど・・・・・でも、そうだな。ちょっと迷惑な人はいるかな?」

「誰々?それって給料はスズメの涙程しかくれないくせに奴隷の如く人をこき使う某GSさん?それとも、毎日うんざりさせる程散歩に連れて行かせる某犬さん?それともそれとも・・・・・」

「違います!何で俺が仲間を消そうなんて思わなきゃならないんだよ」

「・・・・でも、すぐに誰か思いつくあたり、どこかでそう思ってるんじゃ・・・・」

ポカリッ

「あいたっ」

「とにかく迷惑してるのは目の前のいる人の事だよ」

「目の前?」

俺は人差し指で蛍を指差す。

「You」

「・・・・Me?」

「Yes」

「あん?(=なんだと、こら?この鉄でできたステッキで脳みそかち割って、東京湾に簀巻きにして沈ますぞ、コラ)」

「・・・・御免なさいでした」

俺は自分より年下の少女に土下座をした。

「んもう、お兄ちゃん。魔法少女の有難みを全然分かってないわね」

「そんなこと言われても・・・・・」

俺はまだ起きたばっかりだぞ!
こんな朝っぱらからそんなテンションに付き合える程、俺は器用じゃねぇっつーの!

「お兄ちゃん、ほら想像してみてよ。蛍が魔法少女だと色々お得だよ。例えば―――」

「例えば・・・・?」

「例えばほら、除霊中に皆がピンチで・・・・・」




・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・

以下シミュレートシーン



「くっ、悪霊の数が多すぎるわ!」

ここはとある公園の中。
そこには数知れぬ悪霊達の群れと・・・・・

「美神さん!あれ、見てください!」

俺が指差すそこからゾロゾロと十数人のゾンビ達が姿を現した。
上着に変色した血を大量に附着する女。
首が半分もげかかった男。
腐敗して太った蛆がポロポロ零れる男。
腕がなくなり拙く歩く女。
etcetc・・・・・

「じょ、冗談じゃないわよ!」

事務所におキヌちゃんとシロとタマモを置いてきた事が悔やまれる。

―――甘く見ていた。

絶体絶命の危機。
だが、神は俺達を見捨てはしなかった。

「待ちなさい!」

ピンポロリーン♪

「マジカル、ラジカル、パラダイス?愛しいお兄ちゃんを救えと天が呼び、他の奴は情けで助けてやれって地が呼ぶの!」

「愛と魔法のスイート美少女!」

「マジックガール蛍、参☆上〜〜〜〜」


              ・・・・・・・・・・

              ・・・・・・・・・・

              ・・・・・・・・・・

              ・・・・・・・・・・



ギィヤァァァァァァァァーーーーーー!!




以上シミュレート終了。


「ねえ、お兄ちゃん。蛍が魔法少女だと凄く便利でしょう」

「いや、突っ込みどころがありすぎて、もう何が何だか・・・・・」

「それは無視よ!」

・・・っていうかこれじゃ、話が終わりそうにないな。

「おっと、もうこんな時間だ。俺は事務所に行くからな!蛍は・・・・そのまあ好きにしてくれ。じゃあー!!」

背中に非難の声を浴びるがこれ以上あの変なテンションに関わる気など毛頭ないのでさっさと逃げ出す事にした。

―――帰った頃には蛍の気持ちが落ち着いてますよーに。




























バタンッ

ドアが閉まり、蛍は一人きりになる。
でも、寂しくなどない。
逆にこれからの事を考えると笑いが思わず零れてしまった。

「ふふふ、すぐ会う事になるわよ。お兄ちゃん♪」




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