ザ・グレート・展開予測ショー

未来掲示・別編  ラプラスの語り32


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(03/11/17)

其処は一筋の陽光も蛍光灯も無い薄ぐらい部屋である。ある特殊な牢屋だ。
貴方はどうしてもその鬱蒼とした部屋の奥に行かねばならなかった。
=お八つ、と申したのか?まさかな。=
悪魔ラプラス確実に未来を映し出す能力を持つ。

待ちなって、未来ってのは無限の可能性がある。それと同等の数の俺がいる訳だがな。
それでも聞きたいのなら、俺が知っている未来を語ろうじゃないか。そう忠告を一つ。
ま、つけるモンはつけてもらった方がいいかも、な。

最後ってのはどんな事象にもあるよな。さて、人間の最後は?
そうよ、葬式よ。儚くも美しい「生」すら学べる時間とでも言おうか。
死んだ当人はともかく、関係者にとって・・その死んだ奴の足跡を知るのが、参列者の数だ。

「うう、貴方・・雪之丞」
その何処ぞの大旦那が亡くなった隣の墓地でたった一人、雨に打たれているのが、弓かおり、その女よ。
彼女自身、今も弓の名だ。じゃあ故人は養子?
違う。二人の、弓と雪之丞はお互いにくからずと思ってはいたが、家名の違いが悲劇を生んでな。
かけおち、ってのは意味知ってるな。その土壇場で失敗した訳だ。
・・・。詳しいことは省く。せめて泣いてやれ。
影からのそりと現れた男も泣いていたんだ。
そうよ。我等が横島少年・・いやこの頃は青年と呼んで差し支えあるまいな。
一応、国民年金とやらを支払う歳であったから・・な。
「この度はとんだご不幸を」
気配に気が付き、ハンケチで目を隠すのが精一杯の弓かおりさ。

かけおち同然だった生活で決まった宿を持っていない弓にとって、雨露をしのぐのは、場末のホテルだったりしていたのは当然の帰結といえるかね。
だから、とも言えるな。横島青年のアパートに喪服のまま上がりこんだのは。
「何か、呑むか?」
「・・・・、ヴォートカ」
「無茶言うな、強いのは精々ウイスキーぐらいだ」
おっと、少し説明が必要だな。たった数年だが、横島は丁稚時代ですでに最上級霊能者、
上司から認めてもらえば、歳相応以上の生活は可能って訳だ。
なんともなれば、事務所に住み込みの身分にゃなれたろうが、そこは男だ。
たとい、稼ぎは少なくとも自分の城を持つ思いはあるだろうよ。
当然だが、何度か上司も上がりこんでいるが、上がりこむまでだったと言って置こう。
それが何を意味するのかは自分で考えてくれ。何もかも俺に言わせるな。

「お風呂、お借りしても・・よろしくて?」
結局呑まなかったアルコールさ。口紅痕すら残していねぇ。
「あぁ。いいぜ」
と、新品のバスタオルを放り投げてやった横島青年が結局、強いのを口にしたのさ。
「あの・・馬鹿」
雪之丞と横島、いいライバル関係でありながら、同士であった。
今回のかけおち劇にも少なからず関わっていてな。だから知っている。
「俺は家系とか、そういうのは、わからねぇけど、惚れた同士を引き裂くなんざぁ」
たとえ、かおりの親戚筋でもゆるせねぇ、と拳が語るのさ。
おそらく、しばらくすれば・・いやしばらくは無用だな。
ドアのチャイムが鳴ってな。屈強なのが、入るわけだ。
時代遅れの黒服のお兄様方だ。ほぉ。ブルースブラザーズなんてーのをご存知かい。
正にそれよ。ブラザーズじゃなくて、6メンズといった感じだがね。
「おい、若造、お嬢様は何処だ?」
「・・風呂だよ」
「貴様?」
「きさまぁ?それはお前達だよ。ったく、惚れた奴等を引き裂くなんざ」
法律が許しても、俺がゆるさネェか。乱闘の結果は?だと。
語るまでもあるまいが。六人全員がパンツ一丁、中には全裸で逃げてくのもいたな。
完膚なきまでの敗退よ。
「にしても・・」
そうよ。水音が一切聞こえない、これは?
「しまった!」
風呂場のドアをけり破った先にだ。水を貯めた洗面所には手首が力なく、赤色にって寸法だ。
「ば、馬鹿野郎!」
野郎じゃないだよ。野郎じゃ。

幸い、というべきかな?文殊やらの効果もあって、一命は取り留めていたんだ。
考えもすれば着替えもないこの状況で、何処で買ったのか男物のバスローブに身を
任せた弓の一声は、だ。
「私を・・どうして死なせてくれなかったの?」
まさか自分の家で死者を出したくないとか、そんな事じゃない。だが旨く言えない。
少し間をおいて、横島青年がぽつり、
「死を求めるのは簡単だけどよ。そしたら誰が雪之丞の愛を伝えるんだ?」
おたくら、家系を守るものは、簡単に人を殺せるのか、そんな事を許せるのか、
それに、
「今、死んだらお前は家に負けたことになるんじゃ・・ないかな?」
だとよ。歯が浮くね。
「でも、私は・・家名に勝てないですわ・・」
か。
一度頭を掻いた横島青年だ。
「今日の夜は落ち着くまで、俺が付き合うよ」
不意にだ。
「あなたは、ずるい、貴方には美神お姉さまがいらっしゃるじゃないの」
痛いところを付かれたかもな。
だが、だ。そのお姉さまは子供なのよ。どういう意味かは、もう一度考えてくれ。
簡単であり複雑であり、女心の心理かも・・な。
これを乗り越えなければ、恋愛なんぞ、くく。脱線しかけたな。失敬。

さてと。弓本家はヌードを披露した6人の侍・・いやムサイのに、すべてを任せ、
諦めたと思うかい?
答えは当然No、だ。
たった二日後の事だ。
この二日間、とりあえず弓かおり、横島の言うとおり、とりあえずは生に執着し始めたんだ。
それに伴って、
「精々のお礼ですわ」
と、掃除洗濯の真似事を始めるんだが、元来がお嬢様育ち、
「お前、俺の方が家事上手いぞ?」
「うぅ・・悔しいですわ」
なんぞと、お嬢様言葉の復活しかかったその頃よ。
ドアをけり破る形で登場したのが、弓家の最高権力者、現家長よ。
「かおり、帰るぞ、今なら許してやる!」
もう、大分年配である男にしては逞しいという奴だ。
「いやよ!私の愛する人を奪った家庭なんて、不要だわ!」
「かおり」
「そうよ。家なんて、家名なんて最早前世紀の遺物よ、それなのに!」
一度涙を流すがね。
「女を・・私を馬鹿にしないで」
彼女の肩に触れた手を返す手で払ってね。
「私は・・この人に家事を教えてもらう事にするわ。えぇ、結構よ、除名でもなんでも!」
と、隣で臨戦態勢だった横島の首に手を回して、熱い抱擁、最近の表現ならハグ、
以上の熱い行為って奴だ。
目を丸くした家長も。
「・・・・見たくもない!」
くるりと右向け、右だ。
その立ち去る足音と共に、
「・・・すまない」
後悔後に立たず、古人は上手いことを言う。
「あら、ワタクシとしたことが・・なんという」
なんて、頬を赤らめる隣には。
「キスや・・キスされたんや」
呆然と余韻を楽しむ、否、余韻に意識がかき消せれない様がんばる横島青年さ。
「あら?」
と、己が唇をなぞる弓かおりが、突如として、笑い出したんだ。
「横島、あなたは、キスの経験もあらっしゃらなくて・・うふふ」
笑い声と共に吹っ切れた弓かおりだ。

結局のところ、かっこいい言を吐くも実践にゃ、とんと縁のなかった横島青年だ。
その前過程でトリップしちまうのが、なんとも。
「かわいくってよ」
だそうだとよ。雪之丞との籍は入れてなくても、男と女しかもかけおち、
イたしてないと、言う方が可笑しいじゃないか。
交わりを教える形になるのが、嬉しいのかどうかは判らぬが、一線を越える切欠になったという訳だ。
まぁ、その中で。
「お前と雪之丞のつながりは判っているよ」
なんて、映画モドキの台詞が一層興奮させた、なんとは、閨にでも隠しておくんだな。

ま、そんなこんなもあってか、美神令子にも、もう一人の男、西条がいたから、そこはそこで割り切れたんだろうな。
考えようには、振られた格好だが、その男がかおりにとって最も必要な仁になる。
女冥利といえなくもない、と心の整理を決めているのさ。
お互いが幸せなら、いいじゃないか。
そうそう。二人の横島青年と妻の子供が男の子だったのが意外ちゃ、意外かもしらんし、
神という奴等の粋な計らいかもしらんな。
真相は俺も知らん。俺が知るのは未来に起こる具象であって、精神世界の過程は知らんよ。

=くくくく。忠告したはずだぞ、つけるものはつけてもらったかと=
不意に響く足音に貴方は振り向く。そこには猿に似た獣という表現しか出来ない魔物がいた。
貴方を後ろから抱きしめ、絞め殺されるか?と青くなる、が獣の鼻息が荒くなる。
よもや、発情してるのかという問もむなしく、それが答えである。
貞節の危機を訴える貴方に対しラプラスは一言。
=お、奴ともうシたのか?まさかな。=

FIN

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