ザ・グレート・展開予測ショー

あらぬ誤解


投稿者名:DIVINITY&麻呂麻呂
投稿日時:(03/11/17)



―――はっはっはっ

静謐な公園。

―――はっはっはっ

公園は朝が来ない夜のように静まり返っていた。

空は凍っていた。
雲は流れず停滞し。
星は瞬かず静止し。
月は浮かび停止している。

まるで死んでいるようだ。

―――はっはっはっ

地は泥底だった。
木はざわめかず麻痺し。
虫は鳴かず休止し。
空気は痺れ途絶している。

まるで亡くなったようだ。

―――はっはっはっ

世界は死んだように静かだった。
刻すら止まったような静寂に肌が泡立つ。
耳に響くのは自分の心臓音でも血液が流れる音でもない。
この亡くなった世界で唯一抵抗している命の喘ぎ声。
それは生きようと必死に逃げる足掻きの旋律。

――――肺。

――――心臓。

――――血液。

――――口。

――――足や腕。

全細胞が奏でるオーケストラ。
緊張の糸で縛られているのに、心臓のピッチは打楽器のように鳴り響き続け、繊細で神経質な呼吸は見るものを苦しくしてしまう。
合奏は命の円舞曲を鳴り響かせてゆく。

『音の摩天楼』

そんな美しくも惨たらしい楽器を『彼』は止める為、掌を伸ばす。
走り疲れた獲物は木に背を預け、動かず視界に広がる闇を見回した。
どこかの影に潜んでいるだろう死神達を血走った目玉で探している。
だが、どの闇にも彼等の塵一つ見当たらない。
追い立てられる男は額から滝のように流れる汗を拭い、必死にポケットをまさぐる。

そして取り出した物は、ロザリオ。

男にとって、ロザリオは今自分が置かれている身の竦む恐怖を紛らわす心の拠り所。

恐怖で強張った身体。
今にも溢れそうな涙と吹き出る汗でくしゃくしゃになった顔。
両手で力一杯握るロザリオ。

―――はっはっはっ

さっきまで苦しげに漏らしていた呼吸音が、今は笑い声に変わっていた。
肺に穴が空いたような力無い笑い声。
怖いはずなのに、恥も外聞も無く喚き散らしたいくらいに怖いのに、笑いが止まらない。

(自分は狂ってしまったのだろうか?)

闇が闇に重なる。
しかし、死神の包容が先に男の命を包み込もうとしていた。
すぐ背後に誰かがいる。
男は見開いた瞳を夜空に向け「アーメン」と呟くと、恐る恐る振り向く。
























そこには嫉妬に歪む三人の死神がいた。

























「ピート、神への懺悔は済んだか?」

死神の一人である雪之丞が平坦な、でも限りなく冷たい声でピートに聞く。
ピートはそれにヒクッと口の端を吊り上げて苦笑いを浮かべた。

「ちょっ、ちょっと待ってください。一体、僕に何の罪があるって言うんですか!?」

「・・・・しらばっくれるのもいい加減にして欲しいですノー」

死神の二人目、タイガーがやや呆れ気味にピートを睨む。
ピートは首をブンブンと勢いよく振って見に覚えの無い事をアピールするが、全く効果なし。

「おい、これに見覚えがあるだろう?」

雪之丞が懐から一枚の写真を出し、ピートに見せる。
だが、今はもう夜。
少し離れているのに加え、辺りは暗く、写真がはっきりと見えないピートは思わず前に歩を進めてしまう。



ドガッ!



何の写真か理解した瞬間、ピートは空を舞った。
殴ったのは死神三人衆最後の一人、横島忠夫。
彼の顔は怒りに満ちていた。

「ピート、貴様よくもおキヌちゃんを毒牙に晒してくれたな!」

「ちょっ、待って・・・・」

「おキヌちゃんだけではないですノー!」

「そうだぜ!タイガーの彼女である一文字や俺の・・・・俺の弓にまで手をだしやがって!!!」

ちなみに写真の内容は、昼にレストランで仲良く四人で食事をしているものだった。
実に親しげな様子が写真越しにもよく分かる。
それが彼等の嫉妬心をどこまでも煽ってしまうわけで・・・・・

「誤解です!僕は彼女達にプレゼントの相談を持ちかけられただけなんですって。ほら、もうすぐクリスマスですので・・・・・」

ピートの必死の弁明など、聞く耳を持つはずも無かった。














「往生しやがれーーーーー!!」(雪之丞)

「ピートどんの裏切り者ーーーーーー!!」(タイガー)

「もてるのを鼻にかけんてんじゃねーーーーー!!」(横島)


























暗黒に染まる公園の中に奇怪なオブジェが横たわっている。
人?なのだろうか。
それは顔がボコボコでもはや原型を留めていず、皮膚という皮膚には青黒い痣が出来ていた。
夜であることが幸いして、周りには人がいずその姿を晒す事はないが、もし見でもしてしまったら哀れを通り越して気もち悪くなりかねない。
そんなオブジェがモゾッとうごめく。

「うぐっ!」

しかしそれも痛みですぐに止まってしまった。
オブジェはその痛みがとても理不尽な気がしてならなかった。
・・・・・・自分は何一つ悪い事はしていないというのに。
・・・・・・ただ、彼女達の買い物を手伝ってあげただけなのに。

「・・・・・もはや、偉大なる神は死んでしまったのですか?」

この時、自分の持つ信仰心は大きく揺らいでしまい、その結果しばらく人間不信に陥ってしまったそうな・・・・・

























「おっ、ピート。あの時は誤解しちまって御免な」(注、横島です)

「・・・・・」

「・・・・・ピート?」

ポン(ピートの肩に手を置く)

ビクゥッ!!

「ひっ!ああ、御免なさい。許してください。もう二度としません。」

「お、おい・・・・」

「僕、何したか分かりませんけど、済みませんでした。ですから・・・・・」

「・・・・もしも〜し」

「ですから、もう僕の事なんてほっといて下さ〜〜〜〜い!」


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