ザ・グレート・展開予測ショー

遠い世界の近い未来(13.1)


投稿者名:よりみち
投稿日時:(03/11/16)

遠い世界の近い未来(13.1)

「霊的迷彩と光学迷彩の両方の機能を持った偽装シート、アルか。」
美神の説明を確認する厄珍。
「それも、ヒャクメちゃんで、ようやく存在が検知できるとなると、今までにない高性能な迷彩機能を備えたものということになるアルね。」

「それを持ってそうな所を調べて欲しいの。」
美神は、一番安い破魔札を注文するように気安い調子である。

「調べるって言ったって、そんな高性能な装備を持ってる連中となると、けっこう危ない橋を渡ることになるアルね。」
真剣な顔つきで考え込む様子の厄珍。

「深刻そうな顔をして情報料をつり上げようった無駄よ。適正な額以上の値段をつけるつもりなら、こっちは、いつでも違法アイテムの輸入でオカGへタレ込めるのよ。それでもいいの。」

「令子ちゃんには、かなわないアルな。」
 人を喰ったようないつもの笑顔に戻る。

「それじゃ、ボウズ、情報のハッキングをするから、少し手伝うアルね。」
‘俺が?’という表情を浮かべる横島。

「新型のファイアーウォール付き霊体コンピュータに侵入しようと思えば、強力な霊能者の支援が必要アルよ。見たところ、令子ちゃんは、ちょっと無理ぽいようだからボウズで我慢するね。」
さすがに、眼識は、ただのスケベ親父でないというところか。少しの観察で、美神の不調を見抜いている。

‘どいつもこいつも、変に気を使うんじゃな〜い!’
 美神は、心の中で舌打ちをするが、できないことに意地を張っても仕方がない。
「バカ亭主、しっかり協力してやんなさい。私は、装備の方を見てくるから。」
言い捨てるように部屋を出る。

「令子ちゃん、13番倉庫に新しいアイテムが入荷しているから、そこ、見てくるよろし。物騒な連中とドンパチできるものをたくさん仕入れているアルよ。」
後ろから、久々の大口購入を期待した厄珍の声がかかる。


小一時間ほど見て回るうちに、横島が、結果が出たと言うことで呼びにくる。


「ざっと調べたところでは、最新の試作タイプのものが、それぐらいの性能を出せるアル。日本では、運用試験を兼ね、国防軍諜報課とオカルトGメン捜査部に装備されてるだけアルね。外国の諜報機関とかになると、もう少し時間が欲しいネ。」
外見が昭和二十年代末期のテレビに似せてあるディスプレイの画面から出た結果を要約する厄珍。

「国防軍にオカG!? まぁ、あの偽装能力で言えば、その連中が、前から監視していたって話もありか。」
美神の勘は、監視者と水元たちの関連を赤い大文字で示しているが、国防軍やオカGとなると、水元たちが来る以前から、まったく別の問題で監視されてる可能性も出てくる。

「この前、国防軍の作戦を妨害した件では?」
横島が、しばらく前に人界に迷い込んだ魔獣を魔界に送り返した事件を思い出す。
 その魔獣の性質は、魔獣にしてはおとなしいものだったが、姿形がおどろどろしく、移動だけで被害が出てしまうほどの巨大さのため、国防軍が緊急出動して退治することになった。

 一方、魔族から非公式な依頼を受けた美神らは、国防軍の動きをそれとなく妨害しつつ、ぎりぎりのところで(ほとんど実害を出さず)その魔獣を故郷へ送り返すことに成功した。ただ、その結果、陸・海・空三軍を展開し空振りとなった国防軍の面子がまるつぶれになったのだ。

「もともと、数人のGSですむ仕事に戦闘機や護衛艦を動かす国防軍が無能なの! だいたい、緊急出動にいくら費用が掛かったと思うの、真面目な納税者の身になって欲しいわね。」

‘令子ちゃんが、いつから真面目な納税者になったアルか?’と首をひねる厄珍。

「そんな無能な連中に恨まれる覚えはあっても、見張られる覚えはないわ。」
きっぱり、根拠もなしに否定する美神。

「じゃ、オカルトGメンの鼻っ先で違法な除霊をやったことで‥‥」
もう一つの可能性について記憶をたどる。
 こちらは、心当たりが多すぎて具体的な事件が思い浮かばない。
というのも、21世紀に入り、霊や妖怪など非人間的存在にも一定の権利が認められ、除霊にも、法に沿った活動が求められるようになったためである。
 相手が相手だけに、法を守ってやられたら目も当てられないため、まだまだ形だけのものだが、それでも、オカGの締め付けとGS協会からの勧告で、その形を遵守するGSは増えてきている。
 そんな中、美神事務所(というか所長だけはというか)は、『私の決めたルールじゃないわ。』という姿勢で除霊を押し通している。

「オカGがらみなら、見張りをつけるなんて生ぬるいことはせずに、ママが、直接、怒鳴り込んでくるわよ。」
 こちらもきっぱり否定する美神。
 ちなみに、ママこと母親、美神美智恵は、現在、オカルトGメン本部長で、違法な除霊活動の撲滅に積極的に取り組んでいる。

「相変わらず危ない橋を渡りまくっている夫婦アルな。」
二人のやりとりに妙に納得する厄珍。

「そうなってくると、結局、相手の正体は不明って事か。」
 横島は、さほど失望した様子もなくまとめる。闇雲に調べてわかる相手とは、最初から思っていない。

「そうなるわね。」
こちらも、仕方ないといったようすで美神は、帰るべく腰を浮かそうとする。
「厄珍、あんまり役に立ったとはいえないけど、調査は続けておいて。あと、装備はカートに放り込んでおいたから、併せて精算してね。」

「あっ、そうそう、日本でそんな偽装シート持ってるところもう一つあるアルね。」
もともと、気づいていたが、情報を出すタイミングは心得ている。
「それは、国防軍とオカGむけにそれを納入した南武グループね。」

「いやな名前が出たわね。」
美神と横島は、苦い表情を浮かべ、再度、腰を下ろす。


心霊兵器の開発が、美神の手により暴露され、解散は時間の問題と思われた南武グループだが、外国の投資会社から膨大な資本が送り込まれ、いつの間にか、以前以上の企業グループに成長している。

「名前は同じでも、経営陣は、一新されているから、別会社アルけどね。」

「やっていることは大して変わりがないじゃないの!」
美神は、いらだたしげな調子で厄珍の主張を否定する。

「そんな偏見を持った言い方は、ダメね。防御型心霊兵器開発では世界をリードしている優良企業アルよ。」

 かっての南武グループによる心霊兵器(続いて、起こったアシュタロス事件で使用された魔法兵鬼も含め)の存在は、国際社会にも大きな影響を与えた。
 各国とも核兵器をもしのぐ心霊兵器の可能性を認め、開発を模索し始めたのだ。しかし、人類にとって幸いなことに、核でこりた軍拡競争を心霊兵器で繰り返す愚を国際社会は悟り、心霊兵器に、厳しい枠をはめることに成功した。
 ただ、その過程で、心霊兵器に攻撃型と防御型という分類が生まれ、前者の開発/配備は全面的に禁止されたが、攻撃型が使用した時に備えるという名目で、後者の開発は、(制限があるものの)逆に認められることになった。

ちなみに、防御型心霊兵器とは、結界や霊的監視システムなどがあげられるが、世の常として、そこには広大なグレーゾーンが存在している。偽装シートもそれらグレーゾーンに位置する心霊兵器だ。

南武グループは、それらの防御型心霊兵器の開発/生産の最大手で、日本をはじめ、各国の軍事、情報組織に装備を納入している。

「ふん、リードしてるって言ったって、あの時の研究のデーターをガメったって話じゃない。」
 美神の告発で警察が踏み込んだまでは良かったが、裁判への証拠保全とかで、もたもたしているうちに証拠となるオリジナルデーターが処分される一方、かなりデーターのコピーが”新”南武グループの手に残ったという。

「当時は、オカGが十分に機能してなかったからな。普通の警察には、何が重要かなんて判断ができないさ。」
横島は、当時を思い出し、テンションの上がった妻をなだめる。

「こうなるとわかってたら、研究所を根こそぎ破壊して、職員を皆殺しにしておけばよかったわ。」
それでも、平然と物騒な事をしゃべる美神。
「だいたい、防御型心霊兵器なんてものが開発されるから、二流GSでもまともな仕事ができてしまうようなったじゃない。おかげで、軽い仕事が回らなくなって、こっちは大迷惑よ!」

‘本音はそれかい!’と心で突っ込む横島。

そんな時、机の、これも今では珍しいダイヤル式黒電話が鳴る。
 近くにいた横島が受話器を取る。
「人工幽霊一号!」
横島の声に美神にも不安が走る。
「えっ‥‥ 何んだって! 子どもたちが見張りに仕掛けたって!!」
横島は、受話器を叩きつけるように置き、美神と駐車場に走る。

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