ザ・グレート・展開予測ショー

アシュタロス〜そのたどった道筋と末路(涙)〜ヴァンパイア・メイ・クライ6


投稿者名:♪♪♪
投稿日時:(03/11/16)



 ――っ?


 遥か遠くから自分達を見据える気配の存在を感じ取り、アシュタロスは立ち止まった。歩き続ける一同に置いて行かれながらも、ゆっくりと四方八方を見回し、視線の原点を探す。
 とはいえ、辺りが開けた空港と言う地理条件が、監視者の居場所を容易に限定させてくれない。
 視線そのものの気配をたどろうにも、立ち去った後らしく胡散霧消してしまっていて手がかりがまったくなかった。


 ――ふむ。弱った私にギリギリまで感付かれず遠くから監視が可能な奴と言えば……腐るほどいるな(汗)


「――? どうかしましたか? アシュタロスさん」
「いや。気のせいのようだ。気にするな」


 いぶかしがるピートに答え、アシュタロスは歩き出し、一同に追いついた。別段隠したわけではなく、むやみに怯えさせる事もないだろうという配慮の結果だった。




「この飛行機でヴラドー島まで行きます」


 そう言ってピートが一同を連れてきたのは、それなりに年季の入ったセスナ機の前だった。ボロいと断言できて、かつ機体の劣化が飛行に問題のないレベル。早い話が、手入れの行き届いた旧型機だ。


「うっ……なんかボロいな」


 思わず引く横島。ルシオラとカオスが共同開発する『カオスフライヤー』に毎回乗せられて、毎回自由落下させられている経験上どうしても飛行機には抵抗があるのだ。
 『毎回』乗せられて『毎回』落下していると言う言い回しから、成功したかしないかは理解いただけるだろう。


「これで途中まで進み、船に乗り換えます」
「ま。ヴラドーが隠れ住んで今まで隠れおおせたぐらいじゃからな。文明からは隔絶されていると思って良いじゃろうし」


 カオスは、良くも悪くもぼけたところがあるヴラドーが、身を隠すためにどういった行動をとるか推理し、その結果は事実と寸分の差すらなかった。


 すなわち。
 島そのものを第三者からは見えないように結界で覆う。
 究極に単純かつ究極に効果的な方法ではある――いったん露見してしまうと、物凄く怪しまれる事を除けば。


「……しかし、直通の連絡船もないのか。ひょっとして電気も――」
「発電機くらいはありますけど――あまり期待しないでくださいね。戦前に流れ着いたものを、何も知らない島の人間が改修したものですから」
「そりゃ困ったのう。マリア。不必要なシステムを休眠状態にしておけ。この先充電できそうにない」
「イエス・ドクター・カオス」


 ――敵が夜刀神一党だと楽なのだがな。私の勢力をそのまま取り込んだわけだから、部下の能力は大部分把握しているし。
 裏切られた報復と言うのもあるからな!!!!


 カオスとピートの会話を聞き流し、裏切り者を卑怯な手段で始末しようとする悪の首領のような思考に陥るアシュタロス。彼の場合、『変態にはついていけん』『魔王は魔王でも種馬魔王だね』だのと言われて決別されたので個人的な恨みが大きかった。


「時間がないので、すぐフライトします。皆さん中に入ったらすぐに席についてベルトを締めて下さい」
「わかったわ。自己紹介を求められたら、打ち合わせどおりに――」


 最後のつぶやきは、小声だった。
 自己紹介というのは、アシュタロス達の身分に関する当たり障りのない偽造情報の事だ。なんとこのアシュタロス、対外的には戸籍上は葦優太郎で通しているのである。アシュタロスの名前はあだ名扱い。


 生まれたときから魔力を持ち合わせたゴーストスイーパーで、横島忠夫とは親戚関係。ルシオラ、ベスパ、パピリオの三人は、それぞれ清水(蛍にかけて)、蜂須賀(文字通り)、華野(蝶が舞う場所)の苗字をつけて、横島家の扶養家族。対外的には、これで押し通していた。


 小さな嘘をその場限りで連呼するより、大きな嘘を使い通した方が、結果としてはいいのである。
 一つの嘘をついた相手に、別の嘘をついた相手が接触して、取り返しのつかない事態を引き起こす事が時としてあるのだ。


 ――不倫大魔王横島大樹の体験談が持つ前代未聞の説得力には、一同終始圧倒されっぱなしだった。妻百合子に半殺しにされ血まみれのその姿は、尊敬なんぞできたもんぢゃなかったが。


 ……不肖この作者、今思ったんだが……
 ルシオラ達の過剰なおしおきって、ひょっとして『ぐれぇとまざぁ』の影響?


「ええ。わかってますよ『清水』さん」


 にっこり笑ってからピートはタラップの横に下がり一同をうながす。先陣を切って機内に飛び込んだのは、やはりと言うかなんと言うか、幼子パピリオだった。カオスの肩から飛び降りると、元気一杯に駆け出していく。


「わーい♪ 飛行機でちゅ〜!」


 大柄なカオスの肩から飛び降りれるあたりが、なんというか魔族だ。
 この間、同じ事をアパートの大家さんの前でやらかしてしまい、思いっきりいぶかしがられた事があった。その時、カオスは慌てふためいていいわけを考えて、自分でもだいぶ苦しいと思う事を口にした。


『いや、横島の血筋みんなああじゃから』


 ――この一言で納得されてしまう横島一家に乾杯。


「こらパピリオ!」
「走ったら転ぶぞ!?」


 慌ててそれを追うルシオラとカオス。それについていくマリア。横島とアシュタロスは肩をすくめてその後を追い、ベスパはアシュタロスの腕を取って追従する。


 いかにも仲良さ気にはしゃぐ横島一家を見て、ピートは胸の奥に違和感を感じた。その正体が何か察する前に――


 カタストロフは、訪れた。


「あ、横島さ――」


「おっぢょぉっすわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!」


 何故か機内にいたおキヌが、横島を発見すると同時に。
 アシュタロスは己が獣欲(畜生欲ともゆー)をむき出しに、本能の命ずるままにスパイラル・L・ダイブ(仮)を敢行する!!!!


 説明しよう!
 スパイラル・L・ダイブ(仮)とわ!
 スケベを極め、スケベの王者となったものがマスターできるLダイブを、腰のひねりで螺旋回転しながら行う荒業である。空中でぐりんっと腰をひねるのがコツ! 一瞬で脱衣する事の出来ない未熟の象徴である(仮)は、『かっこかりかっことぢ』と読むのがポイントッ! ちに濁点であって、しに濁点ではないぞ!?









 回転する事に意味などないし、求めてもいけない!
 変態魔王の歪んだぢょーねつは不思議で一杯だぁ!(投げやり)










 さて、びっくりするのがおキヌである
 お仕事で遠征とはしゃぎ、『ここに横島さんがいればなあ』と考えていた矢先に彼の姿を見つけ、歓喜一杯に声をかける。
 が、返ってきたのは愛しい人の返事ぢゃなく変態の咆哮と肉体。


 目を血走らせたマッチョなおっさんが回転しながら突っ込んでくるのである。
 これぞ、乙女達にとっては究極の悪夢、その極北と言えよう。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!?」


 絶叫し、逃げ出すおキヌ。そこにベスパによる突込みが――入らなかった。


 代わりに。


 ざっ!


 おキヌの隣にいた女性が立ち上がり、


 ぢゃぎんっ!!!!


 神通棍を構え、


「くたばれこのド変態がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 ばきーーーーーーーーーーーーーんっ!!!!!


 打った!
 そりゃあもう、プロ野球選手顔負けのフルスイングを叩き込んだ!


「ひでぶっ!?」


 えらく間抜けな悲鳴を上げながら、飛来した時の軌跡を綺麗になぞりながら逆流していくアシュタロス。飛ぶ飛ぶ弾丸ライナー!
 仰向けになったその視界に移ったのは――































 虎球団のユニフォーム着て神通棍構えたベスパ。


























 どうでも良いが横島一家、大の虎球団ファン。一家そろって道頓堀に飛び込んだ経験も有り。
「アシュ様の馬鹿――――――――――――――っ!!!!」


 バキーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!


「あぢゃぱっ!?」
 涙交じりのスイングで再び打ち返されるアシュタロス。弾丸ライナーはピッチャーごろとなって立ち上がった女性の足元に転がり、


「ふんっ!!」
「!!!!!!!!!!!!?」
 力の限りハイヒールで股間を踏み潰された。


「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇん……よこしまさは〜〜〜〜〜〜ん……(えぐえぐ)」
「ああ、もう、大丈夫だから。ね?」


 アシュタロスが最高指導者の身元に送られようとしている間に、ちゃっかりと横島に泣きついて役得なおキヌちゃん。
 どう泣き止ませたものかとおろおろする横島に、魔王にとどめを刺した女性が、あきれ交じりに質問を投げた。


「親戚と旅行に行くから休暇あげたってのに――横島君、何でここにいるわけ?」
「それはこっちが聞きたいくらいッスよ美神さん。その様子だと、唐巣先生の依頼受けた口みたいッスけど」


 横島の雇用主にして業界随一のGS、美神令子は神通棍を構えたままそこに立っていた。


「私は仕事に決まってるでしょ?」
「俺も旅行――正確には仕事の後に行く予定ッス。そこに転がってる、俺のおじさんの」
「はあ?」
「ゴーストスイーパーなんです。一応凄腕のはず」


 美神さん、肩越しにその変態を見やって、


「――この変態マッチョが?」
「いちおー、関西じゃあ有名なんですけどね。葦優太郎って」


 事実である。唐巣や大阪のGS協会支部の責任者が、口裏を合わせて流してくれた情報は実在する。


「へぇ――葦優太郎なら聞いた事あるわ。おたくの叔父さんがねえ」
 横島の声に応答したのは、美神ではなく聞き覚えは有るが別の声だった。おキヌちゃんの啜り泣きをバックミュージックに会話に参入してきたのは、肌の黒い黒髪の女性。横島の視界は、そのナイスバディとつくりのいい顔を大いに記憶していた。


「あんた――小笠原エミ!?」
「あら。憶えていてくれたワケ?」
「あんときゃーひどい目に会ったからなあ」


 そう。ひどい目に会ったのだ。
 あの当時は、小笠原エミと美神令子の関係を知らず、彼女と会ったことを自慢げに美神の前でもらしてしまって――死にかけた。冗談抜きで。


「エミさんがここにいるって事は――ひょっとして」
「そ。あたしも唐巣のおっさんに呼ばれたクチなワケ。あたし達だけじゃなくて、業界中の一流どころをかき集めてるみたいよ?」


 言って、エミは視線で背後を指す。そこには――


「ま〜くん、あーんしてぇ〜♪」
「あ、いや、めーこちゃん!?」
「……してくれないの〜?(半泣)」
「……あ〜ん(恥)」


 甘ぁぁぁぁぁぁぁい空間を構成する鬼道、冥子のバカップルがいた。これでも業界でも有数の一流スイーパー。


「ところで――
 今からでも遅くないわ。どう? 葦の事知らないローカルなんかより、あたしのところに来る気は――」
「ちょっとエミ。誰がローカルですって?」


 ぎしりっ、と空気が軋んだ。


 ごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごっ……と、地鳴りのような低い鳴動音まで聞こえはじめ、視線と視線がクロスする点では火花どころか火の玉が精製される。気の弱いものなら殺気だけでノックアウトされるであろうドギツイ殺気が空間を埋め尽くしていく。
 いきなり目の前で火花散らしだす二人の夜叉に、横島は大いに慌て、話題の転換を試みる。


「え、エミさんはアシュタロス――おじさんの事知ってるんですか?」
「知ってるも何も、黒魔術関係のスイーパーの間じゃ知らない奴はいないワケ」
 上手く話がそれた――ワケではなく、返すエミの表情は、『こんな事も知らないなんて信じられない』というニュアンスを含んで令子に向けられていた。


「人間の身でありながら魔力を持ち、大阪に現れた巨大土蜘蛛や、嵐山に出没した攫猿(かくえん)、高額指名手配悪魔のインキュバスを退治した名スイーパー。大阪に住んでいれば、知らない人間はいないとまで言われてるワケ。名前が似ているのと魔力を使うところから、ついたあだ名が『魔王アシュタロス』」


 全部が全部嘘でないところがミソである。実際、アシュタロスは大阪支部の会長の口利きでGSとして活躍した事が多々あった。


「三人の助手、清水ルシオラ、蜂須賀ベスパ、華野パピリオも、魔力を持つ事と特異な能力で話題になってるワケよ。
 ――令子。あんたこんな有名な話も知らないワケェ? 本当にGS?」


 びきぃっ
 青筋浮かべる美神さん。怒り狂うかと思いきや、優雅におほほと笑い出し、


「へえええええ? 何度も負けてる奴がそういう事言う?」


 びきききぃっ!!


「お、おキヌちゃん。非難しよう非難」
「そ、そうですね」


 泥沼の闘争に突入しそうな二人に――正直に記そう、横島たちはビビった。しくしく泣いていたおキヌと、顔を蒼くして歩き去っていく……泣く子も黙るたあこの事か。


 ずーりずーり。


 アシュタロスの足を引っつかんで、引き摺っていくのも忘れない。細い席と席の間をすり抜けてくもんだから、椅子の足に頭やらなんやらぶつけて痛そうだが、まったく気に留めなかった。基本的に自業自得なのだから。
 機内を見回し、ルシオラ達の姿を探し当てて歩み寄るも、近づくにつれて異様な状況に巻き込まれているのがよくわかった。
 誰でも、自分の恋人が床に座り込んで『の』の字書いてればびびる。


「る、ルシオラ? どうしたんだ?」
「ほっといてあげてくだちゃい。あそこで修羅場ってる二人のナイスバディを前にして敗北感にうちひしがれてるんでちゅ。
 ルシオラちゃんのスタイルであの二人と争うなんて、無謀な事でちゅね」


 カオスのひざに座ったパピリオが失礼きわまるどころか、挑発まがいの発言をするも、ルシオラは反応しない。どーやら、心の傷はマリアナ海峡より深いらしい。


「そういうパピリオは――」
「パピの胸とスタイルには未来があるでちゅ! ルシオラちゃんの胸は聖書級聖戦・世界終末戦争でちゅ!」
「その心は?」
「終わってまちゅ!」


 ぐさぁっ!!!!
 特大の言葉の槍が、超電磁○ピンの如く、ルシオラの薄い胸をえぐり抜く。


「る、ルシオラ? 大丈夫だぞ。スレンダーもいいもんだから――」
「タダちゃぁぁぁぁぁぁぁぁんっ」
 感極まって横島に泣きつくルシオラ。
 その光景にムッとなるおキヌ。


「あの〜? 横島さん? こちらの方は一体――」
 ぴくぴくっとこめかみを引きつらせながら、おキヌちゃんは問う。ルシオラはそんな彼女の様子と半透明の体を見て、彼女が横島の話に出てきた幽霊だと察することが出来た。


 それ故に、瞳に闘志をたぎらせながらこう言い放ったのだった。
「はじめまして。タダちゃんの恋人の清水ルシオラです。」
 横島に抱きついたまま。


 ごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごっ!!!!
 正真正銘の修羅場を演じるおキヌとルシオラ。はさまれて着実に寿命を削る横島。


 背後ではいまだにエミと美神がいがみ合っていた。だぁくな空間には誰一人として踏み入る事が出来ない。アシュタロスはベスパと一緒にトイレの中へ。ぴぃんくな空間が存在しないのは、『めきしゃぁっ』『ごきゃりっ』などの効果音で証明されている。
 冥子と鬼道のバカップルは究極のピンクの結界を構築しているし、パピリオとカオスはマリアも交えてほのぼの家族と化していて。


 ピートは思った。


『なんて頼もしい人たちなんだ!!!!』




 ――戦場にあるまじき空気と致命的な勘違いを内包しつつ、小型機は大空を舞い始めた。

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