ザ・グレート・展開予測ショー

悲劇に血塗られし魔王 27


投稿者名:DIVINITY
投稿日時:(03/11/16)


強くなりたい。
強くなるためなら、何だってしてやる。
どんな目にだって喜んであってやる。
そして、守るんだ。
・・・・大切な人を。
・・・・かけがいのない人を。
俺のこの手がどれだけ汚れても砕けてもかまいやしない。

ルシオラを失った時、俺は心の底からそう思いそして誓った。

『俺の周りに居る人達を俺は守ってみせる』












砂漠で水を追い求める遭難者のように・・・・・・・
夕陽に壊れるほど腕を伸ばして哀願したあの誓い。


















今、俺はあの誓いを激しく後悔していた。











『強くなりたい。お前は確かにあの時、そう思ったな』

「・・・・・」

『ねえねえ、どうしたら強くなれると思う?』

「・・・・・」

『修行?数多くの戦闘?駄目だ、駄目だ。それでは真に強くなどなれはしない』

「・・・・・」

『じゃあ、何をすれば良いと思う?答えはね、運命に抗えことなんだよ』

「・・・・・」

『その運命が余りにも理不尽で残虐であればあるほど、強くなれるのだ』

「・・・・な」

『そういえば君はあの時、こうも言ったね。どんな目にだって喜んであってやるって』

「・・ざ・・・・な」

『我々はそんなお前を見込んでやったのだ。貴様こそ、最強になるに相応しいと!!なあ、』

『悲劇に血塗られし魔王さん♪』

「ふざけるなーーーーーー!!!」






美神さんの事務所から予定通り「ウィニケト写本」とタマモを頂いた俺とナターシャは元々決めていた近くの隠れ場所に身を隠した。
そこら一帯は霊的磁場が乱れていて、魔力を抑えるだけで気配を殺す事が出来た。
俺はナターシャにタマモの介抱を頼むと、早速「ウィニケト写本」を開いた。

さて、その前にここでそろそろ「ウィニケト写本」の謎を明かそうかと思う。
「ウィニケト写本」は何の魔術書がモデルになっているか全く不明で著者も分からない、世間では謎とされる本である。
人によって訳が全く異なり、しかもどれもが魔術とは全く関係のないものばかり。
どうしてそんな事が起きるのだろうか?
暗号文だとでもいうのだろうか?
文字に何かしらの魔術が施され単純には読めないように細工でもしているのだろうか?
そうではない。
答えはもっとシンプルだ。
この本は今もまだ書き続けられている、それだけの事なのだ。
書いては消し、書いては消し。
ただ、それを繰り返しているだけに過ぎない。
問題はそれを書いている著者になるのだが・・・・・・
これが、人間・神族・魔族・妖怪・怨霊のいずれでもない事は考えれば解ると思うから説明を省く。(説明するとかなり長くなるし・・・・)
じゃあ、一体何か?
実はもう一つ、魔術書に詳しい人ならピンとくるだろう答えがあるのだ。
即ち、「ウィニケト写本」事態に意思を持っているのではないかという事。
確かに高位の魔術書は意思を持つといわれているが、考えてみて欲しい。
「ウィニケト写本」はどこまでいっても写本である。
意思を持つことなどありはしないのだ。
持つかもしれないじゃないか、と思われる人もいるかもしれないが有り得ないのだから仕方ない。
結局何なのかというと、この本は意思を持っているのではなく、「ある所」とこちらを結ぶ一種の鍵的存在だという事。
鍵と敢えて言ったのは、条件さえ整えばその「ある所」へ「ウィニケト写本」を媒介にして行く事が出来るからだ。
そしてその「ある所」に著者がいる。
・・・・・・・魔術やこの世の神秘の源といえる著者が・・・・・・・
魔術の源ともいえるその著者が書いた本だから写本。

「ウィニ(あるようで)ケト(ない)写本」

話は少し変わるが、この本はこれのみでも著者と接触する事ができる。
その著者にある程度関わりがなくてはならないが、それをクリアすれば幻覚を交えた会話が可能なのだ。
幻覚とはこの場合脳内に著者が映し出す映像を指すのだが、俺の見たものは・・・・・・・







真っ暗な空間に三人の人間がいた。
一人はケラケラと笑っているまだあどけなさの残る少年。
一人はぎらついたまるで抜き身の刃のような頑強な男。
残る一人は・・・・・・目隠しをされ磔にされた女性。







「ふ、ふざけるなーーー!!」

だったら何か!?
俺があんな誓いをしたせいで小竜姫様は天界を出てしまい、ワルキューレは軍を抜け、おキヌちゃんが狂い、そして美神さんが皆が不幸に
なるっていうのか!?
質が悪いにも程がありすぎる!!

「貴様等、なら俺の誓いはどうなるって言うんだ!!俺は仲間を守るって誓ったんだぞ!!」

『守ればよいではないか』

俺の訴えに男は憮然と答えた。

「何だと?」

『守ればよいではないか。言っただろう?運命に抗え、と。お前の場合、仲間とやらを守ることがそのまま運命を抗う事に直結するのだ』

『それで強くもなれるんだよ。誓いも守れて、願いも叶ってこれで一石二鳥♪きゃははははっ!!』

マグマの如く灼熱とした怒りが身を焦がす。
それに呼応するかのように魔力が溢れ出して来るのを感じた。

『あれ、ちょっと前まではそこまで魔力を扱えなかったよね。いいよ〜、僕が戦闘を代わってあげたあの頃より数段強くなってるよ』

確かに力が増しているみたいだ。
あの時とはまるで違う力の奔流を身に感じる。
だが、この力は所詮こいつらに与えられたもの・・・・
そんなものに価値などありはしない!
入らない。入らない。入らない。入らない。
こんな悲しい力など入りはしない!
・・・・
・・・・
・・・・
・・・・

身に滾る怒りが沸点を超え、蒸発し、凝固し、冴えた殺意に変わるのにさして時間はかからなかった。

見てろ。
すぐにそこに行ってやるからな。
・・・・俺が貴様等を滅ぼしてやる。






俺は磔にされた女性を見た。
気絶しているのだろうか?
全く動きを見せることはない。

『彼女が気になるのか?』

「彼女・・・・か」

『そうだ、彼女だ』

男が俺の呟きに律儀に返答してくる。

『俺達は元々一つなのは知っていよう。それが三つに分裂し、やがてそれぞれが独自の意思を持つようになったのだ』

『名前はないけど、敢えて言えば僕が「無垢」でこの厳ついおじちゃんが「自戒」。そしてこのお姉ちゃんが・・・・・』

「・・・・・『慈悲』か」













そして、三人は合せてこう呼ばれる。

『囁き』と。












『話はこれで以上だね』

無垢はそう言って話を切り上げた。
俺もこれ以上話をする気など毛頭ない為、それに同意し、これからの事について思案し始める。
だが、自戒の一言でそれも中断させられた。

『タダオよ。餞別にいい事を教えてやる』

そう言うといままで見えた暗い空間は消失し、打って変わって明るい青空の景色に変わる。
雲無きまさに晴天。
その空には四人の姿が・・・・・・・

「おいおいおい・・・・っ!!」

そこには、ズルベニアスにパピリオにベスパ、そしてワルキューレがいた。
何故、ベスパやワルキューレがいるのか解らなかったがそんな事より問題なのは・・・・・

「何で、切れちゃってんだよ。ズルベニアス」

そこには、姿がまるきり変わったズルベニアスの姿があった。






















ばたん、

どこかで、遠いような近いようなどこかで、本が閉じる音がした。

瞬間、ぐりゃりと空間が歪む。

元の世界に戻ろうとしているんだ。

俺はそれを認識しつつ、心で違う事を考える。

即ち、先程の『囁き』との会話とズルベニアスの異変の事。

きっと俺は今まで奴等の道化だったんだと思う。

だから奴等は焦らないし、そのせいで余裕が生まれた。

そしてその余裕は、ついに一つの行動を奴等にとらせた。

それが恐らく今回のズルベニアスの変異だろう。

どうやってズルベニアスを切らせたかは少し考えれば分かるが、問題はそこじゃない。

問題はその行動を可能にしてしまった俺の不甲斐なさ・・・・

これは俺の「覚悟」がまだ足りない事を意味する。

仲間に苦労をかけ、俺に良くしてくれた女性を見捨て、まだあどけなさの残る少女を過酷な道に引きずり込み、それでもまだ足りない。

俺は捨てる覚悟を強いられているのだ。

最後の最後まで持っていたかった「それ」を捨てる事を今求められている。

「それ」は俺に力の抑制をかけ、俺を俺たらしめた大切なもの。


























曰く「人の情」

























景色が戻った。

俺は取り敢えず、タマモ達の姿を探した。

まあ、狭い事もあり案外簡単にタマモを発見できた。

・・・・・・・介抱してるはずのナターシャはいなかったが。

タマモはまだ起きる気配もなく、静かに深く眠っていた。

俺はその様子を窺ってから、パンと手を一回叩く。

槍が別空間から現れる。

・・・・・・・・・槍を出す際のあの頭痛はもはやない。

槍を手に取り、激しい戦闘が起こっている区域に目をやる。

ここからでは無論見えやしない。

でも、どうなってるか手に取るように分かる。

俺はふと、視線をタマモの側に移す。

そこには、俺の正体を隠していたあの仮面があった。


「・・・・・・・」


もうそれも必要はない。

・・・・・俺に迷いなどもうないのだから。

俺は、戦場へとそのまま翔けた。



















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「あいつ、どうやら決断したようやな・・・・」

「『人の情』を捨てる。その決断は果たして最良だったのでしょうか?」

「そんなもん、知らん。だけど、あいつこれから苦労するでぇ」

「そうですね。『人の情』は彼にとって力の抑制剤であり、かつ欲求の抑制剤でもあったのです。それを外すとなると・・・・・・」

「・・・・どこまでも『囁き』の脚本どおりやな」

「そうですね。ですが、そろそろその脚本に狂いが生じても宜しいのではないでしょうか?」

「その通りや。だからこそ、わてらは動き出したんやろ?」

「ええ、そうなのですが、心配事が一つあるのです」

「・・・・・・あの嬢ちゃんか」

「あの方の目的が未だに分かりません」

「まあ、気にしてもしょうない。女は永遠の謎ってことにしとこや」

「それでも注意だけはしておきましょう」

「それはもちろんや。嬢ちゃんはある意味「囁き」以上に曲者やさかい」

「・・・・全く、これ以上不安分子は増えないで欲しいものですね」

「それを言ったらきりないわ」

「そうなんですけど、言わずにいられませんよ」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・・早いとこ戦争に移ったほうが逆に良いのかもしれへんな〜」

「・・・・・」


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