ザ・グレート・展開予測ショー

狐の少女のとある朝


投稿者名:蜥蜴
投稿日時:(03/11/16)


 処女作が概ね好意的な意見を頂いた為、休日という事も手伝い、調子に乗って投稿2作目、予告していたシロの話です。
 ですが、タマモの行動を追っている上に、シロがメインになれているかと言うと、首を傾げざるを得ないかも。

 それと、この話は拙作「彼女の憂鬱」とは異なる設定で、原作の「白き狼と白き狐!!」の後の話になります。

 また、もしかしたらシロというキャラクターを著しく貶めちゃっているかもしれません。
 ネタも有りがちかな、とちょっぴり反省。
 つまり、生粋のシロニストの方々には納得いかない内容になっていると思われます。
 全然ラブラブじゃないし。

 それでは、その辺をご注意の上、お楽しみ下さい。
 
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 チュン、チュチュン……

 窓の外からは雀の囀りが聞こえ、柔らかな朝日が部屋の中を包み込んでいく。

「ん……」

 彼女の朝はきっかり7時に始まる。
 本来、夜行性の狐である筈の彼女が、人間社会の中で生きていく為に、自然に身に付けた習慣の一つである。
 
 これを妥協と取るか適応と取るかは、意見の分かれる所であろう。
 彼女が軽く伸びをしながら隣のベッドを見やると、そこに寝ていた筈のルームメイトの少女の姿は既に無かった。
 ここ数日何やらおかしな行動をする様になり、同居人達を心配させている彼女のルームメイト。
 その少女が朝日が水平線から顔も出さない内に起き出すのは、いつもの事である。

 どうせ、その少女が師と仰ぐ少年の元へ、散歩を強請りに朝っぱらから強襲を掛けているのであろうと当たりを付ける。

 「全く、あのバカ犬は……」

 と、毒吐きはするものの、その台詞には嘲るような響きは無かった。

 そして、彼女はベッドから出た後、立ったまま目を閉じ意識を集中させる。
 すると、寝乱れていた髪は綺麗に整えられた金色のナインテールに、着ていたパジャマもいつものブラウスとノースリーブのセーター、ミニスカートへと変化する。
 彼女の人間としての姿は術により作り出された擬態なので、こんな事も可能なのである。

 擬態であるが故に、風呂に入る必要すら無いのではあるが、そこは女の子。
 三日に一度はルームメイトの少女共々、同居している黒髪の少女に本体の方を洗ってもらっているのであった。

 睡眠を取る時にも、実際には本体である狐の姿の方が遥かに楽なのである。
 だが、人間社会で簡単にぼろを出さないように、訓練も兼ねて人間の姿でいる様にしているのだ。
 
 まあ、それはともかく、彼女にとってはごく普通の、恐らくは平穏な一日が、今日も訪れようとしていた。





     *** 狐の少女のとある朝 ***





 7時15分、彼女の姿はキッチンにあった。
 徐に冷蔵庫を開けると、目的のものを取り出し、居間にあるソファーへ向かう。
 彼女が持っているのは、夕べの内に黒髪の少女が作り置きしておいてくれた、稲荷寿司の乗った皿であった。


 7時30分、学校へ行く為の身支度を終えた黒髪の少女が居間へ顔を出す。
 彼女は、食事を済ませどことなく幸せな雰囲気を漂わせた、ナインテールの少女に声を掛けた。


「おはよう、タマモちゃん。今日も良い朝だね」

「おはよ、おキヌちゃん。私もそう思うわ」


 挨拶を交わした後、黒髪の少女――おキヌは、

「じゃあ、私、皆の分の朝食を作ってくるね」

 と、パタパタとスリッパの足音を鳴らしながら台所へ向かった。

 その場に残されたナインテールの少女――タマモは、テーブルの上に転がっていたリモコンを手に取り、テレビのスイッチを入れた。


 7時58分、ボーッとテレビのワイドショーを見ていたタマモの耳に、元気いっぱいな少女の声が飛び込んで来た。


「おはよ――――っでござるぅ!!♪」


 タマモが声の聞こえて来た居間の入り口の方を見やると、いつの間に帰ってきたものか、そこには満面の笑みを浮べた銀色の長髪の少女の姿。
 どうやら、心行くまで散歩を堪能してきたらしい。
 とりあえず、タマモはその少女へ挨拶を返す事にした。


「おはよ、シロ。……ところで、あんたが右手で引きずっているズタボロの物体は何?」

「何を言ってるでござるか、タマモ。横島先生に決まっているではござらぬか」


 その場に居た者であるなら、当然発するであろうタマモの質問に、不思議そうな顔で答える銀髪の少女――シロ。

 シロの答えにもう一度、彼女が右手に引きずっている物体をよく見てみると、確かにそう見えなくもない。
 呼吸をしているかどうかも怪しいその物体――シロの言葉を信じるならば、彼女の師である横島忠夫という少年――
 タマモは、それがうわ言のように何かを呟いているのに気付いた。

「み……、水…………」

 その言葉を理解すると、即座にタマモはシロに対し、強い口調で言葉を叩き付けた。

「何やってんのッ! バカ犬ッ! すぐにキッチンへ行って、おキヌちゃんから水を貰ってきて!!」

「わ、わかったでござる!」

 タマモの罵倒に反論もせず、シロはキッチンへ駆けて行く。
 程なくして、シロと、水差しとコップを手に持ったおキヌの二人が戻って来た。


「どうしたの、タマモちゃ……って、きゃあっ! 何があったんですか、横島さんっ!!」

 横島の様子を見て悲鳴を上げるおキヌから、タマモは水差しとコップを奪い取る。
 水を注いだコップの縁を横島の口に当てると、彼はもの凄い勢いで水を飲み干し始めた。

「ぶげほっ! げほっ! げほっ! はぁはぁっ! げほほっ!」

「大丈夫でござるか? 横島先生!?」

 当然のごとく咽せてしまった横島の背を撫でながら、泣きそうな顔で尋ねるシロ。

「だい……じょう……ぶなわ……けある……か! このバカ犬ッ!」

 よほど腹を立てているのであろう、普段なら決して口にしない罵倒の言葉を返す横島。

「本当に何があったんですか、横島さん?」

「ごめ……すこし……やす……ませて……おキヌちゃ……」

 心配するおキヌにおざなりに返事をして、タマモから受け取った二杯目の水を今度はゆっくり飲み干すと、横島はふらふらと立ち上がり、そのままソファーに突っ伏した。
 後に残されたのは、横島を心配するおキヌとタマモ、項垂れて目を潤ませているシロだけだった。


 8時15分、一向に復活する気配を見せない横島の頭を膝枕して様子を見ていたおキヌが、ゆっくりと立ち上がった。
 その際、替わりに横島の頭の下に二つ折りしたクッションを入れて置くのも忘れない、気配りの人。

「ごめんなさい、タマモちゃん、シロちゃん。私、もう学校へ行かなくちゃいけないの……」

「わかってる、心配しないで。こいつの面倒は二人で見ておくから……」

「そうでござる! 先生の事は拙者達に任せるでござるよ、おキヌ殿!!」

 後事を託すおキヌに、頼もしい言葉を返す人外娘二人。

「何言ってんのよ。そもそもの原因を作ったのは、あんたでしょうが」

「クッ! そ、そうであるからこそ、尚の事任せて欲しいのでござる!」

 直後に口喧嘩を始めたのはいただけなかったが。


「と、とにかく、朝食はキッチンのテーブルの上に置いてあるから、横島さんが起きたら食べさせてあげてね?」

 おキヌは強引に二人の口喧嘩を遮った後、部屋から持ってきていた鞄を手に持ち、玄関へと向かったのであった。


「で……?」

「……何でござるか?」

「どうして横島はここまでボロボロになっていた訳? 一体何が有ったってーのよ?」

「解らないでござる。拙者は只、先生と散歩していただけなのに……」

「んな筈ないでしょッ!! あんなにボロボロになった上、気絶までしてたのよ! あんた、本当に何も気付かなかった訳!?」

「本当でござる! 気絶なされていたのも、てっきり拙者が早く起こしたせいで二度寝なさったものとばかり……」

「あんた正気!? あんたの散歩に付き合っている最中にそんな事したら、命が幾つ有っても足りないわよ!!」

「ぐッ……!!」


 疑問を解消するべく言葉を交わし始めた二人であったが、結局いつものごとく口喧嘩に突入してしまう。

「う……」

 だが、死んだ様に眠る横島のうめき声が聞こえた途端、二人は喧嘩を止めた。
 そして、顔を見合わせて溜息を吐き合うと、空いているソファーに腰掛け、彼が目覚めるのを待つことにした。

「結局、横島の復活待ちなのよね……」

「そうでござるな……」


 8時47分、それまで死人一歩手前の様に見えた横島が勢い良く起き上がり、右手に文珠を生成。
 『元』の字を込めて自身の胸に叩きつけた。

「ぷはぁ――――っ!! さ、流石に今回ばかりはもう駄目かと思った――っ!!」

 驚きのあまり固まる二人を尻目に雄叫びを上げると、体の各所を動かして具合を確かめ始める横島。
 あんなにボロボロだった服も、すっかり元に戻っている。
 そんな彼に、シロとタマモは言葉を投げ掛ける。

「横島……?」

「大丈夫でござるのか、先生……?」

「ああ、もう大丈夫。心配掛けたな、二人とも……っと、おキヌちゃんもか。
 それと、シロ。酷い事言って悪かったな」

「せんせえ〜〜〜」

「で、横島。何が有ったのか、最初から話してくれる?」


 胸に縋り付いて嗚咽をこぼすシロの両肩を抱く横島に、タマモが質問する。

「その前に、何か食わせてくれ、タマモ。腹が減って死にそうなんだ」


 9時20分、ようやく食事を終えた横島とシロ。
 未だ寝ているタマモとシロの保護者の分は取り分けていたとは言え、軽く5人前は有った料理を平らげた二人に呆れながらも、タマモは彼に答えを促した。
 横島が返した答えは、いつも通りと言えば、あまりにいつも通りの事ではあった。




「そうだな……。いつもの様に5時位にこいつが俺を叩き起こして、『先生、散歩に行くでござる〜〜♪』って言ってきたんだよ」

 耐久年数をかなり越えているであろう横島のアパートの部屋の鍵は壊れてしまっていて、修理費用も捻出出来ない横島はそのままにしてしまっていた。
 その為、シロの襲来を防ぐ事が不可能になってしまっていたのである。
 散歩に付き合わないという選択肢も彼には有ったものの、それを選ぶとシロの機嫌が急降下してしまう為、基本的に目下のものに甘い彼は散歩に付き合わざるを得ない状況に陥っていた。

「でな、散歩とは名ばかりの『3時間耐久ノンストップ自転車レース』に駆り出されるハメになった訳だ」

 日に日に難易度を増すシロの散歩に付いていけなくなった横島は、拾ってきた自転車を修理して、自分が乗ったそれをシロに引っ張らせるという手段に出た。
 考案段階では彼の負担は激減すると思われたのだが、それは彼に、より大きな恐怖を与える事になってしまった。
 彼の足の速さに合わせる必要の無くなったシロは、散歩の度に暴走特急と化してしまったのである。

「ここんとこ、こいつの散歩に付き合ってやれなかったろ? その間にこいつ、新規にルートを開拓したらしくってな……。
 出発する前に、『今日は先生に、拙者が見付けたとっておきの景色をお見せするでござる』ときた」

「ふ〜〜ん、それで?」

「で、しばらく走った後、アドレナリンばりばりになったこいつは、いつもの様に暴走を始めたんだ」

「そんなの、本当にいつもの事じゃない。どうして今回はこんなに酷かったの?」

「そこがあまり開発の進んでいない地域でなあ……。道が舗装されてない上に、森林の中を障害物レースしたり、堤防を壁走りしたり……。
 『近道するでござる〜〜っ!!』って海の上を走り始めやがった時には、流石に肝が冷えたぜ……。
 咄嗟に『浮』の文珠を使ってなかったら、溺れ死んでたな、ありゃあ」

 呆れ返ってジト目で自分を睨むタマモの視線に、縮こまるシロ。

 横島はそんな二人に苦笑しながら手を振ると、こう締めくくった。

「まあ、最終的に3時間で120Kmは走破したんじゃねえかな?
 最後の10Km位は自転車を立たせる気力も無くて、ずっと引きずられたままだったけど。
 シロが正気に戻ったのが、事務所に着いてからだったから、あの惨状になったという訳」


「なるほど。よ〜く解ったわ。結局最初から最後まで、このバカ犬が悪かった訳ね」

「うぅ……。先生、申し訳無いでござる……」


 疲れた様に結論を出すタマモに、しおらしい態度を見せるシロ。
 少し暗くなってしまった空気を払拭するかの様に、明るい口調で横島はシロに言葉を掛ける。

「それでな? シロ。流石にもう、これ以上は俺の気力が持たん。
 すまんが、今日の夕方からは一人で散歩に行ってくれるか?」

「え〜? 先生、これくらいでへこたれるなんて、気合が足りないでござるよぉ。
 これもまた修行だと思えば、頑張れるでござろう?」

 すっかりいつもの調子に戻った横島に甘えるシロ。
 まるで反省していないかの様な彼女に、彼はつい声を荒げてしまう。

「無茶言うな! 只の人間が、人狼の体力に付いていける訳ね〜だろ!
 大体、おまえ、霊波刀以外に物理的な干渉力が有る霊能なんて持ってなかったはずだろうが!?
 どうやって、海の上を爆走するなんて芸当をやってのけたんだ!?」

「忍術でござるよ」とサラッと答えるシロに対し、

「忍術ぅ〜!?」と驚愕する横島。

「そうでござる。先週てれびの”なつかしのあにめだいとくしゅー”とやらでやっていたでござる。
 水の上に足を出して、それが沈まないうちにもう片方を前に出す、というのを繰り返せば良いのでござるよ」

 と、得意げに説明するシロ。

「んなの出来る訳ね〜だろ?」

 思わず、横島はその台詞に突っ込みを入れる。が。

「現に、拙者は海の上を走っていたでござろう?」

 あくまで得意気な表情を崩さないシロに、言葉を失う横島。
 二人の話を聞いていたタマモも、内心呆れ半分、驚嘆半分だった。

 恐らくは、シロは無意識の内に、踏み出した足の下に霊気で踏み場を作っているのだろう。
 そう推測は出来る。
 そして、その事を教えてしまえば意識するあまり、二度と同じ事は出来なくなるのではないか、とも理解出来た。
 
 同時にタマモは、ここ何日かのシロの奇行――彼女達の保護者に無断で事務所の庭に植えた若木の上を、延々一時間ほど飛び越え続ける――が、何に由来していたのかが解り、すっきりとした気分を味わっていた。
 意味不明な行動をするシロの姿はあまりに見る者の哀れを誘い、その理由を問い詰める事が出来なかったのだ。
 今まで誰も。


「馬鹿って、結構すごい事なのかもしれない」


 どこまでも純粋な彼女ならば、いつの日か想いを貫き通し、事務所の屋根くらい脚力のみで飛び越えてしまう事が出来るかもしれない。

 ようやく起き出して、欠伸をしながら朝の挨拶をしてきた保護者に挨拶を返しながら、タマモはくすりと微笑んだのだった。


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後書き:
 今回の話作りの際のコンセプトは、”会話で名前が出てくるまで固有名詞を出さない”でした。
 話にめりはりを与えるのに貢献してれば良いんですけど、今一自信なし。

 反省点としては、前作と同じく状況説明に行数を取り過ぎな上に、やっぱり解りにくい。
 まず、書きたいシーンを書いて、それに肉付けしていく、という手法が悪いんだろうか。
 確実に要点が散漫になってるし……。前回以上に話が淡々と進んでしまってますね。
 今回の話も、タマモに最後の台詞を言わせる為だけに書き始め、シロがメインになるはずだったのに、書き上げてみれば何故かタマモがメインっぽくなってます。
 自分の構成力の無さがとことん恨めしいです。


 それでは、ここからはコメント返しをした後、書き込んで下さった方への返答です。
 
 ・斑駒さん、ひささん、フル・サークルさん、sacredさん、初めまして。
  拙作に対し好意的な意見をくださり、ありがとうございます。

  皆さんが下さった意見は、今後の作品作りに生かして行きたいと思います。
  今回はちょっと容量が一杯っぽいんで、残念ですが、きちんとした返答は割愛させて頂きます。
  それでは。

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