ザ・グレート・展開予測ショー

かごめかごめ 〜その1〜


投稿者名:777
投稿日時:(03/11/16)

かごめ かごめ

籠の中の 鳥は

いついつ 出やる

夜明けの 晩に

鶴と亀が 滑った

後の正面 だ〜ぁれ?








「『かごめかごめ』っていう遊びを知ってる?」

少し前まで美神除霊事務所で働いていた幽霊のおキヌが人間となり、氷室キヌとして美神たちとはなれて生活し始め・・・そしてワルキューレやジーク、ヒャクメたちと出会い、ようやくおキヌの居ない生活になれたころ。
美神がそう横島に声をかけたのは、その日の仕事が全て済み、彼が帰り支度をする夕暮れ時だった。

「は? ええ、知ってるっスけど…。後の正面だ〜ぁれ、って奴っスよね? ガキのころやりましたよ」

横島の答えを聞いているのかいないのか、美神は腰掛けた安楽椅子を夕日の見える窓に向け、赤い光を正面に見つめながら語りだした。

「かごめっていうのは、『しゃがめ』って言う意味。籠の中の鳥は、実は鳥じゃなくて人間。おめでたいはずの鶴と亀が滑るのは、すなわち不吉なことが起こる前兆。後の正面に居るのは・・・『隠し神』。 あれは、神隠しの歌なの」

「何言ってンスか? 美神さん」

横島の問いに美神は答えず、さらに言葉を続ける。

「神隠しというのも、実は嘘。本当は飢饉の時に口減らしのために子供が捨てられる、そのことを謡った歌だそうよ」

美神はそこまで言うとまた椅子を回し、横島のほうに向き直った。

「さっき、変なものが見えたのよ。横島君がぼぅっとしてて、誰かが『かごめかごめ』を歌ってるって言うビジョンが。何かが起こる、そんな気がするのよ。まぁ、あんたなんか助けても一文の得にもならないから、忠告だけはしといてあげるわ」

そんな不吉なことを一方的にのたまった挙句、美神は不意に嬉しそうに笑いながら言った。

「あんたみたいなのさらう物好きな神が居るとも思えないし、とうとう飢えて死んじゃうのかもネ♪」

「イヤやーっ! 飢えて死ぬんも神隠しにあうんもイヤや−っ! 美神さん!今日は美神さんの家に泊めて『ゴスッ』…なんでもないっス…」

そう思うんならせめて給料上げてくれたらいいのにと思いつつ、横島はごそごそと帰り支度を再開する。

「ま、なんにしろあんたも一端のGSなんだから。用心しなさいよ」

「ウィ〜っス。そんじゃ、お疲れっス」

美神の忠告もそこそこに、横島は家路に着くのだった。














事務所からの帰り道、美人の巫女さんでもからかおうと多少回り道して立ち寄った神社に、中学生くらいの女の子がいた。
あと数歳上なら横島のストライクゾーンだったろう。つまりは美人になりそうな顔立ちだということで。
ストレートの黒髪と磁器のような肌、茫洋とした瞳は大きく、その目は注連縄を巻かれた木の一本を見つめている。
彼女は、まるで神社に生えた神木の一本のように、泰然と動かずそこに在った。

と、

「か〜ごめ か〜ご〜め か〜ごのな〜かの と〜り〜は〜」


少女は、唐突に歌いだした。
その声は風に乗り、少し離れた俺のところまで流れてくる。
その歌が『かごめかごめ』だったことに、横島は戦慄を覚えた。

「い〜つ〜い〜つ〜で〜や〜る〜 よ〜あ〜け〜の〜ば〜ん〜に〜」

やめさせないと。
なぜかそう思い、動こうとするのに横島の体は動かない。
少女の歌は続く。

「つ〜るとか〜めがす〜べった〜 うしろのしょ〜めん」

そして。

「だ〜ぁれ?」

少女が振り返った。
刹那、横島と少女は目が合い。
そして横島が瞬きした途端、少女は消えた。

「あ…れ…?」

慌ててあたりを見回したが、横島の見える範囲に彼女は居なかった。
まるで最初から何も居なかったかのように、忽然と少女は消えてしまったのだ。
背筋が寒くなり、横島はきびすを返して神社を立ち去ろうとする。
その耳に、かすかに『かごめかごめ』が響いていたのは、幻聴だったのか、あるいは…?









次の日。
出勤した横島が昨日の出来事を美神に語るよりも早く、一人の老人が見神除霊事務所に姿をあらわした。

「失礼。ここが美神除霊事務所ですな? 私は来栖川グループの執事をやっております、セバスチャンと申します」

「セバスチャン・・・本名かしら?」

どう見ても日本人にしか見えない老人の名乗りに、美神は軽く小首をかしげる。

「いやいや、お嬢様から頂いた名前でして…。今日ここに参らせていただいたのも、そのお嬢様のことなのです」

「来栖川グループのお嬢様、ですか。それはそれは…あ、失礼しました。どうぞお掛けください」

上客だと分かり丁寧な口調になった美神に椅子を勧められ、セバスチャンと名乗った老人は腰をおろす。
その正面に横島と腰掛け、美神は改めて老人に話を促した。

「来栖川のお嬢様のお話とのことですが、一体いかがなさいました?」

「旦那様には二人の娘がおられます。芹香様と綾香様という、14歳と13歳の姉妹です。実は昨日、長女である芹香様が行方不明になりまして…」

セバスチャンは心底心配している様子で、言葉を搾り出すようにして話している。
そんな彼に、美神は首をかしげながら問い返す。

「行方不明、ですか。それはそれはご心配なさっているでしょう。けれど、行方不明ならば警察に頼んだ方がよろしいのでは…」

「ええ、警察にも届けは出しました。目下のところ捜索中でしょう。何者かがお嬢様を攫った、あるいは事故ならば、すぐにお嬢様は見つかりましょう。ですが、お嬢様は少々特殊なご趣味をお持ちで、あるいはそれが原因かも知れぬと…」

「特殊な趣味ですか。それがつまり、私のところへ依頼する理由だと?」

美神の言葉に、セバスチャンは神妙に頷いて言った。

「お嬢様は、黒魔術や呪いといった、オカルトに興味をお持ちになっていたのです」





来栖川芹香行方不明事件、概略はこうである。
日頃オカルトに強い興味を示していた芹香は、昨日執事のセバスチャンに奇妙なことを言った。
「神様に会ってくる」
芹香がそういった奇妙な発言をするのは珍しいことではなかったため、セバスチャンは大して気にしなかったという。
そして、彼女は消えた。
確かに屋敷内に居たはずなのに、誰も芹香が屋敷を出るところを見たものはおらず、彼女はまるで霞みのように消えてしまった。


「これが芹香お嬢様の写真です」

行方不明となった経緯を話し、セバスチャンは一枚の写真を懐から出した。
そこに写っていた少女の顔に、横島は見覚えがあった。

「あれ、この娘…」

写真に写っていた少女は、横島が昨日神社で出会った少女だった。

「何、横島君この娘知ってるの?」

「なんですとっ!? どこで出会ったのですかっ!?」

横島が昨日の神社でのことを説明すると、美神は無言で横島の襟首をつかみ、がくがくと揺さぶりながら叫んだ。

「何でそういうことをもっと早く言わないのよっ! 目の前で女の子が消えたなんて、どう考えても妖しいでしょうがっ!」

「し、しかたなかったんや〜っ! 話そうと思ったらこのじ〜さんが来たんや〜っ! 黙っとくつもりはなかったんや〜っ!!」

横島の言葉に、美神は納得したのか襟首を離して横島を地面に落とす。

「美神殿、一体どういうことでしょうか? お嬢様の身に、一体何が…?」

心配そうなセバスチャンの言葉に、美神は少しの間思案し、やがて言葉をつむぎだす。

「神社の注連縄のしてある木というのは、神様への供物として捧げられているということの証なんです。民間信仰に『注連縄のしてある木に近づいてはならない』というのがあります。近づくと神様の供物に間違って数えこまれてしまうというんですね。特に夕方…逢魔が刻によく、神隠しに遭うといわれています」

「『神隠し』ですか…!」

「はい、横島君の話によると、彼女は『かごめかごめ』を歌っていたそうです。この『かごめかごめ』という歌もまた、『隠し神』を呼ぶ歌…つまりは神隠しに遭いやすい歌だとされています」

「それでは、お嬢様は…!」

セバスチャンの言葉に、美神はひとつ頷いて言った。

「はい、まず間違いなく『神隠し』でしょう。つまりは私たちの仕事だということです。ただ、気になることがあります」

「気になること…?」

「来栖川芹香さんが『自分の意思で』神隠しに遭ったような節が見られることです」

美神の言葉に、セバスチャンは衝撃を受けたようだった。

「『自分の意思で』? 一体どうして…いえ、そんなことが可能なのですか?」

「可能かどうかと問われると疑問がありますが、芹香さんは自分から神隠しに遭おうとした可能性があるんです。『神様に遭う』と発言していたことや、神社で『かごめかごめ』を謡っていたことなどから考えるにおそらくは。目撃者が誰も居ないのに屋敷から消えたことから、あるいは何者か…通常の人間ではなく、不可思議な存在だと思いますが…の手引きを受けていた可能性も考えられます。いずれにしろ、儀式の手順から察するに彼女はあなたに言った言葉どおり、『隠し神』に会っているのでしょう」

「その、『隠し神』というのは何なのでしょう?」

「隠し神とは、神隠しを行なう者の総称です。狐や天狗、山ノ神や鬼など…。ただ、今回のケースに関してはすぐに分かることでしょう。芹香さんは注連縄の巻かれた木のそばにいたといいます。ならば、その木が捧げられた神の元に居るのでしょう。大丈夫、すぐに見つかりますよ」

「ああ、ありがとうございます、美神殿…。さすがは、日本でもトップランクのGS…。必ず、必ずお嬢様を…」

「エエ、勿論。ところで、料金なんですが・・・」

感極まって泣き出すセバスチャンと、それをあやしながら大好きな金勘定に持ち込む美神。
そんな2人を見ながら、床に倒れた横島は『ああ、この事件はすぐに終わって、あのじ〜さんは美神さんに巻き上げられるんだろうな〜』と楽観視していた。
いや、その場にいた美神とセバスチャンですら、この事件を簡単に考えていたのだ。
その予想が妙な形に外れるのは、美神がセバスチャンから2億という大金を前払いで貰う少し先の話である…。

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