ザ・グレート・展開予測ショー

SHINE 〜何者にも負けぬ煌き〜


投稿者名:K.H
投稿日時:(03/11/13)

 ドン、と地面を揺るがすような衝撃が走った。その衝撃に建物は震え、空気は焦げ付いた匂いを発する。

「わはは――! 死ね、西条ー!」

 『爆』の文殊が再び、無造作に黒髪のロングヘアーの好青年――西条へと投げつけられる。先ほどの爆発もこれによって引き起こされたようだった。それを引き起こした人物、横島は悪役も真っ青な――さらに言ってしまえば、彼の師にソックリな壮絶たる笑顔を浮かべている。
 その攻撃を障害物となっているコンテナの裏に隠れることによって紙一重で爆発から身を守る西条。巻き上がる埃に全身を汚しながらも、彼は臆することはない。そんな心情を表すようなその瞳は、勝利を手繰り寄せるべく、好機を狙っていた――





   SHINE 〜何者にも負けぬ煌き〜





「なんて、いい加減な能力なんだ――」

 コンテナに身を隠し、西条は呪詛のような愚痴を零した。『爆』の文殊によって引き起こされた爆発はコンクリートすら破壊し、弾丸のように彼を隠しているコンテナに当たり、砕け散る。『爆』の文殊自体の破壊力は言うに及ばず、それが引き起こす二次攻撃すらも西条にとっては厄介極まりない状況だった。この闘いの舞台が廃工場でなければ、もっと遮蔽物が少なく、間違いなく西条には不利な状況だっただろう。

「くっ……このままではジリ貧だ。だが、負けるわけにはいかない――!」

 ぎゅう、と右手に持つ西洋剣『ジャスティス』を握り締め、彼はそう静かに呟いた。それは相手である横島に対し、殺気すら伴って紡がれた言葉であった。
 何故、そこまで彼を駆り立てるのであろうか。共に相反する間柄ながら、それでも二人はそれなりに妥協し、付き合ってきた。少なくとも、殺し合いをしなければならないほど、仲が悪いわけではない。だが、確かに今は真剣な戦闘をしている。まるで、何か歯車が狂ってしまったかのような――
 唐突に。西条は素早い動きで立ち上がり、横へと全力で飛び退る。地面を転がりながら、左手に持っていた拳銃を的確に三連射した。

「――っ!」

 びしっ、と一発の銃弾が命中――飛来してきた物体に当たる。それはそのまま下へ落ちる。文殊だ。銃弾を受け止め、文殊は微かに霊力の残滓を撒き散らしていた。
 それを見て、西条はニヤリとニヒルな笑みを浮かべた。

「何ぃっ!?」

 対して、そう叫んだのはいつの間にかコンテナの上に立っていた横島。まさか、二本指で摘めるほどの小さい文殊を撃ち落されるとは思っていなかったのか、両手で頭を抱え、驚愕の表情で固まっている。
 それを見て、西条は好機と悟ったのか、弾のなくなった銃を投げ捨て、そのまま剣を構えて突撃する。

「ははは! これで文殊のストックはなくなったはずだ! こうなればキミの負けは確定的だねっ!」

「テメェ、何でそんな事知ってんだよ!」

「情報収集は必勝への最短ルート! 僕の情報網を舐めないことだね!」

 鋭い一線。霊力を纏った一撃は本来、剣単体ではありえないほどの切れ味を纏って、横島の乗るコンテナを切り裂いた。

「わーっ!?」

 袈裟懸けに振り下ろされた斬撃は違わずコンテナを両断。そして、そのままゆっくりとコンテナは崩れ落ちる。上に乗っていた横島は思わず叫びながら、間一髪といったところで飛び降りる。

「形勢逆転だ!」

 飛び降りた時の状態で、横島は固まっている。致命的な膠着。西条はそれを逃さず、ジャスティスを横島の頭へと叩き下ろした――!
 だが。

「くっ……!」

「あ、危ねぇ……」

 次の瞬間。ジャスティスは横島によって受け止められていた。横島は両腕を掲げ、サイキックソーサーによって辛うじて攻撃を防いでいる。

「往生際が悪いね、横島クン……!」

「ぐ――ぐぬぬ……!」

 余裕とも取れるような笑みを浮かべ、力押しでサイキックソーサーを叩き割ろうとする西条。
 対し、横島は全精力を使い、サイキックソーサーに霊力を込める。じりじりとその状態のまま、時間だけが過ぎていく。

「くっ――あっ!」

 突然。横島が気の抜けたような声を上げて、西条の方を――いや、西条の後ろを呆然と見つめた。その、唐突な声に思わず西条は後ろに気を逸らしてしまう。それが、横島の奇策と分かった時にはすでに遅かった。

「隙ありっ――!」

 瞬間的に力が緩められたジャスティスの剣圧をサイキックソーサーでうまく受け流し、そのまま西条の懐へと突進する。西条の剣はそのままコンクリートの地面を虚しく削り、西条本人はその状態のまま、動けない。

「しまった――!」

 そして、横島の体がそのまま、西条へと突っ込む。その衝撃に西条はどうすることもできずにバランスを崩した。致命的なミス。体はそのまま傾ぎ、地面へと叩きつけられる。
 倒れこんだ時に頭を強く打った西条は痛みによって動く事はできない。そして、それを見逃すほど、横島は甘くはなかった――!

「もらったぞ、西条!」

 右手に発動した『栄光の手』を先ほどの西条と同じように振り下ろす横島。それは、間違いなく西条の頭を狙っていた。

「くっ……!」

 西条は『栄光の手』が振り下ろされる瞬間をじっと見ていた。スローモーションのようにゆっくりと、だが正確に己の頭を狙う必殺の一撃。今から動いても、西条にはその一撃を防ぐ事はできない。だが、西条は最後まで諦めてはいなかった。

(負けられない。僕は、誓ったんだ――! 横島クンを倒し、失ってしまったモノを取り戻すと!)

 それが、今の西条の心にある全ての想いだった。例え、今自分が死の淵に立たされていたとしても、その信条だけは揺るがない。
 故に、西条は願った。奇跡を――いや、勝利を手繰り寄せる必然たる偶然を。

(だから、僕に微笑んでくれ、勝利の女神よ!!)

 そして――奇跡は起こった。





 カッ――――!

「なっ!」

 その場を、光が埋め尽くす。完全に勝利を確信していた横島はその予想だにしない光に目が眩み、集中力が途切れてしまう。そして、それはそのまま『栄光の手』の出力に関係し、必然的に剣筋が鈍った。
 そして。西条は光を予期していたかのように、その光に合わせ、前へと出る。密着するほどの距離まで縮められた互いの間。そして、『栄光の手』は西条の体に当たることなく、外れる――

「これで――!」

 西条は沸きあがる強い思いに身を委ね、自然と体を動かしていた。右手に持ったジャスティスが己の意思を示すように、力強く煌く。

「終わりだ――――!!」

 どん、という衝撃。混じり気のない、純粋な破壊力を持った一撃に、横島は真っ直ぐ吹っ飛んだ。その体は瓦解したコンテナにぶつかり、そして止まる。そして、そのまま起き上がってくる気配はなかった。

「はぁ――はぁ――」

 荒い息をつく西条。

「ふっ……ふふっ、ははは――! 勝った、勝ったぞ!」

 笑いながら、雄叫びのような勝利宣言をする西条。そこには普段の貴公子然とした態度は全く見られない。まさしく、勝利に喜ぶ一人の男がいた。
 しばらく西条は笑っていたが、それも徐々に興奮が収まったのか、ほどなくして彼はいつものように冷静な顔でコンテナの方――気絶している横島に向かってこう言った。

「……一つ、いい事を教えよう。切り札は最後まで持っていた者の勝ちだ。キミも強かったが、そこら辺の経験が足りなかったようだね!」

 そう言って、髪をかき上げようとして――何を思ったのか、途中で止めて最後にもう一度横島に対して話しかけた。

「救急車は呼んでおいて上げよう。まぁ精々、病院のベッドで完全なる敗北に涙する事だね――」

 そして、そのまま西条は振り返り、地面に落ちていた『黒い物体』を拾い、頭に乗せて去っていった。

 後に残ったのは、闘いの爪痕と倒れ伏す横島の姿だけだった――





「ふっふっふ……これで、僕もかつての栄光を取り戻した。後はこの成果を持って彼女のところへ向かうだけか――」

 翌日。西条は自宅にて不気味に笑っていた。なお、仕事の方は半ば無理やりに有給休暇を取って休んでいる状態である。だが、西条にとってはそんな事などどうでもよかった。とにかく、憎き横島を倒したのだ。彼の人生の中でもベスト3に入るほどの幸福。まさに、彼は今、人生の勝者であった。

「さて、そろそろ向かおうか……彼女のもとへ」

 そう決意を秘めた呟きを走った西条はびしっと決めた真っ白なスーツ姿であった。さらには両手で抱えるようにして、千本の薔薇の花束を持っている。彼がこれから何を行うかは、明らかに明白であった。

「大丈夫……大丈夫だ」

 ともすれば不安によってざわめく心を抑えるように、彼は目を瞑ってそう自分に言い聞かせる。

「大丈夫。今朝は三回もシャワーを浴びたし、コロンだってちゃんとお気に入りのを使った。スーツだって、靴だって今日のために新調した。紳士の嗜みとしてアレも買った――僕は生まれ変わったんだ。彼女に相応しい男になったはずだ……!」

 途中からかなり即物的な用意をしているようだが……それでも、西条は今までとは比べものにならないほどしっかりとしていた。世間一般で言う、エリートである彼は常に、異性に好意を寄せられて生きてきた。いつしか、それが女性に対する怠慢な態度を引き起こしていたのかもしれない――最近の自分の姿を西条は不思議と客観的に見ることができていた。それも、勝利によって得た大切なものなのかもしれない。
 とにかく、西条は今までにないほど緊張し、そして何よりこれからの出来事に全てを賭けていた。
 
「行くぞ――僕はこれから生まれ変わる!」

 最後にそう力強く言って、西条は目的地へと向かった。





 西条が向かったのは、美神徐霊事務所であった。幸いにして、そこには「彼女」を除き、全ての人物が出払っている。言うまでもなく、西条が倒した横島の見舞いに行ったからだ。彼にとって、全ては望む方向へと向かっていた。
 そして、ついに西条は「彼女」に――

「これを、受け取ってほしい」

 そういって抱えていた薔薇の花束を相手に渡す西条。その瞳は真剣だ。

「……え?」

「こんなもので僕の気持ちを全部表現できるわけではないけれど……それでも、これが僕の気持ちと思ってくれて構わない」

「…………」

 西条の言葉は本気だった。彼女の姿を小さい頃から見守ってきた西条。彼女が笑ったり、泣いたり、怒ったり――様々な表情を見せる時、彼の心は微笑ましい気持ちと共に、確かに特別な想いを抱いていた。まだ、その時には自分は気付かなかったけれど――年月を重ね、ようやく彼は知った。彼女を、愛していると。
 その気持ちを今、彼は伝える。明確な言葉として。





「愛している――ひのめちゃん」





「さ、西条さん――」

 「彼女」――美神ひのめ(六歳)は困惑した口調でそう呟いた。
 ……そう、西条は美神ひのめを愛していた。途方もなく、完璧に。

「ロリ○ンだと罵られても構わない。ペド○○リアと蔑まれても気にしない。だから――僕と、真実の愛を築こう!」

 西条は最後に相手の瞳を見つめて、そう言い切った。一片たりとも、そこには冗談など含まれていない。
 対するひのめは幾ばくか迷っているようだった。その様子に西条は不安を覚えるが、直後に心の中で否定した。

(大丈夫。僕は生まれ変わった。「お兄ちゃん」と言ってあの憎き横島に懐いていたひのめちゃんも、僕が本気だというのは分かっているはずだ。兄の幻想が崩れた今、僕に心が傾くのは必至! もう薔薇色の未来は開かれているはずだ!)

 そして、長いようで短かった沈黙に終わりが訪れた。ひのめはゆっくりと口を開いて、西条の告白に答える――

「ごめんなさい」

「――はっ!?」

 ……女神は二度、微笑む事はなかった。

「も、もう一度言ってくれるかな?」

「ごめんなさい、西条さん。やっぱり、それはちょっと……」

 済まなそうに断るひのめ。それに対し、西条は真っ白に燃え尽きている。ちょうど、白いスーツと同じくらいに。

「な、何故なんだい!? 僕は横島クンに勝った! 彼よりも強いし、彼よりも君を幸せにできる自信がある!」

 その言葉は震えており、西条が動揺していることを如実に語っている。だが、そんな事に構っている場合ではないと、西条は立て続けにひのめへ問いかけた。
 そんな西条の様子に一歩下がりながら、ひのめは「んー」と上を向きながら考えている。顎に指を当てて考える姿はチャーミングで、西条が転んだのもここら辺かと思わずにはいられない。
 そして。彼女は答えた。

「色々とありますけど……やっぱり、ヅ○は嫌なんです♪」

「何ぃ――っ!?」

 がーん、という効果音と共に、西条はふらふらと後ずさりする。すでにグロッキー状態であるのは明々白々。

「な、何でそれを……?」

「え、だってママが言ってましたよ? 「西条君って可哀想よね。仕事に忙殺される毎日でハ○てしまうなんて――」って」

「そ、そんな……」

 ふらり、とバランスを崩し、西条は今にも倒れそうだ。心なしか、頭に乗っている『ソレ』もずれ――もとい、乱れている。

「それに、GS業界の中でも有名な話だとか……私、よくママの知り合いの女性GSの人たちから話を聞きますよ?」

「なっ!?」

 ひのめの言った言葉に、西条はふと思い出した。何故、最近女性からの誘いが激減していたのかを。そういえば、皆よそよそしい態度を取っていたし、人と会っても、その視線は目よりももう少し上の方にばかり向かっていた気が――何故、気付かなかったのだろうか。いや、むしろ意図的に忘れていたのかもしれない?

 その事に気付き、西条は目の前が真っ暗になった。続いて、がつんと頭が横揺れを起こす。
 すでに、西条の脳裏では走馬灯が見え始めていた。

(ああ。懐かしい――小さい頃、あの頃はまだ若々しい頭髪が。留学する頃もまだまだだ。GSになるための修行、そしてICPOへの就職。――ああ、この頃からなのか……スティーブン(カ○ラの名前)、君とは長い付き合いだったね。共に戦場を生き、そして共に歩んできた親友よ――僕は幸せだった)

 もう、訳が分からない。というか、スティーブン? 彼の意識は精神の成層圏を超え、新たなる世界へと旅立ってしまったようだった。
 そして、トドメの一言がさらにひのめの口から発せられる。

「それに……えへへ。やっぱりひのめ、お兄ちゃんのコトが好きだもんっ☆ 西条さんには悪いけど、西条さんじゃお兄ちゃんの咬ませ犬にしかならないよっ♪」

 ……よ、容赦ない。美神の血がそうさせるのか、ひのめは極めて悪意が皆無な、滅殺の一言をにこやかに言った。

「うわーん!」

 哀れ、西条は泣きながら出て行った。その後ろ姿を見ながら、ひのめは再び「んー」と考える仕草をする。

「ちょっと言い過ぎちゃったかな? ま、でもいっか♪ 早くお兄ちゃんのお見舞いに行こうっと」

 そして、機嫌よく事務所を出て行くひのめ。号泣しながら走り去った西条には何の罪悪感も感じていないようだ。


 かくして。西条は横島に勝ち、恋に敗れた。そして、彼が二度と恋に勝利する事はなかったという――





「スティーブン、君だけが僕の味方だっ! 僕は、君と一緒に生きるぞっ――!」





   〜END〜

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