ザ・グレート・展開予測ショー

悲劇に血塗られし魔王 26-B


投稿者名:DIVINITY
投稿日時:(03/11/13)


目の前にシロがいる。
タマモがいる。
「奴」がいる。
・・・・美神さんがいる。
皆が目の前にいて、俺を見ている。
その視線は、正直痛く感じられ、特に美神さんとシロは憎悪と怒りで満ち満ちていて思わず俺は叫びたくなる衝動に駆られる。

美神さん、俺ですよ!!あなたの丁稚、横島忠夫です!!

心の中で何度も叫んだ。
そして、その衝動が何とか治まってきたのを感じてから、美神さんの持つ「ウィニケト写本」を見た。
遠目にだが、本の持つほんの少しの違和感がそれを本物だと告げる。
俺は次にタマモを見た。
彼女はちらちらと俺と美神さんを交互に忙しなく見ている。
まだ、迷っているみたいだな。
ふむ・・・・・

「その本を渡してもらおうか?」

俺はタマモを焦らせる意味も込めて本題に入った。

「・・・・あなた、名前はあるのかしら?」

だが俺の催促には応じず、美神さんは俺の名前を聞いてくる。
その平坦な様子が何の兆候か俺は良く知っている。
後一押ししてやれば、美神さんは・・・・・・

「名前?そうだな、考えてなかったよ。じゃあ、親しみを込めてこう呼んでくれ。・・・・おキヌとでも」

「ふっ、ふざけるなーーーー!!」

・・・シロが先に切れてしまった。
人狼のその健脚を生かし、フェイントをかけながら俺に迫る。
俺はそれに感心する。
昔なら、絶対がむしゃらに相手に突っ込んでただけだろうに・・・・・
・・・少しは成長したかな。

スッ

俺の前にナターシャが静かに立つ。
にこやかにもう目前に迫り来るシロを見ている。

「女、邪魔でござる!!」

ナターシャを横に退こうと突き出した手をナターシャは軽く触れた。
そこからの動作に俺は瞠目した。
シロの手を軽く捻って、足を払う。
ただそれだけでふわっとシロの身体は宙に浮いた。

「・・・・えっ」

ドタッという音と共にシロは床に倒れた。
一瞬、沈黙がおりる。
シロは何が起きたか分からないといった感じで呆気にとられ、美神さん達はノーマークだったナターシャの力量に驚いていた。
俺も初めてのナターシャの力に驚いたがそんな事より・・・・・・

「ナターシャ、お前今・・・・・」

「はい、何でしょうか?」

ナターシャはいつもの様に笑っている。
そこに他の感情は存在しない。
・・・・気のせいかな。

「・・・・・・いや、何でもない」

一瞬、彼女から殺気が感じられたように思ったんだけど・・・・・




俺はシロに当身をくらわせ気絶させると、美神さんに向き直った。

「もう一度言う。その本を渡せ」

「誰が・・・・・」

「教えて、この本は何なの!?」

美神さんが言うより先に隣にいたタマモが声を強めに俺に問う。
この本は何、か。
タマモはあの本の中身を見てしまったのか・・・・・・
あの必死な様子を見ると、恐らく残虐な未来でも見せられたのかな・・・・・・・
・・・・・「囁き」どもが。

「悪いが、まだ教えらない」

お前が仲間になれば教えてやるよ、と「まだ」という言葉に含める。
賢いタマモだ。
これだけで気づくだろう。
・・・・・・気づいたら、後は行動するだけさ。

「・・・おキヌちゃんを狂わせたのはお前だな?」

今まで黙っていた「奴」が愚問ともいえる質問を俺にする。
・・・・・・どこまでも俺を苦しませたいみたいだな。
俺は答えずにいると、「奴」は

「否定しないって事は、やはりお前が・・・・・」

と言って、怒れる表情を面にする。
俺はそれを無視して、三度今度は確認の意を込めて美神さんに尋ねた。

「で、本を渡す気はそちらにないんだね」

「当たり前でしょ!!あんたなんかこのGS美神令子が極楽に逝かせてやるわ!!」

美神さんから微妙になつかしい台詞が出て内心、美神さんは変わらないな、と思い苦笑する。









戦闘が始まった。
一体誰がこんな事になると予測できたろうか・・・・・
いつも側で助けてくれた美神さんが俺に対し、苛烈な攻撃を放っている。
片手に本を持ちながらだというのに神通鞭を自在に振るう姿は昔なら頼もしく感じられただろうが、今は何にもまして恐ろしい。
とは言え、いつも間近で見てきた攻撃。
俺はその攻撃をさほど苦労もせず霊波刀で捌き、あるいは避ける。
そうしつつちらっと周りを確認した。
「奴」はナターシャと対峙し、霊波刀を用いて突き斬り薙いで攻撃を仕掛けるもののナターシャはその攻撃を全て読み見事にかわしている。
「奴」は文殊を使えないし、あれなら全く心配要らないな。
・・・・・にしても、どこか演技っぽく見えるのは何故?
・・・・・まあ、いいか。
で、タマモはどうしてるのかな?
俺は美神の隣にいるタマモを見た。
タマモはそれに気づくと、俺に向けて何か合図みたいのを送った。


・・・・ふむ、上手くやってくれよ・・・・




「余所見してんじゃないわよ!!」

美神さんの怒声に呼応したかのように避けた神通鞭が軌道を変えて背後から俺に襲い掛かった。
慌てて俺は左に避ける。
そこにはタマモがいて、待っていたかの如く狐火を俺に向け放った。
俺は炎に包まれてしまい、それから逃れる為にその場を慌てて飛びのく。
それを見越していた美神さんは神通鞭を器用に操り独特の撓りを見せて、俺を追い掛けついに・・・・・

「捕らえた!!」

俺の身体に神通鞭が巻きつき、そこに美神さんが霊力を流れしこむ。

「きゃああああーーーーー!!」

霊力は電流のような衝撃に身を変え、俺(?)はそれに思わず悲鳴をあげた。
美神さんはその悲鳴に慌てて、神通鞭に注いでいた霊力を抑える。

「な、何でタマモが・・・・・」

そう、神通鞭に捕らえられたのは俺ではなく俺に化けたタマモだったのだ。
何処で入れ替わったのかは恐らく想像できると思うが、念の為に説明すると、タマモの狐火に俺が包まれるところまでが俺で、そこでタマモとバトンタッチ。
本当の俺はその時まだ極低温に抑えられた狐火の中にいたのだ。

「本は頂いていくよ」

「なっ!!」

タマモに気を取られている間に美神さんの背後に回り込んでいた俺は容易に「ウィニケト写本」を奪取することに成功した。
そしてついでとばかりに、美神さんの持つ神通鞭を叩き落とすと倒れているタマモに駆け寄り、出来るだけ優しく担ぐ。
俺はナターシャに用は済んだと合図を送ると、まだ信じられないという顔をしている美神さんに謝るように軽く頭を下げた。

「タマモを恨まないでやってくれ」

・・・・・・これが今の俺に言える美神さんへの謝罪の言葉。

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