ザ・グレート・展開予測ショー

悲劇に血塗られし魔王 26-A


投稿者名:DIVINITY
投稿日時:(03/11/13)



「はあはあ、やばいでちゅ」

雲一つない見事に快晴の青空。
その空を物凄いスピードで翔け抜ける一つの物体があった。

「遅刻でちゅよ〜〜〜」

しかもその物体は喋っている。
加えて何気に幼稚言葉だ。
幼稚言葉を喋りかつ空も飛べるそんな存在。
世界広しといえど、そういやしないそいつの正体は・・・・・

「美神にしばき倒された挙句、お尻ぺんぺんでちゅよ〜〜〜!!」

勿論、パピリオその人である。
彼女はヒャクメの代理として美神の助っ人に行くところであった。
・・・・遅刻しちゃってるけど。

「戦闘なんて始まってたら、更に最悪でちゅっ!」

そう、もうヒャクメが美神に仕事を依頼した日はとうに過ぎてしまい、魔族が襲来すると予想される当日になってしまっていたのだ。
本当は朝方には着くはずだったのに、寝坊した上更に二度寝してしまい、あわてて妙神山を出た時刻は昼ちょい前。
そこから大ダッシュで空を翔けてもうどれ程の時間が経った事か・・・・
そろそろ目的地が見えてくる頃である。

「まあ、戦闘でピンチになってる所を颯爽と現れるっていうのも捨てがたいでちゅがね」

そう言いながらスピードを徐々に弱め始める。
だが、いくら目的地が近いといってもまだスピードを緩める程の距離じゃない。
では本当に戦闘が始まるまでここで待機でもしようとパピリオは考えたのか?
否である。

「・・・・でも、それよりも良い方法があるでちゅ」

パピリオは眷属である妖蝶を呼び出す。
パピリオの視線の先には一人の魔族が佇んでいた。
しかもでかい斧なんかを担いで、敵意剥き出しだ。
今は高度何百メートルという空にいるのだ。
そんな所で他に人などいやしない。
誰に敵意を発しているかなど一目瞭然であった。

「わたちがこの魔族をひっとらえてやるでちゅ!!」


晴れ渡る麗らかな青空のど真ん中で場違いな戦闘が今始まる!!




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一つ予想外だった事があった。
それはパピリオの存在だ。
俺はてっきりヒャクメがくるものとばかり思っていたのだが、予想に反し助っ人にパピリオが来るという。
それはこの上なくまずい。
パピリオはあれでかなり強いのだ。
もしそのせいで写本を手に入れられなかった等という事態になれば、それで計画は全て頓挫してしまう。
それにこれが一番重要だが、パピリオは恐らく俺を模した「奴」を見たら即座に看破してしまうだろうし、俺を見たら仮面をつけていよう
が俺の正体はもろバレだろう。
何故か?
結論から言えば「奴」の変装は完璧じゃないということだ。
というか、欠点を挙げると四つ程もあるのだが、それを感じさせないのは「奴」の狡猾さと演技力の為だろう。
その欠点をいちいち挙げれば・・・・・
まず、「奴」は俺の性格を理解しているようだが、どこかその理解に穴があるように見受けられるという事。
・・・・・・・そのせいで美智恵さんやタマモに気づかれたんだし。
それに記憶。
「奴」は俺の記憶をだいたいは知っているのだが、細部にまで把握していない様子だ。
・・・・・・・まあ、無理もないかもしれないけど。
後、能力。
「奴」は文殊が使えない。
除霊では霊波刀などを使って上手く誤魔化しているようだ。
ラスト、これが重要かつパピリオが「奴」の正体に気づいてしまう最大の要因。
つまり、ルシオラの魔族因子だ。
ルシオラとパピリオは姉妹だ。
姉妹同士、お互いの魔族因子を感じる事が出来る。
つまり、俺の中にまだ残っているルシオラの魔族因子をあいつは感じられるだろうから俺の正体は解ってしまうだろうし、俺を模している「奴」の中にはそれが感じられないだろうから偽者だと気づいてしまうのだ。
しかも、あいつはきっと小竜姫とヒャクメの配慮で俺が殺された事を知らないだろうから、きっと無邪気に俺の事を呼ぶに違いない。
そうなったら、もう目も当てられない。
美神さんはパピリオのその能力を知ってるだろうから、俺を疑い「奴」も疑われるだろうし、タマモなどもしかしたら俺が横島本人だと確信してしまうかもしれない。
・・・・・・・シロは解らないけど。
とにかく何としても、パピリオがここに来るのを阻止せねばならなかったので、急遽手が空いていたズルベニアスにパピリオを捕らえるようお願いした。
ズルベニアスは最初嫌がったが、俺がパピリオに来られると計画が全て駄目になる事を強調し、更にせっかく演技までして得たシロの信用が無駄になる事を言ったら渋々引き受けてくれた。
今頃、きっと戦闘の真っ最中だろう。
俺はパピリオが死なない事を祈りつつ、隣にいるナターシャに声をかけた。

「そろそろ行こうか」

「はい、分かりました」



・・・・・・・・・どうしてこの時の俺にズルベニアスに向かわせたのが間違いだとわかっただろうか・・・・・・





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再び、上空。
そこでは存外と善戦しているパピリオの姿があった。
ズルベニアスの峻烈なまでの戦斧を振るった連撃を小さい身体と素早い動きでかわし、妖蝶を使って目を眩ませては遠くから霊波砲を放っ
たりしている。
ズルベニアスはズルベニアスでパピリオの霊波砲を戦斧を使って防いではパピリオに追走し、再び戦斧を振るう。
そんな鬼ごっこともいえる戦いが続いた。

「・・・・・」

だが、どうもズルベニアスの集中力が今一つ欠けていた。
動きは鈍いし、視線はパピリオを向いているようで向いていない。
まるで、他の事に気を取られているようだった。
パピリオはその事に気づいていた。
とは言え、自分を馬鹿にするな、などとパピリオは言わない。
集中力を欠いているといえどズルベニアスは強いのだ。
だから今が絶好の機会だ。
叩くなら今しかなかった。
パピリオはもはや昔ほど世間知らずではなく、戦闘のいろはを修める程度には成長していたのだった。

「・・・・ふうっ」

溜息と共にズルベニアスは動きを止めた。
そしてパピリオを見て一言、

「もう、終わりにしよう」

そう言うと、戦斧を持ち直した。
そして戦斧を一度素振りすると、パピリオ目掛けて再び翔ける。

(はっ、速すぎでちゅ!!)

スピードは先程と段違いで小竜姫が使う超加速もかくやと言えるほどだった。
一瞬でパピリオの眼前まで迫ったズルベニアスは戦斧を突き出す。
パピリオはそれを大きく後方に跳ぶ事で回避したが、もうすぐそこにはズルベニアスが戦斧を振るおうとしていた。

「ふんっ!!」

だが今までにない大振りのせいでモーションが鈍ったため、パピリオは縦に振り下ろされる斬撃を最小限に避ける事に成功した。
チャンス到来!!

「喰らうがいいでちゅ!!」

好機とばかりにズルベニアス目掛けて魔力を発露させた小さな拳を叩き付けた。
その威力はトラックを倒壊させる程のもので、パピリオの必殺技だ。
名前は検討中だ。

「・・・ふむ、良い技だ」

「・・・・なっ!」

がしっと殴った手を掴まれる。
殴られたズルベニアスの胸には多少焦げ跡が残っているくらいで、大したものではなかったのだ。
パピリオはそれに唖然とする。

「幼き子よ。さらばだ」

ズルベニアスは戦斧の切っ先をパピリオの首に添える。
冷たい感触をパピリオは感じ、目をぎゅっと閉じる。

(ポチ、助けて!!)

今まさにパピリオの命が消えそうなそんな時だ。

「パピリオから離れろ、このでかぶつ!!!」

良く知っている声がパピリオの耳に届く。
だが、ここにはいないはずの声。
あの事件以来、離れ離れに余儀なくされた自分に残された唯一の姉の声。
パピリオは目を開く。

「ベスパちゃん!!」

そう、ベスパがズルベニアスに攻撃を仕掛けていた。
ズルベニアスはそれを戦斧で防御している。
パピリオはベスパの姿に歓声を上げ、何とかズルベニアスの腕から逃れようともがく。
すると意外と簡単にズルベニアスは放してくれた。
それを奇妙に思いつつも、ベスパの元に駆け寄り抱きつく。

「ベスパちゃん、ベスパちゃん!」

何度も何度もベスパの名を呼ぶパピリオの目には涙が溜まっていた。
死の恐怖から開放された喜び故か、姉に久しぶりに会った故か、それとも両方だろうか・・・・
とにかく敵が目の前にいるにもかかわらず、パピリオはベスパに泣きついていた。
ベスパもそれを優しく抱きとめ、そしてやんわりと窘める。

「今は再会を喜ぶのは後にしよう」

そう言って、ズルベニアスを睨む。

(ベスパとかいったか。こいつだな。ずっと、我輩達の戦いを見ていたのは・・・・)

戦闘が始まってからずっと遠くで気配を殺し観察している存在にズルベニアスはとっくに気づいていた。
最初はその存在に気も配っていたが、全く動きがないので、ならば揺さぶりをかけてみようと考えたのだ。
そしてそれは成功し、目の前にその存在がいる。

(・・・・二人は姉妹か)

ズルベニアスはあくまで無表情に、でも内心ではこの二人にあの頃を重ね合わせていた。

(・・・・いつ見ても良いものだ。兄弟・姉妹が一生懸命助け合う姿は何にも増して素晴らしい)

ズルベニアスは妻と三人のまだ幼さの残る兄弟に囲まれていたあの頃を想う。

(村人には歓迎されずとも、それでも健気に頑張るあいつ等の姿は本当に素晴らしかった。ナターシャよ、お前もそう思っただろう)

悲惨な結末を迎えたのが心残りだが、あの頃が一番幸せだった。

(クシャス、イルミナ、シェイル。血など繋がっていなくとも、もはやこの世にいなくともお前等は我輩の自慢の子だった)

ズルベニアスは戦斧を見る。
多くの命を吸い、その三人の兄弟の命も吸ったこの戦斧はもはや何にも代え難い宝物。

「準備は出来たか?」

目の前にいる姉妹にズルベニアスは問いかける。
どうしてだろう。
この戦いに何か嫌な予感がする。
この戦いが何かを壊してしまう、そんな気がする。
・・・・・・・この戦いは止めなければならないのだろうか?
でも、もう・・・・・・

「「・・・・・」」

二人が無言でそれぞれ距離をとってしまった。
もう後には引けない。






ズルベニアスVSベスパ&パピリオ


この戦いは思わぬ事態を引き起こす事になる。


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