ザ・グレート・展開予測ショー

こんな女と結婚してぇ!!


投稿者名:Kita.Q
投稿日時:(03/11/12)

「それでは、ごゆっくりご検討ください」
係りの女性に会釈を返して、横島は部屋を見回してみた。


横島と令子は、半年後に挙式する。今日は、結婚式の会場の選定に来たのだ。もちろん、二人で。

「うん。ここでいいんじゃないかな。どうです?」

挙式の一年前から予約を取らないと間に合わないと聞いていたし、スケジュールが急だったので心配していた。
しかし、下見に来てみて、建物の重厚さと、大きな窓から差し込む柔らかい日の光が、横島に安心感を与えた。


「いい会場を予約できそうですね。ここに決めましょうか?」

そう言いつつ、令子の方に振り返った横島の顔に、不安の色が浮かんだ。
彼女は、横島の方を見ていない。うつむきかげんの顔に、横島以上の不安を浮かべている。

「あ、ここじゃダメですか? でも、よそを探すとなると難しく・・・」
「違うわよ」
「え?」

令子はうつむいたまま、独り言のようにつぶやいた。

「私で、いいの?」
「は?」

令子は横島の方に顔を向けた。

「私で、本当にいいの!?」

何かが堰を切ったように、令子の口から言葉が溢れた。

「どうして私なの? ・・・そりゃ、プロポーズされたときは嬉しいって、それだけだったけど、だんだん不安になっていくのよ! ・・・あんたがGS資格を正式に取得した後から、私のところにはあんたの身分照合が届いていたの、知ってたでしょ? 実はプロポーズの後も、ひっきりなしに。私だってあんたが資格を取った後は相応の待遇をしたつもりだったけど、よその事務所に行けば、もっといい待遇で働けたはずなのに、私と結婚してしまって本当にいいの!?」


今にも泣き出しそうな令子の顔を、横島は呆然と見ていた。今さら何を言っているんだという気持ちだった。なおも、令子は続けた。


「あんただって、うすうす気づいていたでしょ? 本当は、あんた、相当モテてたのよ。あんたの周りには大勢の女の子がいてさ、・・・こんな言い方は良くないだろうけど、よりどりみどりだったはずでしょ。どうして私だったの? もし結婚した後で、『やっぱこんな女ヤダ』なんて言われたら!」


横島は真顔になった。実は、横島も心配していた。
いま令子が言ったこととは全く違うことではあったが。


式場に来てみて、彼女がブツクサ文句(というか難癖)を言い出さないだろうか。
『なによ、こんな古臭い式場しかないの? あんたって本当に使えないわね、あーもーやめた! 結婚しない! 横島クン明日から事務所に来なくていいわ!』なんて言い出さないだろうか。


横島は、自分が恥ずかしく思えてきた。
結局、自分は自分の心配しかしていなかったのではないか。
いったい、プロポーズ以来、自分がどれほど彼女の身になってこれたというのか。

「美神さん。―――――」

横島は令子を見つめた。ときどきつっかえながらも、必死で言葉をつむぎだしていった。

「俺には、あなたでなければならない理由がある。・・・いつも俺は考えていた、美神さんの隣にいつづける、あなたに必要とされるために何が必要なのか。口で言ってしまうとチャチだけど、必死だったんです。・・・そりゃ、へこたれるときもあったけど。でも、仕事が上手くいったとき、美神さんが俺に『よくやってくれたわ』って顔をしてくれたときなんか、俺は最高に幸せだった。・・・いつのまにか、その美神さんの顔を見ることが俺の支えになっていたんです。今だってそうだし、これからだってそうです」

横島はいったん言葉を切った。そして、次の自分の言葉が、彼女の心に届くと信じた。

「俺は自信を持って言える。俺には美神さん以上の女性はいない!」


その言葉を聞き、令子は何かがほどけていくような笑顔を見せた。



























というのは嘘である。

「そうよねぇ・・・」

令子は口元を大きく歪めた。不安そうな表情は完全に消えうせている。替わって、まるで世界が自分の手の中にあることを確信したような凄まじい微笑を浮かべた。

「一生、私を離さないでね。私もあなたを離さないわ。これまで以上にビッシビシ働いてもらうわよ。それこそ、あなたの全身の血が無くなるまでね、そうすりゃ浮気も出来ないでしょうから」

さっきまで晴れていた空を、急速に黒い雲が覆っていく。強まった風に煽られ、窓枠が悲鳴をあげている。

「ずっと一緒だからね。死が二人を分かつまで。ううん、死んでからも一緒よ。行き先が天国だろうが地獄だろうが。そして来世も来来世も。まるで合わせ鏡の中の風景のように、私たちは一緒なのよ」

室内の明かりが消えた。令子の周りで渦を巻く霊気が燐光のように周囲を照らし出す。彼女の美しい髪が触手のようにうごめいた。

「私だけを見ててね。・・・万が一のときは、両目とも抉り取っちゃいましょう。私以外の女を見る目なんて必要ないもんね、そうでしょ?」

令子から放たれる霊気が、濁流のように横島の全身をうった。普段ならガードを固めるのだが、このときばかりは不可能だった。

つまり、今の横島は、零下50度の南極で、全裸で立ち尽くしているのと同じなのである。


激しい雷鳴に照らし出される令子の顔を、横島は身じろぎもせずに見つめていた・・・


























「なーんてね、冗談よ冗談! まあ全部が全部冗談だってわけでもないけどさ。・・・ずうっとずうっと仲良くやっていこうね!」

室内の電気が復旧し、部屋は明かりを取り戻した。
令子は笑いながら横島に歩み寄り、そっと彼の頬をなでた。

「・・・あれ?」

令子は横島の顔を覗き込んだ。横島の顔の前で、ひらひらと手を振ってみる。

「気絶しちゃってる・・・」


少し脅かしすぎたかな、と令子は苦笑した。そして、両手で横島の顔を包み込み、キスをした。

「好きよ、横島クン。・・・これからは横島クンとは呼べないわね、慣れるまで時間がかかるかな?」



さっきまでの黒雲が消え、日の光が再び二人を包み込んでいた。

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