ザ・グレート・展開予測ショー

悲劇に血塗られし魔王 25-B


投稿者名:DIVINITY
投稿日時:(03/11/12)



そこはどこか解らない。
ただ、何かの建物の内部だろうという事は解った。
「何かの建物」というと少し語弊があるかもしれない。
そこは壁と床が樹木の大きなツタで覆われていて、まるで大きな木の体内にいるみたいな感じだ。
その部屋の中央やや左寄りにタマモがいるのを第三者の様にタマモは見ていた。
かなりややこしい表現だが、要するにその動画の中にはタマモがいて、それをタマモが外から見ているという事だ。

(・・・・・)

誰もいないその空間でただタマモはじっと前を見据えていた。
誰かを待っているのだ。
何かを決意した表情でひたすら来るだろう相手を待っている。
タマモはそんな自分に違和感を持たざるを得ない。

(何があったんだろう?)

あんなに必死になった表情は今までにした事はないし、これからもする予定はない。
だいたい美神の除霊を手伝う際に大概起きる悪霊との戦闘、あれは直接命に関わる危険がある。
美神達が頼りになるからある程度気は楽だが、命に関わる事には変わりない。
だからいつも緊張を持って真剣に除霊には望んでいる。
でも、それでもあんなに己の死を賭けたような必死になった表情はした事がない。

いったい何だというのだ?

そんな事をずっと考えていたら、いつの間にか動画の中のタマモは狐火を作り出していた。
それも一個や二個ではない。
数えることなど虚しくなりそうな狐火がタマモを中心にして浮いている。
どうも戦闘が始まるみたいだ。
しかも全力で相手とぶつかる気だ。
タマモはそんな自分に知らず恐怖する。
動画の中の自分は相手を殲滅する気なのだ。
逃げるようにそんな自分から目をそらし、その敵たる者が現れるだろう入り口を見る。
誰もいない。
しかし、狐火を作り出したということはもう戦闘は近いのだろう。
そう思ったタマモは注意深くその入り口を見る。
次の瞬間だ。
突然火の塊が次から次へと入り口付近を襲い掛かったのだ。
連続する爆発。
タマモはその時気づいた。
もう戦闘はとっくに始まっていたことを。
相手は既に入り口にいて、気配を殺して様子を見ていたのだ。

爆発でできた煙のせいで入り口が見えなくなる。
動画の中の自分は油断なく見据えながら再び狐火を作り出す。
煙が晴れる。
と、そこから敵の影らしき物が見え始める。
それは随分背が低かった。

(?)

何だ、あれは?
あんな背の低いのは自分の記憶にはないぞ・・・・・
煙が晴れた。

(っ違う!!)

あれは突撃する為に前傾姿勢になっていただけだ。
転ぶ事を考慮してはいないのではないかというほどに前へ身体を傾けているのだ。
しかも、あれは・・・・・・
煙が晴れると同時にそれは飛び出した。
目が追いつかないほどの恐ろしい速さでタマモに肉迫する。
それは飛び出すと同時に作り出したかなり長い霊波刀で切りかかる。
タマモはそれを避け狐火で応戦。
激しい死闘がそこで繰り広げられた。

(何で、何で!?)

それを第三者の如く見ているタマモは激しく混乱していた。
動画の中の自分が戦っている相手は、自分にとってからかう対象であり、戦友であり、悪友・・・・・

(何で、私が馬鹿犬と戦わなくちゃいけないの・・・・・)


そして、そこで映像が途切れる。





「えっ!!」

はっと我に還るとそこは何も変わっていない事務所の中。
タマモは隣にいる美神を見た。
美神の手には閉じられた「ウィニケト写本」があった。
どうやら美神に本を取り上げられたせいであの動画が見れなくなったようだ。

「・・・・大丈夫。何かにとり憑かれたようにページを物凄いスピードでめくってたわよ」

「かなり不気味だったでござるよ・・・・」

美神とシロは心配そうにタマモを見ている。
ヒャクメも同じ感じだ。
タマモは心配をかけた事を謝り、あの動画の内容は伏せ、何かの映像が読んでいたら浮かび上がった事を伝えた。

「その映像が何か覚えてる?」

「・・・・何処かの内部だと思うけど、良く覚えてないの。御免なさい」

タマモはあれがどんなものか覚えていない事にし、誤魔化すことにした。
こういう一種の夢遊状態は気づけば何も覚えていなかったという事は珍しくないので、美神達はそれ以上追求しなかった。
そして美神とヒャクメの仕事の段取りの話が再開した。
それを聞き流しながらタマモは美神の隣にいるシロを見ていた。

(私がこいつと殺し合い?)

信じられないのが正直なところ。
喧嘩とかなら幾らでもしたことはあるが、どれもじゃれ合いに近いものがある。
あんな死闘を繰り広げなくてはならない程の憎悪などあるわけがないし、ましてシロに言ったりしてないが認めてる部分だって有るのだ。
シロだってタマモの事を認めているはずなのだ。

(・・・・あれは何だって言うの?)

タマモはふと、仮面の魔族を思い出した。
仮面の魔族はこの本を欲しがっている。
タマモにあんなものを見せたこの本を・・・・・

(あいつはこの本がどういったものか知ってるのね)

是が非でも、この本の正体について知りたい。
でも、それは美神達を裏切る事に繋がる。
それにその裏切りのせいであの動画の様にシロと殺しあう事になるかもしれない。
しかしあの時、仮面の魔族は言った。


『なんで、私が皆を裏切らなくちゃいけないのよ』

『それが最善だからさ』


彼はタマモに裏切る事が最善の道と説いた。
更に彼は、

『信じて欲しいが、俺達は敵じゃない』

とも言った。
あの時は、呆れ半分に聞いていたが今ではそれが本当ではないのかと思ってしまう。
彼の態度、あれはからかいや揶揄などではなく、真剣そのものだった。
タマモは迷う。
どうするべきか・・・・


(私って、自分が思ってるより馬鹿かもしれないな〜)











仕事の話も終わり、そろそろ帰ろうとしたヒャクメに美神がずっと気になっていた事を聞いた。

「ねえ、妙神山の皆はどうしたの?」

あれから妙神山には幾度か連絡を取ったが全てが全て音信不通。
誰もいないのだ。
神族の拠点たる妙神山に誰もいない。
鬼門すらいないのだ。
見事にもぬけの殻。
これは十分、異常事態だった。

「ええっと、ちょっと神界で事件が起こってちゃったのね〜」

「そのせいで皆、一旦帰らなくてはならなかったって事?」

「そうなのね〜。でも安心するのね〜。もう皆、妙神山に帰ってるのね〜」

「ふ〜ん、じゃあ小竜姫様も帰ってるのね」

美神はまだ小竜姫とワルキューレのあの壮大な嘘(?)に腹を立てていた。
小竜姫に会ったらまず頬に一発思いっきりかまして、それから延々と説教をしよう。
あの時、あんな嘘をつかれて自分達がどれ程悲しんだか、少しでも知らしめてやる。
美神はその光景を思い浮かべると少し胸がすくような感じがした。
だが、それもヒャクメの一言で台無しになった。

「小竜姫はいないのね〜」

「ど、どうして!?」

「それは悪いけど言えないのね〜」

ヒャクメは少々悲しそうな目をしている。
美神はそれに狼狽し、でもそれ以上追及しなかった。
きっと神界の事件とやらに関係が有るのだろう。

(・・・・・謹慎でも受けてるのかしら)

まあ、違うかもしれないが似たり寄ったりだろう。
美神は悪いと思いつつも、どこかで「いい気味ね」と思ってしまった。

「私はもう帰るのね〜」

ヒャクメはそう言って席を立つ。
美神も玄関まで見送るといって、立ち上がる。
そして共に歩く道すがらヒャクメが思い出したように言った。

「言い忘れてたのね〜。私はこれからある所に用があるから手助けできないけど、代わりに助っ人をそっちに寄こすのね〜」

「助っ人?」

「良く知ってる人なのね〜」

そう言われてすぐ思いつくわけもなく、誰か考えていたら玄関についてしまった。
ヒャクメは扉を開け、去る間際申し訳なさに満ちた表情でポツリと。

「横島君の事は御免なさいなのね〜」

「はっ?」

美神は何の事だと聞き返そうと思ったが当人のヒャクメはもうその場にいなかった。



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