ザ・グレート・展開予測ショー

アシュタロス〜そのたどった道筋と末路(涙)〜ヴァンパイア・メイ・クライ3


投稿者名:♪♪♪
投稿日時:(03/11/12)



 唐巣と横島一家が関わりを持つ事になった事件の始まりはいつなのだろう? 最初に『それ』が起きた時と仮定するならアシュタロスが横島に宿って三日後の事だし、初めて唐巣と顔をあわせた時と仮定するなら、三年前になる。


 その事件とは――そのものずばり、アシュタロスやドグラ、三姉妹に対し『正義感溢れるGSがありがたい事に当事者の意思を完全に無視して行動を起こす』事件だ。
 人間界に暮らす魔族。そして兵鬼と魔王――確かに、GSに狙われても文句の言えないラインナップである。だが、取り付かれた当事者の横島夫婦に彼等を祓う意思はなかったし、実際に依頼した事など一度もない。ならばな何故、ルシオラ達が狙われるのか?


 当時のGS業界は、それ程整備された世界ではなかった。協会の定める規律は穴だらけ、GSの人間的質は最悪、無免許スイーパーは跋扈し法外な依頼両をむしりとり……数え上げたらきりがないほどの問題点に溢れているのが、当時のGS社会の現状だ。
 開拓時代の荒野か戦乱の世か。ともかく悪い意味での利益欲望最優先で動く世界。


 その世界において大事なものの一つに、『名を上げる』と言うものがある。ともかく強い奴を倒せば、金が稼げるし威張る事も出来る。
 ここで問題なのは楽して名声を得ようとする横着者の集団である。こういった連中は、自分さえよければ良いのでヤクザよりも性質が悪い。
 そういった連中が、大阪の一般市民宅に住む魔王一人と魔族三人を見逃すはずがない。三姉妹とアシュタロスを欲望のための生贄にしようという連中、と言う表現が、最もリアルにニュアンスを伝える事が出来るだろう。
 しかも、魔王のほうは横島に寄生している状態で、横島が死ねば一緒に滅ぼせるのである。


 かくして、ルシオラ達が家族に加わってからの横島家は、毎日そういった手合いと死闘を繰り広げる事となった。逃げ回らないあたりが、横島夫婦の人となりを体現している。
 幼いルシオラやベスパを襲うGSを大樹と百合子が殴り倒し。
 パピリオを違う意味で襲う変態をカオスとマリアが吹き飛ばし。(オイ)
 アシュタロス諸共横島を殺そうとした卑怯者は、アシュタロス自身の手で魂ごと葬られる。


 襲ってくる相手も後ろ暗い部分があるから、GS協会や警察を介入させようとはしない。それが横島一家にとって唯一の幸運だった。


 物騒な生活を送ったせいで、チンピラGSの一人や二人は余裕で対応できるようになった一家だったが――ある日、決定的な事件が起こった。


 今まで返り討ちにしてきたGSが結託して、横島一家を強襲したのである。総勢五十人にも上る『自称正義のGS』の集団を前に、流石の一堂も逃げるしか手がなかった。
 家に放火までしやがったのだから、殆どノリがマフィアか極道である。






















 いや、この連中を一緒にしては、義理人情や掟を遵守する彼らに対する侮辱になるだろう。
 そいつらは、幼い家族をかばった忠夫を、何のためらいもなく傷つけるような下種の集まりなのだから。



















 親戚の家も押さえられ、コンクリートのジャングルを逃げ回る一家。最初の強襲で負傷した忠夫の出血は止まらず、早く病院に連れて行かないと命が危ない。
 アシュタロスはおろか、横島夫婦ですら神を呪いたくなるような最悪の状況。そんな一家に手を差し伸べたのは


『どうかしましたか――?』


 皮肉な事に、彼らが呪った神の使徒である神父様だった。


 その神父というのが、唐巣和宏である。
 その後の展開は、あえて簡潔に記そう。
 詳しい事情を知った唐巣神父は、すぐさま事のあらましを協会に報告し、ヤクザGSどもをGS界から永久追放するように要請した。その際にアシュタロス達を『無害な魔族』として協会に報告し、後顧の憂いを断ってくれたのだ。もちろん、アシュタロスが寄生しているのが横島であることは隠蔽済み。
 要請が受理されるまで、横島一家の身柄を教会でかくまい、医者にも見せた上、手を出そうとするGSに対する抑制力にもなってくれた。
 加えて、一切の見返りを求めない。


 横島たちにとって唐巣とは、返しきれない恩、命の恩人などの『恩』にかかわる全ての表現が霞んでしまう程の大恩人なのだ。
 あまりの聖人ぶりに、汚れきった大人である大樹やアシュタロスなどは、後光がまぶし過ぎて直視できなかったほどである。


 ――決して額が眩しかったから直視できないのではない。念のため。









 なんと表現していいものか。


 がたがたがたがた……


 形容しがたい目の前の光景を、どういう言葉を使えば正確に現せるのか、若干ボケが改善されてきた頭脳で考えるカオスだった。
 そして、こう結論する。例え最盛期の自分でも、この光景が放つイメージを言葉にするのは不可能であると。


 ルシオラ、パピリオ、ベスパの三姉妹が、毛布を(ゴミ捨て場で拾ってきて修繕したやつ)かぶってがたがた震えているのだ。それも、部屋の中央にあるコタツのを丸ごと占領して。


 そのまま、『臆病なこたつむり三姉妹』というタイトルでオブジェにしたい光景だった。


 雷がいくらなろうともしないこの三人が、雨音だけでこんなになるのはいささか滑稽だった。怯える姿を見て滑稽というのもおかしな話だが、それこそがカオスが悩む理由であると言えば納得していただけるだろうか。


 笑えるタイプの怯え方なのである。神に祈れば雨がやむなら、一心不乱に祈祷しだすかもしれないくらいの怯えが、笑いを醸し出すのである――これを形容しがたいといわずして何と言う。


 普通の雨ならこんな事にはならないが、豪雨と呼べる規模になってくるとそうはいかない。原型が抱く恐怖がひたすらかきみだされ、彼女達の精神に分け入ってくるのだ。
 ちなみに、両親が引っ越す前はそれぞれ恋人にしがみついて恐怖を紛らわせていたらしい。


 横島家における家事の要がこんな有様なので、仕方なしにマリアと二人で割烹着に三角巾と言う笑える格好で家事をするカオス。がたいのいい爺さんがそんな格好をするのは変質者以外の何者でもない。




 がちゃ。


「ただいま〜」
「タダちゃん! 大丈夫!?」


 待ちかねていた音を聴覚に捉えたルシオラの行動は早かった。ドアノブが声を上げると同時に立ち上がり、横島の声が聞こえると同時に駆け出す。
 客人――ピートを伴って帰宅した横島がドアを開けた時には、玄関で抱きつく寸前の体制にある。下に恐ろしきは恋する乙女。


 普段なら全力で抱擁を受け止め、尻の一つでも撫でて役得役得――という流れなのだが、横島は片抱きとめるに整えて、すぐさまその体を引き離した。


「悪いルシオラ――」
「え――?」


 引き離されたルシオラは一瞬自分に対して行われた恋人の行動が信じられずに、呆然とつぶやく。


「た、タダちゃんがお尻も触ってこないなんて!」
「こらマテい」


 まるで変質者に対するような物言いである。


「まさか、私に飽きたの!?」
「いや、それはないから」


 何気に必死なルシオラに、愉快なしぐさで手を横に振る横島。実際、横島はルシオラに胸さえあれば浮気なんぞ絶対しないくらいにべた惚れなのである。(そこら辺におキヌちゃんの付け入る隙があるのだが)手ひどい言われようには最早慣れっこで、反応する感性すら摩滅しているらしい。


「きょうお客さんいるから」
「あ、本当」


 ここにいたって初めて背後のピートに気付くルシオラ。ベスパとパピリオは中央の毛布地帯から出てこず、カオスとマリアにいたっては無関心。あまりに軽い扱いに、内心滂沱の涙を流すピート君であった。


 ――それだけに。
「か、唐巣先生の使いできま」
『唐巣!!!!?』
 たった一人の苗字一つで反応されたときは、驚いた。驚きすぎて、後ずさるくらいに。


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