++夕日と月 2++
投稿者名:姫桜
投稿日時:(03/11/11)
横島が缶コーヒーを2本持って帰って来ると美神はシートを倒し、深い眠りについていた。小さな寝息を漏らしながら、まるで眠り姫のように・・・。横島は、起こさないように、そっと助手席へ座った。そして、今度は美神をジッと見つめた。
長いまつげ、胸元に置かれた華奢な手、白い肌・・・全てが愛しく思え、そっと髪を撫でてみた。この人は、こんなに可愛らしかったっけ・・・?もしここで彼女が起きてしまったら半殺しだろう。それも覚悟で髪を撫でる。サラサラで、風に当たり、冷えて少し冷たい髪。横島は自分でもコントロールできないほどの胸の高鳴りを覚えた。そして、気がつくと、身体ごと美神に被さるようにして美神の唇に自らの唇を重ねていた。
「・・・!?!?」
当然のことながら、美神は驚いて目を開けた。
「ちょ・・・何してんのよっ!!」
パチっと目を開けば、目の前には横島の顔。茶色の瞳、安っぽいシャンプーの香り、温かい吐息。全てが美神の感覚に入り込んできた。
「あ、スンマセンッ!!スンマセンッ!!仕方なかったんやぁ〜〜〜〜!!!」
横島はガバっと美神から身体を離すと、半泣きで後ずさりした。さっきまでの表情がウソのように思える。
「何が仕方ないのよっ!!バカッ!!」
美神も身体を起こし、置いてあった缶コーヒーを飲んだ。
「熱っ!!!!」
「あ、ホットコーヒーっすから・・・。」
小さな声で横島が言った。
「それを早く言いなさいよっ!!」
「あの・・・殴らないんすか?」
恐る恐る尋ねる。
「いいの?殴って。」
「いや、遠慮しますっ!」
「口直しのコーヒーがあるからもういいわよっ!」
美神はユデダコのように赤くなりながら、ボソッと呟き、今度はコーヒーをちまちまと飲んだ。
「・・・美神さん、猫舌っすか?」
「うるさいっ!」
真っ赤になりながらコーヒーをちまちまと飲んでいる美神が、とてもかわいく、思わず横島はクスクスと笑ってしまった。
「何笑ってんのよっ!」
「いや、何か美神さんかわいくて・・・・。」
「ウルサイッ!!あんたね、この場所、大切な場所なんじゃないの?そんな場所で私にあんな事・・・・。バカじゃないのっ!?」
本気で怒っているのか、照れ隠しなのか、美神は横島に背を向ける格好なので表情が上手く読み取れなかった。
「・・・美神さんだからっすよ。美神さんとなら、ルシオラの事も乗り越えて、幸せにやっていける気がするんです。」
声のトーンが大人になった。美神は横島をまだ高校生だと思っていた。でも、彼はもう大人だった。美神の見えないところで、少しずつ少しずつ成長していた。
「美神さん、俺、美神さんから見て子供ですか?」
「え・・・」
ドキンと心臓が跳ね上がる。
「恋愛対象には、なりませんか?」
「・・・・」
静寂が、あたりを支配する。胸の鼓動が聞こえてしまいそうなくらいの音を立てている。
「俺は、歳の差も関係なく、美神さんが好きです。前世も関係なく、貴方が好きです。」
横島のその言葉に、美神は横島のほうに身体を向けた。
「生意気言うんじゃないわよ」
顔を真っ赤にしながら怒ったように言う。
「・・・さっき、夢見てたの。あの娘が、消滅する寸前の夢。」
「え!?」
横島の顔色が変わった。
「苦しくて、痛くて、切なくて、でも何だか暖かくて、幸せだった。彼女が私にこの夢を見せたんでしょうね。今は彼女の気持ちが手に取るように分かるわ。あの娘はあんたを愛してた。あの娘の心はあんたでいっぱいだった。あんたを想っていたから、痛みにも苦しみにも耐えられたのよ。私、あの娘がどれだけあんたのことを想っていたか分かったわ。私の気持ちにブレーキかけてた事をちゃんと消化できた。だから、私もあの娘に負けないように・・・あんたを・・・」
語尾が震えている。その強さを秘めた瞳に、うっすらと涙が浮かんでいる。
「美神さん・・・もういいっすよ。」
美神のそんな表情を見て、横島は言葉を遮った。
「あんたを!・・・あんたを、幸せにしたげるっ!」
涙がこぼれ落ちる前に、早口で言い切った。そして、横島に抱きつき、頬にキスをした。
「み・美神さんっ!?!?」
横島はかなり驚いた表情で口をぱくぱくさせている。
「・・・あの娘は、あんたに会って幸せだったのよ。あんたが自分を責める事ない!あんた一人で背負い込まなくていいの!あんた、あんなに愛されてたじゃない。」
叫び声に近い美神の声。泣きながら、横島にしがみつき、吐き出すように言葉を紡いでいる。
「私も・・・一緒に背負い込んだげるわよ・・・・」
「美神さん・・・」
美神の、横島の背中に回された手に力が入る。
「・・・ヨシヨシ、令子ちゃん。」
横島は、さっき美神に言われた事を真似して、美神の頭を優しく撫でた。
「ウルサイッ!!」
美神は抗議の声を上げるが、泣き顔を見られたくないせいか、顔を上げようとしない。
「美神さんの中にルシオラの記憶があっても、美神さんは美神さんっすから。もしかしたら、ルシオラは、俺たちのキューピットかもしれませんね。」
美神の頭を撫でつつ、東京タワーを見上げる。
「いつまでもルシオラの事に捕らわれてちゃいけない。もちろん、俺の中でルシオラは大切な存在です。簡単に忘れる事なんて出来ない。でも、恋人じゃなくてもルシオラを幸せにしてやれる道が残ってるなら、俺は新しい恋愛できそうです。・・・美神さんとなら。」
「生意気・・・」
美神がようやく顔を上げた。まだ涙が残る瞳で、しっかりと横島を見つめた。横島もしっかりと美神を見つめる。
「じゃ、これから美神さんの部屋にでも・・・・」
「却下。帰るわよ。」
横島が鼻の下を伸ばして言ったセリフはあっさりと却下され、美神は泣きはらした目をぬるくなったコーヒーの缶で冷やした。
「も〜、明日絶対腫れてるわ!あの娘のせいよっ!あんな夢見せるから・・・」
「以外に純粋なんすね、美神さん」
バキッ!!横島の左頬に見事なパンチが決まった。
「も〜、帰るわよっ!」
美神が車を発進させる。と、その瞬間・・・
『さっきは辛い思いをさせてしまってごめんなさい。私の分も、ヨコシマのことを沢山愛してね。未来のママ!』
ルシオラの声が、美神の脳裏に響いた。
『やっぱりあんただったのね・・・。私は、私の分しかアイツを愛さないわよっ!あいにく私は愛なんて寒いものを安売りしない女なのっ!・・・・ま、未来の子供には別だけどさ。』
美神は脳裏でそう答えた。
「美神さん何笑ってるんすか??あ!もしかして部屋に行く気に・・・」
「なるかっ!!」
また見事なパンチが横島の右頬に決まった。
「なじぇ・・・」
どんなにロマンティックな状況でも、やっぱり2人は2人のペースを崩さない。
「んも〜〜〜、今日はこれでガマンしなさいっ!!」
信号が赤になり、車が止まった瞬間、横島の唇に柔らかい美神の唇が重なった。
「私のキスは、あんたにはもったいないくらいの価値があるのよ!」
上目使いで真っ赤になりながらも美神らしい一言。
「美神さんっ!!!」
横島は思わず美神に抱きついた。
「ちょ、ちょっと!!信号青!!」
「大丈夫っすよ。全然車通ってないですし!」
「そんな問題じゃないでしょ!!」
「あ〜〜幸せや〜〜。」
幸せそうな笑顔で抱きついてくる横島を見て、美神もつい顔が綻んでしまう。
プップ〜!!
後ろから車が来たらしく、クラクションを鳴らされてしまった。
「も〜!あんたのせいだからねっ!」
横島はあわてて離れ、美神はあわててハンドルを握る。
「すんませんっ!!すんませんっ!!」
横島はただただ鼻を垂らしながら謝った。
車は勢い良くほとんど車の通っていない道路を走る。
夜空に星が瞬き、月が輝いている。雲ひとつ無い、深いブルーの空。夕日とは対照的な空の風景。でも、どちらも美しくその存在を主張している。
「美神さん。」
「ん?」
「もう、俺の前でアイツの名前だしてもいいっすからね。」
「え・・・」
「俺、分かってました。美神さんが俺の前ではルシオラの名前を口にしない事。でも、もう平気っすから。」
「・・・バカ。」
泣きそうになっている美神の横顔を優しく見つめる横島の眼差し。それは、朝焼けにも良く似た、希望につつまれるような光をたたえていた。
Fin――
今までの
コメント:
- 久しぶりの投稿です!今日は美神さんのお誕生日という事で、半年間温め続けてきた作品を投稿させていただきました♪お誕生日ケーキよりも甘いお話です(笑)今まで書いてきたお話の中では、いちばん気に入っています。でも、賛否両論かもしれませんね。ルシオラ・横島くん・美神さんの関係は、本当に難しいです・・・。お話の設定は、35巻のアシュタロス編が終わってからひのめちゃんが生まれるまでの間ということになっております☆
文字数など、短くなかったでしょうか?考えて投稿したつもりなのですが、おかしな部分があったら申し訳ございません。
最後に!美神さん、お誕生日おめでとうございますっ☆☆(笑) (姫桜)
- はじめましてですか?
いい、いいです。ちょっと泣きました。
美神の想い、横島の想い、それからルシオラの想いが伝わってきて感動しました。
二人がらしさを失わずにラブコメするのはなかなか難しいことだと思うので素直にすごいと思いました。
では、次回作なども期待しています。 (誠)
- 誠さん>>早速のコメント、ありがとうございます!初めまして、姫桜(きお)と申します☆よろしくお願いいたします。
感動していただけてよかったです。半年間温め続けたかいがありました☆3人の想い、伝わってよかったです。ありがとうございます♪ (姫桜)
- 続きは!?
終わりっすか・・・・激ショック・・・・
いやはや、あなた様の文才には感服です。
素晴らしいです。これを泣かずにおれようかってくらい泣けます。
次回も期待してます。がんばっ♪ (DIVINITY)
- 女性が居眠りするのは、安心できる相手の前でだけ。わかってるかな、横島君?♪
でも、寝込みにキスするのは反則ですよ〜♪(笑)
支えて、支えられて。慰めて、慰められて。お互いの荷物を、半分ずつ持ち合って。
だからこのふたりは、かけがえの無いパートナーなんですよね♪ (猫姫)
- DIVINITYさん>コメントありがとうございます!ハイ、これで一応終りです;ごめんなさい;でも続きの構想は練ってありますので、また後日・・・。タイトルの書き方が紛らわしかったですかね!?すみません、以後気をつけます;
誉めていただけて嬉しいです。ありがとうございます!泣けましたか??よかった☆感動していただけたならとても嬉しいです♪
猫姫さん>コメントありがとうございます☆お互いの荷物を半分ずつ持ち合う・・・この2人はまさしくそんな感じですね。猫姫さんのコメントの言葉にちょっと創作意欲が沸いたりしております(笑) (姫桜)
- はじめまして、姫桜さん。BOMといいます。どぞヨロシク。
ええ話でした〜。思わず涙腺が緩んでしまい・・・ううっ・・・
そしてとても文章がお上手です!すっごいなあ・・・尊敬ですよ。
次回も期待してます。投稿お疲れ様でした。ではっ! (BOM)
- BOMさん>はじめまして、姫桜(きお)と申します☆よろしくお願いいたします!コメントありがとうございます!誉めていただけて嬉しいです☆半年間温め続けてきた作品という事もあり、特に思い入れが強いので、本当に嬉しいです。次回も頑張りますので、よろしくお願いいたしますっ!! (姫桜)
- いいな〜 この話の令子ちゃん(^^
考えてみれば彼女も二十そこそこの、多分に少女の部分を残した年頃なんですよね〜
母親の死を乗り越えて、父親とは疎遠で、初恋のお兄ちゃんは異国に行って(^^
きっと、早く大人になろうと背伸びをしているうちにああいう極端な性格になったのでしょうけど、それでも、肉親の死から立ち直った経験が彼女には有りますからね〜〜、横島の状態が人ごとでなかったのでしょうね〜。
気持ちの良い、恋愛小説ありがとうございました。
出来ればこの物語の続きが読みたいと思いました。 (黒川)
- どうも〜はじめまして〜ヒロというものです。
まずはじめに、ご復活おめでとうございます〜さすがですね〜読んでて勝手に笑顔になっていましたよ。
ラブコメしてても二人がらしいと思えるのは素晴らしい腕前ですね〜僕的には長編とかも読んでみたいですけど、とにかくこれでお腹いっぱいなんで、もうこれ以上の我侭は言いません。
であであ〜これからも頑張って下さいませ〜 (ヒロ)
- 今、幸せです。幸せすぎて涙出てきました(笑)。
そのくせ、彼らのこれからを想像すると、他人事なのに嬉しくて笑みがこぼれたりするんですが(笑)。
未来の娘ルシオラも幸せになると確信します。なぜって、この最高に幸せな二人の間に生まれるんだから。
だから、私も幸せです(笑)。
それと、姫桜さんの書かれる美神さんと横島くんのかけ合いは大好きです、素敵すぎます(笑)。
そりでは、最後になりましたが……美神さん、お誕生日おめでとうございます♪ (りおん)
- 素敵な話でした。
ああ……もうこれ以上のコメントを思いつきません。ごめんなさい。
それと、美神さんのお誕生日でしたね、忘れてました。おめでとうございます。 (U. Woodfield)
- 美神さんの誕生日をすかkり忘れてましたΣ(゚ロ゚)
夕陽に照らされる中お互いを支えあう二人・・・
横島らしさ、美神らしさが上手く伝わってきました♪
やはり姫桜さんの書く美×横SSは抜群ですね(^^) (ユタ)
- 黒川さん>>コメントありがとうございます☆黒川さんの言うとおり、美神さんの年齢はまだ少女の部分が残っている年齢なんでしょうね。そんな部分を書くのが大好きです(笑)続き・・・構想は練っていますので、しばらくお待ち下さい♪
ヒロさん>>初めまして、姫桜(きお)と申します。よろしくお願いします☆コメント、ありがとうございます♪長編ですか・・・長編は書いた事がないのですが、機会があれば、書いてみたいと思います。2人がらしかったですか??よかったです☆これからもよろしくお願いいたします!
りおんさん>>コメントありがとうございます☆涙出ましたか!?よかったです(笑)私も、横島くんと美神さんのこれからを想像するとニヤケて・・・じゃなくて笑みがこぼれます(笑)私の理想のカップルですから♪ (姫桜)
- U. Woodfieldさん>>コメントありがとうございます!お褒め頂いて嬉しいです☆感動していただけたようで、嬉しいです☆これからも頑張りますので、よろしくお願いいたします!
ユタさん>>コメントありがとうございます!ユタさんの書かれる横島くんと美神さんも最高ですよっ!!私、鼻血出そうになりました(笑)2人のらしさが伝わってよかったです☆ (姫桜)
- すごく、すごく良いお話でした(^^)
二人のやり取りや思いが、とても自然で素敵だなと思いました。
素晴らしい投稿、おつかれさまでした。 (矢塚)
- 姫桜さんはじめまして。
KAZ23という者です。
素晴らしいお話を有難う御座いました。
お互いを気遣う美神と横島の関係がグッときます。
シリアスラブは温かいせつなさが胸にこみ上げてきますね。
それに、何気ないやり取りの描写が凄く良いと思いました。 (KAZ23)
- 矢塚さん>>コメントありがとうございます☆自然に書けてましたか??よかったです♪感動していただけたのなら幸いです♪
KAZ23さん>>はじめまして!!姫桜(きお)と申します♪コメントありがとうございます!温かい切なさが伝わってよかったです☆☆感動していただけたのなら幸いです♪ (姫桜)
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