ザ・グレート・展開予測ショー

悲劇に血塗られし魔王 24


投稿者名:DIVINITY
投稿日時:(03/11/11)



あの時・・・・・・

「・・・・・・・話があるの」

病院でタマモが美智恵に引き止められたあの時の事だ。
誰もいなくなった静かで薄暗い病院の廊下で何故か美智恵の姿はタマモの目に鮮明に写しだされた。
退職してもその冷酷な態度は抜けていないように思っていたが、ちゃんと注意して見るとどこか柔らかく、どこか憂いが醸し出されているのに気づく。

「何?」

タマモはこの時、ある程度何の話か予想がついていた。
美智恵が自分に対してのみ話をするからには、自然と話題が限られてしまう。
加えてこれは真面目な話なのだから、タマモの美神やシロより優れている点を考慮しての話なのだろう。

「あなたの生まれ持ってのその優れた洞察力を頼っての話なんだけど・・・・・」

「・・・・横島の事?」

美智恵は先読みされた事を驚かず、ただ「さすがね」と感嘆する。

「令子もちょっとは疑って欲しいわ。どう考えても横島君が修行のためにってことであんな嘘つくはずないのに・・・・・」

「でも、確かあなたも横島の事、納得したって聞いたけど?」

「納得なんてしてないわ。ただ、あれが横島君じゃないっていう要素が見つからなかっただけ。彼の演技は完璧だわ」

まるで、「彼」は横島じゃないと確信しているみたいな口ぶりだ。
まだ彼が横島である可能性だってないわけじゃないのに・・・・・・

そう思うタマモに気づいたのか、美智恵は笑う。

「彼は横島君じゃない。それはほぼ間違いないと思うわ。最初の頃は半信半疑だったけど、今回のおキヌちゃんの件で疑惑は一気に高まったわ」

「どうして?」

「あなたはおキヌちゃんの様子に気を取られていたみたいだけど、私はずっと彼から注意を反らさなかったわ。彼がおキヌちゃんに必死に呼びかける様。悔やんでる様。どれも自然よ。でも、それはあくまで一般的にって事。」

タマモは美智恵の話に頭を悩ませる。
一般的に自然?
つまりそれは普通って事。
なら何も問題はないではないか。

「いい、タマモちゃん。良く考えて。聞けば横島君はおキヌちゃんが攫われる直前、仮面の魔族と戦ったらしいじゃない」

「ええ」

(本当に戦ったのか怪しいけどね)

「そして、負けた。その結果、おキヌちゃんはあんな姿になってしまった。本当の横島君ならここで自分の不甲斐なさを悔やみ、必ず何らかの行動を起こすと思わない?」

(・・・・そうかもしれない。ううん、横島の性格なら動かないと逆に変化かも・・・)

それを聞き、初めてタマモは今日の「彼」の行動に対して違和感を持った。
確かに横島なら何か行動を起こすだろう。
おキヌの部屋を飛び出して、仮面の魔族を探しに行ってもおかしくない。

「行動でなくとも、仮面の魔族への恨み言でも良い。それさえ言ってくれれば・・・・横島君だと信じられたのに。」

でも、それが無かった。
従って美智恵の横島への疑惑は際限なく高まったのだ。

「あとね、これは皆が混乱すると思って言わなかったことなんだけど・・・・・」

そう言って、少し言いよどむ。
タマモは美智恵に追求せずただじっと待っている。
こういう時は、急かしてはいけないのだ。
タマモはそういう事をきちっと弁えていた。

「仮面の魔族なんだけど、私は彼がおキヌちゃんを狂わしたんじゃないと思うわ」

「どうして、そう思うの?」

「彼に敵意がなかったのは話したわね。彼は結局何も話さなかったけど、何か懐かしい感じがしたし、それに・・・・・おキヌちゃんを見る目がとても悲しそうだったから」

美智恵は仮面の魔族がおキヌの狂った姿を悲しく思っているという。
だが、いくら悲しそうだからといっても、おキヌを攫った事は事実。
そして、自分達の下に戻ってきたときには既に狂っていた事をどう説明できるのだろうか。
タマモはその事を美智恵に聞いた。

「勿論、仮面の魔族がおキヌちゃんを狂わせたかもしれないわ。でもね、私はこう考えたの。仮面の魔族がおキヌちゃんを攫ったときには既に彼女はあの状態になってたんじゃないかって」

「ええ!!?」

美智恵の凄い、受け取り方によっては人格を疑われても仕方のない推理はタマモを驚かせ、それと共に納得もさせた。
横島らしき怪しい男の出現、それと伴って仮面の魔族。
この二人の関係がおぼろげながら見えてきた気がした。
なら、おキヌを狂わせたのは・・・・・

「おキヌちゃんを狂わせたのはきっと横島君を名乗るあの男よ」



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東京タワーの展望台上。
もう辺りは暗く、ここから見下ろせる景色は幻想的なまでに美しい。
闇の中に散りばめられた宝石が輝いているようだ。

「わざわざ来てもらって悪かったな」

そんな所に俺とタマモとナターシャはいた。
ワルキューレからタマモの件が上手くいった事を聞き、しかもタマモが今、会いたいということで急遽ワルキューレに席を外してもらってこうして会っているのだ。
だが、まあ俺としてはこうしてタマモに会えたことは素直に嬉しい。
・・・・・おキヌちゃんとのようなあんな再会の仕方はもう御免だ。

「気にしなくていいわよ。こっちが無理いったんだから」

「そう言ってくれると助かるよ」

変わらないな。
長く会ってなかったってのもあるが、知り合いが変わっていないってのは嬉しいものだ。

「で、何か聞きたいことが俺にあるんじゃないかな」

もう少し雑談もしたいが、もう時刻は遅い。
美神さんがタマモの事を心配しているだろう。
シロも、まだ帰ってないだろうしな。
おキヌちゃんもいないし・・・・・・っ!!
という事は何か!?
「奴」と二人っきりって事か!!
まだ美神さんには手を出さないだろうが・・・・・心配だ。
・・・・・いや、ちょっと待てよ。
「奴」は一応俺という事になっている。
そして、俺がいなくなってから変わらないなら時刻は既に帰宅時間を指している。
って事は、もう「奴」はいないんじゃないか?
だが、万が一というものがある。
くそ、無事である事を祈るしかないか・・・・
・・・こんな事ならワルキューレに監視を頼んどきゃよかった。
だが、やっちまった事は取り返しようがない。
今はタマモとの会話に専念だ。

「俺の用件よりもまずはそっちの方から聞いてやるよ」

「・・・そう。じゃあ、聞くけど、おキヌって女性を知ってるわね」

いきなり本題からくる所は、さすがタマモといったところだな。

「ああ、知っている」

「あなたが彼女を狂わせたの?」

「・・・・・・狂わせた間接的原因ではあるな」

俺はやはり正直に答える事にした。
・・・・彼女には協力してもらわなければならないのだからある程度正直に言って信用をしてもらわなくちゃな。
でも、正体を明かせないってのは辛いなあ・・・・

「どういう事?」

「すまんが詳しくはいえない」

「そう。じゃあ、あなたの言う所の狂わせた直接的原因は何?」

「・・・・・予想はついてるんだろう」

これだけ言えば解るだろう。
俺は病院での美知恵さんとタマモの会話を聞いている。
・・・・・だから、タマモを選んだんだっていうのがワルキューレ達に言った表面上の理由だしな。

「やっぱりあいつが・・・・・」

予測がついていた為だろう。
ショックはさほどなさそうだ。
俺は他に質問はないか聞く。
するとタマモは少し悩み、やがて俺をきっと見据える。

「あなたは何者?」

俺こそがラブリー忠夫ちゃんです。

い、言いてぇ。
とても言いたいけど、ここは我慢だ。
俺の正体に気づいてもらっちゃ困るんだよ・・・・

「それは言えないな。お前が仲間になるかどうか解らないしな」

「・・・・仲間?」

「それが、俺の用件だ」

タマモはまじまじと俺を見ている。
まあ、仕方ないか。
美神さん達を裏切れと俺はいってるのだから。
だが・・・・
タマモには裏切ってもらわんとな。

「意外か?」

「というか、驚きね」

「何が?」

「あなたが、思ったより馬鹿だったってことが」

・・・・・馬鹿呼ばわりですか。
ちょっと、悲しいかも・・・・

「なんで、私が皆を裏切らなくちゃいけないのよ」

「それが最善だからさ」

「はあ?」

「信じて欲しいが、俺達は敵じゃない」

「味方でもなさそうよ」

・・・・・・
・・・・・・
おいおい、それは言わないお約束だろう。
ったく、賢い奴ってのは猜疑心の塊みたいだな。
・・・でも、だからこそお前がそこにいるとそれが災いしちまうんだよ。

「・・・・お前はどうする気なんだ」

「皆にあいつの事を伝えるわ」

まあ、予測の範疇だな。

「それを信じると思っているのか?」

「信じなくても、少しは注意深くなるはずよ」

・・・・タマモは解っていない。
「奴」の演技は完璧なのだ。
お前や美智恵さんが「奴」について見破った事だって不思議な位だってのに。
俺はそれをタマモに伝える。

「お前はどうだったんだ?」

「何がよ?」

「お前でさえ俺との会話でその事を知るまでは半信半疑だったんだろう?」

「・・・・・」

「洞察力に優れた妖狐のお前でさえ、そうなんだ。他の連中がちょっと注意深くなったところで気づける筈がないよ」

「でも・・・・」

「明後日だ」

もうこれ以上の会話は不要と判断した俺は何か言いかけたタマモを黙らせ、まとめにかかる。

「明後日に俺はある行動を起こす。その事をお前の上司は誰かから聞くはずだ。そして俺を捕らえようと必ず動く。その時だ。その時、お前は行動で俺に仲間になるかどうか示せ。」

そう言って、控えていたナターシャにタマモを送ってやるよう伝えた。
ナターシャはそれを快く引き受け、タマモに近寄る。

「最後に聞かせて!!あなたの目的は何!?」

タマモの叫びとも取れるその問いに俺は小声で答える。

「え?」

だが、タマモには聞こえなかったようだ。
タマモは聞き返そうとしたが、俺はそれよりも先にナターシャに合図を送る。
彼女は頷き、強引さをかんじさせないあくまで優雅な動きでタマモを抱えるとここから飛び降りた。
俺は誰もいなくなり、一転して静かになったこの空間でふっと夜空を見上げる。
自然にさっきの言葉が口から出た。


「言えるわけがないだろう」


お前等を救う為だなんて・・・・・・・・

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