ザ・グレート・展開予測ショー

アシュタロス〜そのたどった道筋と末路(涙)〜ヴァンパイア・メイ・クライ2


投稿者名:♪♪♪
投稿日時:(03/11/10)




 ざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。


 目の前を完全にふさいでいるのは、雨。
 もはや壁と表現しても差し支えのない豪雨に対し、人は抗うすべをもたない。その猛威に挑んだものはどんな重装備をまとったとしても、下着まで濡れ鼠になって完全敗北を喫するだろう。


 ルシオラ&カオス合作の『完全防水雨合羽』を着込んだにもかかわらず、海に飛び込んだような有様の自分の体がいい証明だ。


 それ程の豪雨だった。雨粒と雷雲が太陽の恩赦を完膚なきまでにさえぎり、町を包む闇をより濃厚で深いものにしていた。


 ――ルシオラ達大丈夫かなー。


 原型が昆虫だからか、異様に雨に打たれるのを嫌う恋人とその妹達の事を重い、嘆息する横島。(昆虫にとって、雨はインディー・ジョーンズのローリングストーンのような破壊力があります)
 原型が抱く本能は、恐怖感となって現れるらしい。子供の頃は雨が降るたびに泣くわ喚くわで大変だった。昔、そんなルシオラを面白がって雨の中に放り出したことがあるのだが――マジ泣きされてえらい目に会った。


 ――いや、ホントあの時は死ぬかと思ったからな。


 児童虐待というものを初体験するきっかけになった事件も、今ではいい思い出である。


「しかし――いくら豪雨とはいえ止まるか電車」


 完全に無人となったホームで、駅員さんに用意してもらったストーブにあたりながら苦笑を浮かべてつぶやく。


 年も空けたばかりの一月。
 『おキヌ・ざ・すたんぴぃど』事件から年末に駆けてどたばたし過ぎていたので、でいまいち季節と言う奴を忘れてがちになっている。


 思えばいろんなことがあった。
 厄珍とかいう変な商人に変な薬飲まされて死に掛けた。透視が出来るようになるという甘い言葉に惹かれてアシュタロスと一緒に服用したのだが、二人そろってすぐさま恋人にバレ、ボコられる羽目になったのだ。


 令子のライバルで呪いのエキスパートである小笠原エミにスカウトされて断った。いや、だって職場の同僚にホモの疑いがあったから。


 冥子の式神が一匹逃げると言う事件もあったが……これは事件と呼んでいいものだろうか。冥子が令子に泣きついて、いざ捕獲開始! と準備を完了したときには、鬼道が意気揚々と捕縛完了の報告をしに来たのだ。実質、美神除霊事務所の人間は捕縛そのものに関して指一本も動かしちゃいない。その後はバカップルの放つぴぃんくな空気に苦しめられただけで、得るものや失うものなんぞ何一つありはしなかった。




 季節感を忘れようとも今は間違いなく冬の真っ只中。
 こうやって親切な駅員さんのお世話になっていなかったら、凍死してもおかしくないくらいに寒いのだ。
 本来なら雪が降るべき季節と気候。にもかかわらず振るのは豪雨という、異常気象だった。降った雨は地面に落ちたはなから凍りつき、一面が擬似スケートリンクと姿を変えている。摩擦力0のせいで歩く者は何度もすっ転び、濡れ鼠になる。横島も摩擦力による被害者の一人だ。


 アシュタロスのほうは、先ほどからうんともすんとも言わない。恐らくは、横島の新陳代謝を活性化させるのにかかりきりなのだろう。


 親切な駅員さんも、仕事があると言って何処かに行ってしまった。


 今ホームに存在する異物は、毛布一枚で暖をとる自分と、自己主張を続ける石油ストーブだけ。その他の全ては、長く駅のホームという空間に溶け込んでいるに過ぎない。


 駅のホームの屋根を叩き、レールに張った氷を叩く、やかましい位の雨音が世界を駆け巡り、それ以外の音を掻き消していく。


「出勤しようと思ったらこれだもんなー」


 出掛けに見た光景がまぶたの裏に浮かぶ。雨におびえながら自分を引き止めてくれた恋人の、心配そうなまなざし。彼女のあんな顔を見たのは何年ぶりだろうか。


 あの種類の顔を最後に見たのは――


 ――思い出した。三年前だ!


 それは喜ぶべき事だった。あの忌まわしい事件以来、横島はルシオラを悲しませた事が一度もないのだ――怒らせた事ならそれこそ無数にあるが(汗)


「こんな事なら家にいりゃあよかったかなー」


 電車によって仕事場への道が断たれた横島だったが、それだけで済ませられるほど裕福ではない。一分一秒が千金に値するようなぎりぎり綱渡りの生活を行っている横島である。一日も休んだのでは、首を吊れやゴルァ、みたいな感じだ。


 ま、それでジタバタするのは諦めた。いざとなったら、ベスパの開発した『ポイズン窃盗』で稼げばいい。
 当面の問題はここからどうやって帰るかと言う事で――


「さて、どうしたもんか」


 傘を持ってきてもらおうにも、三姉妹は雨に弱いし、カオスをこの天気に借り出した日にゃぽっくり逝きかねない。防水しようのされていないマリアなんぞは論外。


「結局、一人で帰るしかないんか」


 はなから答えのわかりきった問題を四苦八苦して解いた挙句、やっぱろ弾き出された答えは予想できた最悪のもので。
 横島に深いため息を吐露させるには十分すぎる状況だった。


「――服が乾くまでかかる時間がネックだよなあ」


 ストーブの上で、古代人の焼肉よろしく棒にかけられて、あぶられている服を見る。湿り気で濃くなっていたジーンズの蒼は引く気配なし。Tシャツだけがようやく着れるか着れないかという状態だった。


「るしおらぁ。今日の帰りは遅くなりそうだよ」


 今頃心配でおろおろしているであろう恋人に、謝罪の意を表明したその時。






「――横島忠夫さんと、アシュタロスさんですね?」






 背後から、声がかけられた。
 見えないはずのアシュタロスの名前さえ出して。




「唐巣先生の使いでやってきました。力を貸してください」




 何の変哲もない、若年の男の声。
 後日になって、アシュタロスは語る。






 ――それこそは、横島一家、ドクターカオスが共同で作り上げた『平穏』という名の塩の城の、崩壊開始を示すファンファーレだった、と。


 まあ、当時の横島がそんな後日の階層など知る由もないのはあたりまで。
 『未来』における『過去』である『現在』を生きる彼がとりあえずしたことは。

























『チクショーチクショーチクショー!!!! なんだかとってもコンチクショォォォォォォォォォォォォォッ!!!!』


 もてる魔力や霊力を総動員して、嫉妬の炎をいい感じにバーニングさせて神を呪った。(爆)アシュタロスは、横島の体内から、彼が行う古式ゆかしき藁人形式の呪法を援護していたり。


 長身金髪碧眼美形と言う、女にもてる神器を全てそろえた声の主は『神様に藁人形は通用しないんじゃあ』とか『釘って本来胸に打つもので、股間に打つのはまちがってはいないか?』とか色々言いたい事があったのだが、口には出さない。


『チィクゥショォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!!!!』











 話しかける事すら、怖くて出来なかったから。










 余談。




『ぬ、ぬおあげおぐろぁっ!!!!?』
『き、キーやん!? 一体どないしたんや!』


 同時刻、魔人クラスの魔力で呪われまくった神界の最高指導者が、股間を抑えて悶え苦しんで血の泡を吐いていた。

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