ザ・グレート・展開予測ショー

アシュタロス〜そのたどった道筋と末路(涙)〜ヴァンパイア・メイ・クライ1


投稿者名:♪♪♪
投稿日時:(03/11/10)



 磨き抜かれた黒曜石の上に大きな銀の玉を落とし、銀粉をちりばめる。その全てを子の宇宙で最高の材質で構成したとしてもなお、『彼』の頭上で輝く夜空に比肩する事は不可能であろう。


 ――うそだ。


 自然を作り上げたのが神ならば、神こそが芸術の具現であろう。自然の雄大さを芸術などという人のものさしに当てはめるなど、おこがましいにも程があるが。
 それ以外の表現方法がどこにあろう? 自然こそがまさしく最高の芸術なのだ!


 ――嘘だ。


 ――と。
 平静ならば、彼は上記の文句をもっと詩的に朗々と歌い上げただろう。


 ――ウソダ。


 似合いもしない宝石類で着飾り、最上級の服をまとい、漆黒のマントは精霊の加護すら受けていうる。この上なく高級感あふれるその装備品は、今は墓場の土に塗れて汚れ、豪華さとは無縁の存在へ成り果てている。
 手で直に掘っているせいで、袖の部分などは服であった事すら伺えない有様だ。


 それでも。
 自分の存在の全てであると断言してはばからず、汚すなど持っての他と行動で示す『彼』が、汚れるのもかまわず一心不乱に土を掘っていた。


 ――うそだ嘘だウソダ。


 ざくっ! ざくっ! ざくっ!


 脳裏に咲くのは、ひまわり。
 深夜の墓場と言う、およそ明るさとは無縁の場所でも思い出せる、この上なく明るく、太陽を禁じられた自分を照らしてくれた笑顔。
 ひまわりのような――笑顔。


『ヴラドーには黒よりも白の方が似合うわよ』


 呪われたヴァンパイアに、事もあろうに白い服を着せようとした時の。


『ほらほら! そんなじめじめしたところで寝ない!』
『ご、ごめ〜ん♪』


 棺おけで眠る自分を、無理やり引きずり出した時の。灰になりかけた自分に対して、ぜんぜん反省していない顔で誤った時の。


『じゃぁん……私達の赤ちゃんでぇす』


 共に暮らした幾百日で神より授かった赤子を抱いて見せたときの。


 いつも彼女が浮かべていた、向日葵の様な笑顔。
 よくよく考えてみると、鬱になった所を見た事がない。そのぐらい明るく元気で――いつも、自分に笑いかけてくれた。
 吸血鬼と言うだけで忌み嫌われる自分、しかも、その中でもキリシタンと言う変り種。
 そんな自分に、『愛している』と囁いてくれた。


 太陽の見れない『彼』にとって、彼女こそが太陽だった。


 墓場独特の湿った土が、長いつめの根元にもぐりこみ、鈍い痛みを伴う。思わず顔をしかめたものの、彼はまったく動きを緩めずに手を動かし続けた。


 ――ウソダ嘘だうそだUSODAウソだうそダ嘘だウソだウソダ嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 『彼』は気付かない。気付いても頓着しない。
 彼の手に落ちた液体がどこから来たのか。その頬をぬらすものは何か。
 いつの間にか、『彼』の声帯が活動を再開し、叫び声をあげている事を。


 彼が今掘り返しているのは――この村独特の風習で作られた墓場。
 汚れた墓と呼ばれる――在任や魔女を無造作に埋める場所。それ故に、異常な深さに死体を放り込む、死者を忌み嫌う墓。
 その、一番新しい場所を、彼は掘り返す。


『あそこの教会に住んでた魔女、どうなった?』


 村人の言葉を否定するために。


『捕らえて殺した。つがいの吸血鬼も時間の問題さ』


「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ!!!!」


 ――死なないって言ったじゃあないか! 私を置いて行かないって約束してくれたじゃないか!


 汗と涙と鼻水がシェイクされて墓土を濡らす。


 ――神よ! 私から奪わないでください! 無くしたくないのです! 今が続くだけで良い! 子供もいる! ピエトロというあなたに授かった赤子だ!
 ヴァンパイアの不死なんて不要です! 全てをあなたに献上する! だから、だから!!


 ばきっ!
 つめが折れようと、肌が切れようとなお掘り続け――


 ――主よ!! 彼女だけは!!!!
 彼 女 だ け は 奪 わ な い で く だ さ い ! !


 指先に手ごたえを感じ、僅かな希望にすがるように土を払いのけ、


 その先にあったのは――


「あ――」


 それを目にした『彼』の世界が、歪む。視界が歪んだのは勿論、彼の精神を構成する感性や道徳ですら、根こそぎ歪みに巻き込まれていく。


「あ――あ――」


 『彼』がその爪で掘り起こしたのは――





























「アン……?」






















 人の形を留めない――


「う゛……」


『彼女』の死体だった――




「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!」




 吸血鬼が泣き叫んだその日。
 一人のキリシタンが信仰を捨てたその日。
 一人のヴァンパイアが歴史上に姿を現したその日。一つの村から人が消えた。死体はおろか、霊体すら遺さずに。
 彼らこそは誰にもその『罪』知られず裁かれた罪人達。
 彼らの罪は……一人の優しい父親を、邪悪な吸血鬼に変えてしまった事であった。



















『アシュタロス〜そのたどった道筋と末路〜ヴァンパイア・メイ・クライ』



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