いつかOXOXする日―ザ・ダブルブッキング(15)下
投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(03/11/10)
「母子ともに健康。元気な男女双子の赤ちゃんよ。」
―超音波測定で何ヶ月も前から一卵性双生児だと言う事は判っていた。
そして、“彼女”が先月、二つの“声”が聞こえると言い出した。
声と言っても微弱な霊波信号の様なものであるが、その一つが間違いなくルシオラのものであるらしい。
そして、もう一つは全然違うものであるらしかった。
――もう一つの方も何か見覚えがある様な気がするのよね・・・。
どちらにせよ、一人は待ち望んでいたルシオラの生まれ変わりで、もう一人は違う。
それ以前から・・自分と彼女との間に子供を作る事が現実味を帯びて来た頃から、自分の子供を作る事とルシオラの復活を望む事とを混同したままでいるのに限界を感じ始めていた。
“もう一人”の存在は横島にその限界を鋭く突きつけた。
ルシオラの生まれ変わりの子だけが特別なのか。そうでなければさほどに望まれないのか。
・・・・違う。そうじゃないよな。
どっちも、どうあっても、同じように大切なんだ。
なぜなら・・・。
ベッドの上の彼女が横島を見て笑顔を浮かべた。
疲労と苦痛の跡が見られながらも、それをものともしない余裕と満足感に満ちている彼女は、戦い終えた時の様に美しかった。
かつての師匠であり、戦友であり、やがて対等なパートナー・ライバルとなり、妻となった女性。
(・・・「飼い主」とか言う不穏当且つ正確で本質を捉えた単語も彼の脳裏を掠めたが、敢えて無視された。)
前世で再会を誓い合った事もあるらしいが、それを差し引いても、彼女と出会い、様々な出来事を共有して共に歩んで来た十数年間はとても重要なものだった。「愛」、「絆」、そんな言葉でさえ形容し尽くせぬ程に。
生まれて来る子供達は、そんな“二人”が紡いだ未来、そのものなのだ。
・・・どちらかだけが大事だったり上下があったりなんかしやしない。
彼女は神妙な表情を浮かべている夫に笑顔のまま声を掛けた。
「・・・・お茶は?」
「え・・?いや、持ってないけど。」
「・・・ない・・じゃなくてダッシュで買って来い。このヤドロク!!
あんた何もしてないんだからそれぐらい気利かせて当然でしょ!?
こっちはあんたのザコ退治と違って大仕事だったのよ!!
終わった所で『ハイ、お疲れ様でした』ってすぐ出せる様準備してから来なさいっての!!」
「令子っ!!・・・私の分のアイスコーヒーも頼んでね。」
「あたし、ジンジャーエール。」
・・・マトモに彼女を叱るかに見えた美智恵だが、やはり彼女の母である。いや、美神一族であると言うべきか。
彼女・・美神令子が夫婦別姓を選んだ理由は、何事につけ「横島のものは私のもの。私のものは私のもの」を徹底させる為であった。
結婚前、実力を付けた彼の独立を認めたのも、結婚後も別々の事務所で活動する事にしたのも、このコンセプトに従って効率よく搾取するのが目的であったと言われている。
横島は一目散に自動販売機へ向かって駆けて行った。「親子の対面」はその後と言う事になる。
・・・やっぱり「主人と下僕」なのかもしれない。この二人は。
+ + + + + +
「霊力の波長から見て多分―。」
言いかけた美神令子を片手で制する横島。
「・・・どっちも、“俺達の子”だろ?」
「何よ。あんたらしくないわね。・・・まあ、一目瞭然なんだけどね。」
ベビーケージに向かう横島。確かに、「どちらか」を聞くまいとした彼の態度は無駄だった様だ。
目を開けて彼を見つめている二人の赤子。
左側の子―女児だと説明された―から、微かに懐かしい波動、
かつて待ち焦がれた・・時折、狂おしい程に・・存在の波動を感じた。
この時ばかりは意識しない様にすると決めていたのに・・
そうせずにはいられなかった。
横島はその赤子に左手を伸ばした。
子供は笑った。小さく「あー」と声を上げながら彼の左手に小さな両手を伸ばした。
彼の手の小指と薬指の辺りを小さな二つの手の平で、きゅっ、と握った。
「 ――――おかえり、」
そう言わずにはいられなかった。
どこかで、
「ただいま。」と呼びかける声を聞いた。
左の子供に指を握られたまま、横島は右の子供―こちらは男児―に視線を移した。
その子供も目を開けて横島を見つめていた。
「・・・何か・・こっちからもある意味、懐かしい波動を感じるんですけど・・・?」
「・・・そうなのよねぇ〜。覚えだけはあるのよ・・確かに懐かしいんだけど・・何か・・とてもヤな感じと言うか・・・(^^;」
「ヤとか言うなよ。自分の子供だろ?」
「何かしら・・あんたの遺伝であんたに輪を掛けたセクハラ体質だから・・・?」
「あのなあ・・・(^''^;。・・・なー、気にするなよ?
パパもママもこんなんだけど、お前の事だってちゃーんと同じくらい大事にするから・・」
横島は”彼”に右手を伸ばした。
――ガブッッッッ!!!
「なっ!?」
ガジガジ・・・・・・
「っ!!・・見ろ令子。君が変な事言うから・・・大丈夫だ・・・この子は今、俺が本当に味・・・
ギャアアアアアアアアアアッッ!! やっぱり、いてーーーよーーー!!」
叫びながら右腕をブンブン振り回す横島。宮崎アニメの真似はおキヌがタマモに噛まれた時の半分も保たなかった。
「こら!!そんな事して抜けたらどうするんだ!?」
「て言うか抜けねえ!!何か、歯とか、もう生えてるしぃぃぃ!!」
「新生児に歯だと!?現代医学はそんな事認めんぞ!!」
「・・ちょっと、あんたまだ引退してなかったの?・・何で産婦人科にまでいるのよ?」
「現代医学は不滅だからだ!!現代医学は全てのジャンルに通用する!!」
「何か違うぞそれ・・って、んな事いーから、早く何とかしてくれーーーーっ!!」
そろそろ自分達も子供の顔を見せて貰おうとガラス窓に回った一同が見たものは、
左手を一児に握られ、右手を一児に噛付かれながら分娩室中を転げ回っている横島忠夫の姿だった。
(・・・絶対、殺してやるからな)
(・・・絶対、そうはさせないわよ)
後日、女児の方は(予定通りと言うか何と言うかで)「蛍」、男児の方は「白巳(はくみ)」と命名されたと言う・・。
(彼らの日々は、続く)
―――――――
彼らの日々は続いてもこの話は、(やっと)完結です。
以前もコメントしたことがありましたが、元々、
「横島の子供に転生するつもりでいたルシオラに正反対の目的でメドーサがかち合って、
すったもんだした挙句まとめて双子として送られてしまう。」
という話を二話くらいでドタバタと書く予定でいたのが何故かこんな事に・・・!?
でも細かく作ったおかげでこれを基にした別の話のねたなんかが複数浮かんできたので
自分的には得しているのかも。(白巳君と蛍ちゃんのその後、転生センターものの二ジャンルで)
二人の子供が前世を引きずるのはこの瞬間が最後で、後は意識せずに自分の人生を歩んで行く様な気がします。
ここでの他の方の作品がヒントになって書かれた部分が色々とあります。例えば、
ルシオラの独白「“その世界”のない所にお前も・・」
これなんかは「オロカナルモノタチ」「箱庭」がヒントになってました。
あと裏設定で、
ルシオラの転生に神界からのプッシュを一番かけてたのが斉天大聖老師(withパビリオ)だったので
副センター長補佐的には人情以外に老師の顔に泥を塗ることにしたくないという判断もあった
・・というのがありましたが、これは「天使で悪魔な小生意気!」からで。
あと没アイデア・・「マXXックス・リロXXッド」ネタ。(ビデオ・DVDリリース記念で。)
二又槍を床に突き立ててそれを軸に回転しながら地蔵や仁王を蹴散らすメドーサ
ルシオラに地蔵が数十体埋め尽くすように折り重なり、その中心部でボーンとはじけ飛ぶ
・・なんてアクションを思いついたけど止めときました。
では、ここまで読んでいただき感想送ってくださった皆さん、ありがとうございました。
返事書いてない時もありましたが、時間の無いときやコメント返すとネタばらしそうな勢いでなんとなく
恐かった時に書きそびれただけなので、感想は全部読ませていただき、参考にもなっています。
今までの
コメント:
- どうも〜ヒロです〜
とりあへず、連載完結お疲れ様です。そしておめでとうございます〜
おもしろかったぁ、特に今回の最終話はハートフルなのりで語られていて僕の頬が勝手にゆみっぱなし!暖かかったです。しかもなんかこのまま違う話すらかけそうなのりで、でるんですかね?続編とか(ない?かな)
あとちょっと指摘を。エルサレムは二派ではなくて三派ですよ〜。細かく分ければもっといっぱいあるけど・・・大まかには三派です。(すんません〜)
であであ〜お疲れ様でしたぁ〜ほんと、面白かったです〜
であであ〜 (ヒロ)
- 双子ですか。なんかちょっといいですね、横島なら二人ともかわいがることでしょう。
親子仲良くやっていけることを願っております。
それにしてもカオス・・・不死身ってのは本当だったんですね。
では、お疲れ様でした。次回作も楽しみにしてます。 (誠)
- やはり予想通りの結末でしたが……
いきなり歯が生えてるメドーサ、執念恐るべしですね。
親子ゲンカくらいで済んでくれることを願います。
それにしても……恐怖新聞!! しかも退治法が「発行停止処分」!!! (U. Woodfield)
- お疲れさまでした!
やっぱり主人公はルシオラさんとメドーサさんの二人ですね♪
長い長いセンターの戦いもようやく一段落したと思ったら
まだまだこれから(実はやっかい払いされただけ?)といった所でしょうか?
殺意だろうと愛だろうと二人の持ってる想いは絶対なものですから
親子の絆も誰よりも強いはずですよねっ!!
きっとこれからも相変わらずの日常が続いていくのだと思います。
そしてあわよくば『父と娘の禁断の愛』に…( ´д`)ハァハァ←真面目なコメントが台無し (ハルカ)
- ども、BOMです。
シリーズ通して一気読みしたので総まとめのコメントで申し訳ありません。
いやいや、面白かったです。ルシオラの転生がこんなとこまで話がでかくなって、
そしてこんなにも面白いものになるのが正直に凄い!と思いました。続編、あったら楽しみです。
本当に面白かったです。ア○フルのお地蔵さんに合掌しつつ(笑)、投稿お疲れ様でした!ではっ! (BOM)
- 何はさておき、完結おめでとうございます。コメントを入れられるのを、今か今かと待っておりました。
ルシオラとメドーサが転生するまでの、つかの間の出来事というのが実にテンポよく、瞬く間に過ぎ去っていく展開に楽しませていただきました。
転生センターのシステムや職員たちの描写が存在感たっぷりで、善悪を超越して事務的に処理していく光景が生々しく、椎名ワールドにふさわしい味付けだったのではないかと思います。
いろいろと大変だったとは思いますが、是非また新たなる作品にチャレンジしてください。
・・・ただ、『恐怖新聞』はちと蛇足だったのではないかな、と愚考する赤蛇であります(笑) (赤蛇)
- 連載お疲れ様でした(^^)
コメントは数度しかしてませんが、毎回楽しみに読ませていただいてました!
無事横島と美神の子供となったルシオラとメドーサ、これからその二人がどのような人生を歩むか楽しみですw
個人的には両親の愛情によって更正する白巳を見てみたいなぁって感じです(^^)
ただ、ちょっと気になったのは「顔文字」です、
僕も使ったことがないわけではありませんが少し使いすぎかな?って気がしました^^;
まぁ、何はともあれ完結おめでとうございました!
次回作も期待しています♪ (ユタ)
- >ヒロさん
調べてみたらその通りでした>三派
何となく二派だと思い込んでたので・・。
まあ、横島もそう思い込んでたという事に(ヲイ
続編は、脳内にはありますが、どうなる事やら、です。
>誠さん
仲良くと言うか、やっぱり「極楽大作戦」な感じでしょうかね。
時折血の雨も降りそうな・・
>U. Woodfieldさん
形を変えても「挑んだり」は、しそうです。
>ハルカさん
まだまだというより「ようやく」これからと言った所です。
最後の一行は・・ご想像にお任せします。
>BOMさん
自分で「どこまででかく、深刻になるんだ?この話は!」と
首を傾げながら書いてました。
メドーサの担当はあの後「飛ばされた」らしいですが、
その話もいずれ。>ア○フルのお地蔵さんに合掌 (フル・サークル)
- >赤蛇さん
最後(エピローグ)に現在の横島を出す
→一人前のGSとして活躍している所から始める
→やられ役は?
→悪霊で別の漫画か映画の何かメジャーなものを・・
→そうだ!
こんな感じで「恐怖新聞」が出てきました。
>ユタさん
エピローグでは多かったですね。>顔文字
あの眉間縦じわ笑顔で、原作の感じを出してみたくなったもので・・。
続編はこの話が忘れられないうちに書いてみたいです。
蛍ちゃんはともかく、いきなり「白巳」とか出て来ても伝わりにくそう
ですから・・。
転生センターが舞台になる続編案もあって今度の主役はp・・あ、いやいや。 (フル・サークル)
- 完結おめでとう御座います。
同時に、有難う御座います。
貫かれた世界観に終始圧倒された作品でした。
ラストでGS世界のその後が分かったのも良いです。
結局の所、こいつらは記憶を持って生まれてきてしまいましたね〜
パパさんの受難は凄そうです。汗
お疲れ様でした〜☆ (KAZ23)
- まさかメドーサが男の子で生まれてくるとは。Σ(゚ロ゚)
この作品、本当に楽しませていただきましたよ。
(15)上に登場した“呪いが生きがいの少年”を起用したことも嬉しい所。
成長した彼が横島と組んで仕事をしてくれるとは、これもいままでにない展開のような気がします。
エミと冥子という偉大な師匠(?)に学んだことは多かったようですね。
なにはともあれ、連載完結、お疲れ様でした。 (ヴァージニア)
- >KAZ23さん
あ、そう見えちゃいました?>記憶
持ってないつもりで書いてましたので。
ただ、初期衝動としてあちこち残っているに過ぎないです。
いずれにしろ・・・受難ではありますね。
>ヴァージニアさん
「更にその後」が書かれないと、男子で生まれた必然性が
見えてこないかもしれません。
あの少年は横島を見返すためにどこでどんな修行と成長を遂げるのだろう?
と考えたらこんな展開になっちゃいました。
冥子の式神の暴走では壮絶な目にあっているようです。 (フル・サークル)
- 凄い、コンパクトなのに濃いお話でした。
独自の世界観は私を圧倒し、メドーサの道化ぶりが何とも言えない空気を生み、ルシオラの決意が悲壮感以外の何かを感じさせました。
要するに、上手いんだなぁ。最近の新人さんは上手いから嫌(ノД`) (NAVA)
- 「蛍」はともかく「白巳」まで名が体を表しているのはお約束でしょうか。(^^;
一般的に父親は娘にとっては憧憬、息子にとっては超克の対象ですが、この二人はその範疇に収まらなさそうです。
転生に関しては順当な結末に落着しましたが、戦いは形を変えて続くようですね。潜在意識に刷り込まれている様ですし(笑)。
ルシオラの転生を独自の切り口で見事に描いたこの作品に、心からの賛成票を。
連載完結、お疲れ様でした。
追記:余談ですが、センターの設定、特に原作っぽく戯画された職員達がお気に入りだったりします。 (dry)
- >NAVAさん
いやいや、「西も東も分からないような」新人でございます。(文字通り(ノД`)
・・「幕間暮夢」参照)
こちらもNAVAさんの作品ログ辿って読ませていただいてます。
「魔人Y」はまだ読みきってませんが・・。
「ヤとか言うなよ。」てなワケで。よろしくです。
>dryさん
お約束です。彼らの直感が出所を見抜いたのでしょうか・・?
作者的にはこの名前が浮かぶまでの候補はそりゃもうヒドいもの
ばかりでした。この名前が浮かんで出せたのは奇跡かもしれません。
二行目の指摘に硬直。メドーサが男に生まれた(副センター長補佐がそう配置した・
私がそう書いた)理由や今後の続編(あれば)の方向性が読まれている・・・!?
鋭かったです。 (フル・サークル)
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