いつかOXOXする日―ザ・ダブルブッキング(15)中
投稿者名:フル・サークル
投稿日時:(03/11/10)
「よ・・横島さんっ!?」
氷室キヌ―おキヌが驚いたのも無理はない。電話が繋がったと同時に「もしもし、おキヌちゃん?」と言いながら横島本人が待合スペースに現れたからだ。
「テレポーテーションで来たんですか?」
「いや、・・・独自の情報ソースがあってね・・・げっ!?」
「何じゃ小僧、亭主のくせに遅いぞ。」 「イエス、ドクター・カオスより1275秒遅い。」
「カオスのおっさん・・マリア・・どうしてここに?」
「ん?今朝の新聞にお前の家でガキが生まれるとか書いてあってな・・二年程前から申し込んでもいないのにタダで配られて来とる新聞なんじゃが・・そうじゃ、お前が仕事でヘマして死ぬとも書いてあったな。何じゃい、誤報かい。」
「・・・・・あの新聞、二年もとってたのかよ・・・・。」
長寿を約束されている赤ちゃんでも余裕で死ねる量だ。恐るべし、ドクター・カオス。
横島は目の前のドアに視線を移した。ドア上部で赤く点灯している「分娩中」のプレート。
「いつからだった?」
「30分くらい前です。今日は私、お昼前からお見舞いに来たんですけど、容体が急に変わって・・。」
「そうか・・。」
おキヌは六道女学院を卒業後、しばらく美神除霊事務所のアシスタントをしていたが、22歳の時アフガニスタンへ渡り、ネクロマンサーの教えを受けながら現地の除霊活動を行なっていた。
横島が独立した頃、入れ替わるように帰国し、GS免許を取得、美神除霊事務所の専属GS兼秘書となった。
「令子ちゃん!!」
慌ただしく西条が入って来た。横島はとてもイヤそうに彼に顔を向ける。
「さ、西条さんも早いですね・・。」
「チッ・・やっぱり来ちまったかよ。」
西条は大股で横島に歩み寄、笑顔でその肩をぽんぽんと叩く。
「横島くんも、とうとう年貢の納め時だな!!」
「あ?今更、何言ってんだよ?」
「いやいや、君の場合はここからが問題だ。未来のシングルファーザーとして。
“蛍”ちゃんと親子水入らずで過ごす未来の問題だ。・・セルジュ=ゲンズブールの如くにね。」
「なっ・・・!?」
どこから西条にその話が漏れたのだろう・・?いや、答えは一つしかない。
娘が産まれたら“蛍”と名付けようと言うアイデアについては一度か二度、“彼女”に話した以外口にしてないのだから。
・・大方、西条を飲みに付合わせて泥酔しながらグチったのだろう。
「元々のドスケベ、セクハラ、女グセの悪さに加えて娘への異常な溺愛と来てとうとう彼女も君に愛想を尽かすだろうね。
・・でもその後は僕が彼女を幸せにしてあげるさ!だから安心したまえ!」
「・・・西条、お前、来月からはエルサレム行きだそうじゃないか・・。霊験あらたかな“聖地”での任務だ。出世だな。
神族も人間も二手に分かれて殺し合ってるから仕事いっぱいでやりがいもいっぱいだなあ・・死亡率もいっぱいで・・
あそこでなら殺されても神か聖者としてどっち側かに祀ってもらえるぞ。骨の埋めがいもあるってもんじゃないか・・」
フフフと笑いながら見つめ合う二人。目は笑っていない。ハッキリ言って、とてもイヤな空気だ。
おキヌが堪り兼ねて怒鳴る。
「もーーっ!!こんな時にこんな場所で真っ黒な会話してないで下さい!!」
「美神くん!」「横島さん!美神さん!」
「お姉様!」「おう!横島!久し振りだな!」
「令子ちゃ〜ん!」「令子ぉ、生きてるワケ?・・・ピートォーッ!!変わってないわー!!!」
唐巣神父とピート、弓と雪之丞、冥子とエミが順々に現れた。
「エ・・・エミさん、タイガーは?」
「仕事途中で置いて来ちゃった。・・・ピート、きっと貴方にここで会えると思ったから急いだのよ?」
本来何しに来てたのか、を忘れてピートに纏わり付くエミ。
「先生ー!」「何であたしまで連れてくるのよ?」
「エミさーん!あの状態で置いてくなんてヒドイですけんノーーー!!」
シロ、タマモ、満身創痍のタイガー。
「令子ちゃん、痛み止めの薬いらないアルかー?これスゴいアルよ。霊体レベルで痛みをカット・・」
厄珍。
分娩室前の待ち合いスペースは一挙に混雑し、騒がしくなった。
その中で一人だけ静かにしている者。
再びドアの前でプレートを見上げている横島。
自分の子供が産まれる。誰にとってもそれは重要な意味を持つものであろうが、彼に・・彼と彼女にとってはもう一つ、複雑な意味を持つものであった。
十数年前、彼に告げられた“可能性”―想い半ばにこの世を去った恋人の復活の可能性―彼らの子供としての。
当時、彼女もまた、彼にその可能性に賭ける事を薦めた一人であった。
だが、今、この場で、それをどう受け止めている事だろうか?
横島は以前から心を決めていた。
あいつの生まれ変わりだから大切なんじゃない。
―俺達二人の子供だから、大切なんだ。
ルシオラと再び出会える事を素直に喜び、祝福する気持ちは勿論あるし、忘れたりはしない。
だけど、ルシオラの生まれ変わりとしてではなく、自分たちの子供として愛情を向ける。
もう一つの「ある事実」が彼にそう考える事、そう決める事を一層強く促していた。
久し振りに顔を合わせた者同士、或いは普段からのイザコザを持ち込んで騒がしくしていた周囲もいつの間にか静かになり、ドアの前に佇む横島に注意を向けていた。
プレートの赤ランプが消える。産声が重なって聞こえた。
ドアが開き、中から彼女の母美智恵と、年の離れた妹ひのめが姿を見せた。
「随分とうるさかったわね。・・・横島くん、入っても大丈夫よ。」
横島が入るとニッコリ笑って言葉を続ける。
「出産は無事成功。母子ともに健康。・・元気な男女双子の赤ちゃんよ。」
(続く)
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