君ともう一度出会えたら(19)
投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(03/11/ 9)
『君ともう一度出会えたら』 −19−
病室の中は、重苦しい雰囲気に包まれた。
いや。重苦しさを感じているのは、俺だけだろう。
部屋の中にはニコニコと笑っているルシオラと、不機嫌な様子でジロリと俺をにらむ美神さんの姿があった。
パピリオもぶすっとした表情をしているが、これはまた別の理由だろう。
「……話はわかったわ。とりあえず無事釈放されたってわけね」
「そうです。特に行くあても無いし、まずはヨコシマに会いたいと思って、西条さんにこの病院の場所を聞きました」
「詳しい話は、西条さんから聞いたほうがよさそうね。とりあえず、事務所に移動しましょう。西条さんも来てもらうように、連絡しておくわ」
俺たちが事務所に着くと、まもなく西条もやってきた。
とりあえずルシオラとパピリオには別室で待ってもらい、俺と美神さんとおキヌちゃんだけで西条の話を聞くことにする。
「……つまり、ルシオラとパピリオはアシュタロスに強制的に協力させられていたから、アシュタロスから解放された今、自由にしても問題ないってわけね」
「そのとおりだ、令子ちゃん。ただ神界との接触が回復していない現時点では、交流のある特定のGSの保護観察下にあるのが望ましいと。スジがとおっているだろ?」
「よーするに、横島クンが面倒を見れば釈放ということね」
「それとも、何か気に入らないのかな、令子ちゃん。たとえば妬ける──とか」
西条がニヤリとした笑みを浮かべる。
「そ、そんなことあるわけないでしょ!」
「じゃ、決まりだね。横島クン、二人を頼むよ」
西条が俺の肩をポンと叩いた。
まったく有能なのはいいんだが、下心がみえみえなんだよな。
今回は美神さんの気持ちを考えると、俺も素直には喜べなかった。
「あのー、お話しは終わりました?」
そっとドアが開けられ、ルシオラが部屋の中に顔をのぞかせてきた。
「私たち、ヨコシマの部屋に戻っていいのかしら?」
ルシオラは、白のワンピースにチェックのカーディガンを着ていた。
軽やかな笑顔が、今の俺にはとてもまぶしく見える。
「いいコじゃないか。幸せにしてやりたまえ」
「あ、ああ」
西条が俺の耳元で、そうささやく。
どこまでもキザなヤツだが、今回ばかりはうなづいてしまった。
「で、でも、それってつまり一緒に住むってことでしょう? 横島さんは高校生ですよ。つまり……その……もし間違いがあったら……」
おキヌちゃんがおろおろとしながら、口をはさんできた。
「何を言っているんだ。彼女は人間じゃないんだよ。一緒に住もうが何しようが、法的には全然オッケーさ!」
前回はビックリしておろおろするだけだったが、あらためて聞きなおすと、論理に一部の隙もない。
「有史以来、人間と神族や魔族が結婚した記録は、いくらでもある! 大いに間違いたまえ、横島クン!」
フハハハハッと、西条が高らかに笑った。
西条よ。下心も含めてお前の気持ちはよくわかる。しかし今回も、前回と同じ轍を踏んでしまったようだ。
ドタン バタバタ ガーッ バサバサッ
「や、屋根裏部屋、何とか使えそうですねっ!」
「やっぱ横島クンのアパートじゃ狭いもんねっ! もう大丈夫よ、あんたたち」
おキヌちゃんと美神さんが、大急ぎで屋根裏部屋を片付け終えた。
二人とも休まずに掃除をしたためか、肩で大きく息をしている。
「ま、待った! なにも屋根裏部屋でなくてもいいだろう。なんならGメンの経費で、横島クンとの新居を用意するが」
慌てた西条は、小声でルシオラに提案をもちかけた。
「いいえ、ここが気に入りました。ありがとう」
前回はこの時にひどくがっかりしたが、今回はそうでもない。
ルシオラとの同棲には心引かれるものがあるが、今の俺には別の思惑があった。
「あの、美神さん。俺も事務所に泊まりこんでいいですか?」
「事務所って、もう空き部屋はないわよ。まさかここで同棲をはじめようなんて、考えていたりしないわよね」
美神さんは、アンタ何を考えているのという目つきで、俺を睨んだ。
「そんなこと考えてないッス。俺が寝るのは事務所のソファーでいいですよ。アシュタロスがどうなったかはっきりするまで、固まっていた方がいいと思ったんです。できれば、美神さんもしばらく事務所で生活しませんか?」
これが今回の俺の作戦である。
前回アシュタロスは、美神さんのマンションを襲撃してきた。
一人でいると狙われやすいが、俺たちが固まっていれば相手も手を出しにくいだろう。
「……そうね。ルシオラたちの保護観察もしなくちゃいけないし、しばらくは目の届く場所で生活した方がいいかもね」
「じゃあ、ちょっと荷物を取りにいってきます」
「ちょっと待って。私も荷物を部屋に取りにいくから、ついでに車で送っていくわ」
別に電車で移動してもかまわないのだが、車の方が便利なので、ここは美神さんの好意に甘えることにした。
事務所を出た俺と美神さんは、まず美神さんの部屋に寄ったあと、俺のアパートに移動した。
案の定、ドアや窓には『人類の敵!』『裏切り者』『死ね』などの落書きがされている。
いまさら腹を立てても仕方がないが、誰もわかってくれないのは少々悲しい。
「仕方ないわねー。あんた一時は敵の仲間だったしね」
背後から美神さんが、慰めの言葉をかける。その言葉に少しだけじわっときてしまった。
「横島クン、あんた本当に変わったわねー」
「隊長にも言われました」
俺の部屋を出たあと美神さんは事務所に戻らず、夕方の首都高を爆走していた。
「事務所には戻らないんですか?」
「事務所に戻ると、いろいろやらなきゃいけないことが待ってるでしょう。ちょっとだけ、気分転換♪」
俺と美神さんの乗るACコブラは環状線から湾岸線へと進み、そのまま千葉方面に向かっていった。
「横島クン、あっちで何があったの?」
「あっちって、何の話です?」
「あんたがルシオラたちに捕まったあとのことよ」
「あっちでの出来事は、隊長に報告したとうりですけど……」
俺が捕まっていた時の行動については、Gメンに報告してある。
もっとも周囲から疑念を持たれないよう、多少ごまかしている部分もあるが。
「やっぱりあのコのため? 横島クンが頑張っているのは」
「えーと、そうかもしれないですけど、そればっかりでは……。いちおう任務のことも考えてますよ」
「ウソばっかり」
美神さんがクスクスと笑った。
「やっぱり俺って、そういう人間に見えるんですかね」
「まぁ、今までが今までだったからね。でも最近は、少し違って見えるけど」
「そうですか」
「そうよ。でも今の横島クン、感じとしては悪くないわ。ちょっと離れていだけなのに、ずいぶん大人びたのね」
未来から戻ってきてからルシオラたちに拉致されるまで、美神さんとは数日しか接触していない。
その間は昔の自分を演じていたから、俺の変化に気づいたのはやはりこちらに戻ってきてからなのだろう。
「あのね、昨日の件なんだけど……」
美神さんの口調が、少し固くなった。
「す、すみません。まだ心の整理がつかなくて……」
「いいのよ。いま返事をもらおうなんて思ってないから。ただ、言っておきたいことがあって」
「なんですか?」
「昨日のことは、別に前世の記憶が戻ったからだけじゃないのよ」
「へっ!?」
「私は強い人が好きなの。ひょっとしたら、ママの影響なのかな……」
やっぱりそうだったのか。美神さんこれだけ美人なのに、あまり男を寄せ付けなかった理由がやっとわかった。
「子供の頃に西条さんにあこがれていた時もあったけど、それは身の回りにいる男性で一番強かったのが西条さんだったからかな。正直言って今の西条さんには、お兄ちゃんって気持ちしか湧かないのよね……」
未来でも美神さんは、結局西条とはつきあわなかった。
西条の方は、ずっと美神さんに未練をもっていたみたいだが。
「横島クンが腕を上げていたことは薄々気がついていたけど、それを認めたくない自分があったのね。それが南極に行く前に横島クンと勝負した時、完全に打ち負かされちゃったのがすごいショックだったの」
まぁ前回もギリギリ引き分けにもちこめたから、今回は文珠無しでも負けないだろうと思っていた。
「本当は弱い自分を認めたくないだけかもしれない。横島クンを好きになることで、自分の気持ちをごまかしているだけかも。そんなことを考えているうちに、急に前世の記憶が戻っちゃって……」
「美神さん……」
「ごめんね、横島クン。私もまだ、自分の気持ちがきちんと整理できていないのよ。だから横島クンの気持ちも考えずに、自分の思いを告げちゃった。私って、本当にわがままよね」
俺は言うべき言葉が見つからなかった。
逆行する前にいろんな事態を予想していたが、こればかりは全く想定外であった。
「そろそろ事務所に戻らないとね。あまり遅くなると、みんなに心配かけちゃうから」
ドライブからの帰り道、俺と美神さんはずっと黙ったままであった。
(続く)
今までの
コメント:
- パピリオやルシオラ、美神達のことを色々考えてますね、横島クン。
それはそうと横島クンと美神さんがなんだか意外?な方向に。横島クンが美神さんにどういう答えを出すのか興味深いです。
次回はどういう展開になるか楽しみです。 (テルヨシ)
- な〜〜〜に〜〜〜!ファーストコメントが〜〜〜〜!
まあそれはおいといて、原作と似た展開・・・なのに違うイベント面白いです。
横島色々考えてますね。
これからどうなるのか期待してます。それでは。 (誠)
- こんばんはMASAKIです。
横島って色々と考えてるんですね。成長したなぁ〜。
おお!!、美神さんが横島に素直な気持ちを言ってる〜!!横島はいったいどんな答えを出すのでしょうか?
続きを楽しみにしています。
それでは〜 (MASAKI)
- ども、BOMです。
すっごい面白い・・・続きが全然想像つかなくて、楽しみです!
さて、横島が作戦を開始しましたが、コレが吉と出るか凶とでるか?
それも自分の楽しみの1つです。次回を期待してますよ!ではっ! (BOM)
- 無駄です、美神さん。たとえ女性陣総出で誘惑したってルシオラのゴールデンクロス(=キャミソール+フレアパンツ)には勝てません。
ども、ひさです。
しかしパピリオを説得するためにはまた「ペットが調子に乗るんじゃないでちゅよパンチ」を喰らわなきゃいけないんですよね。哀れ、ヨコシマ・・・・・・。
次回も楽しみにしてます! (ひさ)
- 原作の美神令子の良さが無くなってる、というかパラレルワールドですか?
違和感がどうも・・・ (とおりすがり)
- 美神さんが素直だ……。
もう少し意地を張ってくれてもいいかなあ、とも思うのですが。
まあそうするとルシオラには到底敵いませんからねえ。
横島クンの作戦が当たるのか? 楽しみにしています。
美神さんだけでなくおキヌちゃんの葛藤も書いていただけると嬉しいです。 (U. Woodfield)
- 西条、毎度の事ながら「策士、策に溺れる」ですね。(^^;
今回の横島の行動は、最終局面(及び空白の三日間)にどういう影響を与えるのでしょうか。
過去改竄を最小限に抑えたい身としては、結構危険な賭けの様な気もします。
あと、美神の「強い人が好き」発言に納得。少なくとも、軟弱者は好みではなさそうです(笑)。
次回も楽しみにしております。 (dry)
- 素直な美神さんで何か悪いでしょうか?いや無い。
イイのですよ。原作でだって後一歩まで行く度も・・・
だから、これも有り得た展開。
強いてあげれば・・・スナフキンさんが書いている時点でハッピーエンドに届かないんだろうなぁ・・・と思わずにはいられない所が残念です。(失礼)
さて、私はここぞとばかりに同棲時代に突入するものと!w
この横島は冷静ですな〜かつ、大人だ・・・
格好良いです。 (KAZ23)
- テルヨシさん、誠さん、MASAKIさん、BOMさん、ひささん、とおりすがりさん、U. Woodfieldさん、dryさん、KAZ23さん、コメントありがとうございます。(^^)
それでは、コメント返しです!
・テルヨシさん
精神的には大人になってますし、辛い経験を乗り越えてますので、この話の横島クンは
精神的にはかなり成熟しています。
美神についてですが、ラストでどうするかはまだ考えている最中です。 (湖畔のスナフキン)
- ・誠さん
誠さんもテルヨシさんも、コメントつけるのが早いですね。(笑)
作者としては、ありがたいかぎりですが。
イベントは今後もいろいろと考えています。連載の最初の方では、先に話を進めるため
なかなか原作の流れを崩せなかったのですが、今はいろいろと貼っておいた伏線を生かして
展開にゆらぎをもたせることが、かなりできるようになりました。
・BOMさん
話の先が読めないと言っていただけると、作者としてはありがたいです。
ここまで話が進めば原作そのままの展開はもはやありえないので、可能な限りゆらぎを
もたせた展開にしたいと思います。 (湖畔のスナフキン)
- ・ひささん
何か書き忘れていると思ったら、キャミソール姿のルシオラを出すのを忘れていました。(爆)
今から出せるかどうか微妙な段階ですが、検討いたします。
・とおりすがりさん
この話は横島が逆行した時点で原作とは別の未来に進んでいますので、パラレルワールド
の話と捉えていただいてもかまわないかと思います。
作者としては、原作で最後まで踏み出せなかった美神に、一歩踏み出してもらったという
想定です。
ただ原作の美神らしさが薄れているという批判は、当然あるかと思います。 (湖畔のスナフキン)
- ・U. Woodfieldさん
私も、もう少し美神に意地を張らせようかと悩みました。その方がらしいですからね。
ただそうすると、やはりルシオラに対抗するのが難しいので、結局ボツにしました。
美神vsルシオラが一つのポイントですので。
それからおキヌちゃんについてですが、基本的には原作と同様にあまり触れません。
おキヌ派のU. Woodfieldさんの期待に答えられそうにないのですが、おキヌちゃんまで
絡めると、私の力量では追いつきそうにありませんので。(;^^) (湖畔のスナフキン)
- ・dryさん
今回の行動のその後の影響についてですが……、すみません。ノーコメントです。
ただ大した伏線ではありませんので、埋もれたままになる可能性もあります。(;^^)
美神の「強い人が好き」発言は、美神が一歩踏み出すに至った理由の一つです。
私自身は、美神はこーゆー性格だと常々考えていましたので、少し露骨かもしれませんが
本人の口から語らせることにしました。(;^^) (湖畔のスナフキン)
- ・KAZ23さん
素直な美神に、賛同いただきありがとうございます。(^^)
>強いてあげれば・・・スナフキンさんが書いている時点でハッピーエンドに
>届かないんだろうなぁ・・・と思わずにはいられない所が残念です。(失礼)
いえ、まだわかりませんよ。(笑)
ただ今後の展開しだいでは、やっぱり美神に涙を飲んでもらうかもしれませんが。 (湖畔のスナフキン)
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