ザ・グレート・展開予測ショー

プレゼントフォー♪ ―後半―


投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/11/ 7)


<前半からの続き>




「はぁはぁはぁ………な、なんとか持ちこたえたわね…」

私はグッタリとしてへばりこむ。

「あ〜……イタタタ…」

力を抜いた瞬間に、血まみれの右手が痛み出した。それに、きつく握られた左の手首も結構痛いかも。
眼を開けて、視線を左手に持っていき……そこにあるポチの左手を見る。私も結構思いっきり握り締めてたかしら?
でも、まあ…もう大丈夫。

「ほら、ポチもう……」

―― もうはなしても大丈夫よ ――

視線をポチの顔に持っていき、私はそう言おうとした。
でも、私が言おうとした言葉は、何処かに消えてしまう。
…え?

「………………え?」

だって…

「………何コレ?」

そこに何も無かったから。
ポチの顔があるべき場所には、何も存在しなかった。
ポチの右腕の肩から上は……

―― 全て無くなっていた ――

「………………」

大きく見開いた眼で、私はもう一度自分の左手を覗き込む。
自分の左手と、そこから伸びるポチの左腕……
何度見ても、肩口から先が無い。

「ポチ?」

私はキョロキョロと辺りを見回してみた。周りに広がるのは、少し焼け焦げた外壁と視界を遮る煙幕だけ。
ポチの姿は何処にもない。
私はもう一度、ポチの左腕を見る。それは、いまだに私の手首をきつく掴んでいた。

「………………ああ…」

ああ……そうか。
私はようやく認識した。

「………………そうか…」

ポチがもう……

―― ここにいない事を ――

「………………」

私はゆっくりと立ち上がり、さっきまで握り締めていたポチの手首を放す。
だが…ポチの左手は、それでもきつく私の腕を握り締め………

「もう……そんなにきつく握ったら痛いわ。」

私は、強くきつく握り締めるポチの左手の指を、1本づつそっと剥がしていった。

「ごめん。ちょっと出かけてくるわね……」

ようやく放してくれたポチを、私は逆天号内部の床にそっと横たえる。

「ここで待ってて。直ぐ戻ってくるから。」

私はそう言い残して、そっと飛び立った。

…………………………









「来たわね!!ガマンできずに出てくるのを、待ってたのよ!!」

ようやく出てきた女魔族にそう言い放つ美智恵。
だが、対峙する女魔族はそれに答えようとはせず、ただひたすら冷めた表情でトツトツと質問をしてきた。

「貴女が……この作戦の指揮を執っている人間で間違いない?」
「…?ええ……そうです。」

女魔族……ルシオラはその表情に全く色を見せない。
自分の想像とは若干イメージの違う登場に、美智恵はやや戸惑いを覚える。

「………そう。ところで、ウチによこしたスパイ、あいつの名前は何て言うの?」
「スパイ?……ああ、横島君の事?なら完全な思い違いね。彼は自分の意思でそちらに行ったのよ?スパイでも何でもないの………私達とは関係無いわ。」

シレっとした顔で横島の事を否定する美智恵。
その台詞の真意に薄々気付きつつも、ルシオラは自分の腹立ちが抑えられないでいた。

「ヨコシマ?そう………ヨコシマね。」

ただ、そんなことよりも大事な事だと言うように、ルシオラは美智恵が口にしたその名前を反芻する。

「どうしたの?名前くらい……彼に直接聞けばよかったんじゃなくて?」
「………………」

ヨコシマと呟いたとき、ほんの少しだけ見えた表情が…再び奥に追いやられていた。今は又、何も無い無表情がそこに浮かぶ。

「…………別に、貴女にはどうでもいい事でしょう?そんな事よりも……貴女……貴女は…」

一度両目を閉じ、ルシオラはゆっくりと言葉を紡いで…。
うつむいた顔がもう一度美智恵に向けられ…

「……殺すわ。」
「!!」

今度こそ、はっきりとした殺意が美智恵に向けられた。
美智恵は一瞬、その気迫に飲み込まれそうになる。だが、軽く頭を振って負けそうな自分の心を押しとどめた。

「やって御覧なさい!貴女にそれが出来るならっ!!」

―― ヴゥンッ ――

龍の牙が美智恵の霊力に共鳴する。

―― キィィイィンッ ――

ルシオラの全身が眩い光へと変化した。
一拍、2人は視線を交わして……

「はああぁっ!!!」
「やああぁぁっ!!」

正面からぶつかりあう。
溢れ出す光の奔流は、空母を完全に飲み込んだ。

…………………………










「ふぅ……あ〜しんどい…」

無敵の移動要塞逆天号も、今はもう飛ぶのがやっとといった状態だ。
だが今はもう、これ以上破壊される心配は無い。霊波を帯びた煙幕も晴れ、敵も撤退したからだ。
とはいえ被害は甚大。暫くはこちらも体勢を整える事に時間を費やさなければいけないだろう。
そんな逆天号の甲板にルシオラは戻ってきた。

―― ポタ、ポタ ――

「あ、血が……」

甲板に流れ落ちる血を見て、後で掃除しなきゃ等となんだか見当違いな事をルシオラは思う。

「ルシオラッ!!」
「ルシオラちゃんっ!」

ルシオラの帰還を知り、ベスパとパピリオが駆け寄ってきた。

「大丈夫…っ?!」
「ル、ルシオラちゃん!?」
「ん?ああ………ただいま、2人とも。」

ルシオラの様子を一目見て息を呑むベスパとパピリオ。

「ばっ!ルシオラッ!?アンタッ!」
「え、何?」

対照的に全く平然としているルシオラに、ベスパが詰め寄る。

「おまえ!その腕っ?!」
「え?……ああ。」

ルシオラは、まるでベスパに言われてから初めて気が付いたかのように、自分の左腕に目を向ける。

「…落としてきちゃった。」

ルシオラの左腕は、肩口から綺麗サッパリと無くなっていた。
傷口からポタポタと流れ落ちる大量の液体と、それに伴い流れ出る霊気。

「落としてっておまえ!?は、はやく治療室にっ!!」
「ル、ルシオラちゃん死んじゃ駄目でちゅーっ!!」

魔族の再生能力かなり高い。だから、腕の1本くらいなら命に別状は無いかもしれない。
それを踏まえてもパッと見た限り、今のルシオラはかなり危険な状態に見える。ベスパとパピリオは慌てふためいた。

「もう……そんなに心配しなくても大丈夫よ。私たちはコレくらいじゃ死なないわ。でしょう?腕だって再生すればちゃんと元に戻るし。」
「そ、そりゃあそうだけどさ!」
「もー!!なんでそんなに落ち着いてるんでちゅか、ルシオラちゃんはっ?!」

ベスパとパピリオには、ルシオラの落ち着きぶりが理解できない。
だが、それも当然。何故ならルシオラ本人にもその理由など分かりはしないのだから。

「大丈夫、心配しないで。ちゃんと治療室いって直してくるわ。」
「う、うん。」
「そ、それならいいでちゅけど…」

ルシオラはそんな2人に優しく微笑んで、ゆっくりと歩き出した。

「あ、一緒に行かなくて大丈夫か?」
「ええ。自分で歩くくらいなら出きるから。貴女たちは私の代わりに逆天号の応急修理、お願いね。ああ、あと…多分大丈夫だと思うけど、一応人間の追撃には気をつけて。」

本当に穏やかに話しかけるルシオラだった。
ベスパとパピリオも、一瞬ルシオラが大怪我をしている事を忘れるほどである。

「あれ?ルシオラちゃん…それ何でちゅか?」
「え?ああ、コレ?お土産よ♪」

ルシオラの右手に携えられていたモノに気がつき、パピリオが問う。するとルシオラは、ニッコリと微笑んで答えた。
ベスパとパピリオは、そんなルシオラにそら寒いものを感じてしまう。
だから、テクテクと歩き出す彼女の背中を追いかける事が出来なかった。

…………………………










「ただいま、ヨコシマ。はい、お土産よ♪」

そう言うと私は右手を掲げて、手に持っていたお土産をヨコシマに見せる。

「どうかしら、喜んでくれる?」

それは、バレーボールよりちょっと小さいくらいの丸い物体。

―― ポタポタ ――

亜麻色と土気色をベースにして、そこに赤いまだら模様が入ったモノ。

「ヨコシマをこんな姿にした女よ。まったく……酷い事するわよね?」

同じ、人間なのに。
使い捨てにするなんてね…

「あれ?」

それを言うなら、私も同じなのよね?
1年という寿命と引き換えに貰った強い力。それは全てアシュ様の為に使うべきもの。
だから…

「そう言えば、私も使い捨ての道具だったっけ……」

でも……
別にその為に創られたんだもの。それはそれでアリよね?
多分、何も知らされずに……騙されて捨てられたお前とは違うわよね?

―― ポタポタ ――

床に落ちる液体が、円状に広がって染みをつくる。
ああ……
ここも汚れちゃった。
後で掃除しなきゃ。
私はその染みを見て、無性にそう思った。

―― あれ? ――

何を考えてたんだっったかしら?
私はパチパチと目をしぱたかせてみる。視界には、ヨコシマの左腕があった。
それは…大きな存在感を持って私の眼の中に飛び込んでくる。

「そういえば……」

ちょうど、反対だわ。

「お前は左腕以外を失って、私は左腕を失ったわね。」

ちょっと面白い偶然かしら?
そうだ!

「ねぇ、ヨコシマ…」

いい事思いついちゃった♪

「お前の腕、貰ってもいい?」

な〜んてね♪
もう決めちゃったから。駄目って言っても返してあげな〜い♪
でも、いいでしょう?

「そうしたら、お前とずっと一緒じゃない♪」

―― あ! ――

ああ………
そうか。やっと分かった。

「そう言う事だったのね…」

私は自分を理解する。自分が何を思い、何を感じていたのか。
それが今、ようやく言葉になった。
そう…

「私は……」

馬鹿みたいね?

「……お前に惹かれていたんだわ。」

たったアレだけの事でお前が好きになったんだ。

「プッ……ククククッ♪アハハハハハ……!!」

あ〜おかしい!
おかしいから、ちゃんと言葉にするわね?

「愛してる、ヨコシマ♪」

プッ!駄目……なんでこんなにおかしいんだろう?クククク……♪

―― ツゥーーーッ ――

「あんまりおかしいから……涙が出てきちゃったじゃない。アハハハ……」

ま、いいわ。
とりあえず、一緒に治療室に行きましょう。

―― ポイッ ――

私は、右手に持っていたモノを投げ捨てて、ヨコシマと腕を組んでみた。

「じゃあ、このまま行きましょうか?」

嫌なんて言わないわよね、ヨコシマ?

「これからはずっと一緒よ、ヨコシマ♪」









<FIN>

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa