ザ・グレート・展開予測ショー

プレゼントフォー♪ ―前半―


投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/11/ 7)

「ただいま、ヨコシマ。はい、お土産よ♪」

そう言うとルシオラは右手を掲げて、その手に持っていたお土産を横島に見せる。

…………………………










〜 プレゼントフォー♪ 〜










「ポチ、バルブを閉めて!あ、ちがう、その横!!」

―― ゴォンゴォンゴォン ――

最悪だ。
なんて事だろう?

「これっスか………!?」
「オーケー!!そのまま!」

私はポチに指示を出しつつ、1つ1つの回線を最速でチェックしていく。

「予備回線だけでも応急修理して、煙幕の中から逃げなくちゃ…!」

―― バチッ ――

ハンダが火花を飛ばして溶ける音…普段は心地良いこの音も今は私の気持ちを落ち着かせてはくれない。
落ち着かなきゃ。冷静に。
そう繰り返す私の心だが、とてもそんな事だけで落ち着けるはずも無い。

―― ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ ――

え?

「!!」

何処か聞きなれた気のする機械的な動作音が、正面から響いてくる。
その音に私は顔を上げて…
ほんの刹那の事だ。
私は全ての活動を停止してしまう。
その時、私の眼に飛び込んできたものは…まるで断末魔砲がエネルギーを充填している最中のような……今まさにそれを打ち放つ直前の敵戦艦の機影だった。
ここは危険だ!直ぐに内部(なか)へ…

―― ギャアァアーーーーァァッ!! ――

ヤバッ…

―― ガクンッ! ――

「あっ…」

逆天号が敵砲をかわそうとして、右に緊急回避をする。
本来ならば、私は逆天号の外壁にしがみ付いていれば良かったはずだ。
だが、向かってくる砲撃に気を取られた所為で……私は逆天号の急旋回の勢いに、思わず手を離してしまう。

「しまっ………!!」

フワっと体が浮き、体重がゼロになる感覚。
後ろには圧倒的なエネルギーの壁。瞬間的に浮かんで消える思考。
そして…

―― 吸い込まれる…!! ――

私の身体は凶悪なエネルギーのかたまりに吸い込まれていく。
その見えない引力は実に物凄いものだ。
物凄いものだが…何処か、体の一部分でも何かに捕まっていたなら抗える。
でも、今の完全に宙に浮いた状態の私では咄嗟に出来る事など何も無い。
絶望、諦観、死…
いや、まだ何か手が…

―― ガッ! ――

「!!」

身体に走る衝撃と、左足首に感じる強い力。
光に吸い込まれる私は、その途中で何かに捕まれた。
何に?
それは……

「ポチ!?」
「あっ?!」

私の左足を掴んでいたのはポチの左手。
私を助けようって言うの?なぜ?
ポチは人間…しかも、パピリオが無理やり連れてきた人間だわ。だから、多分ポチは私たちの味方じゃないんでしょう?
それに…
今「しまった?!」って顔をしたわよね?
多分、本当に咄嗟に手が伸びてしまったんだろうけど。目の前を横切るモノに咄嗟に…
あ…

―― ヤバイ!? ――

今、こいつはしまったと思った。ならば今からでも遅くない!
ポチはこの後で…

―― 手を放す! ――

今の私にはそれに抗える手立てが無い。ポチが手を放したら、私は一気にエネルギー波に吸い込まれて消滅する。

―― ピクッ ――

「………!」

ポチの左手から力が抜けた事が感じられた。
ああ…これで……
私は何故か、今の事態を冷静に観察している自分を感じている。
正直な所、ポチに対する恨み事なんてあまり無い。何故なら私たちは敵同士だから。敵だからこれは当然の行為だ。むしろ、ポチは手を放さなければならない。だから、この事でポチを恨んだりは………多分しないわ。

―― だって ――

ポチは多分良い奴だと思う。パピリオに対する仕草を見ててそう思った。
きっとポチが敵じゃなかったら、心から良い奴だって思えただろうな。
でも、それももうどうでもいい事。

「………………」
「………………」

私はここで……

「………………」
「………………」

…?

「………………」
「くそ……!!」

………なぜ?

…………………………










「………………」
「おまえ…もしかして、バカなの?」

私はポチに向かって尋ねる。
なぜ?
なぜこいつは私を助けたの?こいつは敵でしょう?ポチにとって私は敵のはずでしょう?!

「………………」

結局ポチは、最後まで私の足を放さなかった。
震える手、苦虫を噛み潰したような表情、そして自分に向けたのだろう「くそ……!!」という呟き。
全てが私の考えを肯定する。

「一瞬迷ったんでしょ!?なのになんで…」
「夕焼け…好きだって、言ったろ。」

え?

「え。」
「一緒に見ちまったから…あれが最後じゃ、悲しいよ。」

―― トクン ――

え、なに?
私には、ポチの言った言葉の意味が瞬間的には理解できなかった。
夕焼け?この間のアレ?なにそれ?
でも、もっと理解できない事。
今胸の中で弾けたモノは何?
これ……熱い。でも………心地良いかも?
聞かなきゃ。ポチの言葉の意味。確かめなきゃ。この不思議な感覚の正体。
ねえ?教えてよポチ……

「おまえ……」

―― ウギャアァーーーァァッ!! ――

「!」
「!」

―― ズガァアァンッ!! ――

だが、その言葉は相変わらず続く破壊音にかき消される。私はその音で、現状をもう一度認識した。
今、破壊されたのは向こうの戦艦。こちらの断末魔砲が直撃したのが見える。
これで1発づつ。今はなんとか……互角にやり合ってるわね。

―― そうだった ――

今は戦闘中だった。ほかの事は全て後回しにして、まず最優先しなければいけない事があるでしょう?!
とにかく、応急修理をすませなきゃ!

「ああっ!!そ…そーか!!そーゆーことだったのか!!」
「!?」

突然、ポチが叫ぶ。何かに気が付いたようだ。
でも、何?

「ル、ルシオラ様っ!俺達、騙されましたっ!!」
「えっ?ど、どういう事ポチ?」

騙された?それっていったい?

「す、すみません。時間が無いんで説明はブリッジで!早くみんなに知らせないと…」
「ちょ…待ってポチ!」

ポチはそれだけ言うと、砕けた外壁から内部(なか)に飛び込もうと後ろを振り向く。
ポチが何に気が付いたのかはわからない。でも、何故か私は素直にポチの言葉を信用できた。伸ばしかけた手をすんでで引き戻し、私もポチに続こうとする。

―― ギャアァーーーァァッ!! ――

「え!」
「あっ!?」

なんてタイミングが悪いんだろう?
丁度駆け出したところで再び敵艦の砲撃が飛んで来た。そしてまた、逆天号の緊急回避運動の所為で足場が極端に揺れる。

「とっ!」

でも!
今度はさっきと違って気構えが有った分、私はなんとか持ちこたえられる事が出来た。
重心を低くして外壁にしがみ付く体勢と取る…

「あ!」
「え?」

ちょっと!?
だが、今度はポチが体勢を崩した。バランスを崩した足元が、地面からほんの少しだけ浮く。
それでもう十分。ポチの身体はさっきの私のように光の壁に吸い込まれて…

「ポチ!!」
「え?あっ!」

―― ガシッ ――

私は左手を伸ばしてポチの腕を掴む。同時にポチも左手で私の腕を掴んだ。
くっ!お、重いっ!?
さっきよりも攻撃が逆天号に近い!ヤバイわ!?このままじゃあ持っていかれる!

「ル、ルシオラ様!」
「かぁぁ……!」

左手でポチを掴みつつ、右手は破壊された外壁の亀裂に引っ掛ける。引っ張られる力が半端じゃない。体が真っ二つになりそう!

―― でも! ――

「大丈夫よ、ポチ!」
「ルシオラ様?」

私はポチに笑いかける。
ポチは私を助けてくれたわ。ポチの事はまだいまいち掴みきれてないけど、それでもさっき助けられた分は必ず返す!
だから!

「はあああぁっ!!!」
「…ぁ……ぇ……ぅ…」

私は渾身の力でポチを引っぱる。
それだけに集中。ポチが何か言ってるけど、それも上手く聞き取れない。
渾身の、渾身の力……
それでも支えるだけで精一杯だ。ささくれ立った外壁が右手のてのひらに突き刺さる。
血が流れた。
でも……
今はそれでもいい。なんとかこのまま、エネルギー砲が過ぎ去るまで耐え切れれば…

「ああああああああああああぁぁぁぁっっ!!!」

時間にしてほんの数秒だろう。こんなに長い数秒は生まれて初めてだ。
全ての感覚が自分の中に向かってくる。
感じられるのは、自分以外のものに触れている部分。てのひらに突き刺さった外壁の破片と、私の手首をしっかりと握りしめるポチの左手。
硬く眼を閉じて、きつく歯を食いしばり、私はただその数秒を耐えぬいた。

―― ギャアァーーーァァッ!! ――

この耳障りな音が通り過ぎるまで…

…………………………




<後半に続く>

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