君ともう一度出会えたら(18)
投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(03/11/ 5)
『君ともう一度出会えたら』 −18−
全速力で走っていると突然目の前の風景が変化し、肌を切るような冷たい空気に包まれた。
背後を振り返ると、天高くそびえたっていた塔が姿を消していた。
どうやら異界空間の外に出たようだ。
「ヨコシマ、岩陰に移動して! 空間は閉じたけど、衝撃波は漏れてくるはずよ」
ルシオラが俺に向かって叫んだ。衝撃波も心配だが、まずはこの寒さを何とかしたい。
「みんな、こっちに来るんだ!」
皆が集まったところで、俺は『結』『界』の文珠を発動した。
文珠の結界で、皆を冷気と衝撃波から保護をする。
「きたわ!」
ルシオラが空を指差すと、多数のミサイルが塔のあった場所めがけて飛来してきた。
カッ! ズズズーーーーン!
ミサイルが着弾し、閃光が一瞬こちらの空間にまで漏れる。
そして次の瞬間、すさまじい衝撃波が襲ってきた。
「ヒュ〜〜〜〜〜〜〜〜!」
「文珠の結界がのぉたら、危なかったんジャノー」
雪之丞とタイガーが、安堵の声を漏らした。
「いくらアシュタロスでも、あれではひとたまりもないわね。作戦終了だわ」
美神さんは勝利を確信していたようだが、俺はその言葉を少しも信じていなかった。
多少の違いはあったものの、結果はほぼ前回と同じである。
まもなく、第二ラウンドが始まるだろう。
こんどこそ、決着をつける──。俺はその場で、拳をギュッと握り締めた。
──── ・ ──── ・ ──── ・ ──── ・ ──── ・ ──── ・ ──── ・ ────
南極から戻った俺は、精密検査のため入院することとなった。
文珠で他人と合体するなど、医学の想定外のことをしてきたわけだから、いろいろと調べることがあるのだろう。
もっとも担当の白井医師は、「医学はああっ、現代医学は敗北せんぞーー」と廊下で叫んでいたから、いろいろとジレンマを抱えているようだ。
俺自身は体調に異常があるわけではなく、一日グッスリと眠ったらほぼ回復した。
前回は体力が余りまくっていたから、看護婦さんを相手にナンパ&セクハラしてしまったが、今回はそんなことはしていられなかった。
次の決戦に備えるため、一人で作戦を練り、また様々な準備をした。
もっとも入院中だから、準備といっても大したことはできない。
外部の協力者を必要としていたが、一番頼りになるヒャクメが、衰弱して眠りっぱなしの状態になっていた。
そう言えば、こっちから声をかけていないのに、何人かの看護婦さんと仲良くなった。
彼女たちは「若いのに落ち着きがあるし、しっかりしているわねー」と俺のことを褒めてくれたし、一人は携帯のメルアドまで教えてくれた。
以前にハヌマンの下で修行をしていた時に、「追いかけるから逃げるんだ。黙っていても女が寄ってくるくらいの男にならんかい」と説教されたが、俺も少しは成長したんだろうか?
まあ外見は十七歳でも、精神的には二十二歳だからな。
退院が間近にせまったある日のこと、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
ガチャリとドアを開けて部屋に入ってきたのは、いつものボディコンスーツを着ていた美神さんであった。
「もう退院したんですか」
「ママのことも気になるから、無理言って検査のスケジュールを早めてもらったの」
美神さんは、果物とお菓子の入った袋を手にしていた。
「お花も買ってこようと思ったけれど、明日には退院するからかまわないわよね」
「俺は全然気にしないッス」
美神さんはベッドの脇の椅子に腰掛けた。
「何か飲みますか?」
「お茶がいいわね……。あっ、いいのよ。私がいれるから」
ベッドから起きあがろうとする俺を、美神さんが手でおさえた。
「すみません」
「いいのよ。病人は寝ててちょうだい」
「俺、まったく元気なんですけど……」
実際どこも悪くないのだから美神さんに悪い気がしたのだが、お茶をいれている美神さんはどことなく嬉しそうだったから、素直に甘えることにした。
「はい」
俺は、いれたてのお茶が入った湯呑みを、美神さんから受け取った。
「お茶うけも必要ね」
そう言うと美神さんは、見舞いの品の中からリンゴを取り出し、果物ナイフで皮をむき始めた。
俺は思わず、目を丸くしてしまう。
「どうしたの?」
「い、いえ。珍しいこともあるんだなぁと思って……」
おかしい。美神さんの様子が変だ。そう言えば、南極に行った時からおかしかった。
前回の時は、こんな行動はなかっはずだが……?
「そ、そうかしら?」
俺がじっと美神さんの顔を見ていると、美神さんの頬がほんのりと赤く染まった。
「あのね、横島クン。前世を見に行った時のこと覚えている?」
「あの時、俺は途中で意識を失ったから、俺自身は最後まで覚えてないんスですけど」
「その、南極でアシュタロスの霊波を浴びた時に、ヒャクメでも覗けなかった前世の意識や記憶が一気に甦ったのよ……」
美神さんの頬がいっそう紅潮し、口調もたどたどしくなった。
これって、もしかして……!?
「つ、つまりね、大昔に私、あんたのことが──」
そこまで言うと美神さんは、顔から湯気が吹き出そうなほど赤くなってしまった。
言葉が詰まってしまい、下を向いてしまう。
ひょっとして、ひょっとしたら、俺は告られているのだろうか!?
「えーと、美神さん。俺も多少は覚えているんですよ」
「!!」
「俺自身は覚えていないんですけど、南極でアシュタロスのコピーをした時に、ヤツの記憶の一部を受け継いだんです。まぁヤツの知っていることはたいてい……」
「……」
俺の言葉を聞いた美神さんは、ますます体を固くしてしまった。
俺もその先の言葉が続かなかった。
そう言えば前回も、退院した時に似たような会話をした覚えがある。
あの時は、余計なことは口にするなと釘をさしたのだと思った。
その後この件についてはお互いに触れなかったから、真意はずっとわからなかった。
ひょっとして以前の時も、そういう含みがあったのだろうか?
「……あの、美神さん」
一分近い沈黙ののち、ようやく俺は口を開いた。
「すいません。しばらく考える時間をくれませんか? 突然のことで、気持ちの整理がつかなくて」
「そ、そうよね。あの魔族の女性のこともあるでしょうし……」
美神さんの告白は、正直いってうれしかった。ルシオラに会う前は、やはり美神さんにあこがれていたから。
ただ今は、ルシオラのことが一番気になっている。
「すみませんが、ルシオラたちがどうなったかわかりますか?」
「GS本部の取り調べはすんでいるはずだけど、詳しくは私も聞かされていないの。ママが復帰するまで、西条さんが仕切っているはずなんだけど」
「いえ、いいんです」
西条が仕切っているんなら、おそらく前回と同じような行動をとるだろう。
こっちは、そんなに心配しなくてもよさそうだ。
「じゃあ、退院する時にまた来るわね」
美神さんは、そそくさとした足取りで部屋を出ていった。
翌日の朝、俺は退院の準備をした。もっとも荷物がバック一つだけだから、すぐに片付いてしまう。
「さてと、あとは美神さんが迎えに来てくれるのを待つだけだな」
手持ち無沙汰だった俺は、ジュースを買いに行こうとして、ドアのノブに手をかけた。
しかし俺がドアを開く前に、外からドアが開けられる。
「横島さん、面会ですよ」
ドアの外にいたのは、この病院の看護師長であった。
美神さんが来るには、少し時間が早い。
いったい誰だろうといぶかしんでいると、相手がいきなり胸に飛びついてきた。
「ヨコシマ!」
「ルシオラか!」
「GS本部の許可が出たの。私たち、一緒に暮らせるのよ!」
(続く)
今までの
コメント:
- >ドアの外にいたのは、この病院の看護師長であった。
この文を書いた時に、思わず『婦長』と入力しそうになってました。
時代とともに言葉も変化しますが、やはり私のイメージとしては『看護婦さん』『婦長さん』
の方が、しっくりときます。
どうでもいいような、後書きでした。(;^^) (湖畔のスナフキン)
- 微妙にずれていて、これからが楽しみです。
体には気をつけて頑張ってください。 (NTRC直)
- 美神さん少し素直ですね。
これはみごとルシオラを助けられても横島争奪戦がはじまるんでしょうか?
次回修羅場ですか?修羅場ですよね!期待しております! (誠)
- 横島が美神にどういう答えを出すのか興味深いです。
>「GS本部の許可が出たの。私たち、一緒に暮らせるのよ!」
このまま一緒に暮らせるのか、それとも原作どうりに邪魔?が入るのか楽しみです。 (テルヨシ)
- こんにちはMASAKIです。
おお!!美神さんが素直になっている!!
このままルシオラとの横島争奪戦が勃発するのか!?
この二人に挟まれたら横島は生きた心地はしないでしょうね。
続きを楽しみにしています。
それでは〜 (MASAKI)
- 話の流れが概ね原作通りで、美神さんの態度だけが変わってますね。
これから激しい戦い(いや、アシュタロスとではなく)が始まるんでしょうか?
次回をお待ちしております。 (U. Woodfield)
- どうも、BOMです。
素直な美神さんもいいですね。これ読んでてそう思いましたよ。
>「GS本部の許可が出たの。私たち、一緒に暮らせるのよ!」
ふっふっふ・・・女達のバトルを期待しておりますよ?(半分マジ)ではっ! (BOM)
- これで美神に乗り換えようものなら、横島は最低な男になってしまいますね。自分自身の否定にも繋がりますし。
それを思うと、彼女の好意が凄く道化じみたものに見えてしまい、結構辛いものがあります。
嗚呼、ルシオラ(ー)衝撃のあのシーンはどうなるのかしら?(ノД`)
次回も楽しみにしております。 (dry)
- 看護師長と婦長さんとか・・・男女平等問題で言葉の代わった職業を出すとき、
私は、正しい記述より、そのキャラが言いそうな単語や雰囲気を優先しますね〜
この間も婦長って言葉使ったし。w
落ち着いた横島って、絶対モテルよ。うん。
モテないとおかしいって。w
だから今回は賛成!(マテ)
ルシオラとの生活に期待〜☆ (KAZ23)
- コメント返し、遅くなりました!
NTRC直さん、誠さん、テルヨシさん、MASAKIさん、U. Woodfieldさん、BOMさん、dryさん、KAZ23さん、レスありがとうございます。
今回はコメントの内容が似通っているので、まとめレスで失礼します。
美神との絡みについては、しばらく続きます。修羅場ってほどの見せ場はないかもしれませんが、
今後の展開はルシオラだけでなく美神も大きな役割を果たします。
とりあえず(19)をUPしましたので、続きはそちらを読んでくださいませ〜〜。 (湖畔のスナフキン)
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