ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記(その43)


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/11/ 4)

ザボ────ン!!
ザバ────ン!!
ザブ────ン!!

満月に照らされるN山中に流れる川に三本の水柱。
ベロスはそれを忌々しそうに睨むと追跡か否かを思考する。

(ちっ・・・・足をやられたうえに、川の流れが早い・・・
 人間を食いすぎたせいで失った能力もあるしな・・・・・・・・まあいい・・・狩りは獣の本業・・・
 少しばかり時間をくれてやる)

ベロスは逃げた獲物に一瞥するとその爛々と光った瞳をニヤつかせ漆黒の森へと消えていくのであった。












パチ・・・パチ・・・


飛び散る火の粉・・・
赤々と燃える炎・・・

川辺から少し歩いたところにある小さな洞穴にひのめ達はいた。
5月下旬の寒い川から何とか無事に上がってこれたひのめ、幸恵、京華はわずかに訪れるその温もりを震える体で感じていた。
そして・・・

『この!おバカあぁぁぁ────────ッッ!!!!!』

マンガで言えばここで『キーン』という擬音が出ているであろうか・・・
いや、実際にひのめの頭の中ではその音が鳴っている。

「な、何よ・・・」

いきなりの罵声に右手のリストバンドを睨んでみるものの、その声に勢いはない。
おそらくさっきの特攻のことだろう。
確かにマズった・・・そんな思いがひのめの中にもあったからだ。


『ひのめ!あのとき幸恵と京華がいなければあんたは今頃真っ二つだったわさ!
 それをあたしの指示も聞かないで!!』

心眼の言ってることは分かる・・・・でも

「だって!あいつ・・・人間を喰ったって!女の子を喰ったって!
 ・・・・そんなの許せるわけないじゃない!」

『・・・・・・・・』

ひのめの言葉に心眼は押し黙る、ここでひのめに反論はいくらでも出来る、
しかし、今のひのめに正論を吐いたところで何の効果もないだろう。
そんな器用な子でも、年頃でもない・・・今は自分の正義感で走るだけ・・・

『はぁ・・・次からはせめてこっちの指示を聞いてから動くように・・・いい?』

「は〜い」

渋々と返事を返すひのめに、心眼はハァ〜とタメ息をついた。
そして、そんな二人を無言で見つめる京華。
普段ならここで・・・

『全くいい迷惑ですわ』

とか

『その猪突猛進な性格直して欲しいものですわ』

くらい言うのだが・・・
今回は・・・

(美神さんが仕掛けなきゃ、わたくしが仕掛けてましたわ・・・)

別にひのめみたいに正義感を振りかざすつもりはない。
知らない赤の他人が食われようが別に大して感情の起伏もない・・・ただ・・・
・・・ベロスが喰ったと言った人間・・・母と娘・・・
その一点だけが京華を揺り動かした。
自分の過去と重ねるように・・・京華は無残に切られた髪を手櫛で梳かしながらふとそう思うのだった。

「まぁ、取りあえず追手からは間逃れたみたいだし、ねぇ?さっちゃ・・・・ん?」

パチパチと小枝をくべながら問いかけたひのめの声が止まる。
その視線は濡れたジャージを膝の上にかけながらガクガクと震える幸恵に向けられている。

「さっちゃん?・・・・どうしたの、寒い?」

始めは寒さで震えているのかとも思ったが、幸恵の強張った表情を見てそれはないと思った。
心配そうに 顔を覗き込むひのめに首を横に振る幸恵。
しだいにその瞳からジワァっと涙が浮かんでくる。

「ひーちゃん・・・私・・・・・怖い・・・」 

「え?」

「初めてだよ・・・こんなに恐いの・・・・あんなに『殺される』と思ったことなんて一度もなかった・・・
 ごめん・・・こんなこと今は言っちゃいけないのは分かってるけど・・・
 まだ知らないことや・・・・やってないこと・・・たくさんあるのに・・・
 後悔ばかり浮かんでくるの・・・・恐くてたまらない・・・死にたくない・・・
 ・・・お母さんに会いたい・・・お父さんに会いたい・・・ごめん・・・私はやっぱり・・・・・臆病なんだよね・・・」

幸恵は珍しく自嘲気味に笑うとすぐに悲しみの表情を浮かべ俯いた。
無理もない、人間『死にかけた』という経験はあっても『殺されかけた』という経験は滅多ないものだ。
それが人外の者、しかも圧倒的な戦力差を見せられては15歳の少女が恐慌状態に陥っても仕方ないだろう。

「分かるよ・・・・・・私も同じだもん・・・」

「・・・・・え?」

幸恵はひのめの言葉に伏せた顔を上げて視線をあわせた。そこに映るのはひのめの手。

「見て・・・・・・・・私の手も震えてる・・・・。怖くて泣きたくて・・・・・出来ればこの場から逃げたいよ
 でもさ・・・・今はさっちゃんがいる、心眼がいる、ついでにそこの現代版お蝶●人もいる。・・・だから頑張ろう♪」

「・・・ひーちゃん」

『誰がお蝶婦●だ、誰が!』という京華の刺す視線の中、
ひのめの励ましにうんと頷く幸恵だった。
そんな二人を見て・・・

(殺されることに慣れる人間なんているわけない・・・)

京華は震える両手を隠しながらそう心で呟きながら・・・ふと昔を思い出し微笑を浮かべる京華だった。

「ひーちゃんはホント変わらないよね・・・・・・・初めて会ったときと同じまま・・・ずっと強いままだよね」

涙を人差し指でそっと拭う幸恵の言葉にキョトンとした表情を浮かべるひのめ。

「そう?・・・さっちゃんと初めて会ったとき・・・かぁ、懐かしいわね〜」

「もう3年になるもんね」

少し懐かしむようなどこか遠い目をする二人。
京華はそんな二人につまらなそうに声をかけた。

「ふん、・・・人間って死に直面すると昔を思い出すって言いますからね。
 まぁ暇つぶしに聞いてあげてもよろしいことよ」

「もっと素直に会話に入りたいと言えんのか!ま、いいや・・・心眼も聞きたい?」

『別に興味はないけど、
 仮にもマスターの過去を聞いておくのもあたしの使命を果たすうえで役に立つかもしれないわね』

「あんたねぇ・・・」

ライバルと相棒の言い草にこめかみをピクピクさせながらも幸恵に抑えられ気分を落ち着かせた。

『それで?二人はどうやって出会ったわさ?第一印象は?』

心眼の言葉にう〜んと考えてからひのめと幸恵はお互いの顔を見合わせて言った。

「無口で暗くて一生友達になれないと思ってた!」
「おしゃべりで勝気でおせっかいで一生友達にはなれないって思ったよ♪」

正反対の言葉を言い放ち再びお互いの顔を「引き攣らせながら」見合わせる。

「ひーちゃんひどいよ!私のことそんな風に見てたなんて!!」
「こらぁ!そっちこそ『おせっかい』とは何よぉ!!」




わーわーと騒ぎ立てる二人・・・そんな二人の出会いは三年前・・・












二人が出会ったのは中学校に入ったばかりの一年生の四月下旬・・・
桜の花が散り葉桜を咲かせる季節だった・・・。


タタタタタ・・・。

「しまったしまったぁ!竹箒片付けるの忘れてたぁ!」

亜麻色の髪をと新品のセーラー服をなびかせて疾走する中学一年生のひのめ。
掃除で使った箒をついついおしゃべりに夢中になって片付け忘れてしまったというわけだった。
既にひのめの視界は体育館が映っており、あと5、6m走れば目的に到着する・・・というとき。

「ん?」

ひのめの聴覚が何かを捉えた。
音源は・・・・どうやらひのめの目的地、体育館裏から。
何だろうと思いそぉと影から覗いてみる・・・そこには・・・

『何でいつまでも休んでんだよ!』
『たっく・・・・その間私達がストレス溜まって仕方ねーだろう!』
『ホント使えねぇ・・・あたしらのおもちゃのくせに!』
『何か言いなさいよぉ』

そこで見たのは3、4人ほどの女性徒に囲まれてる一人の女の子だった。
お下げを二つと地味なメガネ、雰囲気からしてイジメられっ子を体言している少女に4人の女生徒達は容赦なく暴行を働いている。

(はぁ〜、何てベタなイジメ・・・)

ひのめはやれやれと一息つくとサッと物陰から出て仲裁に入る。

「お〜い、あんた達それ以上はやめといほうがいいんじゃない?先生呼んじゃうよぉ?」

また自分もベタなこと言ってるなぁと思いつつひのめはさらに続ける。

「あ、そうだ。今の一部始終ムービーメールで録画して私のパソコンに転送したから、
 何かあったらあんたらの親や、PTAに公開しちゃうよ?だからあとでお礼参りなんてやめてね♪」

「て、てめぇ・・・」

と、笑顔で携帯を見せびらかせるひのめ。もちろんブラフ。
不良女性徒達は悔しそうな表情のまま立ち去り、ひのめはそれを確認すると三つ編みで分厚いメガネをかけた少女に近づいた。

「大丈夫?」

優しく差し伸べたつもりの手、しかし少女はそれを冷たい視線のままかわすとそのまま立ち去ろうとする。
別に恩を着せるつもりなどさらさらないが、無視かい!!とひのめは少し不機嫌になる。

「ちょっと!一言くらい何か言ったらどうなの!?
 それにねぇ、ああいう奴らは一度自分からガツンと言ってやらなきゃ!!
 ボカボカ殴られて・・・傷つけられてばかりで!悔しくないの!?」

幸恵の背に投げかけられるひのめの声。
少女はピタっと止まると無表情のまま振り向いて言った。
先程からずっと気になっていた・・・この少女は殴られても罵声を浴びても表情一つ、目の色さえ変えないのだ。
ここまで人は感情を殺せるのか、ひのめは少しだけ背に寒いものを感じるのだった。

「もう・・・・傷つきたくないから・・・・」

「は?」

ひのめにはその言葉を理解することができなかった。
あんなに殴られてどうしてそんなこと言えるのだろう?と。
それでも何とか会話を持続させようとまずは名前を尋ねてみる。

「あなた名前は?私は美神ひのめ・・・。一年生?でも見たことないのよね・・・」

自己紹介をしてから相手の出だしを待つひのめだが、少女は2秒、3秒と沈黙を保ったままだった。
その間に耐えれずひのめがもう一言何か言おうとしたとき・・・静かに少女が口を開いた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・江藤・・・・・・・・・・幸恵・・・・・・・」


ひのめはかすかに聞こえるその声に『どっかで聞いたような』と考える。
しかし、幸恵と名乗った少女は考え込んでいるひのめをその場に残し立ち去ってしまう。
ひのめは・・・────そんな少女に何も言えず立ち尽くすのだった。



                                その44に続く

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