ザ・グレート・展開予測ショー

君ともう一度出会えたら(17)


投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(03/10/29)

『君ともう一度出会えたら』 −17−



「手を出すなよ、ベスパ」

 アシュタロスをかばうように、一歩前に出ようとするベスパをアシュタロスが押しとどめた。

「私は試してみたい」
「は?」
「もしあれが私を倒すほどのものなら、私は……。いや、そんなことはあるまいがな」
「……アシュ様?」
「いいだろう。やってみろ、メフィスト! 私を倒す以外に、おまえには未来が無いのだからな!」

 アシュタロスが美神さんの正面に立った。

「いくわよ、横島クン!」
「はいっ!」

 俺は『同』『期』の文珠を手にし、発動させた。

「合体!」

 文珠が輝き、俺の体を光で包み込む。
 そしてその光とともに、俺は美神さんの体に吸い込まれ、一つとなった。

 カッ!

 合体した美神さんの体から、膨大な霊波がほとばしった。

「なっ、何、このパワーは!」

 自分の力をはるかにしのぐ霊力に驚き、思わずベスパは顔を手でかばう。

「霊力を同期し、共鳴させたのだ。考えたな」

 アシュタロスは冷静さを失わず、悠然と立っていた。

「『竜の牙』と『ニーベルンゲンの指輪』を一つの武器に! どうせ長くは持たない。速攻で決めるわよ!」
「はいっ」

 この技は、同期が進むほど力が増す。
 だがシンクロが進めば進むほど、とろけるような快感が俺の全身を包み込んだ。
 魂と魂が直に触れているのだ。
 しかも美神さんは女である。女性の本質の部分に触れ、それに全身を包み込まれる……この感覚は言葉で説明するのが難しい。
 前回の時も含め何度か経験しているが、俺は自分を見失わないよう必死で堪えた。

「これが私たちが手に入れうる、最高のオカルトパワーよ!」

 合体した美神さんの右手に、『竜の牙』と『ニーベルンゲンの指輪』を合わせてできた刀が装着された。
 合体している時は、表に出ている方が体を操る。俺にできるのは戦闘の補助と、霊波をシンクロさせパワーを引き出すことだけだ。

「アシュタロス! 今すぐ極楽に行かせてやるわ!」

 美神さんは刀を振りかざし、一気にアシュタロスの懐に飛び込んだ。
 その神速ともいえる速さは相手に防御させる間も与えず、一気に相手の胸を突き刺す。

「横島クン、出力を最大に! このままぶった斬るわよ!」
「……おまえも、しょせんその程度か。メフィスト」

 ブン!

 アシュタロスが合体した俺たちの体を、片手でなぎ払った。

「キャアッ!」

 合体した体が床に叩きつけられた。
 受身もとることができず、広場の反対側まで弾き飛ばされてしまう。
 しかもその衝撃で、合体が解けてしまった。

「全然ダメ!? 最後の賭けだったのに……」
「おまえを過大評価しすぎたようだ。もう、これまでにしよう」

 アシュタロスの右手に、霊力が集まりはじめた。

「横島クン、ごめん。もうこれまでね。また、あなたを助けられなかった……」

 美神さんが俺の方を振り向き、慈しみを含んだ眼差しで俺の顔をみつめた。
 メフィストの思いも混じっているのだろうが、あの美神さんがこんなに優しい顔を見せるなんて、俺は少々驚いた。

「でも、一緒に終わるのも悪くない……」
「大丈夫です、美神さん。戦いはこれからですから」

 俺はニヤリと笑うと、手にしていた文珠を発動させた。
 俺の体が光に包まれ、顔を除いてアシュタロスそっくりの姿に変化した。

「あっ!」

 俺は床に伏せた姿勢から一気に跳躍し、美神さんの体を抱きかかえた。
 すかさずその場からもう一度跳ねると、一瞬遅れてアシュタロスの特大霊波砲が、俺がいた場所をなぎ払っていた。

「横島クン、その姿は……」
「文珠でヤツの能力をコピーしたんです! 今なら、ヤツと互角に戦うことができます」

 俺は美神さんを下ろすと、アシュタロスと対峙した。

「いいね。アイデアとしては悪くない」
「とりあえず、あんたの力を試させてもらうよ」

 俺はアシュタロスの懐に飛び込むと、胸と腹に一発ずつパンチを叩き込んだ。
 アシュタロスは俺の手を掴んで振り飛ばしたが、俺は空中で回転しなんなく着地する。

「……そろそろかな」

 アシュタロスがニヤッと笑った。

「ぐっ!」

 俺は胸と腹に激痛を覚えた。

「横島クン! その作戦は私もママも思いついたけれど、放棄したのよ。相手の状態をシミュレートしているから、相手に与えたダメージがそのまま自分に返ってきてしまうわ!」
「つまり攻撃すれば自分もダメージを。そして受けた攻撃は──」

 今度はアシュタロスが間合いに踏み込み、一発ぶちかましてきた。

「そのまま、君のダメージとなるのさ!」

 アシュタロスの一発を顔面に受けた俺は、床に倒れてしまう。

「人間にしては知恵が回るようだが、しょせんはその程度のものさ。まだまだ私の相手では──」
「どうかな、まだ勝負は終わってないぜ」

 俺は立ち上がると両手を突き出し、手の先に霊力を集中させた。

「この一発を受けても同じセリフが言えるか、聞いてみたいもんだな」
「!!」

 ズドドドドーーーン!

 アシュタロスに向けて、俺は超強力な一発を発射した。
 アシュタロスは、ガードもせずにジャンプして攻撃をかわす。

「貴様!」
「さすがだな、気がついたか。一発であんたを倒せば、文珠の変身が解けるからダメージは返ってこない。くたばるのは、あんだだけって寸法さ」

 俺は指先に霊力を集めると、連続して霊波砲を発射した。
 アシュタロスは、単独で神・魔界の干渉を封じるほどの力をもっている。
 この一発にも想像を絶するほどの力が込められているが、連続して攻撃してもさほど支障がなかった。

 ズドン! ズドドドドド……

 俺は必殺の霊波砲を撃ちつつ、アシュタロスを徐々に部屋の隅へ追いこんでいった。

「これで終わりだ、アシュタロス!」

 部屋の隅に追いこまれ、逃げ道を失ったアシュタロスに、俺はとどめの一撃を放とうとしたが──

「アシュ様、逃げてください!」

 今まで戦いを見守っていたベスパが、全力で俺に体当たりしてきた。
 ベスパの捨て身の体当たりで、俺は姿勢を崩してしまう。

「アシュ様! ここはいったん引いて、スリープモードに入ってください。それでポチは元に戻ります」
「……」
「アシュ様の目的が何かはわかりませんが、ここで倒れるわけにはいかないはずです。私が時間を稼ぎます!」
「わかった。今はおまえを信じよう、ベスパ」

 アシュタロスが素早い動きで、この部屋の出口へと向かった。
 俺はあとを追おうとするが、両手を広げたベスパに行く手を阻まれてしまう。

「今のおまえと私では、とても勝負にはならないけどね。だがたとえ死んでも、アシュ様の邪魔は絶対にさせない!」
「……」

 ベスパの死を覚悟した顔つきを見て、俺はくるりと背を向けた。

「……どこへ行く? 私と戦わないのか!」
「俺には、おまえを殺す気はないよ、ベスパ」

 俺は呆然と立っている美神さんを小脇に抱え、塔の外に向かうアシュタロス専用の通路を開いた。

「戦わない以上、あとは逃げるしかないだろ」
「おまえ……いったい何を考えている!?」
「さあな。だが、いずれ決着をつけるさ」

 美神さんを脇に抱え、俺は通路の扉に飛び込んでいった。




「我が名はアシュタロス。封を解け!」

 俺はまっしぐらに塔の入り口に向かうと、扉の封印を解除した。
 もたもたしていたら、前回と同様、文珠の効果が切れてしまう。

 ゴゴゴゴ……

 巨大な岩の扉が上に開いた。俺はすかさず、外へと飛び出す。
 門の外では、他のメンバーが俺たちを待っていた。前回と同様、パピリオが薬で眠らされている。

「閉門せよ!」

 たぶん来ないと思うが、万が一ベスパが後を追ってきても外に出られないように、俺は門を閉じた。

「横島、おまえ……」

 外で待っていた雪之丞が、俺を指差した。

「ああ、この姿か? 文珠でアシュタロスの能力をコピーしたんだ」
「そうじゃなくて、美神の大将が……」

 そういえば、さっきから美神さんを抱えっぱなしだった。
 美神さんもおとなしく俺の体にしがみついていたから、全然気にならなかった。

「ちょ、ちょっと! もういいでしょ、横島クン」

 美神さんが顔を真っ赤にしながら、俺の腕の中でもがいた。
 俺が美神さんを地上に下ろしたところで文珠の効果が切れ、元の姿に戻った。

「そうだ、ヒャクメに連絡を取らないと。通信鬼!」

 俺は通信鬼を呼び出すと、ヒャクメを呼び出した。

「ヒャクメ!」
「横島さん、大変! 潜水艦からミサイルが発射されたわ!」
「間に合わなかったか」

 俺はドクター・カオスの姿を探した。

「カオス! パピリオを起こせるか?」
「薬で眠らせたばかりだからな。薬の効果が切れるまで、あと数時間はかかる」
「仕方がない。ルシオラを呼ぶか。ルシオラ、聞こえるか!」

 俺は通信鬼でルシオラを呼び出した。

「聞こえるわ、ヨコシマ」
「今からルシオラをこっちに呼ぶ。準備してくれ」
「今すぐでも大丈夫よ」

 俺は『召』『喚』の文珠で、ルシオラをこちらに転移させた。

「ルシオラ、時間が無い。パピリオを起こして、ミサイルをこちらに反転させてくれ」
「わかったわ!」

 ルシオラは蝶の姿に戻ったパピリオを受け取ると、霊力でパピリオを起こそうとした。

「パピリオ、起きて!」
「むにゃむにゃ。ルシオラちゃん、帰ってきたんでちゅか」
「ミサイルを呼び戻しなさい。ア……アシュ様の命令よ!」
「え〜〜アシュ様〜〜。わかったでちゅ〜〜。ミサイルをこっちに向ければいいんでちゅね」

 そこまで話すとパピリオは、ぐーぐーと眠ってしまった。

「横島さん! ミサイルが反転してそちらに向かっているわ!」

 通信鬼の向こうから、ヒャクメの声が聞こえてきた。

「こっちに!? それはつまり……」

 一同が、お互いに顔を合わせる。

「逃げるんだ! 異界空間の外に出れば助かる!」

 西条の声で俺たちは、外に向かっていっせいに走り出した。


(続く)

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