ザ・グレート・展開予測ショー

とらぶら〜ず・くろっしんぐ(6)


投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(03/10/25)


 今回、要『雪に唏く(Old 65 内の拙作、全5話)』読了の事…(^^;オィ



 とらぶら〜ず・くろっしんぐ   ──その6──





 夕陽が空を赤く染める。
 夏のこの時刻ともなれば、遊んでいる子の姿はもう疎らで。

 小さなジャングルジムは、私には、それでも巨大な鉄塔だった。
 遠い一番上までの道程を、一段々々ゆっくりと登る。 運動は得意じゃなかったけど、それでも一段ずつ。

 枠だけのそこに、バランスを取りながら腰を下ろして、私は周囲を見回す。
 黒々と長い影を引く遊具と、同じく適当に飢えられた木々だけが、然して広くない敷地に有る全て。

 そこには、動く何かの姿は無い。

 ほっと息を吐いて、遠くの建物の向こうの大きく揺れる夕日に、小さかった体を委ねたの。
 ぽかぽかと暖かくて、ちょっとだけ泣きたくなったりもした。

 私は選り好んで、そんな頃合いにこの小さな公園へ足を運んだ。

 誰も居なければ、余計なモノも見ずに済むから。
 自分を避けようとする者は、居なくなるから。

 だから…

 日の落ちる間際の、人気(ひとけ)の途絶えた公園が好きだった。

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 山肌に彩りを与える陽光が、金色の毛並みを輝かせていた。

 傷付いた前肢が痛むが、気にせず走り始める。
 立ち止まる訳にはいかない。 まだ追って来てるから。

 平穏と言えたのは、目覚めて一ヶ月と無かった。

 血の命ずるままの警戒。
 森に混じる最悪な臭い。
 彼女を害そうとする気配。

 ただひたすらに駈けて、理由も解らずただ逃げた。
 この世で最も強い獣……人間から。

 何故と問う事すら出来ず逃げる日々。

 時に穴に潜り、時に川を渡り、時に薮を掻い分け。
 夜となく、昼となく、気を張り詰めて。
 旭日が照らすこの我が身は、いつか血に塗れるだろう。

 清々しい筈の朝の空へと嘆きを篭めて、高く長く一声吼える。

 世界は…

 ほんの僅かにすらも、私には優しくなかった。

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 そうするしかなかったから身を投げ出して。
 はっと気が付けば、夜空の下、赤い塔の上に居た。

 あぁ、またこの夢かと思う。

 横へ顔を向ければ、鉄柱にもたれ掛かった彼女の姿。
 何度この時の事を夢に見ただろう。

 これからここを去らねばならない。
 遠くに見える、あのビル街の直中で異容を誇る茸の様な塔へと、向かわなくてはいけない。

 それを、彼女が望んだからだ。

 踵を返して走り出す足が止まる。
 振り返って、声を掛ける。

 何故、この時、気が付かなかったのだろう。

 最後に見せた笑顔が、脳裏に何度となくリピートされる。

 行ってはいけない。
 判っていても、足は動き出す。
 離れてはいけない。
 どれ程思おうと、走り出す。

 彼女は…

 花の様に儚い命をその直後に終えたのだ、俺に気付かせる事なく。

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 二人と引き合わされて、世界は初めて彩りを持った。

 自分と同じだ。
 触れなくても、その事ははっきりと解った。

 ──嬉しかったんだな。

 ──うん。 とっても嬉しかったの。
   私は独りだって思ってたから…

 そこがずっと嫌いだった。
 特殊な生き物みたいに見る大人も中には居たその場所が、だけどその日から掛替えの無いホームになった。
 そこは初めて葵ちゃんと薫ちゃんに逢えた場所。

 ──ふぅん…
   ま、群れの仲間が居るってのは、いい事よね。

 私が触れたって嫌がらない。
 私と同じだって思ってくれる。
 二人が居れば何処だって行けた。

 ──だから好きなの。
   一緒に居れば、嫌な事なんてみんな吹き飛んじゃうもの。

 三人で訓練をして、私達はこの力を使って働き始めたの。
 独りじゃない。 何が有ったって楽しかった…

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 気が付いたら、どっちへ向かっても気配がした。

 飼い馴らされた猟犬の遠吠え。
 あちらこちらから匂って来る、人間達の持つ銃の、鉄と火薬の嫌な臭い。

 走り回って、走り回って、私は罠に捉えられた。

 ──そんな… ひどい。

 ──そうね。 随分な話だわ。
   私は何もしてなかったのに…

 待ち構えていた人間達が、近付いて来る。
 だけど覚悟なんて出来る筈無い。 私は生まれてから、そんなに経っていなかったんだから。

 震える私に、御札を持って来た人間がそろりそろりと近付く。
 でも逃げられない。 結界は私の躰を縛りつけて放さなかったから。

 もうダメだと思った時、私はいきなりそいつが背負っていた鞄の中へと押込まれた。
 暗い鞄の中、成り行きに身を任せるしかなかった。

 ──なんでだったの?

 ──殺したくなかった。
   生きてるんだ、生きてるんだよ。 …それに、まだ小さな仔だったしな。

 私が解放されたのは、日が暮れてからの事。
 その時には、人間なんか信じられなくて、敵意しか持てなかったけど…

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 たった一つの選択権が、水の流れに乗って河口に転がり込む様に、俺の手元に辿り着いた。

 実力では絶対敵わない相手。
 手にしたソレは、敵の生命線であると同時に、あいつの命を繋ぐただ一つの術(すべ)だった。

 二律背反。
 俺は、世界と彼女の選択を迫られた…

 ──そんな…
   他に何か…

 魂に残された彼女の記憶の残滓が、淡々と口にする。
 かつて交わした約束。

 おまえの為に、あいつを倒すって。

 ──で、どうしたのよ、結局あんたは?

 ──後悔した。
   選択を、じゃない。 自分の弱さを、だ。

 手の中で崩壊した宝珠は、敵の最後の希望を打ち砕き。
 そして、俺の一縷の望みを断ち切った。

 あいつを守る為だったのに、その命を代償にして。
 段々と霞んでいく彼女(おもい)が消えて、ただただ唏くしかなかった。

 ──それでも、あいつを失望させない為に、いつかあいつと出逢う為に、俺は生きてる…

 俺自身も、この世界も、あいつが守ったモノだ。
 失わせたりしない。 俺の手が届く限り…

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 相変わらず、大人は私達を危険物の様に避けて…

   心の中にぽっかり空いた何かを抱えて…

  漸く追われなくなった山の中、ただ過ぎ行く時間に身を任せて…

 私達を受け止めようとしてくれる人も居るんだって気が付いて…

  ただ生きてるよりは、マシになった連れて来られた街の中…

   あいつが好きだった俺じゃなくっちゃダメだから…

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 星の光を遮るどんよりとした闇の中、ちらちらと何時の間にか降り始めた季節外れの雪。
 横島はその霊体を、しっかと抱き止めた。

 ──だから、なのね。

「こうやって間近で見ると、そんなに似てないな…」
『あなたを残して行ったって言う人に?』
「…あぁ」
『そう…』

 ──そう、だな。

 抱き合う二人に、横島も微笑み…
 彼女の要望に、苦笑した彼は暫くの間、そのぼんやりとした肢体を抱きしめた。

 ──いいなぁ…
   パパもママも、私には触れてもくれないもの。

 二人が天に昇ったその後に。

 ひらひらと、ふわふわと舞う粉雪だけが残された。
 厚い雲をキャンバスに、複雑な線を描き続ける粉雪だけが…

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 ぴちゃんと顔に当る水滴に、タマモは目を覚ました。

「あれ… えっと…
 今の…は…?」

 まだ醒めきらぬ頭を振って、暗い周囲へ目を向ける。
 段々と戻る記憶に、彼女は目を見開いた。

「…そうだ!
 いきなり穴が開いて、ソコに…」

 一緒に落ちた筈の二人を捜そうと、タマモはゆっくりと身体を起こして見回す。 …が、結果から言えばそれは不要だった。

 左腕で彼女を、右腕に紫穂を庇う様に抱かかえた腕。
 そして、その腕の持ち主である横島の躰は、二人のすぐ下に在ったのだから。





 【続く】



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……ぽすとすくりぷつ……

 ちょっと所じゃなく実験的な事を(笑)

 ホントは、先に穴の上の連中をどうにかする気で居たのだけど、思い付いちゃったので。
 向こうので四苦八苦してるからかなぁ(苦笑)

 まぁ、電波で始めた話ですから、途中のルート変更はアリと言う事で(__)
 で、こう言う引き方をしておいて、次は上の連中かも知れない(爆)

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