ザ・グレート・展開予測ショー

#GS美神 告白大作戦! 「ど〜しようっ!!」


投稿者名:斑駒
投稿日時:(03/10/18)

 どうすれば良いのだろう。

 ドクター・カオスの知らないところで壊れてしまったジェットエンジン。

 ドクター・カオスが燃えないゴミから造ってくれたジェットエンジン。

 非常時の移動手段として、とても重要なものなのに。

 今はもうスイッチを入れても全く作動しなくなってしまった。



   “マリあん企画 #GS美神 告白大作戦! 「ど〜しようっ!!」”



 どうすれば良いのだろう。

 いつもなら、故障箇所はドクター・カオスに申告すればスグに直してもらえる。

 どんなに派手な損傷も、複雑微妙な調整も、いつだって完璧に仕上げてくれる。

 それどころか、気紛れでバージョンアップしてくれたりもするくらい。

 でも、今回ばかりは、そういうわけにもいかない。



 どうすれば良いのだろう。

 壊れてしまったジェットエンジン。

 動かなくなったのは、昨日の買い物の時から。

 原因は、分かっている。

 だからこそ、ドクター・カオスに打ち明ける事が出来ない。



 どうすれば良いのだろう。

 ことが起きたのは、帰り道でだった。

 目の前でバランスを崩した一匹の小猫が、橋桁からドブ川に転落。

 とっさに飛び込んで落水前にキャッチしたけれど。

 水面すれすれで噴かしたジェットエンジンは、汚水をしたたかに浴びた。



 どうすれば良いのだろう。

 非常時以外のジェットエンジンの使用は、ドクター・カオスに禁じられている。

 しかも周囲に一般の人が居れば、なおさらのこと。

 なのにあの時は、夕方の最も人通りが多い時間帯だった。

 あまつさえ子猫を救い上げて放してあげた時には周囲の注目を受け、喝采すら浴びてしまった。



 どうすれば良いのだろう。

 ドクター・カオスの命令に違反してしまった。

 そのことを、なかなか伝えられずに居る。

 自分にとってはドクター・カオスの命令が全て、ドクター・カオスが全てで。

 それに矛盾してしまった事実を、口に出したら自身の全てを否定することになりそうで。



 どうすれば良いのだろう。

 もちろん、いつまでもこのままで居るわけには行かない。

 いつ非常事態に陥って、ジェットエンジンを使うことになるか分からない。

 そんな時にドクター・カオスを守りきれなかったら、それこそ全てが失われてしまう。

 でも、それでも、打ち明ける事をためらってしまう事実。



「なあ、マリア。さっきから妙にソワソワしておるようじゃが、なんぞあったか?」



 どうすれば良いのだろう。

 ふと思い出したかのような、ドクター・カオスの問いかけ。

 その気遣いの言葉が嬉しくもあり、同時に苦しくもある。

 自分はドクター・カオスに言わなければならない事を隠しているのに。

 ドクター・カオスに心配される資格なんて無いのに。



「ノ、ノー!! ぜんぜん・何でも・ありません!!!」



 どうすれば良いのだろう。

 思わず飛び出してしまった嘘。

 命令違反を隠すために、さらに重ねられるドクター・カオスへの裏切り。

 こんなこと、望んでなんかいないのに。

 それでも止まらない。止められない矛盾行動。



「……なら良いが。おまえのことだから、またぞろ何か一人で思い悩んで苦しんでいやしまいかと思ってな」



 どうすれば良いのだろう。

 打ち明けてしまいたい。全てを、ドクター・カオスに伝えてしまいたい。

 言うなら今しかない。それは、分かる。しかし、踏み切れない。

 ここで言ってしまって良いのだろうか? こんな自分で良いのだろうか?

 どうすれば良い? どうすれば……












「ジェットエンジンが…故障……しました………」



 どうすれば良いのだろう。

 言ってしまった。

 考えて結論を出すより先に、口が動いてしまった。

 おそらく次の瞬間には、ドクター・カオスが原因など質問してくる。

 それに答えたら、自分はどうなるのか。自分の存在は……



「ほう。それはイカンな。スグに修理しておこう」



 どうすれば良いのだろう。

 予想を越えた事態。

 ドクター・カオスが何も訊ねて来ない。

 故障した原因も、なぜ今まで黙っていたのかも。

 ただ台に横たわるように、目で促すだけ。



「理由は・問わないの・ですか?」



 どうすれば良いのだろう。

 自ら口にした言葉を。

 言わなくても良いはずの言葉を。

 しかし言わずには居られなかった。

 このままで良いとは思えなかった。



「理由じゃと? おまえはおまえが必要だと判断した事にコイツを使い、そして消耗した。それだけのことではないか」



 どうしたら良いのだろう。

 ドクター・カオスの言葉はひどく素っ気無い感じで。

 さも当たり前だと言わんばかりで。

 何気なく工具の用意まで始めて。

 でも……でも、違う。それだけのことなんかじゃない。それだけなんかじゃ……



「ドクター・カオス! マリアは・命令違は」「マリア!」



 どうしたら良いのだろう。

 自分の発言を打ち消すかのような、ドクター・カオスの声。

 その声音の高さとは裏腹に、怒気はいっさい帯びていないのだけれど。

 有無を言わせぬ圧倒的な凄みがあって。

 返事も出来ずに、沈黙を余儀無くされて。



「わしはわし自身を天才だと信じておる。そしておまえはわしの最高傑作じゃ。だからわしはおまえをいつだって絶対に信じておる」



 どうしたら良いのだろう。

 自分もドクター・カオスの事はいつだって絶対に信じている。

 自分という存在をこの世に創り出した造物主のことを、信じないはずがない。

 しかし自分は、裏切ってしまった。

 寄せられた信頼を、自ら裏切ってしまったのだ。



「良いかマリア。おまえもおまえ自身をもっと信じろ。わしが信じている以上、おまえの行動は全てわしが望んだ行動じゃ。たとえそれがわしの指示に反しているようであってもな」



 どうすれば良いのだろう。

 ここに至って、やっと理解することが出来た全て。

 ドクター・カオスの指示と自分の判断。行動と結果。そしてそれら全てに対する信用。

 気づいてみるとあまりにもいまさらのことで、どう反応したものかためらわれるけれど。

 ……いや、違う。本当はためらうことなんか何もなかった。



「イエス。サンキュー・ドクター・カオス」「お、おいっ、やめんかこらっっ」



 するべきことは決まっている。

 それは、そっとドクター・カオスに歩み寄り、その胸に顔を埋めること。

 ドクター・カオスは顔を赤らめて苦笑いしているけれど。

 自分で判断した最良の行動だから、きっとこの結果は間違っていない。

 そしてそれはきっと、ドクター・カオスも望んだ最良の行動。だから……



 子猫を助けて良かった。ジェットエンジンの故障を打ち明けて、本当に良かったっ。

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