ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記(その40(B))


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/10/18)


「で・・・その握り拳でわたくしをどうするつもりかしら?」

一歩一歩近づいてくるひのめの気配に気付いたのか、
京華はパチとまぶたを開き牽制するとジロっとひのめを睨みながら問いてみる。
その目は『それ以上近づいたら命(タマ)を殺(と)るぞ!』と言っていた。

「あ、何だ起きてたの?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちっ」

「こらぁ!今『ちっ』って言いましたわねぇ!?」

「何でもない何でもない!それより現状の確認しなくちゃ、ね〜?」

同意を幸恵に求めるひのめに誤魔化されてる気が凄いする京華だが、
確かに現状の把握は必要だと渋々引き下がる。
だが、京華には何となくだが自分達に何が起こったかを推測が出来ていたのだった。
そして、それは心眼の言葉と合致する。

『おそらく・・・『空間の歪み』に入ってしまったわさ・・・』

「空間の歪み?」

聞きなれない言葉を反芻するひのめに心眼はさらに続ける。

『大きな力が働いた場合、霊的にある空間が歪む場合があるわさ、
 異空間や時空間、果ては魔界なんかに繋がる場合もあるわさ』

「げっ!じゃあ私達が今いるのって!」

見知らぬ世界に来てしまったのだろうかと周囲を見渡す青い顔のひのめ。
だが、そのまわりの光景はパッ見M山と変わらぬ普通森のようだ。

『安心するわさ、幸いここは人間界、しかもM山からせいぜい10数キロくらい・・・おそらく・・・』

「隣山のN山ですわね」

心眼の言葉を続けたのは京華だった。
一同の視線が集まったところで京華は自分の意見を述べる。

「多分M山の結界解除の弾みかなんかで空間が歪んだんでしょうね、三世院家の書庫にもそういうデータがありましたわ。
 そしてそういう場合は大抵一番近い霊的存在に転送される可能性が高いですから・・・」

「じゃあ・・・私達の服が濡れてないのも・・・」

幸恵の言葉にコクンと頷く京華。

「ええ、おそらく橋から川に落ちる途中にその歪みに巻き込まれたんでしょうね、
 時間は・・・幸いそんなにズレもないみたいですし。ま、幸運といえば幸運ですわ」

ひのめと幸恵はチラっと銀の腕輪についているデジタル時計の時刻を確認する。
確かに転送されてから気を失っていたのは15分程度だろう、これが時空間の場合何年後か何十年後に飛ばされる場合もある。
その点では非常にラッキーな三人だった。

「ま、そーいうわけならさっさと救援を・・・」

「残念ですけどここは銀の腕輪は圏外みたいですわね」

「ひーちゃん・・・やっぱり携帯も圏外」

絶望・・・・とまでは行かないまでも少し困った事態にひのめは『ゲッ』と言った表情を浮かべてみる。
AM3:20、除霊作業終了まであと40分、この緊急事態に本部が気付いたとしてもあと二時間は救援に来ないだろう、
その間はどうやらプチ遭難というわけだ。

「ああ・・・ついてない・・・」

「ついてないのはこっちのほうですわ、あなた達がわたくしの指示を聞いていればこんなことにはならなかったのに」

ムカ。
その何気ない一言が舌戦のゴングと化した。

「なに言ってんのよ!どこぞの家出少女にみたいにヒステリックになって勝手な行動してたくせに!」

「ヒス・・・・わたくしのどこがヒステリーなのよ!あなたみたいなガサツな人に言われたくないですわっ!!」

「だ、誰がガサツよぉ!これでも(お姉ちゃんよりかは)おしとやかって言われるんだからねーー!!」

「ふ、二人とも・・・ケンカはやめてよぉ!橋が落ちたのは誰のせいでもないじゃない!」

「「あんたが言うなぁ────っ!!」」

幸恵のボケ(?)にダブルツッコミが出来るあたりこの二人もコミュケーションが少しずつ取れてきたなぁ〜〜・・・
その光景に心眼は少しだけ嬉しそうに目を細めるのだった。
だが、そのとき・・・






ビュバアアアアアアアアアアアァァァ────っ!!!!!!



「「「『!!?』」」」


その音はどう表現すればいいのか分からない・・・まるでビームが発射されたその音・・・
N山を覆う結界が発動される音にピクリと反応する4人。

「こ、これは!?」

「結界ですわ!それも・・・このN山を覆うほどの!」

『しかもかなり強力な・・・』

「じゃあ私達は・・・」

「完全にN山に閉じ込められましたわね・・・」

京華の緊張のこもった声に返事をすることが出来ないひのめ達だった。








AM3:30

N山中腹入り口。


深夜でしかもかなり飛ばしていたおかげであっという間にN山の中腹の入り口辺りに到着した横島達、
しかし、その行く手には発動された結界が阻み一同を足踏みさせる。

「これは・・・・・Gメンの機材でもかなりのモノを使用しないと破れませんよ?」

ピートが軽く触れてみるがまるで磁石の対極のようにその手は簡単に弾かれる。

「どうすんの令子?そりゃこの4人なら何とかできないワケじゃないけどかなり力を消費するわね」

「分かってるわよ・・・でも、何とかするしかないじゃない」

腕を組みながら長年の経験、勘から対策を頭の中で練ってみる令子。
落ち着け・・・落ち着けと自分に言い聞かせるが・・・、この中に自分の妹がいると思うと焦燥感を消すのは困難なのも確かだった。

「どうする?文珠使うか?一応ストックで6個くらいはあるけど」

「ダメよ、これから先何があるか分からない状況で万能性のある文珠を使うのは得策じゃないわ。
 私達はともかく中にいる生徒達に何が起こってるか分からないし・・・」

「そ、そうだけど・・・」

令子の正論に押し黙るしかない横島だが、横島は横島で焦っている。
妻の霊感を信じてN山に来たはいいが、強力な結界の前に手出し出来ない無力な自分に怒りすら覚えた。

(・・・・おそらく結界術師、もしくは結界発動具は結界の内側にあるわね・・・。
 そうなれば単純に結界以上の出力をぶつけて少しでも破れれば・・・でも今持ってる結界破りの札じゃ・・・
 いや!・・・あの技なら・・・でも消費が・・・。!、そっか・・・この方法なら!)

何かを思いついたのだろう、令子はパっとした表情を浮かべ三人に話しかける。

「こうなった以上もう結界より強力な霊的攻撃を加えて中に進入するしかないわ」

「でもどうやってするワケ?言っちゃあ何だけど横島の文珠なしじゃ難しいと思うけど?」

「ええ、でも・・・突入班を二人、そして残りの二人がここで全霊力を振り絞って結界を破ることは可能だわ」

「ぜ、全霊力ですか?しかも二人ってことは・・・」

ピートは一度横島と目を合わせたあと一緒にお互いの妻を見つめる。

「やっぱり僕らですよね、その役・・・」
「いつも自分ばっか楽して疲れる役は俺らなんや────っ!!」

「「まだ何も言っとらんわ────っ!!」」

夫達の的外れなボケにツッコム妻たちは一息つくと令子が再び説明を続ける。

「取りあえずピートとエミが全霊力をウチのヤドロクに与えるのよ」

「俺に?」

予想外の指名に戸惑う横島。

「この中で一番攻撃力があるのは・・・・・・・・あんたの『ハンズオブハイサラリー』なのよ」

ハンズオブハイサリー(高給の手):
ルシオラから受け継いだ霊基構造を活性化させ霊力と魔力を融合させた漆黒の霊波刀。
その攻撃力は計り知れないものがあるが、一撃で霊力がカラッポになるというデメリットもある。
ちなみに陰陽文珠と言った反則技は蛍が出来て以来使えなくなっている。

「そうかもしれけど、俺は行動不能になっちまうぞ?・・・・・・・・・・・・・・あっ」

横島はそこで妻が言ったことを全て理解した。
霊力を大量消費するこの技を放ってなおかつ行動不能にならいためには常に放出分の霊力を補給する必要がある。
つまりこの場合その補給役は・・・

「僕たちはその霊力の補充要員ってわけですね」

「そういうこと♪」

「ちょっと、それならオタクがやりなさいよ!」

「バカね〜、平行文珠(2個以上の文珠同時発動)が使えるウチのダンナが突入班になる以上、
 そのパートナーは長年コミュニケーションが取れてる私が一番に決まってるじゃない♪」

「ウソよ!本当はオタク美味しい役どころを持って行きたいだけでしょーー!」

エミがわめこうがそんなこと知ったこっちゃないと言った表情の令子。
そんな態度がエミをさらに挑発し事態を悪化させる。
『こんなことしてる場合じゃないでしょう』とピートが仲裁に入るが一向に止める気配はなし。
しかし、そんな二人を止めたのは・・・

「二人とも!今はこんなことしてる場合じゃねーだろう!!」

「「!!?」」

耳に鳴り響く叱咤の声にピタっと止まる令子とエミ。
二人は横島の怒りの表情に少しばかり反省の色を浮かべる

「そ、そうね悪かったわ」

「オタクに言われるようじゃワタシも終わりなワケ」

珍しく殊勝な言葉を並べる二人に横島は「分かってくれればいいんだ」と頷いた。
そして、真剣な眼差しで結界を見つける。

「この結界は俺一人で打ち破ってみる」

「え?でも・・・」

「俺の力を信じろ、みんな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だから」

「だから?」







































「令子!エミさん!協力をぉぉ!!たまには外で人妻と不倫っていうシチュエーションも何か燃え・・・ぶごぉぉぉぉっ!!」

「「貴様は煩悩以外で霊力を上げれんのかあぁぁぁ────っ!!!!!!?」」

ドガシャアァァァァっ!

エミのエルボーが横島の頬骨を、令子の右フックが横島のわき腹を砕く音が5月の夜空に響き渡る。

『世界最強』のゴーストスイーパー横島忠夫・・・
彼が『世界最高』のゴーストスイーパーになるにはまだまだ遠いなぁ・・・
冷たい土の上でピクピク痙攣する横島を見て涙ながらにそう思うピートであった。


ちなみに、結局エミとピートが霊力補充役をやりましたとさ。






                                その41に続く

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