ザ・グレート・展開予測ショー

不思議の国の横島 ―10後半―


投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/10/17)


<前半からの続き>




「よおぉくも追い掛け回してくれたなぁ、このクソ野郎ーーーーーぉぉっ!!!!」
「いやーーーーーーーーーーーーーーーぁぁっっっ!!!?」

―― ドゴンバゴンドガドガドゲシ!! ――

「うぎゃ!ぼげぇ?!や、やめ…げぇっ!ぐあっ!あべしっ!!」

―― バガバガバゴドゴンドガンドガドガゲシゲシゲシドゲシ!!! ――

「べげっ?ひぎゃっ!!ぺぎょっ?!か、顔はやめ…ぇげぇええっ!!?ぐほっ!!ひでぶっっ!!!」

とにかく殴って、すかさず蹴る。殴る、蹴る。殴る、蹴る。
俺の感じた恐怖の何分の一かでもこいつに感じさせてやる!
俺は両手に霊力を集中させ、再び文珠を生成した。

『滅』『殺』

「その恐怖を持ってぇぇぇぇっ……去ねやぁごるあぁっっ!!!!」
「いやーーーーーーぁぁぁぁっっ!!!!」

―― ドッゴーーーーーーーーンッッ!!! ――

普段なら絶対に使わない物騒な文珠を、俺はインキュバス目掛けて思いっきりブチ当てた!!

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………思い知ったか、こんちくしょー…」

俺はそこで、ようやく激昂した気持ちを落ち着かせる。意識して大きく深呼吸。それを何度か繰り返し、ようやく心音が正常値まで落ちてきた事を確認できた。

「おおーーーいっ!横島君無事かーっ!?」
「よーこーしーまーさーーーんっ!」

と、そのタイミングで俺の耳に聞き慣れた声が届く。

「あ、みんな……」

神父、冥子ちゃん、ピート、ヘルシング嬢……そうか、みんな追いかけてきたのか。
良かった。どうやらみんなの方には特に問題は無かったみたいだな。

「俺は大丈夫っすー!インキュバスも何とか倒したっすよー!」

俺はやや遠くにいるみんなに向かって叫び返した。
しかし、あれだな?
結局のところ、俺1人で倒しちまったじゃんか?いかんなぁ……
あまり目立つような事はしたくなかったんだけどな。
今回のは、流石に運が良かっただけじゃ済まんだろうなぁ……

「本当かい?凄いじゃないか横島く……ん?」
「横島さ〜ん無事ぃ〜〜……い?」

と、駆け寄ってきた皆の動きが止まった。

「あれ?……なんだか…」
「あなた……ちょっと…」

ん?
俺は、自分が何か大事な事を忘れていたような気がする。

「ガッペムカつくーーーーっ!!?バンパイア〜昇〜竜〜けーーーんっ!!!」
「ほんと、ムカつくーーーーっっ!!!死ねっ!このこのっ!!」

―― ドゴッ!バゴッ!ゲシゲシゲシゲシ! ――  

「ぐへっ?!そ、そやったーーーっ!!俺は今…」

俺には今「嫌」の文珠の効力が働いていて……

「目障りなのよあんた〜〜〜〜〜っ!!あ〜〜〜なんだか顔見てるだけで不愉快だわ〜〜〜〜っ!!」
「本当に、これ程の嫌悪感はどれくらいぶりだろう?ははは…若いときの事を思い出すな。主よ、我に目の前の敵を打ち滅ぼす力を……」

あ、でかいの来ますか?

「式神たち〜〜〜〜やっておしまい〜〜〜〜〜〜っっ!!!!」
「殺害の王子よキリストに道を譲れっ!!主が汝を追放するっっ!!!」

―― ドゴーン!ドッガーーン!!ドガガガーーーーンッ!!! ――

「やっぱりこうなるのねーーーーーーっっ!!!」

………………










「それじゃ〜、令子ちゃんもウチ(六道女学院)に来るのね〜?」
「ええ、この娘は今年で2年生ですので…」

六道家の応接室では、六道理事長と美神母娘が会話を交わしていた。

「冥子さんは令子の1つ上ですから、今は3年生ですか?」
「そうよ〜…でもね〜あの娘ったら修行嫌いで〜〜〜……本当に困った娘なのよ〜〜」

理事長は大きくため息を吐く。

「その点、美知恵ちゃんが羨ましいわ〜〜〜令子ちゃんってとっても優秀そうね〜〜」
「いえいえ、この娘もまだまだ力の使い方が分かってなくて…」

母達の会話に、令子はむず痒い思いを覚える。
こういう会話はせめて本人が居ない所でやれ。そう思っていた。

「令子ちゃんは〜〜GS試験は受けるの〜〜?」
「え?ああ、はい。本当は来年、受けさせる予定だったんですけど…こんな事情で私が日本に呼ばれましたからね。良い機会だったので……1年早いですけど、まあ受けさせてみます。」

美知恵の口調からは、娘の実力をまだまだといいつつも、それでもGS試験程度なら合格できるだろうと言った思いが感じ取れる。娘の事を、美神の血の事を信用しての台詞だろうか。

「あら〜?それじゃあうちの娘のライバルね〜♪」
「ああ、冥子さんも今年受験ですか?それは、大変なライバルですね…」
「いえいえ〜うちのほうこそ〜〜」

ほほほ、ってな笑い声を上げつつにこやかに会話する母達に…

―― 当事者そっちのけで勝手にライバルにしないでよ ――

心の中でそんな突込みを入れる令子。
ここに来て何度目だろうか?来るんじゃなかったと心底後悔していた。

「それで〜〜〜美知恵ちゃんはオカルトGメンの日本支部に来たのよね〜〜?」
「ええ……なんでも、西条クンの手に余る相手らしいので……」
「ああ〜〜〜例の怪盗ね〜〜〜〜」

母親達の会話はまだ長引きそうだった。
令子はまた、何度か目のため息を吐く。

………………










「……り………て…」

何処か遠くのほうから声がする。

「……でも………く………です…」

俺は何をしている?ここは何処だ?暗い……

「…こで……から………っと、そう…」

なんだろう?声がだんだん大きくなってくる?
あれ?

―― ハッ!? ――

「あ!目覚めました!」

突然のまぶしい光、いや…つまり俺が目を開けただけか?
周囲の明るさに慣れてくると、ぼんやりとした人の輪郭が浮かんでくる。それに合わせて、もやの掛かったような思考も急速にまとまって来た。

「あ?俺……どうしたっけ?って、冥子ちゃんと……神父、ピート、ヘルシングさん?」

俺は、冥子ちゃんの膝の上にいわゆる膝枕状態で寝転がっているようである。

―― ペロペロ ――

「なんだ?………あれ、ショウトラか?」

ほっぺたにくすぐったさを感じた俺はそちらに視線をうつしてみた。そこにいたのは犬の式神ショウトラ。ショウトラはヒーリング能力を持っている。
という事は、俺は今ショウトラにヒーリングして貰っているのか?

「横島さん〜〜〜…大丈夫〜〜〜?」
「あ、ああ……大丈夫。それより、俺どうなったんだっけ?」

さっきまでの事が直ぐに出てこない。どうやら、軽い記憶喪失状態のようだ。

「ああ、ビックリしたよ横島君。君が酷い怪我で倒れていたからね。」
「え?酷い怪我?」

俺の疑問に神父が答えてくれる。なんだ?なにか引っかかるな?

「インキュバスは倒したようだが……無茶はいけない。自分が死んでしまっては何にもならないよ?」

インキュバス………

「もう少し手当てが遅ければ、命も危なかったかもしれない。」

そうだ、俺…あのモー(ピーッ)ーインキュバスから逃げ回って逃げ回って……

「とはいえ、あれだけの大物を1人で倒してしまうなんて、凄い実力じゃないか!さすが、六道さんが推すだけのことはある!」
「本当ですよ横島さん。すごいです!」

―― あっ!? ――

「……思い出した。」

そこで、俺は完全に事態を把握した。

「え?どうかしたかい横島君?」
「あ………いや……なんでもない…………です…」

俺はインキュバスを倒した後で、追いついてきた皆にボコボコにされて気を失ったんだった。

「で〜も〜〜〜心配したんですよ〜〜〜?」

上から俺の顔を覗き込んで、冥子ちゃんがほっとした表情を見せる。
なんだ?もしかして、みんなには「あの時」の記憶が無いのか?

「しかし、恐ろしい相手だったようですね?横島さんの具合を見ただけで分かりましたよ。凄まじい死闘だったってことは…」

いや、インキュバスとの戦いでは無傷だったんだけどね…

「ショウトラの事も褒めてあげて〜〜〜一生懸命ヒーリングしてくれたのよ〜〜〜」
「あ…ああ、有難うな〜ショウトラ〜…」
「へっへっへっへっ」

お前に噛まれた傷も直してくれたんだな〜

「どうだい、立てるかい横島君?」
「え、ああ………しょっと。ん………はい。なんとか大丈夫です。」

俺は地面に手をつき、自力で立ち上がる。少々足元がふらつかんでもないが、なんとか大丈夫だ。
あー酷い目に遭った。
冥子ちゃんも神父も手加減無しだったもんな。

―― ま ――

でもいいや。
さっきの人生最大の危機に比べたら無問題。
全然いつもの事だ。
ほんと…哀しいくらいにいつもの事さ。

「じゃあ、帰ります?」
「あ、ああ。本当に大丈夫なのかい横島君?………凄い回復力だね…」

―― ポン ――

「冥子ちゃんも有難うな。」

俺はヒーリングしてくれた冥子ちゃんにお礼を言う。ヒーリングはショウトラの能力だが、それを使う為の霊力は冥子ちゃんのモノなのだ。
まだ地面に座ったまんまの冥子ちゃんの頭に手を乗せて、俺は軽く撫でる。

「えへへ…」

冥子ちゃんは少し嬉しそうだった。
日も傾き、もう夕方と言っていい時間帯だろうか?
そんな中、俺達はそろって帰路につく。
5つの影が俺達の後ろに長く長く伸びていた。



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