不思議の国の横島 ―10前半―
投稿者名:KAZ23
投稿日時:(03/10/17)
俺は今、何処を走っているのだろう?
自分の居る場所なんて分からない。いったい、何処をどう走ってきたのか?
いや、そんなことは大きな問題では無い。
今はただ、逃げ切る事だけ考えろ!
捕まったら終わりだ!
捕まったら、捕まったら……
「さあ、そんなに照れないで♪この僕と、めくるめく官能の世界へ〜♪」
「だぁがぁぁあ゛ぁじゃーーーーーーーーぁぁっっっ!!!!!」
終わりだ!捕まったら終わりだーーーーーぁぁっ!!!
俺は走る。周りなど振り向きもせずに。
―― 危険!危険!危険!危険!危険!危険!危険!危険!危険! ――
脳内アラームはとっくにレッドゾーンを振り切ってる。
「ぐんなーーーっ!!ゴーストスイーパーは悪魔の言いなりになんかなんねーーーっ!!」
「そんなに嫌わなくても大丈夫だって〜♪」
俺は逃げる。ただひたすらに。
―― 男は嫌だ男は嫌だ男は嫌だ男は嫌だ男は嫌だ男は嫌だ ――
「男は嫌じゃ〜〜〜〜〜〜ぁぁぁぁぁっっ!!!!」
「みんな最初はそう言うよ〜♪」
ぜってー捕まるかーーーーっっ!!
―― ダダダダダダダダダダダダダダダーーーーッ ――
史上最凶最悪の敵、モー(ピーッ)―インキュバスから、俺は逃げる。
決して止まるわけには行かない。魔界の果てまでだって逃げ切っちゃる!!
ちくしょー!ちくしょー!ちくしょーーーっ!!
「なんで俺がこんな目に遭うんじゃーーーーっ!!!?」
………………
「くっ!大丈夫かみんな?」
ようやく触手から解放された神父が、悲惨な状態になっている教会にやや哀しい気持ちにさせられながらも、みなの状態を確認しようと声を掛ける。
「は、はい。僕はなんとか…」
少々ふらつきながらも、ピートは立ち上がって答えた。バンパイアの回復力は人間よりも強いので、先ほどのダメージも随分と抜けてきているようである。
「わ、わたしも、な…なんとか…」
「いや〜ん…まだ変な感じ〜…」
アン、冥子もようやくインキュバスの術の効果が抜けてきたようだ。こちらもやはり少々体が重そうではあるが、立ち上がって体勢を整える。
「とにかく、横島君が心配だ。我々も後を追おう!」
「了解です、せんせい!」
教会を飛び出した横島を心配する唐巣達。
横島の後を追ったインキュバスの気配も既に感じられない。
「あ、でも…何処に行ったか分かりませんよ?」
アンの意見はもっともである。
アンはその疑問を口にしつつ、ゴリアテの格納部からイージススーツ「ダビデ号」を取り出して身に着けていく。
先ほどは不意打ちだった為に学校の制服姿だったが、こっちが彼女の正式な除霊スタイルだ。
「あ〜の〜…クビラなら分かるかも〜〜」
「あ、そうだな。頼まれてくれるかい冥子くん。」
この場ではただ1人式神の能力を知る唐巣が、冥子の言いたい事を理解する。
「クビラ〜お願〜い。」
―― ヂュッ ――
冥子の影から飛び出してきたのは、ネズミの式神クビラ。そのまま冥子の頭の上にちょこんと乗っかった。
「ん〜〜〜〜」
冥子は両目を閉じると、彼女なりに真面目な表情で集中する。
「彼女…何をしてるんですか?」
式神の能力を知らないピートが、ちらちらと観察しながら唐巣に尋ねた。
「うん。彼女は……六道家の女子にはね、代々12匹の式神を操る能力があるんだ。式神っていうのはまあ、平たく言えば人間が使役する鬼だね。」
「鬼……ですか?でも、見た目は動物みたいですけど?」
ピートはまだ、日本の霊能力者の形態には疎い。陰陽師や、式神というものを詳しくは知らないのだった。
「ま、人造の鬼さ。鬼って呼び方も昔からそう呼んでいるだけだしね。魔法兵鬼や人造魔生物の一種だと思ってくれればそれで良いよ。で、だ……あれはクビラと言ってね、霊視能力が有る。横島君とインキュバスの残留霊気を辿っているんだろう。人間の感覚では捕らえられないほどの微弱な痕を視ているのさ。」
「わかったわ〜…ずーっとあっちの方の森の中よ〜〜〜…まだ追いかけっこしてる〜〜〜」
唐巣がピートに説明している間に、冥子は横島たちの気配を視て、その姿を発見する。
木々の間を器用にすり抜けて走る横島と、ふわふわと宙を舞いながら追いかけるインキュバスの姿が目に浮かんできた。
「くそっ!もうそんなに遠くまで行ってしまったのか?!ぐずぐずしてられん。急ごう!」
「はいっ!」
唐巣の意見に、全員が頷く。
「ゴリアテ、スカイパーツ『ネシェル』射出!」
「殺ーす!」
アンの指示により、ゴリアテの背中のコンテナから機械部品が排出された。
―― ガチャ、ガチャン、シャキーン ――
やや細長い楕円形のパーツは、アンの背中、ダビデ号のバックパックにドッキングする。楕円のパーツは真ん中で2つに分割され、ガチャコンガチャコンと少々変形し、2基のバーニアとなった。
「シンダラ〜〜〜」
―― バサバサッ ――
一方、冥子の影からは鳥の式神、シンダラが出てくる。
「よいしょっと。お願いね、シンダラ〜〜」
冥子は横座りでシンダラの背中に乗った。
「よしっ!じゃあ早速追いましょう!先生は僕に捕まってください!」
「ああ……」
それを見て、ピートが掛け声をかける。ピートに促されて唐巣はピートの背中におぶさった。
「………………」
が、唐巣の表情がいまいち冴えない。ピートはそれをいぶかしみ、唐巣に尋ねた。
「どうしたんですか、先生?何か心配事でも?」
唐巣は超一流のGSである。自分達では分からない引っ掛かりを、何処かに覚えたのだろうか?ピートは緊張して、唾を飲み込んだ。
そして、唐巣が口を開く。
「………………なんだか、今回の私って役立たず?」
「え?………」
ルールルーと何処かイジケ虫になっている師匠に、ピートが掛けられる言葉は何も無かった。
………………
「ほーら、追いついちゃうぞ〜♪」
「ぐんなーーーっ!!ぐんなーーーっっ!!?」
一方、相変わらず追いかけっこを繰り替えす横島とインキュバス。
横島の体力はかなり限界に近づいていた。
ぐおー!?いかんっ!このままでは追いつかれるっ?!
何とかっ!何とかせんとーーーっ!!
落ち着け、落ち着くんだ俺!
確かにコイツは強いが、決して勝てん相手じゃ無いっ!
そうさ、冷静になって対処すれば…
「ん〜〜〜チュッ☆ア〜イラ〜ヴユ〜♪」
「冷静になんて、なれるかあーーーーーーぁぁぁっっ!!!?」
怖えーよ!?本気でヤバイーーーッ!!
逃げるっ!逃げるしかねーーーっ!!
「あ゛っ!!?」
俺は愕然とする。森の中を疾走する俺の目の前に現れたのは、ポッカリと口を開けた断崖絶壁!
「なにーーーーーーっ?!!」
「あ〜ん、やっと追・い・つ・い・たっ♪」
くそっ近づくなっ?!こいつ!?来るな、来るなっ!!
「来んなーーーっ!!それ以上来たら、しっ、しつ、死んでやるっ?!死んでやるぞぉぉぉっ!!?本気だぞっ!?俺はほほ本気だぞぉぉっ?!!」
「や〜ん♪そんなに嫌わなくてもいいのに〜?僕ショック〜…こんなに好きなのに〜♪」
「馬鹿者ーーーっ!!?俺は男に好かれて喜ぶ趣味はねーーーっ!!」
そうだ!男に好かれたってっ!男に好かれたって!!俺は男は嫌いじゃぁっ!!
だからっ!男に好かれたって!男に好かれ…
「あっ!」
と、そこで突然、俺にある考えが浮かんできた。
そうだよ。今問題は、俺がこいつに好かれてるって事だろ?!じゃあ、じゃあこうすれば!!
「文珠ーーーっ!!」
俺はその考えを実行に移すため、大急ぎで文殊を作る。
それをそのまま自分の胸に当てた。
―― パアッ ――
「なに、この光?」
文珠は強烈な光を発し、凝縮した霊力を一気に放出して消えた。
「なに?何をしたの貴方……ん?」
「ど、どうだ?これで上手くすれば……」
一瞬の間が開く。俺は自分の考えどおりに事が運ぶ事を祈りつつ、緊張でカラカラの喉を鳴らした。
「なんだろう?なんだか貴方………」
「………………ゴクッ」
頼む!頼むっ!お願いしますーーーっ!!
「すっげえムカつくっ!?」
「おっしゃっ!!」
俺が文珠に込めた文字は…
―― 嫌 ――
の一字である。
それを自分に使ったのだ。俺の想定したとおり、インキュバスは俺に対して嫌悪感を持ち始めている。
「くっそ!?なんかすっげームカつくっ?!!殺す!ブッ殺すっ!!」
―― バサーッ ――
「うおっと?!」
先ほどまでとは一転、インキュバスは俺に攻撃を仕掛けてきた。黒い羽が高速で伸び、俺の首を狙ってくる。
「ちっ!かわしてんじゃねーよっ!さっさとくたばりなっ!!」
―― シャキン、ジャキン ――
インキュバスは物凄い表情を浮かべて連続攻撃を仕掛けてくる。
四方八方から襲い掛かる羽を俺は1つづつかわした。
「だーーーっ!!ムカつくわねっ?!さっさと死んでおしまいっ!!」
「やかましいっ!」
―― ドゲシッ! ――
「ぎゃうっ!?」
俺はインキュバスの羽をかわすと、同時に懐に飛び込んで蹴り倒してやった。ヤーさんが使うような喧嘩キックで。
「な?なに?僕の動きについて来れるの?……はは、ま、まぐれだよね?」
―― ドゲシッ! ――
「ぐえっ?!」
ベラベラ喋っているので、とりあえずもう1発蹴っ飛ばしてやった。インキュバスは真後ろに吹っ飛んで背中を木に打ちつけられる。
「ば…馬鹿な?なんだ、この力は……?お、お前本当に人間か?」
驚愕して、震える声で恐る恐る聞いてくるインキュバス。
ふんっ!
「モー(ピーッ)ーじゃねえお前なんざ全然怖くねぇっ!!よくもよくもよくもよくも……」
「ひっ!?なに?これって恐怖?…そんな、この僕が……ああ?!でもなにっ?!すっげえムカついて…」
ムカついてるのは俺のほうだっ!!わかるか?!俺のこのムカつき具合の程っ?!!
「ほんっと……」
「逃げたいのに?!こいつ殺したい?!無理っ!?勝てないっ!!でも逃げれないっ?!いや…いやいやいや…」
ああ、本当によくも…
<後半に続く>
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